都の流言
ネットがない時代でも
様々なことが噂になり、
力を持つことがあります。
人心を動かす流言は、
ひとつの戦略でもあります。
都の流言に翻弄される寿院。
手鞠の死によって広がる波紋は、
寿院を真実へと導いてくれるのでしょうか?
二条天皇が崩御してまもなく、幼い天皇が誕生し、近衛基実による摂政政治が始まった。
その四年前、後白河上皇の第七皇子、憲仁親王の立太子を企てた平時忠と平教盛を、二条天皇が激怒し、解官、出雲に左遷。後白河上皇の院政を停止した。
その後、平時忠と源資賢が二条天皇を加茂社で呪詛した罪で流罪となっている。
平清盛は、継室、時子が二条天皇の乳母であったことから天皇の乳父で後見役だった。また、時子の妹、慈子は後白河上皇の寵姫だったことで対立する後白河上皇と二条天皇との関係を保つ為に常に中立の立場を貫き、その地位を盤石なものにしていった。
やがて後白河上皇と慈子との間に憲仁親王が生まれ、平時忠らが立太子を企てていた時も、清盛は、あえて二条天皇の身辺警護をしたことで自分の立場を明らかなものとした。
二条天皇は、清盛への依存を高めていった。
しかし、その一方で、院政停止後の後白河上皇への配慮を怠らないことで中立の姿勢は保っていたのだ。
また、清盛は、関白の近衛基実に娘の盛子を嫁がせ、摂関家とも親密な関係を結んでいた。その為、二条天皇の崩御後も清盛の立場は揺るがなかった。
しかし、近衛基実が急死し、後白河上皇の院政が復活。摂政が基実の弟、基房に変わってしまい清盛の立場も危うくなった。
清盛は、基実の私領を後家の盛子に相続させ摂関家領を管轄することに成功してなんとか難を逃れていた。
後白河上皇と慈子の皇子、憲仁親王が立太子となると、清盛は春宮大夫となり、そのひと月後には内大臣となった。
民衆にとって、平清盛の動向は、よく噂になっていた。しかし、民衆には政など分かるはずもなく、命に関わる災害や飢餓、人災、様々な不幸がそこいら辺に転がっているというのに、権力に固執し、争いや諍いが絶えない朝廷は恐怖の象徴でしかなかった。
二条天皇の崩御と平時忠の「呪詛」。そんな言葉ばかりが大きくなっていく。
平清盛が太政大臣になり、朝廷内で強大な発言力を持つが、翌年には長期に渡り病に臥せってしまった。それが『呪詛』、『呪い』という言葉に益々力を与えてしまった。
噂とは、ぼんやりしているくせに、何故か真実が含まれる怖さが散りばめられている。
『呪詛』、『呪い』…。
身近に感じながらも正体が掴めない、もしかしたら望めば叶うかもしれない。あり得ないと言い切れないそんな揺らぎは、人々に力を与えてしまう。
寿院には、むしろ噂に上書きされてしまった真実こそが重要だ。
『呪い』の流言には必ず隠れた真実があると、そう思っていた。
手鞠が何者かに斬られて亡くなってしまった。
『呪い屋』との因縁は、九堂家の若君が呪われことから始まった。
ある日、九堂家の奥方が“呪い”のことなら寿院様が解決してくれる。と、行商人から聞いたと、訪ねて来たのだ。
寿院が呪術師の看板を掲げて、それほどの時は経っていなかった。その前は、陰陽師を名乗って、妖や物怪退治などと称して困り事を解決していた。
しかし、ささいなきっかけから、陰陽寮の者たちから言い掛かりをつけられ、陰陽師は名乗らなくなった。
