三者会議
ある日の会社帰り、人気のないカフェの奥の席。
私、美咲、佐伯先輩。三人で机を囲み、それぞれの“あの日”のことを洗いざらい話し合うことになった。
美咲は――駅のトイレに駆け込み、スカートを濡らした。
先輩は――職場のトイレの個室で、ベージュのパンツを濡らした。
そして私は――彼氏の前で、家のトイレの目の前で。
「やっぱり……全部、同じ日なんだよね」
美咲が不安そうに言うと、先輩も深く頷いた。
私は二人の顔を見て、ずっと胸の奥で引っかかっていた疑問を口にした。
「……でもさ」
二人が私を見つめる。
私は息を飲んで、言葉を続けた。
「なんで――“おしっこ”なのに、わざわざトイレに行ったの?」
一瞬、時間が止まったようだった。
美咲も先輩も、はっとした顔をして、言葉を失った。
「……だって……」
美咲が小さく口を開く。
「おしっこで……トイレに行くなんて……普通、しないはず、だよね……?」
「そう……」
先輩が震える声で重ねる。
「私も……本能みたいに“トイレに行かなきゃ”って思って走った。でも、今の世界じゃ……誰もそんなことしてない」
三人の間に、重い沈黙が落ちる。
あの日、私たちは“おしっこのためにトイレへ向かっていた”。
その行動自体が、この世界の常識から外れている。
――手がかりは、“二人はなぜトイレへ行こうとしたのか”。
そしてなぜ私だけが前の世界を覚えているのか。
その答えを探すことが、この謎の核心に近づく鍵になる。
「……実は」
私は声を潜めて、二人に打ち明けた。
「私、あの日以来も……ずっとトイレでおしっこをしてるんです」
美咲と佐伯先輩の目が大きく見開かれた。
「……えっ? どうやって……?」
「だって、そんなの……」
二人は言葉を詰まらせた。
美咲が俯きながら、膝の上で指をぎゅっと組む。
「私も……トイレでできるならそうしたいよ。でも、体が……拒むの。入って個室に座った瞬間、足が震えて、どうしても出せなくなる」
佐伯先輩も苦笑いを浮かべながら頷いた。
「分かるよ……便意なら普通に出せるのに。尿だけは……“ここじゃない”って頭が勝手に警告を出す感じ」
――なるほど。
二人は羞恥心を持ちながらも、世界のルールに体そのものを支配されている。
この世界で「おしっこ=失禁」と定義されている以上、体が無意識に従ってしまうのだろう。
私はしばらく考え込んでから、意を決して口を開いた。
「……じゃあさ。おむつを使ってみるのはどうですか?」
「おむつ……?」
美咲が首をかしげる。
「うん。おむつなら、“服のまま失禁する”ってこの世界のルールにも沿ってる。でも、本当は“受け止める器”として機能する。もし羞恥心を持ってる私たちが試すなら、トイレの代わりになるかもしれない」
二人は顔を見合わせた。
美咲は戸惑いの色を隠せない。
「でも……大人なのにおむつって……」
佐伯先輩は逆に小さく頷いた。
「確かに、発想としてはありかもしれないね。少なくともズボンやスカートを濡らさずに済む……」
沈黙が流れたあと、美咲が小さく笑って言った。
「……なんか、実験みたいだね」
佐伯先輩も息を吐き出して笑う。
「仕方ないわね。やってみましょうか」
――こうして、2人は“おむつを試す”という奇妙な実験を決めた。




