幕間3
黒鉄重工本社
「なんだ、あの純白の機体は!?」
「幾ら何でも出鱈目すぎる」
「確認した限りでは、攻撃は蛇の様な形状に変わる近接用ブレードを用いるようだな」
「質も量も桁違いの遠隔操作型か。我が社でさえ兵器サイズに落とし込めていない。しかも、あの威力と被害で加減していると来た」
「加えて不可視の斬撃に、少女型が使用した空間圧縮も使えると見ていいだろう。恐らく、まだ他にも出していない武装があるだろうな」
「最大の問題は防御の方だ。時空間を歪曲させて攻撃を別の場所に逸らすなんて出鱈目過ぎる!!」
「しかも、アレを応用すれば自機の転移どころか下手をすれば特定の場所への直接爆撃も可能だぞ」
「連合製の粗悪品はともかく、トップエースのアイザックがいるならば多少は……と考えていたが」
「想像以上だったな。流石に同情するよ」
「いや、同情できるか?そもそも、なんで連合は九頭竜聖を殺そうとしたのだ?」
「16日の映像を見ていれば、彼を殺すなど自殺行為に等しいなんて火を見るよりも明らかだ。意志の疎通ができていないのか、功を焦ったか」
「オートマタが少女の姿をしていないのを見て、恐らく力の制御が出来ないと推測したんだろうが、何れにせよお粗末だな」
「交渉の意志を明確にしたかった可能性も捨てきれんというのに、全く」
「あそこまで頭が悪いとは……」
「彼等には不幸な出来事だったが、分かった事もある。二回共に九頭竜聖の危機を引き金としている状況から見るに、彼の側にはコントロール出来ない可能性があるな」
「つまり、あのオートマタの意志次第か。なら、どうして今の今まで」
「あそこは日本だぞ。大陸ならまだしも、安全圏の中でも一際安全な日本で命の危険など早々にあるまいよ」
「他の要因も探るべきだが、そうなると」
映像に見た圧倒的な力に、誰もが諦観を吐き出した。あれ程の力を持つ機体の捕縛は不可能。さりとて操縦者を狙ったところで人型に変異したコロの戦闘能力も桁外れている。挙句、連合の暴挙により以後の説得も不可能となった。
「最悪、この映像から全てを推測せねばならんか」
「一番の疑問だが、そもそもアレもネストから来たのか?」
「可能性としてはあり得るな。そうなれば共鳴対象もアレだろうが。クソッ、映像だけではさっぱり分からん!!」
各々は映像から推測を重ねるが、しかし分かる事など何もない。ただ一つ、誰も止められないという事以外に何も分からない。
「そうだ。レベルだ、レベルはどうなっている!?」
「以前と変わらず推定100万。コチラも相変わらずだが、桁が違い過ぎる」
「もう、我々にはどうにもならんか」
誰かが匙を投げると、一人また一人と視線を向ける。やがて、全ての視線が一つどころを凝視した。
「おい、さっきから黙っているが、話は聞いているだろう?アレは一体何だ?」
「……?オイどうした、なぜ黙っているんだ?」
「現状、君に頼る以外に無いのだ。アレは一体何だ?何をどうしてあんな桁外れた戦闘能力を有しているのだ?」
やがて、面々は縋る様に一点を見つめる。が、その先に立つ何かは黙して語らず。
(アレはヴァルナ!!とすれば、九頭竜聖の共鳴対象は……少女の姿をしたアレは、まさかプロトディーヴァ!?なんて事だ、アレが相手では地上の兵器程度ではもう相手にならない!!)
その何かは、映像に映る純白の機体の正体を知っていた。しかし、何も語らない。その理由もまた同じく、語る事はない。
「チ、こんな時にッ」
「社長はどうしている!?」
「連絡した。既に向かっているらしい」
「こうなれば、もうエリザベートに任せるしかないか」
「運を天に任せる他ないとは、な」
面々は、やがて祈る様に映像を見つめろと、その端に小さな何かが映る。