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7話 希望 顕現

「な、何が起こったァ!?」


「何だこれはッ、何の警報だ!?」


「クソが、こんなの重工(アイツラ)から聞いてないぞ!!」


 黄昏を埋める鐵が一斉に混乱を始めた。混乱の理由は操縦席を満たす、引っ切り無しに鳴り響く警報音。その音に、桁違いの巨大な何かの存在を告げる警報に誰もが恐怖し、空中へと飛び上がった。彼等の思考は一致する。より強力なヴィルツの存在を感知したのだと。が、間違いだと直ぐに気付いた。


「オイ、どうなってんだよアレ!!」


 一人が何かに気付き、黄昏の闇に蠢くヴィルツの群れを指した。人類に仇名す敵も同じく混乱していた。が、一点だけ違う。身体をうねらせ、震わせながらも、群れの全個体は一律に同じ場所を凝視していた。先程まで交戦していた自分達など見向きもしない。


「な、何が……」


 想定外に困惑しつつも、比較的安全な空中に退避した鐵達は落ち着きを取り戻し、ヴィルツと同じ場所へと視線を向けた。位置は鐵が先ほどまで立っていた市街地の一角。より正確には、九頭竜聖。


 否。その傍に転がる、泥だらけのロボットを見た。不意に眩く輝き始め、直後に周囲の全てを分解しながら己が体躯を再構成する信じ難い光景を鐵とヴィルツ、相容れない敵同士が揃って目撃した。


「な、なんだアレは!?」


「し、知らねぇよ。まさか」


「重工の新型?いや、完全な人型……そんな話、知らんぞ!!」


 敵と味方の視線が交錯する中、戦場に降り立ったのは女性の姿をした何か。極めて整った美しい相貌、夕陽を反射して美しく輝く黒い長髪、白いシャツに黒いタイトスカートから覗く滑らかな白肌。やや幼さの残る顔立ちの少女に鐵も、ヴィルツも目を離せない。何もかもが違う敵同士。だが、ただ一つ同じ結論を共有した。アレは――化け物だ。


 その女が、無造作に片手をかざした。何の意味があるのか。しかし、異変は即座にヴィルツ周辺に現れた。群れの周囲の空間がたわみ始めた。瞬間、女は手を固く握り込む。


「は?」


「な、馬鹿な!?」


 呆然自失。絶句。目の前の光景に誰も反応できなかった。ヴィルツが、消えた。一瞬で、周囲のあらゆる建造物諸共に圧縮され、消滅した。


「空間圧縮、だと?そんな兵器ッ!?」


「実用化どころか、存在さえ」


 驚き、戸惑う。が、即座に恐怖へと塗り替えられた。女の目が、黄昏に揺らめく鐵の群れを見上げた。目は、何も映していない。何処までも冷めた目に、僅か前、九頭竜聖にした事が我が身に返って来ると誰もが察した。つまり――


「う、うおおお!!」


 恐怖に負けた一人が反射的に引き金を引いた。引いてしまった。対ヴィルツ用の切り札。大砲から放たれる実体弾は着弾時に高熱を発し、ヴィルツ諸共に全てを焼滅させる。一機が動けば倣うように続く。いや、そうせざるを得なかった。殺さねば、殺される。二機、三機、やがて全機が謎の女に向けて切り札を、それでは足らぬと持ち得る弾丸を全て撃ち尽くした。


 黄昏を震わせる振動と衝撃に、口汚く罵る声が微かに混じる。自暴自棄でなりふり構わない攻撃は、しかし威力だけは折り紙つき。市街地の一角は超高熱に焼け焦げ、何もかもが消し飛び、消し炭になる……筈だった。


「おい、夢か、夢だよなぁ。そうだよなぁ!?」


「ば、化け物」


「なんだ、これは!!何なんだオイ!?」


「なんで、俺達のとは桁が……」


 いっそ夢であれ。そんな投げやりな思考を誰も否定しない。出来なかった。無数の爆撃と焦熱地獄。その中心に少女が立っていた。滑らかに揺れる黒い髪の少女は、とても大事そうに九頭竜聖を抱きかかえる。何も知らぬ者が見れば女神の如き慈愛を感じる光景は、当事者には悪夢か、あるいは地獄そのものでしかなかった。


 傷が、全くついていない。数千度を超える熱の中、無数の爆撃を受けながら、少女は無傷で佇んでいた。鐵のカメラアイが、自然と少女の顔に吸い寄せられる。


「あ、あああ」


 百戦錬磨。ヴィルツとの戦闘をゲーム感覚で楽しむ全員が、等しく、一瞬で恐怖に押し潰された。少女は何も感じていなかった。焦熱地獄の中を、周辺を粉微塵に砕く衝撃をまるでそよ風程度にしか感じていない。誰かが化け物と評したが、間違っていた。化け物と言う評価さえ生温い、異次元レベルの強さを持つ何か。例えば神か、あるいは悪魔の権化。地球最新鋭の鐵などあの少女の前では木っ端に等しい。勝てる道理が見当たらない。敗北。それはつまり、死を意味する。


 少女の目が、再び上空を向いた。あ、と誰かが漏らした。刹那――


「な、何がぁ!?」


「今度はッ、一体何が起きた!?」


 鐵に大きな衝撃が発生した。訳も分からず、鐵の操縦者達が喚き散らす。しかし、無理もない。空中から、一瞬で地上に引き摺り下ろされる事態など誰も想像する事が出来る訳がなかった。映像が、少女の動きを再生する。片手をかざした。たったそれだけだった。動作一つで数十機の鐵が全機、一機の例外もなく重力以上の力で地面に叩き落とされた。


 地べたに這いずる鐵は必死で状況を探り、やがて少女を見た。冷めた目を見て、圧倒的な、抗い難い絶望に支配され、程なく全員が意識を手放した。

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