双子の執着と嫉妬
戒と香舎家の関わりが明らかになるなか、黒司家と、香舎家には繋がりがあったことが分かった。寿院は黒司秋は間者と思っていたが、春は違うと言う。実は寿院は、黒司家と『呪い屋』との関わりを疑っていた。何も語らない寿院だったが、様々な情報が頭の中で渦を巻いている。
太陽が傾いた本堂の庭は、これまで起こった不思議な出来事も全て、巨大な影にすっぽりと覆われようとしていた。そこかしこに隠れ潜んでいるこの世のモノではない何かが動き始める時刻が訪れようとしている。影に隠れた闇が色濃く映し出される逢魔時…。
隆鷗は、いつもよりもっと無口になった。
秋の身体を乗っ取っている春は、すぐに出掛けるつもりでいたが、獅舎の訪問により足止めを食っていた。
本堂には、魂を失った香舎流彗が白眼をひん剥いたまま倒れていた。そして、本堂の隅でその従者が気絶している。
何が起こったのか想像もつかない。本堂は静まり返っているだけだった。
獅舎が本堂の真ん中で腕を組んで胡座をかいていた。そして目蓋を閉じて長い時が過ぎた。
その間、瀬羅が気絶した従者の目を覚ますためにあらゆる手段を使っていた。
やがて、従者が目を覚ました。
「あっ、起きた」と、寿院がぽつりと言った。
寿院と、隆鷗と、春は、その光景を、庭に面した廊下に座って見ていた。
あたりが暗くなっていく様子を見ながら、おもむろに立ち上がった寿院は、本堂の最も中央の、本尊を祀る場所にある大きな燭台に火を灯した。その場所には特に何を祀っているわけでもないが、御霊様の本尊の代わりに苞寿から贈られた書の掛け軸を掛けている。
寿院が元の場所に戻ろうとした時、瀬羅が声をかけた。
「獅舎様から従者を尋問するように言われたのですが、あなたも手伝ってくれませんか?」
「なるほど…。そうだな。そうする方が理にかなっている。我らはこの状況を捨て置き出掛けるところだった」と、寿院が呟く。
「いえ、状況は分かりませんが、何か事情がおありだったようだ。獅舎様も紗々様が帰って来ない以上、気持ちは同じだと思いますよ」と、瀬羅が言った。
「いえ、お恥ずかしい…」と、寿院は、落ち着いている瀬羅に、少しばかりほっとした。
目を覚ました従者は、突然身体を震わせながら頭を抱え身を縮めた。
そんな従者を見て、一瞬寿院と瀬羅は目を合わせた。
「お前、今の状況をよく理解しているのだな。恐ろしいんだな?」と、瀬羅が言った。
瀬羅の言葉に従者は声を震わせて叫び声を上げた。
「もしかして、この状況、何度か経験しているのか?」と、寿院が言った。「何が見えた?」
「見えないから怖いんだ。だけどいるんだ。絶対何かがいる。大きくて、恐ろしい何か…。流彗様は白蛇だと言う。しかし、それが白蛇だという証はない…」従者が震えながら呟く。
「白蛇だ。白蛇が流彗を連れ去った。魂を持って行ったんだ。だからそこで横たわっている流彗は肉体に過ぎない。死んだんだ…」寿院は真実を伝えた。
「魂を持って行かれた…?あの時もそうだった…」従者は更に震えた。
「そうか…以前もこういうことがあったんだな?流彗は死んだよ。ゆっくりでいい話すんだ」と、瀬羅が静かに声の調子を落として尋ねた。
「ある日、旦那様が幼な子を抱き抱え連れ帰って来た。その幼な子が来てからというもの香舎家は全てが変わってしまった」と、従者は話し始めた。
幼な子…。寿院は鸚鵡返しに呟いた。
「奥方様はひどくその幼な子を嫌い、“戒め”の戒と名付けた。そして、閂のついた小さな檻を造らせたのさ。それを広い部屋の真ん中に置いて、幼な子を閉じ込めてしまった。旦那様は、そんな奥方様をただ黙って見ているだけだった。しかし、一言だけ家の者に忠告した。『あの、幼な子の眼を見てはいけない。絶対に見てはいけない』と…」そう言うと、従者は咳き込んだ。「喉が渇くな…」
「後で白湯を持って来てやるから、先に話せ」と、瀬羅が言う。
「ふん…わたしの主、流彗様は随分と興味を示し、時々幼な子の部屋に出掛け揶揄った。刀で檻を叩いたり、物を檻の中に投げ入れたり、悪さばかりした。時にはわたしの髪を掴み無理やり眼を合わせようとされたこともあった。流彗様は奥方様が大好きだ。奥方様の嫌いな幼な子を揶揄うことで気を引いていたのさ。奥方様は流彗様を止めもせず、褒めもしなかったが、随分と機嫌が良かったな。飯もろくに食わさず、幼な子にとっては地獄のような日々が続いただろうよ」
香舎家で戒は随分虐げられていたのか?と、寿院は胸が締め付けられた。何が阿戒様だ!
