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67話 選び そして最後の戦いへ

「目なら醒めている!!」


 ヴァルナから叫ぶ聖。


「な!?」


 コロが復活し、Re:V earth(リバース)は阻止され、意識を喪失させた九頭竜聖までもが覚醒し、立ちはだかる。想定外に次ぐ想定外を前にイクスは動揺を隠せず。


「夢を、見ていた」


「そうだ。君の願望だッ。なのに、どうして戻って来た!!」


「夢の中に、俺の守りたい人が居なかったからだ」


「両親を不要と切り捨てるかッ!!」


「違うッ、お前は何も分かっていない!!」


「何がだァ!!」

「何もかもだァ!!」


 互いの意志が互いを拒絶する。なれば、戦う以外に道はない。否、これは必然。神の名を冠せられた二体の機神、九頭竜聖とイクスが激突する。まるで戦う運命にあった様に。無数の斬撃、大海を震わせる咆哮、続けて空を彩る爆撃の嵐。が、勝負は全て互角。


「ディーヴァ!!」

「コロ!!」


 己の力だけでは決着がつかないと悟った両者が、互いを補完する制御AIの名を叫ぶ。声に呼応し4機のアスラがヴァルナを取り囲み、その隙を滑り込む様にコロが通り抜け、ヴァルナへと辿り着く。到着を待ち焦がれた様にハッチが解放され、聖とコロが再会を果たした。


「戻りました」


「うん……あ、コロ、だよね?」


 別れる間と何ら変わらないコロの姿に違和感を覚えた聖が疑問を口にした。一方、コロはそんな聖に嫌な顔一つせず笑みを浮かべたかと思えば、まるで回答代わりとばかりに抱きついた。反射的に聖もコロを抱き寄せる。生身に等しい柔らかい身体の感触。が、衣服を、肌を通して伝わる感覚に聖は違和感の正体を突き止めた。コロの身体は人間のように温かく、脈打つ。まるで生身の様な身体からは仄かな香りが立ち昇り、鼻腔を満した。


「あ」


 今までと違う生身の感触に何かを察した聖が、コロを抱き寄せた姿勢のまま固まった。直後、ヴァルナが激しく振動する。4機のアスラとミトラがヴァルナを拘束、巨大な結界の様な何かで動きを封じた。バチバチ、と防御フィールドが外部の力に反発する音と振動が操縦席にまで届く。が、それでも尚、両者は動かない。


「そん、な」


 何かに気付いた聖が、顔をくしゃくしゃに崩した。目には涙が溜まり、声にならない嗚咽が口から洩れ、抱き寄せた手は震える。


「やはり、分かりますよね」


 抱き寄せられたまま、ゆっくりと顔を上げるコロの視線が聖を真っすぐに捉えた。


「エルザ、さんは」


 問われたコロは無言で首を横に振る。


「私の身体を使って、聖クンを助けてあげて」


 エルザ最後の言葉を聖に伝えるコロ。その選択は彼女にも耐え難かったが、それでも実行した。


「彼女の身体を使って私に復活するよう言い残して。だから、私は彼女と一つに」


 コロの告白に聖は嗚咽を漏らす。アスラとの戦闘に巻き込まれ、爆発を避けた際に破片が深く突き刺さったエルザは、治療を、生きる選択肢を投げ捨てコロを助ける道を選択した、その果てだった。


「ただ、助けたかったんだ」


 震える声で、聖が呟く。


「俺を助けてくれて、だけどそれで迷惑掛けてるって分かってたから。だから、だから『俺を助けてくれたのは無駄じゃないって、その選択肢は、生き方は間違いじゃない』って証明したくて。なのに、なのに」


 尚も震える声で聖は語る。甘い夢を振り切り、現実へと戻った理由を。だが、その理由が消えてしまった。目からは大粒の涙が滴り、コロを濡らす。


「聞いて下さい」

(聞いて)


 傍と、聖はコロを見た。コロの声に、エルザの声が重なって聞こえた様な気がした。直後、外の振動が一層激しさを増し――


「各員、何としてもあの黒いヴァルナを落とせ!!」


「無意味だと分からないのか、雑魚共がッ」


 振動の合間に抗う男女の声が挟まる。女はエルザの秘書、麗華。男はイクス。どう考えても無謀。しかし意識を逸らす事をコロが許さない。


「エルザさんは決断しました。だから」

(コロちゃんは決断したよ。だから)


 聖を見つめ、コロが語り出す。あ、と聖が零した。気がした、ではない。そこにいないエルザの声が、確かに聞こえた。


「次は、旦那様の番です」

(次は、聖クンの番よ)


 重なり聞こえる言葉を聖は聞き入る。涙は自然と引いた。次は自分の番だ、自分が決断する番だと二人が語る。


((頑張れ))


 心に、背を押した父と母の言葉がリフレインした。


「本当に大切なものは、大切にしなきゃいけないものは一番近くにあった。だけど、無意味に助ける事に躍起になって、大きなことをすれば自分も大きくなれるって思って。だけど、違ってた。一番助けなきゃいけない自分を誰かに助けさせてた。だから、俺は、守れなかった。だけど、もう間違えない。だから……」


 そこまでを語った聖はコロの目を真っすぐに見つめる。


「それ以外の何も許してくれなくていい、認めてくれなくていい。ただ、一つだけ。君を守るというそれだけを許してくれるなら」


「はい」


 もう、エルザの声は聞こえなかった。同じ答えだからなのか、それとも幻聴だったのか。だが、聖は見た。満面の笑みで聖の答えを受け入れたコロの顔に重なるエルザの面影を見た。もう、それ以上は求めない。望まない。


「行こう」


 寄り添う二人は離れ、各々の操縦席に戻る。ヴァルナが起動する。後光に照らされた神が九頭竜聖の意志を反映し、最後の戦いの為に空を駆ける。

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