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12話 出会い

 公園とは名ばかり、木製の椅子と机にちょっとした休憩所以外に無いもない場所にやって来た聖とコロは、規則的に並ぶ椅子の一つに腰を下ろした。空を見上げれば満天の星空。夜を彩る星々に、久方ぶりの外気に聖は大きく息を吐き出した。漸く落ち着ける。夜空に照らされる顔色は、鬱屈からの解放を心底から喜ぶ心情が滲み出している。


「良い星空ね」


 闇夜からの声に思わず聖は肩を震わせた。声の方向を見れば、何時の間にか一つ隣の長椅子の端に誰かが腰を下ろしていた。木陰により顔は分からないが、声色と辛うじて見える美しい起伏、星明かりに煌めく長い髪により女だと分かった。近場には聖と、彼の膝の上を指定席にするコロしかいない。独り言か、否か。


「そうですね」


 夜空に声を投げる女に、聖は反応した。


「好きなのって、夜?それとも散歩?」


「どっちも、かな」


「ふぅん、変わり者ね」


「そうかな?」


「そうよ。ヴィルツの出現で安全圏から消えたのよ?政府も夜に出歩くなって注意してるじゃない?どう考えても自殺行為よ。もしかして、何か()()()でもあった?」


 ソレは自分自身にも言える事では、と考える聖。しかし、口をつむぐ。馬鹿正直に伝えても話を拗らせるだけだと、彼は短い社会人生活で身に染みて思い知らされている。今や彼の本音を知るのは膝の上に座るコロだけだ。


「いや、本当に好きなだけだよ。夜に、星空を見上げるのが」


 しかし相手に偽るとなれば話は別。信頼の為、聖は質問に本心で返した。但し、好きな理由も含めた余計な事は何一つ語らない。まかり間違って正体が露見すれば面倒なことになるし、何より危険を承知で庇ってくれた神戸にも申し訳が立たない。


「嘘じゃなさそうね。ックシュ。ホント寒いわね、この国は」


 功を奏し、会話が僅かに弾んだ。が、直後に女のくしゃみが会話を中断した。


「どうぞ」


 コン、と軽い音。ぶっきらぼうに、しかし躊躇いも淀みもなく聖は缶コーヒーを女の座る長椅子の端に置いた。


「物価、また上がって大変じゃない?優しさ、それとも打算かな?」


「どっちも」


「正直ね」


「よく言われるよ」


「フフ。でも、ありがとう」


 今度は僅かに偽りを混ぜた。打算ではなく、掛け値なしの善意。しかし、露見してしまえば自分が九頭竜聖だと見抜かれる可能性がある。


 暫しの無言。見抜かれたか、と身体を強張らせる聖。しかしカシュと、缶と外気が繋がる音が夜の闇に染み込んだ。どうやら信用して貰えたようだと胸を撫で下ろした。


「ねぇ、折角だし名前教えてくれないかな?」


「え?」


「どうしたの?もしかして、話せない理由でもあるのかな?」


「いや。まさか女性から誘われるとは思っていなくて」


「フフ、アハハ」


 唐突な提案に無我夢中で返した聖。しかし内心は気が気ではない。が、夜の闇に女の屈託ない笑い声が広がった。何かおかしな事を言ったか。あるいは正体がバレたか。離れた椅子に座る女とは対照的に、聖の心中は穏やかではなくなった。


「くずのは、くずのはゆうです」


 聖を遮り、コロが答えた。|(珍しく)機転を利かせたコロに聖は何も言わない。顔は酷く強張っているが、幸い暗闇が動揺を覆い隠してくれた。バレてはいない、大丈夫だと心の中で必死に念じる。


「そう。ユウ君、お礼は何時か」


「いえ。礼が欲しかった訳じゃあないですから」


 偽らざる本音を伝えると聖は踵を返した。彼の本音に女は黙って小さくなる背を見送った。しかし、その視線は先程まで弾んでいた会話に反して酷く冷たい。


「まさか、ね。こんな場所で会う訳ないか」


「社長」


 闇夜に消える足音を、射貫くような鋭い視線が追いかける。が、背後からの声に意識が逸れた。女の意識が何時の間にか直ぐ傍に立っていた黒服を纏う長身の女へと向かう。


「なんだ、(サイ)か。何?」


「なんだ、って酷い言い草ですね。心配する私の身にもなって下さい。如何に安全圏内で一番治安のよい日本と言えど、夜にお一人で出歩くのは危険です」


「そうなったら次に首を挿げ替えるだけでしょ。所詮そんなものよ。で、状況は?」


「関係者は一人残らず招集したとの事。予定通り、明日9時より行えます」


「そう。全く、本当に余計な事をしてくれたわ。九頭竜聖との繋がりを入れ違いで消してくれるなんて」


「全くです」


 女もまた空に偽らざる本音を吐き捨てた。声色には明確な怒りが滲んでいる。満天の夜空を見上げる視線に、先ほどまでの穏やかさは欠片も無かった。

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