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18話 再会 其の1

「誰も殺していない。帰ってお前達の仲間に伝えろ。次は、抑えきれる自信が無い。もう私達に関わるな!!」


 怒りと悲しみがない交ぜになった声が無残な戦場跡地に響いた。死んではいない。助かった。が、果たしてそうか。僅か数分前と今現在は同じと言えるか。


 否。見上げる先、禍々しい後光の中に浮かぶ神に生かされただけ。その絶望が、全員から声を上げる気力さえ奪う。もう、誰も何も出来ない。その神が、純白の騎士があらぬ方向を向いた。声を上げることさえ出来ない面々はただ茫然と騎士の異変を見送る。直後――


「アレ、は?」


「鐵?」


 轟音を纏いながら、何かが戦場に飛び込んで来た。漸く、数人が反応を返した。戦場に出現したのは鐵。しかし僅か一機のみで、おまけに何らの武装も所持していない。そんな状態では絶望的な力の差を覆すなど出来る訳がない。何をしに来たのかと誰もが訝しむが、国連側の誰もが一縷の望みを賭けるかの如く空に浮かぶ鐵を見上げる。


「まだ、戦うのか?」


 純白の機体からコロが問いかける。


「いいえ」


 鐵からの声は戦闘の意志を否定した。静かで、落ち着いた女の声だ。


「何の用だ」


 対照的な、冷めた声が問いを重ねる。


「以前起こしたシュヴァルツアイゼンの横暴に対する詫びが一点。それから、治療の準備があります」


「治療だけならヴァルナで事足りる」


「ヴァルナ?その機体にそんな機能まで……だけど、失った血までは無理でしょう?」


「偽りでないと、どうして言える?」


 ドスを利かせるコロ。が、相手も退かない。


「私は黒鉄重工から来ました。今回の作戦は重工抜き、しかも極秘裏に行われていたので私達は一切関与していない。それに立場上、国連と反目しています。加えて、些細だけどあの日の貸しを返すという理由もあるわ。そうよね、くずのはゆう君?」


 その名に、コロが僅かな動揺を示した。数日前、九頭竜聖とコロが夜の公園で偶然出会った女に名乗った偽名。偶然の再会。しかし、コロの顔は険しい。


「あの時の女か!?」


「改めて自己紹介を。エリザベート・フォン・ヴァイスベルク 、黒鉄重工本社代表取締役社長よ」


「どうして黙っていた?」


「あの日の事なら本当に偶然。そもそも、あの時点では名前以外の情報を知らなかったから気付けと言うのは無理よ。それに、黙っていたというならお互い様でしょう」


「何故、代表が鐵に搭乗している?」


「適性があったから、それだけよ。それよりも治療が先。もし信用できないなら今すぐ操縦席ごと私を殺しなさい。それで納得出来るなら私は受け入れます。無論、私の生死によらず治療は受けられるよう手配済みです」


 言葉の応酬は、女が見せた覚悟を最後に止まった。コロは何も語らない。が、それは相手の覚悟に気圧された訳ではない。彼女が考えるのは常に九頭竜聖だけ。ソレだけが彼女を突き動かす。


「信用しろと?」


「何の覚悟も無しにこの場に来ないのよ。傷を塞ぐことが出来たとしても失血死の危険はあるわ。輸血の準備、OKだそうよ」


 言葉通り、傷は塞げても失った血を即座に戻すのは不可能。エルザが指摘した通り、死の危険性は付き纏ったまま。彼我の戦闘能力は圧倒的に上だが治療、その中でも即時の輸血という一点においては敗北している。


「く……」


 苦悶に満ちた声が、純白の機体から漏れ出た。コロとは明らかに違う男の声が、さながら波紋の様に戦場をさざめかせる。九頭竜聖の声だ。


「旦那様!!」


「九頭竜聖、意識を取り戻したの!?」


 瀕死故に酷くか細かったが、その声は確かに九頭竜聖の生存を告げる。誰もが、大いに安堵した。今にも死にそうだった蒼白な顔面に少しずつ血色が戻り始める。最悪の事態は防げた。もし彼が死亡したとなればコロの凶刃は確実に国連軍へと向かい、それで収まらなければ全世界へと向かう可能性さえあった。下手をすれば人類に新たな敵が加わり、そうなれば国連の責任は甚大どころではない。一方、黒鉄重工側は九頭竜聖との繋がりを維持出来る。


「や、やめ」


「聞こえる?諸々の貸しを返すわ。命の保証、医療関係者以外の接見禁止、病室と病院の警護、それ以外にも可能な限りの要求を呑む準備が重工にはあります!!」


「わ、わか……」


 しかし、声は直ぐに途絶えた。広がる動揺の中に、最悪の可能性が頭を掠める。もしや、死んだのか。


「旦那様の意志を尊重します。提案は受け入れる。但し、何かあれば容赦しない。それから、この機体に触れても同様だ」


「分かりました。では、ついてきなさい」


 どうやら失血で意識を喪失したようだ。予断は許さないが、薄皮一枚の差で世界の破滅は免れた。誰もが一先ずは、と胸を撫でおろす。やがて、鐵が病院に先導を始めると純白の機体がその姿を美しい鳥の姿へと変えた。再びその姿を鳥型の巡航形態へと変えた機体は、瞬く間に戦場から飛び去った。その雄大な姿を誰もが呆然と見送るしか出来なかった。

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