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64話

「……ちゃん」


 揺蕩う意識に語り掛ける懐かしい声に、コロの意識が覚醒する。朧げな意識が見たのは一面が真っ白な部屋。上と下を見れば奇妙な紋様が見え、その中間地点となる空中に己は固定されている。動きたくても身体は一切動かせず、また人型への形態変化も行えず。


「ロ……ん、コロちゃん」


 周囲を確認するのに注力していて目の前に気付かなかった。尚も語り掛ける声に、エルザと気付いたコロ。再起動を果たした直後、何も映していなかったモニターは、やや離れた位置に浮かぶ無骨な宇宙服を見るや一瞬で[oдΟ](驚く顔)を映し出した。


「えるざ、さん?あれ、ココは?」


「今はそんな事より」


「そ、そうだ。旦那様!!」


「その聖クンよ。今、助けるから、だから直ぐに戻って」


 諭すように、ゆっくりとエルザがコロを説き伏せる。


「で、ですがこの状況では」


「教えて貰ったから大丈夫」


「だ、誰にですか?」


「神戸監二。知ってるでしょ?」


「はい。イクスだというのも、Re:V earth(リバース)を阻止する為に私と旦那様を引き合わせたのも」


「そう。全部ッ、何もかも、イクスって奴等の掌の上だった!!」


 怒りを吐き出すエルザ。そうしなければ、正気を保てないと悲壮な顔が物語る。コロは、そんな彼女を無言で見つめる。


「悔しくない?」


「それよりも大切な事があります」


「気が合うわね、私もよ。ちょっと待ってて」


 吐き出した怒りに冷静さを取り戻したのか、エルザは手に持っていた端末を操作し始める。コロの眼前にディスプレイが浮かび上がり、凄まじい勢いでプログラムを表示し始めた。


「アイツが封印していたコロちゃんの、記憶よ。これで、ヴァルナの全機能が解放される、って」


「はい。でも、あの」


 神戸に封じられていた機能と記憶の解放は喜ばしい。が、肝心な問題が解決していない。再起動を果たしたとなれば九頭竜聖との間の共鳴も復活する。が、恐らくこの空間は時空間そのものから切り離されていると察した。詰まるところ、脱出できなければ封印解除どころか機能停止状態と何ら変わらない。そして脱出する為には人型に変異、ヴァルナの力を行使しなければならない。が、その為の手段は――


「無い、わ」


 エルザの無慈悲な告白に、コロのモニターが[ X ](焦り)を映す。


「流石に短時間でのシステム解析は……無理だった、みたい。それに、変身に必要な物質も、探す、筈だったん、けど」


「無かったんですね?」


「えぇ。あの野郎、こんな場合……想定していたみたい。私達という想定外以外は、全部、潰して……」


 悲壮に歪むエルザの顔。が、コロが違和感に気付く。口調がドンドンと弱々しくなっていく。現状は悲惨だが、本来の彼女ならば代替の手段を探す程度のバイタリティと判断力はあった筈だと、過去の彼女とのやり取りを思い出す。しかし今の彼女は記憶とは真逆に弱々しく、まるで死にそう――


「なんで、どうしたんです!?」


 異変に気付いたコロが堪らず叫ぶ。コロの視界、スーツの頭部バイザーから覗くエルザの口元から何かが漏れ出ていた。それは真っ赤な液体で、まるで鮮血の様に見えた。否、血だ。負傷している。しかも出血量から直ぐに手当てしなければ命の危険さえあり得る。しかし、今の己には何もできない。


「直ぐに」


 状況が分からない訳ではない。だが、気付けばそう口走っていた。何よりも九頭竜聖を優先するコロの口から咄嗟に口を突いたのはエルザへの思慮に溢れた一言。


「駄目ッ!!」


 コロの思いを知って尚、エルザは拒絶した。あるいは、既に理解しているのかもしれない。


「だって、だって!!」


「良いッ、よく聞きなさい!!」


 エルザが少しずつコロに近づく。やがて、顔が映る。真っ青で、生気を感じない顔。その顔に、コロは悟り、口を閉ざした。


「■■■■■■■■、■■■■■■■■■」


 か細く、小さい指示。


「だ、駄目ですよ!!」


 コロは拒否した。それ以外に選択肢が無いと知って、それでも拒否した。


「そうじゃあ、ないのよ」


 頑なに拒否するコロを包み込むような優しい声、振り絞るような声。だからこそコロは無視する事が出来ない。


「誰かを、何かを助けるって難しいよね。人間だもの。全部を、完璧に助けるなんて、出来や……だから、選ばなきゃあいけない……の。今が、その時よ」


「でも、だからって」


「別にね。誰でもって訳じゃあないのよ。アナタだからよ、コロちゃん」


「な、何を」


「私も、ね。守りたい(すきな)人がいるのよ」


 唐突な告白。コロは黙って聞き入る。悟った。エルザはもう長くない。持って数分の命だと。だから、最後に何かを伝えたい。その気迫に口を挟む事が出来ない。


「無謀で、いっつも自分を犠牲にして、だけど、だからなァ。ほっておけないのよ、どうしようもなく。彼みたいに、自分を犠牲にしてでも、ね。だから……」


 言葉が不意に止まる。代わりに聞こえるのは獣の様な荒い呼吸音。口元、傷口から零れる血がバイザーに溜まり、もう顔さえ見えない。


「私は、こういう道を選んだの。だから……」


「あ、あぁああぁぁぁぁああッ」













 64話――


「アナタも選んで。大切な誰かの為に……」

※他サイト投稿分に追いついた為、更新頻度変更となります。

以後、毎日1話ずつ12時更新です

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