6話 覚醒の予兆
「ここはどこでしょうか」
コロの意識が、闇の中を揺蕩う。意識というものを持たない筈だと、そんな疑問に身を委ねる余裕は今の彼女には無かった。
(いいのかい?)
闇から声が聞こえる。コロに優しく語り掛ける。
「何が、でしょうか?」
(このままでいるならば、君の主は死んでしまうよ?)
主。その単語に、コロは闇に沈んだ意識の中にはっきりとした人の輪郭を描いた。九頭竜聖。廃棄寸前のところを救ってくれた恩人。何もできず、迷惑をかけ通しだった主の顔を彼女は闇の中に想い、描いた。
(いいのかい?)
「でも。私は何もできません。何の能力もありません。何をしても失敗ばかりで、何をしても迷惑ばかりかけて」
(その事を彼は責めたかい?)
闇は問う。まるで、九頭竜聖との日常を見て来たように。コロは、力強く首を横に振った。
(どうしたい?)
闇が、重ねる。
「助けたいです」
コロは答えた。プログラムではない何かが、紛い物の感情とは違う、己が意志が、自我が出した答えを。直後、その目に光が宿る。
(なら、行くと良い。君が望む場所へ。行って、彼に、世界に、君の力を見せるんだ)
「力?」
(絶望に抗う力。君は何も出来ないのではない。その為に、それ以外の全ての機能を封印したのだ。だから、起きて、見せてあげてくれ。君が認めた人間に、彼に、絶望を超える力を)
闇は、熱を籠める。コロに、前に進めと、絶望を超えろと。刹那、彼女の意識は途絶え――