繋がる…。
大蛇の生贄にされた戒と、戒を助けた秋は何処へ…?
隆鷗に繋がった謎の声。今回は、舞台も変わり新たな登場人物も出てきます。
屋敷の庭に、陽が傾きかけ翳りが見え始めていた。高い門に囲まれた庭に植えた数本の樹木と、手前に置かれた三石の立石が、珠が見る世界の全てだ。
横になって動けなくなって随分時が経っていた。すっかり飽きてしまったその小さな世界を今も見ていた。いつもは静かな世界だったが、遠くから人の喋り声が聞こえてくる。言葉ひとつ分からない。空気の振動のような音だ。
珠は、かすかに顔を顰めた。声ばかり聞こえるが、決して姿を見せない家人の声を珠は好きではなかった。
珠は、ゆっくりと目を瞑る。
力が弱くなっても、時折、闇の中で、何かと繋がる。
闇は、この世の隙間に存在する、世界を写した、この世に存在しているのに姿を現せない虚ろのモノが存在する世界だ。それらは遥か昔からこの現世に別の世界を創っている。誰も見ることのない、触れることのできない世界だ。
珠は、力のある限り虚ろの世界に身を投じる。やがて、力が尽き、虚ろの世界も見えなくなるだろう。かつては闇にひしめき合う虚ろの虫たちの隙間を通り抜け、珠は自由に彷徨った。珠に集まる虫たちは、かつて珠の血筋の者と契りを交わした繋がったモノたちだ。虚ろの世界には、契りを交わし縁を繋ぐ理が存在している。しかし、そんな世界があることなど知る者はいない。
珠は、幼い頃母から、先祖の伝承だと虚ろの世界の話しを聞かされた。やがて少女になった珠は、母のそんな御伽話のような話しを次第に信じなくなった。
しかしある日、突然虚ろの世界が見えた。床の間の暗がりの中に、ぽっかりと真っ黒い闇が浮かんだ。幻を見ていると思ったが、闇の中から細長い虫のようなモノが出て来た。虫は、驚いて茫然としている珠の身体の中に入っていった。
母の話は本当だったのだ。珠はかつて先祖が契りを交わした虫を取り込んだのだ。
それから珠は、珠が望む通りに人を操ることができた。
虚ろの世界は、珠の中の虫が見せていた。虚ろの世界では、珠の身体の中に入っている虫と同じようなモノが無数にいた。しかし、かつて無数にいた虫は、次第に減っていた。力が無くなっているのが珠には分かっていた。それとともに現実の珠も次第に弱っていった。
今では起き上がることさえ、出来なくなった。
そうだな。もう若くはないのだから。
力を失えば、やがて虫たちも消え失せてしまうのだろう。そればかりか、虚ろの世界さえ見えなくなるに違いない。と、珠は感じていた。
珠は、消えていく自分の力をただ、抗えずに黙って感じるだけしかできなかった。
もう、この力を継ぐものもいなくなる。かつて、母が教えてくれた先祖の伝承を教える我が子さえいない。
珠には、筝という一人娘がいた。しかし、筝には、そういった兆しが見えず、普通の娘として成長をしてしまった。珠は、すでに筝に対しては諦めていた。ただ、筝の子供には力のある者が生まれるかも知れないので、自分の命が尽きるまでは伝承を口伝するか、文を残すことを考えていた。
だが、筝は、珠の力を受け継げなかったことを知っていた。その為に、表には出さないが歪んだ性格になっていったことに珠は気づいていた。力を受け継げなかった怨みを、力を失っていく珠に向けていたのだ。
何刻過ぎただろうか?
珠は睡魔に襲われた。
闇の奥深くへ入っていくと、唐突に、まるで舞い降りたように深い林の光景が目に入った。
金縛りなのか、身動きが取れない。
珠は、抗った。やがて、茂った木々が大きく揺れると、大きな蛇の鎌首が現れた。
何だ、これは!
大蛇はゆっくりとゆっくりとこちらへ近づいてくる。
珠は、生唾を飲み込んだ。抗うのをやめて、静かに大蛇を見つめた。
これは珠の存在しない何処かの光景だ。何を焦っている。と、言い聞かせた。虫が見せているのだ。虫が見せているのなら、まったく無関係な光景ではないはずだ。
珠の耳に少女の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
少女が泣き叫んでいる…。
大蛇がどんどん近づいてくる。
これはどういう光景なのだ…?
