表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/95

幕間7

「約束、守るつもりですか?」


「そのつもりだ」


「本気ですか?」


 鋼の通信に幾つもの言葉が飛び交う。その多くが武装組織のリーダーが下した決定に異を唱える。


「思い出して、な」


 向けられる否定の声に向け、男はそれだけを返した。途端、誰もが固く口を閉ざす。


「似ていたよ。無謀で無鉄砲なところが特に」


 ややあって、男が重ねた。絞り出すような声は何処か震えていた。


「分かりました。何時か戻って来るその時までに可能な限り資材を回収できるよう人員を手配します。当面はこれで誤魔化せるでしょう」


「あぁ、頼む。とは言え、派手に暴れたみたいだから跡形も残ってないかもしれんが。それと……すまんな、しんみりとさせて」


「いえ。アイツがいなけりゃあ俺達、今頃は……」


 消え入るような言葉を最後に会話が途絶えた。自然、全員が朝日を向いた。その中を飛び去るヴァルナを、陽光に浮かぶ機神を誰もが見入る。もしかしたら彼が現状を変えてくれるのではないか、連鎖する不幸を終局させるのではないか、光射さぬ苦境で生き続けた苦悩が報われるのではないか。誰の目にも、そんな期待が浮かんでいた。


 ※※※


「気にすんなよ」


 一方、戦場を去るヴァルナの操縦席にアイザックの気さくな声が響いていた。


「大丈夫です」


 至って普通の返答。が、不安だったのか『お前は間違っていない』とすかさずアイザックが重ねた。彼が気に掛けるのは武装組織が言い放った一言。


「確かに間違ってねぇよ。だけどアイツ等は第五次作戦の事は知らねぇんだ。何時まで安全か、なんて分かりゃしねぇ。言葉通り今日明日で終わりかも知れない。だが、もし」


「第五次ネスト攻略作戦が成功して、親を討伐出来れば事態は好転する筈よ」


「割り込むなよ」


 アイザックとエルザが聖を励ます。口振りからするに、聖が気に病んでいないか心配していたらしい。


「何方かと言えば、知らなかった方がショックでした。思う以上に世界は酷かったって」


 しかし聖が気にしていたのはもっと別、安全圏に生まれた彼が知らない事実。

 

「ソレも同じだ。全部は第五次作戦の成否にかかってる。お前が幾ら強くても助けられる数には限りがある。ヤツはお前の行動を偽善と暗に批判した。だけど、無駄じゃない。今日か明日までだった運命が、明後日になれば好転するかもしれない。未来なんて誰にも分んねぇんだ」


「彼等は良くも悪くも極端なのよ。完全に救われなければ中途半端な善意なんて無駄だと考えてる。あんな環境じゃあシビアになるのは仕方ないけど、でも100以外の善意を全て切り捨てるのはやり過ぎよ。ともかく」


「ともかく?」


「疲れたわ。聖クンもでしょ?あんな場所に飛ばされたんだから」


「ですね」


 不測の事態で裏地球に飛ばされ、何者かの襲撃後に帰還し、直後に巻き込まれた戦闘によりトラウマを抉られ、怒りに我を失った。言葉にすれば短いが、この半日で九頭竜聖の精神は相当以上に疲弊している筈。間近で見て来たエルザが心配するのも無理はない。また、コロも同じく。言葉こそ発しないが、献身的に彼のフォローに回っている。事実、今現在ヴァルナを動かしているのは彼女だ。


「聖クン、ねぇ。何処でナニやってたのか知らんけど、随分と仲が宜しいようで」


「何もないわよ。下種の勘繰りは止めて貰える?」


「本当?ナニも?本当かなぁ聖ク~ン?」


 妙に生き生きとした口調でアイザックが問い詰め始めた。気に掛けるのも無理はない。地球の時間でおよそ半日ほど、二人は姿を消していたのだから。当時の状況が分からないが、片や人類の枠から外れた規格外の共鳴レベルを持つ少年、片や人類最高の共鳴レベルを持つ美貌の才媛。気にするな、というのが無理であるのは無言で通信に耳をそばだてる他の操縦者達の態度が証明している。


「は、はい。何もありません」


「嘘つけ?男と女だよ、ナニかあってもおかしくないでしょ?聖クン、見た目は十分に合格点だしなぁ」


「ナニ、って何です?」


「ナニだよナニ。言わせんなよ。ホラ、男と女がする事ってさぁ」


「あー、ありましたね」


「ほら見ろ」


 と、聖が爆弾発言を投下した。通信の向こうで焦り出すエルザ。他方、何が何やら分からぬと困惑するコロ。通信を聞くアイザックを始めとした操縦者達のボルテージが一気に上がる。こんな状況で上げるな、など野暮過ぎて誰も突っ込まない。


「ちょっと、聖クン?」


「え、でもご飯一緒に食べたじゃないですか?」


「は?」


「へ?」


 が、一瞬でゼロにまで下がった。 


「違う?じゃあ、えーと。そうだ」


「なんだ、やっぱりやる事やってんじゃない?」


 再び急上昇するボルテージ。


「一緒に夜空を眺めました」


「え?いや、え?」


「その、あれ?」


 しかし、そうじゃない返答にまたもや昂った熱気がゼロまで下がった。余りの乱効果に全員が困惑を通り越した感情に支配され、目をしばたかせる。


「アレ?でもそうなると後は掃除買い物洗濯、とか?でも向こうではしてないし」


「本気、で言ってる、のかなぁ?」


「はい。本気です……けど、何か?」


 どうやら煙に巻く意図は無く、心底からの発言らしい。直後、通信から無数の溜息が木霊した。本当に何も無かったらしい。いや、ある訳が無いと誰もが考えていたが、万が一という可能性もあり得る。しかし、九頭竜聖の余りにも朴念仁というか純粋というか無知というか、ともかくそんな人柄に全員が『あ、こりゃ何も起きんわ』と追及を諦めた。


「いや、その、うん。君は、純粋なまま……いや、今日の詫びってんならちょっと付き合え。すんごくイイ場所に連れていてってやる」


「おい、ふざけんなよ!!」


「ちょ、なんで怒るの!?」


 何やら悪だくみを考えるアイザックに、窘めるエルザ。そんなやり取りをボンヤリと聞く九頭竜聖を始めとした面々。とにもかくにも、何はあれども彼は無事に地球へと帰還した。その一報は瞬く間に世界へと駆け巡った。誰もが安堵し、同時に期待に胸を馳せる。地球からヴィルツという敵性存在を駆逐してくれると、ソレを成せるのは彼ただ一人だけであると。

「アイザックさん」


 コロが専用通信でアイザックを呼ぶ。


「はい」


「連れて行ったら、オマエヲコロス」


 ごく短時間にアイザックの台詞から今後を予測したコロが強烈な釘を刺した。


「オーケー、オーケーオーケー。大丈夫だ、任せておけ」


 酷く冷めた、殺意の滲む言葉に肝が縮み上がったアイザックは素直に降参した。連れて行くのはまた何時か――


「話、聞いてました?」


「聞いてるよ、聞いてますともさ」


 やはり無理だ。全てを予測しきるコロを出し抜いて九頭竜聖を連れ出すなど不可能と、アイザックは今度こそ降参した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