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61話 深紅の神

 天穹城目掛けて空から何かが近づく。ぼんやりと赤く輝く星。が、次第にその姿がはっきりと輪郭を取った。深紅の鳥。まるでヴァルナの対となるような美しい神鳥は天穹城に降り立つと、人型へと姿を変えた。ヴァルナより一回り以上大きい体躯、獅子の相貌、そして機体周囲には機体色と同じ深紅の蛇が渦を巻く。


「また違う機体!?」


「ミトラ。君のヴァルナと対を成す、我が主の最高傑作だ。さぁ、コレが最後の試練だ九頭竜聖。僕とミトラを倒し、その力でもって未来を救うんだ。未来に生きる全ての命を()()()、ソレがプロトディーヴァと共鳴した君の使命だ」


「助ける、だと!?」


 未来の救済と、イクスは理由を語った。しかし聖はその意味を測りかねる。救うという行為に対し、地球とヴィルツに行った仕打ちは余りにも対極的過ぎる。


「戯言をッ」


「これまでしてきたように、都合よく操るつもりか!!」


「違うよ」


 瞬間、イクスの顔から笑みが消えた。突然の変化は、その場の全員を委縮させる程に異様だった。


「まだ話していなかったね。僕達の目的を。遥か遠い未来に起こるんだ。宇宙を巻き込む戦いが」


「な、何を」


「荒唐無稽なッ、本当だとして何時の話だ?」


「分からない。数百、数千、万あるいは何億年後かも知れない。だが、確実に起こる事だけは確かだ。光と闇の最終戦争(アルマゲドン)神々の黄昏(ラグナロク)世界の終末(アポカリプス)。様々に形容された世界の終わりを僕達はこう呼んでいる。『絶望』、と」


「その絶望に対抗するのが」


「そう。それが君だ、九頭竜聖。僕も、神戸監二もその一点においては同じと確信している」


「その為に、こんな事をしたってのか!!」


「そうだよ。何か問題が?」


 怒りを露わにする聖に、イクスはだからどうしたと言ってのけた。その顔は真剣そのもの。全く理解していない。人類とヴィルツを殺し、尊厳を踏みにじった事を含めた何もかもを理解しておらず、また意に介してさえいない。遠い未来を救済する為に今現在を踏みにじる事に何らの疑問も呵責も持っていない。


「何が、って。ふざけるな!!今を生きる俺達を利用して、殺して、何が未来だッ!!」


 イクスの物言いに、聖の怒りが限界を超えた。周囲も同じく、行動に移さないだけで誰もが軽蔑の侮蔑の視線を向ける。


「ハハハ、ハハハハハッ」


 それどころか、寧ろ笑い始める始末。誰もが理解する。この男の精神構造は人類と根本から違う、理解し合うのは不可能だと。


「いや、失敬失敬。ただ、余りにも下らなくてつい」


「何がッ」


「下らないだろう?君、まさか人類に生きる価値があると思っているのかい?あぁ、そうか知らないのか?」


「何をだ!!」


「君が大好きな世界が君をどう思っているか、さ」


 勝ち誇った笑みと共に、イクスは視線をヴァルナから甲板に立つ為政者達へと向けた。瞬間、大半の視線が泳いだ。動揺し、口ごもる。語らずとも態度が雄弁に語る、証明する。九頭竜聖を追い詰めたのは自分達である、と。


「全員ではない。が、数に意味は無い。ヴィルツ無き世界で人類が次に不要と見做(みな)したのは他ならぬ君だ、九頭竜聖。嘘だと思うならば直に見てみると良い。言っておくが、手は加えていないよ」


 言葉の終わり、イクスは空に合図を出した。直後、ヴァルナの周囲に無数のディスプレイが浮かび上がった。世界中の報道、ニュース映像だ。


「世界を救った救世主は裏でヴィルツと繋がっていたのではないか、という懸念が浮上しています」


「今、地球にとって最も危険な人物が九頭竜聖なのです。僅か一人が、何の制約も無しに世界を破滅し得る力を持つ危険性にどうして誰も気づかなかったのでしょうか」


「世界を救った者と平和になった世界を危機に陥れる者が同一人物とは、これ以上の皮肉はありません」


 空に踊る見出しとテロップ声。だがその大半は、程度の差はあれど九頭竜聖を拒絶していた。


「そ、そんな」


「どうして、こんな事に」


 突き付けられた現実に意気消沈する聖とコロ。掛け値なしの善意で世界を救った彼に与えられた称賛は賞味期限切れとばかりに投げ捨てられ、悪意に取って代わられた。


「これでもまだ価値があるのかな?そもそも思い出してみたまえ、君が再びネストに戻ろうと思った理由を。ここに雁首(がんくび)並べる無能共が信用出来なかったからだろう?でも間違っていないよ、実際そうなんだし。だよね?」


 イクスは為政者を向き直る。誰も、問いに答えられない。彼等が最優先したのは利権と利益。復興、人命など二の次と放置した。そのツケを突きつけられた全員が視線を落とす。


「こんなモノだよ」


「だけどヴィルツはッ」


「僕は現在と未来を秤にかけて未来を選んだ。君は人類とヴィルツを秤にかけて人類を選んだ。君が僕を否定するなら、君自身も否定する事になるよ?」


「詭弁です。そもそも操らなければ」


「その時は人類同士で絶滅し合うまで殺し合っただろうね」


 聖とコロの追及をイクスは余裕で返す。二人が何も言えぬならば、もう誰にさえ反論など出来ない。


「おやおや、戦意が消失してしまったようだね。ならば仕方がない、君を鍛えるのは僕である必要はないだろうし」


 無言の間に、イクスが空を仰いだ。灰色の月が空に昇ると、その中から無数のアスラが飛び出し、ヴァルナを拘束した。


「九頭竜聖、君は未来に希望を見るべきだよ。未来には、宇宙中から君の様に希望を託された大勢の仲間が集っている。そこで君は初めて蟲毒から解放されるんだ。何もできないくせに詭弁を弄し、行動しないくせに一丁前に口だけは出し、己を良く見せる為に他者を利用するしか能のない連中に埋もれる必要はない。君は己の才能を未来で伸ばすと良い」


「……って」


「何?何か言いたいのかい?」


「未来、未来って一々ッ!!」


 聖が咆えた。言葉に籠る怒りに諦めも絶望もない。諦めていない。拘束していたアスラはヴァルナの衝撃に吹き飛ばされると、直後に無数に切り裂かれた。不可視の斬撃に反応できなかったアスラが大海に沈み、消えた。


「ハハ。良いねぇ、それでこそ僕等の希望だ」


「決めるなよッ、人の生き方を勝手に!!」


「己を正しく評価出来ないのかい?それじゃあ、まるでこれまではあったみたいだよ?」


「あったさ!!」


「おやおや。ま、いいさ」


 戦意を取り戻した聖を見たイクスは子供のようにはしゃぎ、指を鳴らした。直後――


「では」


「我々がお相手いたします」


 二機のアスラが再び月から飛び出した。操縦者はDIVA_No.4、そして裏地球で敗北した筈のDIVA_No.2。


「まだ戦うつもりか!!」


「死なない限りは」


「マスターの目的の為、任務を遂行します」


 無機質な声が、ヴァルナの前に立ちはだかる。


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