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43話 謝罪

 2035年10月28日 午前9時


「先日の件、誠に申し訳ない」


 天穹城、黒鉄重工本社内会議室。本心かどうかはともかく、ズラリと並んだ面々が謝罪と共に深々と頭を下げた。何れもニュースにその名を聞く、ある意味では有名人。国連、及び国連軍のトップ。安保理代表、軍事参謀委員会、参謀本部長、その他諸々。国籍、思考、価値常識に至るまで何もかも違う面々は、しかし何れも超が付くほどに有能で、更に極めて高い立場にあるという点で一致している。本来ならば九頭竜聖が会うことさえ不可能な雲の上の存在。その全員が一様に頭を下げ、許しを請う。


「いえ。もう気にしていません。だから、その、頭を」


 その先に座る九頭竜聖は、目の前の光景にどうすれば良いかと困惑しながらも本心を打ち明けた。確かに謝罪されるだけの仕打ちは受けた。が、幸いにも一命は取り留めた。恩を売るという目的もあるだろう程度には考えている。しかし重工の徹底かつ献身的な介護だけではなく、後に国連からも最大限の便宜を図るよう通達があったという話も聞いている。九頭竜聖にしてみれば、その時点で借りは返してもらったという認識だ。


「では、話を続けさせて貰いたい。さしあたり、君が一番聞きたいであろう銃撃犯だが」


 頭を上げた国連側の一人が本題とばかりに口火を切った。


「結論から言えば、だ。信じて貰いたいのだが、誰が撃ったか分からなかったのだ」


 その言葉に周囲が騒然とした。周囲の空気が僅かに冷える。


「分からない、だと!?」


「どういうつもりだ、それは。本当に調査はしたのだろうな!!」


「まさか、庇っている訳ではあるまいな!?」


 当人である九頭竜聖とコロに先立ち怒りを露わにしたのは重工の面々。無理もない。九頭竜聖と国連を引き合わせたのは他ならぬ重工側。彼等が影響力と人脈を使い、今回の場を用意した。理由は勿論、第五次ネスト攻略作戦を成功に導く為。その最重要人物である九頭竜聖を納得させ、作戦に参加させる為。だというのに言うに事を欠いて『分からない』とくれば顔に泥を塗られたと判断されても致し方ない。


「わ、我々も十二分に調査を行ったのだよ。聞き取りから監視カメラのチェック、鑑識による調査に至るまで可能な限り全てを完璧に行った。それでも尚、犯人の特定が出来なかった。信じられぬだろうが、しかし事実なのだ」


「そんな馬鹿な」


「えぇい。ならばコチラで調査する!!」


 当人達を置いてきぼりに、重工と国連は喧々囂々(けんけんごうごう)にやり合い始めた。議場の空気は一気に冷え込み、とうに話し合い出来る状況ではなくなった。


「あ、あの。もう気にしてませんから」


「そうか。いや、済まない。銃撃の件も、その犯人を特的出来なかった件についてもだ」


「その件もあり、十分な補填を用意させてもらった。その前に日本からの情報共有だ。君の国外退去は取り消しとなった。併せて無免許で鋼を操縦した件についてもだ。コチラは重工子会社の社員に騙されたと聞き及んでいる。その話と君のこれまでの功績を踏まえ、道交法違反と安衛法違反についても取り消しとなった。君は晴れて無罪放免だ」


「では改めて補填についてだが、国連から先の一件に関する謝罪金を用意させてもらった。これは謝罪という意味以上に、第五次攻略戦への参加に対する報奨という意味が大きい。一先ず、一時金として10億円」


「10、億!?」


 人生において目にする機会など訪れないと思われていた桁に、聖の心が飛び跳ねた。顔には酷い動揺が浮かんでいる。


「うむ。連日の出撃による成果を加味すれば、寧ろこの程度でも心苦しい程だよ。正直なところ、君の力を換金するのは不可能だ。しようとすれば国家が傾きかねない程に莫大になってしまう。現に我々でさえ維持が精一杯だった戦線を君は単機で押し戻している訳だからね」


「ネスト攻略戦成功の暁には、諸々を込みで100億の報酬を払う準備もある。加えて、可能な限り君の要求を呑もうという話も出ている」


「わ、分かりました」


 聖が想定した以上の譲歩と補填に彼は納得した。が、隣のコロは険しい顔を崩さない。彼女は一堂に会した面々の本心を見抜いている。見抜いて、それでも黙っている。この場で指摘したところで敬愛する九頭竜聖が困るだけで何らの利もない。故に、心の奥にしまい、忘れぬように刻み込んだ。


 信用に値しない。


 ソレがこの場に集まった九頭竜聖を除いた全員の評価。彼等の頭には九頭竜聖の懐柔しかない。彼(とコロ)が駆るヴァルナは単独でヴィルツを殲滅し、世界全体の戦力を相手取る程の戦闘能力を持つ。現時点では敵対存在がいるから問題はない。しかし、敵であるヴィルツが消えたらどうなるか。ヴァルナの過剰な戦力を巡って骨肉の争いが始まるのは火を見るよりも明らか。


 誰もが柔和な笑みの裏で算盤を弾く。ヴィルツを排除した世界で覇権を握るのは、九頭竜聖を取り込んだ勢力。ソレが次の世界の中心となる。誰もが己の手の内に彼を引き込みたい、そんな思惑を分厚い面の皮の下に隠している。

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