その夜
便座の上で俯いたまま、涙が頬を伝って落ちる。
「ごめん…見ないで…」
声は震え、子どものように弱々しかった。
しばらくの沈黙の後、ドア越しに彼の声が聞こえた。
「…大丈夫。俺、怒ってないから」
その声色は柔らかく、責める響きはまるでなかった。
ドアが静かに開き、彼はタオルを差し出してくれた。
視線を合わせることができない。顔が熱くて、涙でぼやけて、ただ震えながら受け取った。
「無理して我慢しすぎたんだね」
彼の一言が、心の奥に突き刺さる。
その優しさに少し救われながらも、同時に惨めさと恥ずかしさで胸がいっぱいになった。
(優しくされるほど…余計に情けない…)
その夜。
疲れと気まずさで布団に入った。彼氏は「大丈夫だよ」と繰り返し言ってくれたけれど、心は落ち着かなかった。
羞恥心が頭から離れないまま眠りに落ちる。
夢の中で、またトイレを探して走っていた。
トイレのドアを開けた瞬間、我慢の限界が来て、温かいものがジーンズを伝っていく。
(まただ…彼に見られる…!)
必死に隠そうとするのに、夢の中では止められなかった。
その感覚で目を覚ましたとき、下半身に広がる温もりに気づいた。
布団の中で、本当におねしょをしていたのだ。
「うそ…」
布団をめくると、シーツに濃い染みが広がっている。
顔から血の気が引き、心臓が締め付けられる。
(子どもみたいに…また、彼の前で…)
横を見ると、彼氏が眠っている。起こしたくない、気づかれたくない。
必死にシーツを押さえ、体を小さく丸めた。
羞恥と情けなさで胸がいっぱいになり、声を殺して涙を流しながら、私はただ夜が明けるのを待った。
目を覚ましたとき、胸の奥にまだ重たい羞恥が残っていた。
布団の中の湿り気は冷たく、夜中に泣いたせいで目は腫れている。
(お願いだから、このまま彼が気づかずに起きてくれたら…)
そう願いながら小さく動いた瞬間、布団の中から「ぴちゃっ」と音がした。
心臓が跳ね上がる。
「…?」
彼が隣で目を覚ました。寝ぼけた顔で伸びをし、布団をめくろうとする。
私は慌てて止めようとした。
「だ、だめ! まだ寝てて!」
でもその仕草はかえって不自然で、布団の隙間から染みが目に入ってしまった。
彼の動きが止まり、静かな沈黙が流れる。
(ああ…終わった…)
息が詰まり、涙が込み上げてきた。
「ごめん…また…夢で…」
声は震えて途切れ、顔を覆った。
羞恥で全身が火照り、布団の中の冷たさと彼の視線が重なって、消えてしまいたくなる。
しかし次の瞬間、彼はそっと私の背中に手を回した。
「…いいよ。恥ずかしいかもしれないけど、俺は平気だから」
その声が耳に届き、胸の奥にじんわりと温かさが広がる。
優しさに救われたいのに、惨めさが逆に強くなる。
「子どもみたいで…嫌われると思った…」
しゃくりあげながらそう漏らすと、彼は小さく笑った。
「嫌いになんてならないよ。むしろ、無理して我慢しすぎないでほしい」
彼の言葉に涙が止まらなくなった。
恥ずかしさと安心感が入り混じり、私はただ彼にしがみついた。
布団の下の染みは消えない。けれど、その朝の温もりは、私の心を少しだけ軽くしてくれた。