金縛りの身体が自由になった。その時、大蛇から男の顔へと移った。
この子は確か、秋だ。路の息子だ。
大蛇がもうそこまで来ている。
その時、虫が放たれた。
珠の虫だ。しかし、珠が放つはずもなかった。
しかし、なんと弱々しいのだろうか。蛇には何の影響もない。
しかし、珠には分からなかった。何故、珠の虫が放たれたのか?
おそらく、虫を放ったのは泣き叫んでいた少女だ。
まさか…?
珠は放っておけなかった。
その時、珠は咄嗟に、少女と繋がっているのだと、思った。意識を集中し、身体の中にいる虫に命令した。
虚ろの世界に残っている虫を全て蛇の身体に撃ち込め!
蛇の身体に無数の虫が放たれた。途端に蛇は暴れて、やがて弱っていった。
そして、その光景は、闇の中に消えていった。
珠は、残り少ない虫を失った。しかし、何故か後悔はない。安堵感さえ覚えた。まだ、身体の中の虫が消えない限り、虚ろの世界は消えない。
少女の泣き叫ぶ声。おそらく少女は縛られていた。そこに大蛇。あのまま縛られていたら少女は大蛇に喰われていただろう。
大蛇は、香舎家の先祖の言い伝えがある。白蛇を神と崇めていたが、村人を大蛇に与え、怒りを買って屋敷が燃やされ、白蛇は死んだという。それから香舎家の先祖は白蛇に取り憑かれたという話しを当主から聞かされたことがある。香舎家は蛇の祟りを利用し、呪いを生業とした呪術師になった…。
香舎…?いや、そんなことより…。秋が少女を助けた…?少女は誰だ。黒根家の契りの虫を扱える者だ。黒根家の血筋の者には間違いない。しかし、黒根家の正統な血筋は、私と、弟の黒司路。その息子の秋。しかし路も秋も力を受け継いでいない。
まさか…?
掟によって命を絶たれた…我が娘…?あり得ない。そんなことはあり得ない。
その時、再び珠は虚ろの世界に導かれた。何か強い導きによって引っ張られるように、再び林の中に降りた。おそらく横たわる大蛇についている虫の視界が捉えた、現世に違いない。
少年が見えた。
「お前は何者だ…?ここを覗いたのだな?お前、覚えたぞ」
思わず珠はそう叫んでいた。
見たこともない少年だった。
珠は、思わず起き上がっていた。身体の中に残る何とも知れない疲労感が、珠に明確な現実の痕跡を残していた。
珠の知らない世界で何が起こっているのか、もはや確かめに行くほどの力は残っていなかった。少年の顔がはっきり焼き付いている。近くにいる秋の存在がそれを証明してくれるかもしれない。
珠は息を整え、家人を呼んだ。
暫くすると、慌てて当主の補佐役が駆けつけた。
「お待たせ致しました、義忠でございます」
「義忠…」
「如何なさいましたか?ご体調が優れませんか?」
「黒司は屋敷におるか?」と、珠は、早速秋のことを聞きたかった。
「本日は、御老院方々がお見えですので、本殿で話しておりますが、お呼びいたしましょうか?」
「出しゃばりの年寄りどもか…?院政のごとき振る舞っておるようだが、当主は上皇様のおつもりか?まるで猿だな。私に力が戻れば、皆猿に変えてやるのになぁ」と、珠は力無く笑った。
当主の補佐役の義忠は苦笑するしかなかった。
「しかし、黒司様をお呼びするには一刻ほど時が掛かってしまうかもしれません。ちょっとした事件がありまして…」
「なんだ事件とは?」
「はい…。珠様。わたしから聞いたことは、内密でお願いします。できれば、これについては何も聞かなかったことにしていただきたいのですが…」
「ふーん…。正直に黒根家で起こったことを話してくれるのだな。そんなことをしてくれるのは義忠くらいだ」
「わたしは、今でも珠様の従者です。勝手に御当主様がご自身の補佐役にしただけです。わたしは納得したつもりはないのです。けれどそんな勇気もなく情け無く思っております。どうぞ、珠様の胸に収めていて下さい」
