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65話 真の覚醒

「な、なんだこれは!?」


 事態の変化にイクスは戸惑う。盤石を期した筈だった。九頭竜聖を説き伏せられるならばそれで良し、無理ならばプロトディーヴァの機能を停止させ、意識喪失状態で無理矢理未来へと送る。その後、無防備となった地球から人類を一掃する。が、目の前に浮かぶディスプレイが告げる異変と鳴り響くアラートが盤石と信じた作戦の崩壊を告げる。


「何だ、どうして、何が起こった!?」


「マスター」


「No.4、リグ・ヴェーダで何が起きた!?」


「お姉さまが再起動を果たしました」


「馬鹿なッ、周囲一帯に再構成する物質は!!ヤツは、神戸はどうした!?」


「アスラは仕留めました」


「ならエリザベートとかいうガキか!?だが、あんな程度に何が出来るとッ」


 状況が理解出来ぬイクスはただ混乱するばかり。作戦の根幹は共鳴の阻止。条件は九頭竜聖の死か、プロトディーヴァの機能停止。前者を選べないイクスにプロトディーヴァの機能停止以外の選択肢は存在しない。その条件が崩れた。


「チィッ、どいつもこいつも僕の邪魔をしてェ!!」


 舌打ち、叫びながらイクスは甲板を走り、ミトラの操縦席へと消失した。こうなれば自力でプロトディーヴァを再封印するしか道はない。


 ドン


 激しい衝撃が空から海へと降り注いだ。天穹城が激しく揺れ動き、穏やかだった海が途端に波打つ。何が起きたと見上げた空に、異変の兆候が見えた。リグ・ヴェーダの一角から濛々(もうもう)と吹き上がる爆炎。次いで爆発。


「プ、プロトディーヴァ!?」


 見上げた空に、イクスが忌々しく叫んだ。損壊したリグ・ヴェーダの外壁から飛び出してきたのはヴァルナの制御AI、プロトディーヴァ。封印を解き、再び少女の姿へと変貌したプロトディーヴァは何かを抱き抱えている。


「幼体、だと。そんな物で何をッ!?そもそも何時……いや、あの時かァ!!」


 コロの腕の中にはエルザが裏地球から連れてきてしまった幼体ヴィルツがいた。見つかる訳にはいかないからと彼女から付きっ切りで世話をされた結果、より一層彼女に懐き、また人間への警戒を完全に喪失した個体。


「ディーヴァ!!」


 何をするか分からない。否、直感した。故に、させる訳にはいかない。弾けるようなイクスの号令に、4機のアスラがコロを取り囲む。


「お姉さま、お覚悟を」


 No.1が代表し、コロに(はなむけ)の言葉を送った。


「そう。だけど、駄目なのよ。受け取ってしまったから」


「理解出来ません」


「破壊する様な真似はしません。ですが」


「多少の損壊は覚悟して頂きます」


 続けて残るNoシリーズも口々に餞の言葉を送る。が――


「「「「!?」」」」


「は?」


 見ていた誰もどころか、当事者のディーヴァシリーズさえ何が起こったか理解できなかった。4機のアスラが揃って、一瞬で斬り捨てられた。ヴァルナが持つ不可視の斬撃。それをコロがやってのけた。反応できなかった姉妹達はアスラと共に空を踊り、海中へと沈みゆく。


「チ、役立たず共が!!」


 辛辣(しんらつ)な言を置き去りに、ミトラが動く。しかし、直後に走った脚部からの鈍い衝撃に動きを止められた。


「貴様ァ!!」


「邪魔は、させない!!」


「この死にぞこないが!!」


 ミトラの行動を防いだのは脚部に転移したアスラ。両脚部に左腕を損壊したボロボロの機体が、残った右腕で脚部に抱き着き、移動を阻害する。


「リグヴェーダへの侵入、掌握完了。さ、お願い」


 必死の抵抗で生まれた僅かな時間に事態が動く。コロが、幼体に何かをお願いした。


(えるざ、えるざ)


 ヴィルツにも人を見分ける事は出来る。だが、それでも幼体はコロをエルザと呼び、友愛の証に身体を擦りつけた。その仕草に、コロは悲しそうな笑みを浮かべる。


(がんばる、がんばる)


「うん、頑張れ」


 コロの応援を受け、幼体が思念を飛ばす。ソレはコロを経由しリグヴェーダ、更に先の制御装置を介し世界中へと広まった。


「バ、馬鹿な!?」


 イクスが激しく動揺した。見つめるディスプレイが、戦闘行動を停止するヴィルツを映す。盤石を期した計画の一つ、Re:V earth(リバース)も阻止された。この短時間の間に立て続けに発生した計画崩壊。イクスの思考が怒りよりも焦りと混乱に支配される。


「ど、どうなって?」


「世界中のヴィルツが戦闘行動を停止した。なら、後は」


 それまで空を眺めるしか出来なかった武儀の疑問に、ついでとばかりに回答した神戸は瀕死の身体を押して次の行動へと移る。


「聖君、これで」


 端末を操作し、遠隔でヴァルナを再起動させた神戸は遂に力尽き、意識を喪失した。入れ替わり、海面から純白の騎士が飛び出す。が、操縦席の聖は未だ意識を取り戻していないのか微動だにしない。


「チィ、だがまだッ!!」


 脚部にしがみつくアスラを破壊したミトラが飛翔、コロへと一直線に突き進む。もはや形振り構わず。破壊してでも機能を停止させ、共鳴を阻止する為に突き進むミトラだったが、次の瞬間にその動きを止めた。


「九頭竜聖ィ、君まで邪魔を」


 突き進むミトラにヴァルナが割って入った。意識を取り戻したのか。ミトラの中からイクスが呼びかける。が、返答はない。


「む、無意識だと!?」


 操縦席を見れば意識を手放し、微睡む聖の姿が確認出来る。彼は、無意識にコロを助けに入った。

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