とくに壬生という者から執拗に付き纏われた。陰陽師を名乗れるのは、確かな学問を身に付け、難しい試験に合格した者たちが名乗れる由緒ある職なのだから、にわかモノが名乗っていいはずがない。と、悉く依頼の邪魔をしてきた。
陰陽師とはとにかく面倒くさい者が多い。師匠が、次期陰陽頭と目される安倍泰親と顔見知りだったことから簡単に思い付いたことだった。しかし、面倒事はごめんだ。すぐに切り替えた。
寿院とはそういう男だった。物事には執着しない、こだわりも何もない男だ。
呪術はできなかったが、人が知り得ない多くの雑学を身につけていたことで、だいたいの妖や物怪の正体が分かった。ほとんどが現実の事象で解決できることを多くの者が悩んでいたり、騙されたりしているのを見るのがしのびなかったので、呪術師として、そうした困り事や厄介事を解決して、報酬を得ていた。
だが、九堂家の事件に関しては後味が悪く、ずっと引きずっていた。
簡略したらこういう事件だ。
突然、都で、ある噂が流れ始めた。
九堂家の若様は、どうしようもない放蕩者で、ある日、町の若者と連んで、町で美しいと評判の娘を攫って監禁した。町の娘は恥辱に耐えかねて自害した。その娘は秦家の若様と好き合っていた娘だったのだ。秦家の若様はすっかり消沈し、都で噂になっている『呪い屋』に九堂家の若様の呪いを依頼した。
やがて、九堂家の若様は首を吊って死んでしまった。
九堂家の奥方が必死に寿院に訴えた。
「息子は学問一筋で朝廷への職も決まったばかりなのです。息子が呪い殺されるなどあり得ません」と…。
寿院が調べると、奥方の言う通りだった。若君は、すごく真面目で、学問一筋。人柄も良いので朝廷の職も早く決まっていた。
逆に秦家の若君の方が評判が良くなかった。と、言うか、あまり目立たず、調べても秦家の若君の本当の姿を知る者はいなかった。九堂家の若君の出世を妬んで『呪い屋』に依頼したのではないかと、言う者もいたが、何とも釈然としなかった。秦家は、九堂家の若君が首を吊った後に、家族ごと失踪してしまったのだ。だから結局、秦家の若君が九堂の若君を妬んで『呪い屋』に呪いを依頼した。ということで収まった。
寿院は、都の行商人を巻き込んで噂の打ち消しを行い、九堂家の若君の悪評を消した。
それを奥方に説明したことで、その事件は一通りの解決を見た。
九堂家の若君を調べている時に寿院は、不思議な子供に出会った。
その子供は、民家の塀の前に筵を敷いて座っていた。
寿院は、すぐに違和感を覚えた。子供はひどいボロボロの衣を身につけているが、何故か物乞いとは思えない肌艶をしている。袖から出ている腕と手の甲は、白くて張りがある。ろくに食べていない肌には到底思えなかった。
そういう違和感に寿院は敏感だった。それに好奇心が旺盛だったので、そんな違和感を放っておくことができなかったのだ。
寿院は、早速子供に声を掛けた。
だが子供は、寿院を歓迎していないのか徹底して無視した。だが寿院はそんなことで引き下がったりはしない。しつこく喋りかけた。
遂に根負けした物乞いの子供が驚くことを言った。
「其方の名は寿院。陰陽師を騙っていたが、本物の陰陽師から文句を言われて、仕方なく今度は呪術師を騙っているのか?」
子供は、会って如何程も経たないうちに、あっという間に寿院の正体を暴いてしまった。
寿院が驚いて、何故分かった。と聞くと、子供は、「其方のことを噂していた者たちの声が聞こえた」と、言う。
えっ?わたしの噂を誰がしていたのだ?何も聞こえなかったぞ?