「仕方のないことだ。わたしはこんなにも力を失ってしまった。役に立たなくなった者の宿命であろうな。まぁ、分かったから…何が起こったのだ?」
「はい…。本日、御当主様の弟子のひとりが、香舎家が何者かに襲われ、一家諸共惨殺されているのを目撃したのです。そのことについて御当主様と黒司様と御老院方々が話しております」と、義忠が言う。
「香舎家が?何故…?」
「今のところ分かっておりません。御当主様に取り入ろうとしたのか、浄西様は勝手に動いておりまして、それを御当主様に勘づかれてしまったのです。そのことで、御当主様の怒りを買っておりました。特に雅楽寮の白水家を黒根家の懐に入れるおつもりだったのでしょうか、杜撰な計画を実施して、失敗したようです。何でも何処ぞの馬の骨とも知れない新参者の呪術師に台無しにされている。なのに報復ひとつせず、浄西様はただ黙って見過ごす有様。息子二人は、行方知れずになっていたようです。まぁ…すでに死んでいるかもしれませんが…これはわたしの情報ですが、あまりにも情け無さすぎて、御当主様には伏せております。黒根家の沽券に関わるゆえ、わたしが人知れずその呪術師ごと過去も未来も存在そのものを抹消する予定です…。まぁ、そんなことを報告しなくとも、御当主様の激昂は、日に日に募っておりましたので…今回のことは幾分か冷めたご様子でした」と、義忠は流暢に話す。
「ん?香舎家が何故、雅楽寮を?」
「浄西様の浅知恵でしょう。御当主様はかねがね以前のように呪術師として、朝廷への力を取り戻したいと思っておられたようなので、白水家を操るつもりだったのでしょう」
「まったく馬鹿げている。しかし、香舎家諸共誰が殺したというのだ?まぁ、当主の気持ちも分からなくないが、しっかり調べないと、今後の黒根家の憂いとなるだろうに。それで新参者の呪術師とは…誰なのだ?」と、珠は尋ねた。
「香舎家の件はわたしがしっかりと調べますゆえご安心下さい。新参者の呪術師についてはわたしもまだ分かっておりません。おそらく珠様は知る必要ないでしょう。今日明日にはその存在ごと抹消しますから…ところで黒司様にはどのようなご用で。わたしで良ければお伝えいたしますが…」と、義忠は何の抑揚もなく尋ねた。
「たいしたことではない。近頃、秋はどうしているだろう。と、思って。もう久しく会っていない。春のことがあったからわたしの顔を見たくもないのだろうが、わたしも同じ目に遭っているのだ。少し様子を聞きたかっただけだ」と、珠は、言った。
「秋様ですか?秋様は、珠様の顔を見たくないなどと思っておりませんよ。それよりお父上の路様とは随分口を聞いていないご様子です。ただ、珠様が以前、矩子様には娘がいるのではないかと路様に調査を依頼されていらっしゃいましたが、ある程度はお調べになっていたご様子でしたが、ある時、それを秋様にお引き継ぎになっていらっしゃいました。それ以来、秋様は戻っていないご様子です。まぁ、あの親子は謎が多い。春様のことがあってからというもの秋様はすっかり変わってしまわれた。御当主様から何か言われたら面倒だから、秋様は戻って来ない方が路様もご安心なのでは。と思っています。まぁ、わたしの勝手な見立てですが…」
「矩子か…?そういえば路から何の報告も受けていない。もう昔のことだから、路の優先順位も低いのだろう。まぁ、私も急かすことではないな」
「矩子様とはどなたなのでしょう?」
「わたしが朝廷に上がっていた時の話しだから、もう昔のことだ…そんなことより、暇があれば、秋に顔を見せるように言ってくれないか?」
「かしこまりました。早急にお伝えいたします」
「当主の補佐役ゆえ、忙しいだろう。暇ができてからでよい」
「かしこまりました」
