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14話 平穏の終わり 其の1

 2035年10月20日


 平穏は長く続かなかった。


「17日夕刻に東海地方で発生した大規模なヴィルツの出現と消滅に関する続報です。つい先ほど国連による調査団が到着しました。しかし、到着した調査団は消滅が確認された岐阜県S市全域を鐵改により外部との連絡が取れぬよう徹底した完全封鎖を行った上で、未知の兵器に投降を呼びかけ始めました。強引なやり方に周辺住民から不安と批判の声が上がっておりますが、しかし国も国連も本件に際し『必要な処置』との姿勢を一貫して崩しておらず……」


 何の気なしに開いたニュース番組が流す緊急報道に神戸の顔が歪み始めた。慌てて携帯端末を閉じたが、時既に遅く。完全封鎖となれば隠れていたところで何れ確実に見つけられる。


 傍と気付いた神戸が九頭竜聖を見やれば、憔悴した彼と目があった。記憶に鮮明に残る快活な姿は見る影もない。解雇からの一連に至る流れに精神を大きくすり減らされたところに、訳も分からないまま身を隠さなければならないという現状が追い打ちをかける。何故、どうして。膨れ上がる疑問が健全な精神を押しのけ、心を軋ませる。


「……分かった。教えるよ」


 縋るような聖とコロの視線を前に、神戸は真実を伝える決意を固めた。教えれば混乱は必至。だが、もう教えない訳にはいかない。現状は明らかに常軌を逸している。今、彼を探すのは国連軍。鐵をダウングレードした量産機、鐵改を多数保有する世界最大の軍隊。しかも日本まで協力している。加えて、現時点で動きを見せていない黒鉄重工も遠からず行動を起こすだろう。


 着々と整う九頭竜聖包囲網を突破するには今しかない。もし捕まれば良くて尋問、最悪は拷問。ともかく、国連と日本の狙いは確実にヴィルツを一撃で消滅させたコロの力。その為ならば九頭竜聖の排除さえ考えているだろう。彼が辿る運命はロクでもない筈だと神戸は確信している。


「物量で市内外全域を包囲とはいえ、千機程度じゃあ穴も多い筈だ。長良川を渡ってすぐの権現山を強引に突っ切ってK市に」


「おい、いたぞッ!!」


 ホテル入り口で車のエンジンを吹かす神戸の声を怒号が遮った。緊張と恐怖で強張る聖。ホテルから逃げようとした矢先、彼は遂に捕捉されてしまった。


 ※※※


「やっぱりアンタが匿ってたのか!!」


「いや、だってそうするでしょ普通」


「何が普通だ、今の状況が分かってるのか!!」


 廃ホテルの入り口に姿を見せたのは十人ほどの市民。全員が幸いにも軍ではなかったが、誰かが連絡すれば見つかったも同然。遠からず取り囲まれる。彼等は聖が逃げられない様、入り口前に立ち塞がった。


「一体、何なんです!!どうして俺なんですか!!」


 喧々囂々のやり取りを聖の声がつんざいた。その顔に先程までの暗さはなく、完全な怒りに支配されている。何が何だか分からず逃げなければならない状況に限界を超えたフラストレーションが怒りへと転化した。


「あ、あの」


「いや、そ、そうじゃなく」


 感情のまま、剥き出しに声を荒げる聖。初めて見た彼の態度に市民達は一斉にたじろいた。先程までの怒りと勢いが一瞬で掻き消えた理由は言わずもがな、コロの力を知っているから。10月の寒風を受けながら、全員の額に汗が滲み始めた。勢い任せに責めてしまったが、もし何かあって聖の機嫌を損ねてしまえば命は無い。恐怖に満ちた視線が、コロを見やる。


「もう、隠し通せないか」


 諦観に満ちた声が、聖の耳を掠めた。神戸だ。


「16日の話ですか?一体、俺が意識を失っている間に何があったんです!?」


「あの日、岐阜に出現したヴィルツを撃退したのは重工の傭兵団じゃない」


「は?なら誰って、まさか俺だと思ってるんですか!?」


「違う。君じゃない」


 怒りを滲ませる聖の視線を真っすぐ見つめ返していた神戸は、その視線を彼の太腿辺りに落とした。


「は?え、まさか」


 言わんとする事を理解した聖の視線が神戸を追う。


「え、まさか私ですか?」


 全員が一様に彼の足にしがみつくコロを見つめた。当然、コロも知らない。彼女の顔面のモニターが[oдΟ](驚き)に変わる。


「そうだよ。君の危機に呼応したコロがやったんだ。狙われているのは君じゃない。いや……ある意味では君も、かな」


「それって、もしかして」


「国連側からすれば、欲しいのはコロの方だ。君が素直に手放すなら良し。だけどもし拒めば……」


 最悪の可能性の言語化を避ける神戸。一方、その先を想像した聖は言葉を失った。彼の言わんとする先は一つしかない。





 ――逆らえば、殺される。

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