寿院が思考停止に陥るほどポカンとしていた間に、子供は去って行った。
寿院は、子供の背中に向かって、「おい、童、お前さん明日は何処にいる?」と、叫んだ。
「そんなこと聞かなくても、また会える」と、子供の声が聞こえたかと思うと、背中が小さくなって、人混みに消えていったのをただ見ているだけでその日は終わった。
寿院は、不思議な童のことを忘れることはできなかったが、まだ引き続き『呪い屋』の正体をつきとめるために、聞き込みをした。
『呪い屋』事件をこのまま中途半端に終わらせるわけにはいかない。
九堂家の奥方は、若君の悪い噂が真実ではなかったことと、若君の悪い噂を打ち消したことで、それ以上のことは望まなかったが、寿院は釈然としない。何故、九堂の若君が死ななければならなかったのか?『呪い屋』とはいったい何者なのか?何故、秦家が家族諸共失踪したのか?多くの疑問が残っている。むしろ何も解決していなかった。
聞き込みで分かったことは、『呪い屋』が仲間との連絡に呪符を目印などに貼っていたこと。『呪い屋』かもしれない者たちが“黒根”みたいな名前なのか、何なのか分からないが、そんな言葉を言っていたこと。陰陽師が『呪い屋』の調査をしているなど、いずれも事実と遠い噂程度のものだったが、それでも寿院は、それらの情報を侮らずに、ひとつひとつ潰していった。
しかし、『呪い屋』の調査は一向に進まなかった。ぐるぐると同じ場所を周っているような錯覚に取りつかれるばかりだ。そんなある日、再び物乞いの童に出会った。
寿院は、素直に嬉しくて、すぐに声を掛けた。
「本当にまた、会えたな」と、寿院は、嬉しそうに言った。
「今日は其方に面白いものを見せてやる」と、童が言う。
寿院が不思議に思っていると、童は、通りから脇道に入っていった。
脇道は、小さく、両脇に鬱蒼とした木々があり、昼間なのに妙に薄暗かった。幾つか屋敷が建っていたが、人の気配が感じられない廃墟のようだ。通りは、人通りが多かったが、一歩脇に入ったところにいるとは想像できないほど、詫びしくて、不気味な通りだった。
童は、お化け屋敷のような屋敷の前で立ち止まると、そこに筵を敷いて座った。
「其方は、隣の民家の影にでも隠れていてくれ。何があっても絶対出てくるな」と、寿院に言った。
暫くすると、通りの方から琵琶法師が娘の手鞠を連れてやって来た。寿院とは昔から顔見知りだったので、民家を通り過ぎようとした時、声を掛けた。
手鞠が気がつくと、民家に隠れている寿院を不思議そうに「そんなところで何をしているの?」と、尋ねた。
「いや、わたしにも分からないんだよ」と、寿院が答える。
「これは寿院様、ちょうど良かった。暫く手鞠と一緒にいてくれませんか?わたしはあの子に用事がありまして…」と、琵琶法師が言う。
琵琶法師の目が見えないことを知っていた寿院は、ちょっと不思議に思った。あの子…?そうか、ここに来たのはあらかじめ示し合わせていたのか?
手鞠が寿院の傍で待機すると、目が見えない琵琶法師は不思議なことに真っ直ぐと、童のところに歩み寄った。
そして、琵琶法師が即興で詩を奏で始めた。
隣りの民家の影から、その様子を見ていた寿院には、琵琶法師の奏でる詩がよく聞こえなかった。だが手鞠が解説してくれる。
「あれはね。隣りのつぅちゃんが呟いている言葉を父様がほぼ同時に唄っているんだよ。神業でしょう」
「そうなの。何て言ってるの?」と、寿院は尋ねた。つぅちゃんとは童のことを言ってるみたいだ。
「呪いの詩だね。あのお化け屋敷に潜んでいる人に歌っているんだよ。わざと怒らせるようなことを言っているよ」と、手鞠が言う。
お化け屋敷に人が潜んでいる?何、それ?
やがて、お化け屋敷から子供が勢いよく飛び出してきた。そして、童の前に立ち竦むと、聞き取れないほど、大きな叫び声を上げ、罵倒した。
だが童は微動だにせず、ずっとぶつぶつ呟いていた。
「お前のことを呪うこともできるぞ」
そう言って、子供が殴りつけるように童の額に呪符を貼り付けた。
だが、やはり童は動じない。風が吹いていたのか、貼り付けられた呪符がゆらゆらと剥がれて空中に舞った後、何故かボッと燃えてしまった。
それを見た子供は目ん玉をひん剥いて驚いた。その時、童が何かを囁くと、子供がひぇーーと叫びながら気絶した。いや、よく見ると、目ん玉がひん剥いたままだった。
寿院は、民家の影から飛び出そうとした。しかし、ほぼ同時にお化け屋敷からまた別の少年が出て来たので、寿院は思わず引っ込んでしまった。
だが少年は日本刀を構えている。そして真っ直ぐ童の方へと向かっていった。寿院は再び民家の影から出ようとしたが、手鞠が着物を掴んで止めた。
「これはまずい…」
童が危ない。離せ手鞠!