矩子様…?確か…先の帝の女御様か…?早くにお隠れになられたらしいが、それにしても知る人も少ないお方だ。記録すら残っていないのではないだろうか?矩子様の御子…か…?何やら奸計の匂いがぷんぷんする。と、義忠は思った。
それから義忠は、当主と当主の義弟の黒司と、いつしか集まった、威勢をふるう外祖父や姻戚の老人たちが集う本殿に戻った。
案の定、己の威勢をふるうが為の無駄な議論が繰り広げられていた。当主はすでに黙って目を瞑っている。そして、黒司はあからさまに呆れた様子で表情を殺していた。何もしないくせに口だけは達者な老人たちだ。
黒根家は、数ある由緒正しい呪術師の家系のなかでも頂点を極めるほどに権威ある唯一の呪術師の家系だった。それは珠の能力があってこそだった。珠は、虚ろの世界の虫たちによって、他者を操ることができた。だが、今では珠の力も衰え、黒根家も衰退を辿る一方だった。そのために当主は、なりふり構わずに権勢を取り戻すことばかり考えていた。
義忠は、珠の力がまだ顕在だった頃の従者だった。事実上当主よりも力があり、黒根家を支えていた。だが、珠が衰えると、当主は、義忠を抑える為に自らの補佐役を命じたのだ。今は時流により、義忠は自らの力を抑えて、静かに当主の補佐役を勤めているが、その影では、義忠の判断で様々な厄介事を速やかに片付けていた。
今回の香舎家惨殺の後片付けは全て義忠が行った。香舎家当主浄西による乱心という筋書きで、周囲の根回しから初めて、検非違使などの国の機関にはしっかり証拠固めを行った上で報告したことで疑われることもなく、速やかに収まった。
そして、義忠は、腕の立つ剣士二人を伴い、何処ぞの馬の骨とも知れない新参者の呪術師の元に向かった。
辺りは夜の帳が降りて、静かな闇が幾つもの薄絹を重ねていくように濃くなっていった。
香舎家の後片付けをしていたことで、珠に告げた、存在ごと抹消する予定から二日は過ぎていた。義忠にとっては屈辱に値した。
新参者の呪術師については、白水優雨幻の縛りが解かれたことを聞いた時からすでに内偵を進めたいた。
白水家を黒根家の懐に入れるという計画とは…。
珠の力が全盛期の頃、二条天皇と後白河上皇の間で権威の争奪が行われていたのだが、信西の力を恐れた後白河上皇は、いずれ信西によって院政が潰されるのではないかと考えていた。その頃、珠は後白河上皇の女房を勤めていていた。そして、上皇の心情を読み、虚ろの虫たちを使い、信西の排除に貢献した。そのことがきっかけに後白河上皇に重用されるようになった。しかし、平治の乱以降、逆に、信西を失った後白河上皇派は壊滅してしまい、二条天皇の親政が始まった。そして後白河上皇の院政は排除されてしまった。
その頃から珠の力は次第に翳りを見せ始め、自ら朝廷を退いた。珠の力を後ろ盾にしていた黒根家もまた、呪術師として朝廷での力を失った。
珠の力を失った黒根家は何度も朝廷への返り咲きを試みたが、悉く失敗。そこで再び朝廷での力を得る為に、白水家を操ろうと、香舎家が勝手に動いたのだ。
香舎が白水優雨幻を操るために立てた計画が杜撰だった。優雨幻を縛り、周囲の者を排除。そして、奥方によく似た女を探し出して、奥方に成りすまし、白水家諸共乗っ取る計画だったのだ。だが、優雨幻の精神力が強く、縛るだけでは従わせることが出来なかった。いずれ浄西は秘密裏に戒の力で従わせるつもりでいたのだが、何故かそれは実行されることはなかった。おまけに、新参者の呪術師によって、優雨幻の縛りが解かれてしまったのだ。
これを間接的に聞いた義忠は、幾つかの過ちを犯していた。
優雨幻への縛りは、香舎流彗による香の作用を利用した幻術だと勘違いしていた。だが、実際は黒司家の呪符による縛りだったのだ。流彗の香による縛りを解くものがいても、義忠にはさほど重要なことではなかった。だが、黒司家の呪符を解くとなると話しは別だ。黒司家の呪符は黒司家の血筋の者以外解ける者などいないからだ。
また、義忠は、忙しさのせいで明確な優先順位をつける習慣があった。優先順位によりそれぞれの仕事の力具合をも調整していた。これまでそれを誤ったことがなかった。何処の馬の骨とも知らない新参者の呪術師は優先順位が低かった。徹底的に舐めていたのだ。
部下に内偵を依頼するときには、抹消する時刻のことばかりが念頭にあり、他のことはどうでも良かった。屋敷の場所と住んでいる者だけ調べろと、それだけ命じていた。何故なら、義忠は、珠には“黒根家の沽券に関わるゆえ、わたしが人知れずその呪術師ごと過去も未来も存在そのものを抹消する予定です…。今日明日にはその存在ごと抹消しますから”と、言っていたからだ。
義忠の内偵者は、義忠に言われた通り、何処の馬の骨とも知れない新参者の呪術師の屋敷の場所と、住人だけを調べた。
変わった屋敷で、一見したらまるで寺のような造りになっていた。人の出入りが激しく、目まぐるしく人が入れ替わる中、内偵者は丁寧に出入りする者を排除して、呪術師と思しき男がひとり。あとは少年が二人、そして少女が一人と報告した。
義忠は、少年、少女のことはさほど興味はなかったが、抹消するのは気が引けた。知り合いの人買いにでも売ろうかと考えていた。
そして、義忠は、腕の立つ剣士二人に小声で呟く。
「お前たちは呪術師を一瞬でやれ。いいな一瞬だ。それ以上はダメだ。その後、すぐに子供を眠らせろ」
「御意!」
二人の剣士は素早く門の中に入って行った。
門の中は仄かな灯りが見えていた。今まで聞こえていた喋り声がすぐに止まった。そして一瞬、叫び声と激しい音が響いた。
「うん、一瞬だな。合格だ」と、義忠は呟いた。
そして、ゆっくりと門の中に入っていった。
寺のような屋敷は開け放されて、中の様子がよく見えていた。
しかし、義忠の余裕の表情に翳りが見えた。予想していた光景と随分違っている。
庭に面した廊下に倒れているのは、たった今門の中に入って行った剣士のひとり、そして、庭にもうひとり。どうやら一瞬でやられたのは剣士の方だった。
廊下に仁王立ちした男がいた。
「なんだ、お前は…?」と、男が言う。
そして、男の影から少年が出て来た。
「あっ!?」と、少年が驚く。
「えっ?しゅ…うさま…?」と、義忠が呆然とする。
「秋様?」男が呟いた。
「知らないよ。なんだこの男?盗賊だよ!」と、少年が言う。
「えっ?何、盗賊なの?」と、奥から少女が出て来た。
その少女を見た時、更に義忠は驚いた。
「筝様!何故、筝様がここに…?」と、義忠が呟く。
「そう様?」と、再び男が呟いた。
「寿院様、盗賊だ!何ぼんやりしているの?ぶっ殺してよ!こんな盗賊、寿院様なら一瞬でやれるよ!」
「うるさいよ!で、誰なんだお前は?」と、男が怒鳴る。
「どうしたの?」と、眠そうに、もうひとり少年が出て来た。「泥棒なの?なんかもう、いろいろとうるさいなぁ…いつもいつも入れ替わり立ち替わり、何だよ…この家にいると落ち着かないなぁ…わたしはもう寝る。静かにしてね」
「私も、もう寝ようかな?寿院、その盗賊ころしといてね」と、少年と少女は奥へ引っ込んで行った。
「もぉう…女の子が殺しといて…なんて言っちゃいけません」男が馬鹿っぽく言う。
「なんだ、この家は…?」義忠は、ただただ驚くしかなかった。
「盗賊、殺されたくなかったらさっさと去れ!そして、もう二度とここには来るな!」と、少年が叫ぶ。
叫んでいる少年は、まさに秋だった。
男は小首を傾げながら、言った。
「秋様がそう言っている。お前、もうここに来ない方がいいかもな。秋様がそう望んでいるようだ」
「もう、何言ってるの?」と、少年は叫んだ。
そして、義忠は去った。
やはり秋は間者だったのか?何故、秋は急ぎ戒を助けたのか?次回をお楽しみに…。