しかし、手鞠は離さない。
「大丈夫だよ、寿院。隠れて見ていないと台無しになる。つぅちゃんは寿院の為にしているんだよ!」
わたしの為に…?
少年が刀を振りかぶった。
しかし、童は動かない。
危ない!何故、避けようとしないのだ。
「大丈夫だから…」と言う手鞠の顔を一瞬見ただけなのに、形勢が変わった。
少年の刀が宙を舞い、地面に突き刺さったのだ。少年は手首を庇いながらもすごく痛がっている。しかし、童はまったく動いていない。そして、琵琶法師もやはり動いていない。
寿院は、周囲を見まわした。童を援護している者がいるのか?
少年が動き始めた。地面に突き刺さった刀を抜くと、再び童に刀を向け、振り上げた。
今度こそ危ない…!
しかし、少年が刀を振り上げた途端、まるで硬直したように動かなくなった…かと思うと、バタンと倒れてしまった。
えっ?な…なんだ。
寿院は、急いで童の傍に走り寄った。
「いったい何なんだよ?心配させるなよ?」と、寿院が詰め寄った。
「この二人は姉と弟。其方が探している『呪い屋』だ。しかし、残念なことに今日は、子供しかいなかったようだ。後の者は今仕事の最中だな」
「えっ?刀を持っていたのは女子なのか?」
「そうだ」
「何故、『呪い屋』の正体が分かったのだ?いや…、その前にわたしが『呪い屋』を探しているのが、何故分かったのだ」
この先、寿院は、童の言っている言葉か何一つ…本当にひとつも理解することができなかった。
「我は、其方の周りをぐるぐる渦巻いている言葉のひとつひとつを読み解き、其方が何を探しているのかが分かったのだ。そして、その者が何処に潜んでいるのかさえ分かったのだが、其方はなかなか分からなかったようだな。おかしな話だ。我は其方の身体をぐるぐる回っている言葉の中から探し出しだというのに…。しかし、其方もいずれ分かっただろう。それにしてもすごい量の言葉を収集し、処理をしているのだ。其方は何も気づいていないのか?いや、逆に気づいていないのがすごすぎる。それに観察力、洞察力、分析力も人並み以上に優れている。なのに何故、いつも町をぶらぶらとふらついているのだ。これだけの言葉を持っているのなら、とっくに『呪い屋』の正体くらい暴けただろう…と、そう思うが、しかし、其方が町をぶらぶらふらついているからこそ、無意識化で必要な言葉を集められるのだな。そして、きちんと必要な言葉を取り出せるように綺麗に…そうだな無数の櫃の中に分類して収めているみたいにきちんと整理されている。まったく驚きだ。だから今回すぐに『呪い屋』の居場所が分かったのだ。其方が今日ここにのこのこやって来たのが、その証拠だ。本当に其方はすごいな。すごいのだけど、自分では全然気づいていないようだ。我は、其方から声を掛けられる前から其方のことを知っていた。何故なら其方の周囲には無数の言葉がぐるぐる渦を巻いていて、其方の顔、姿は文字に埋もれて何も見えないのだ。そんな者が町をぶらぶら歩いていたら、目立たないわけがない。我は其方をすぐに見つけられるのだよ」
誰かぁ…分かりやすく説明してくれないだろうか?
…しかし、童が普通の“ひと”ではないことが分かった。それに何か便利だ。
寿院は、琵琶法師と手鞠の協力を仰ぎ、幾人かの行商人にも声を掛けて、二人の子供を泳がすことにした。
この事件はまだ始まりにすぎない。
そして、更に寿院は調べた。『呪い屋』などという存在自体にすごく違和感を覚えたからだった。もしかして、噂の出どころは全て『呪い屋』という名前を借りた何者か?呪いたい者、呪われる者など存在しないのではないのか?何か、他の目的の為に…、故意に噂を流したのではないだろうか。と疑い始めた。
そして、調査を手伝ってくれていた琵琶法師の娘の手鞠が斬り殺されてしまったのだ。
寿院は、ずっと、違和感や釈然としないもやもやした思いに取りつかれたままだった。何故、手鞠が殺されなければならなかったのか。
日没の、闇がゆっくりと現れ始めた頃、不思議な能力を持った物乞いの童が泣きながら、知らせに来たのだが、取り留めのない説明に今ひとつ詳細が分からなかった。
寿院の家の門の前で立ちすくみ、門の中に入ろうとはしなかったが、入口から寿院が姿を見せた途端、突然童は走り出し、寿院にしがみついたのだ。
「どうした?童。何があったのだ?」
「手鞠が。手鞠が呪い屋の騒動に巻き込まれて、亡くなった。」
「手鞠が?何があったんだ?」
「夜一が言うには、ぐすん…呪い屋の子供が斬られるのを助けようとして、斬られた。と」
脈略のない童の言葉を拾い集めて、呪い屋の騒動の相手が平家の密偵ではないかと思い尋ねた。
「平家の密偵がやったのか?」
「そうとも言うが、そうでないとも言える。夜一は目が見えない…」と、童が言った。
夜一とは琵琶法師の呼び名だ。
しかし、琵琶法師は、手鞠が斬られた時、かすかな香の匂いを嗅いだと言う。
童は、『呪い屋』の正体を暴いたあの日、少年みたな少女と対峙して、斬られそうになった時も香の匂いを嗅いだと言う。だから、手鞠を斬ったのは、『呪い屋』だと言った。
そして、それを一部始終見ていた譜と名乗る少女がいたことが分かった。
しかし、寿院は、童があまりにも取り乱していたので、それ以上聞くことができなかった。
寿院は、幾人かの行商人と密約を交わした独自の情報網を持っていたので、翌日から早速『呪い屋』に関する噂を聞いて回った。
いろいろな噂を要約すると…。
『呪い屋』の子供は、どういう経緯か、白水家の姫様に成りすまして潜伏していたようだ。それを誰かが平家の密偵に密告して、大勢の平家が白水家の屋敷を取り囲んだ。『呪い屋』の炙り出しに成功した平家の密偵と、『呪い屋』の子供と、幾人かの武芸の達人が白水家の屋敷の前で大立ち回りを繰り広げた。
手鞠はそれに巻き込まれたのだろう。だが、噂だけでは手鞠が誰に斬られたのか確かなことは分からない。しかも琵琶法師の目の前で斬られているというのに、目が見えないので、手鞠を斬った者を特定出来なかった筈だ。当日は混乱していただろうから、ぼんやりとしか見えない夜一では、分からなかったに違いない。さぞ、悔しかっただろう。
これで、また疑問が増えた。
何故、手鞠が『呪い屋』の子供を助けようとしたのか、それが分からない。そのことを一部始終見ていた譜という少女を探すしかなかった。
そして、何故、『呪い屋』の子供が白水家の姫様に成りすますことができたのか?本物の白水家の姫様はどうしているのか?成りすました目的は?それに大立ち回りをしたという幾人かの武芸の達人とは何者なのか?『呪い屋』の仲間なのか?
疑問はどんどん増えていくばかりだ。
『呪い屋』は、いったい何がしたいのだ。
寿院は、いささか後悔した。
『呪い屋』などという訳の分からないものに関わってしまったことを…。
寿院の性分からして、これらの疑問を放っておくことは出来なかった。
しかし、調べたところで意味があるのかも分からない。徒労と化すかもしれない。
多くの時を掛けてもただ働きだ。と、寿院は笑うしかなかった。
寿院の周辺が俄かに
騒がしくなっていく。
寿院の前にふたりの謎の少年が現れる。
この偶然を寿院はどう捉えるか…?
次回「死神と呪符」