「あまり口を聞かない子だった。ある日、揶揄うために訪れる流彗様に、さっきのわたしのように、喉が渇いた。と訴えたのだが、流彗様は、意地の悪い笑みを浮かべると、わたしに、桶に水をくんで来いと命じるので、言われた通りにした。すると、流彗様は桶の水を一気に檻の中の戒にかけた。もう、その頃の流彗様は異常だった。いつもいつも、わたしには御先祖様が崇めていた白蛇様が憑いているのだ。お前など白蛇様に与えてやるぞ!と、戒に怒鳴っていた。そして、桶の水をかけた後に、それが起こった…」
そこまで話すと、従者は更に震え始めた。そして、落ち着きのない様子で辺りをキョロキョロ見回していた。まるで何かいないか確かめているみたいだ。
「何もいないぞ。もう白蛇は別の世界へと消えていった。それにお前様にはどうせ見えないのだろう。見えないやつにはつむじ風にしか思えない。感じることはない。もっと鈍感になればいい」と、寿院が小声で呟いた。
しかし、従者は寿院の言葉を注意深く聞き取っていた。
「そうだ…。まさしくそうだ。さっきあんたはつむじ風のようなものに庭へ吹き飛ばされていた。あれは本当につむじ風なんだろうか?びしょ濡れになった戒は、桶の水をかけられても微動だにせず、流彗様を睨んでいた。しかし、流彗様は旦那様の言葉を忠実に守り、戒の視線を避けていた。だが、戒は目ん玉をぶるぶる震わせ、流彗様を睨みつけた。そんな時、奥方様が部屋に入って来た。奥方様は、流彗様を睨みつける戒にたいそう怒り狂った。流彗を睨むなと叫びながら檻の中に腕を入れて戒の衣を掴み、大きく揺すった。その時だった。奥方様が天井まで舞い上がった。そして、四方八方の壁に衝突して、落ちて来た。奥方様はもう息をしていなかった。死んでいた…。流彗様は、腰を抜かして、その場に座り込んだ。その時、流彗様は、傍に何かがいる気配を感じた。そして、何かが頬に触れた感触がずっと後々まで流彗様を苦しめた。戒が言ったのだ。流彗に憑いている白蛇が来たんだ。ふふふ…。流彗に憑いている白蛇はどうして、奥方様を殺したのかな?と。…わたしは背筋がぞっとした。流彗様もわたしも何も考えられずに呆然としている時、六芲様が部屋に入って来て、戒に白湯を渡していた。あの時、香舎家の兄弟の立場が決定づけられた…。流彗様は白蛇の祟りだと言っていたが、果たしてそうでしょうか?不気味に笑った戒の、あの眼がいまだに焼き付いている…」
そう言うと、従者は蹲ったまま動かなかった。そして、呟く声が聞こえた。「この屋敷は恐ろしい…恐ろしい…おそろしい…あの時と同じだ…」
従者の言葉に隆鷗と、春はお互いを見つめた。
「戒は、眼孔から異界の虫を現世に送り出していたが、あの異界の虫は現世にどんな影響を与えていたのだろうか?僕は何も知らずにただ退治していただけだったが…」と、唐突に春が尋ねた。
「そうか君は知らないのか…?わたしはあれを異界の虫だとは思っていなかったんだ。あれは戒と眼が合ったものの身体の中に入り意思を断ち切ってしまい、戒の意思に従わせてしまうのだ。あっ、その時戒の異界と、繋がってしまうのだろうか?わたしはあれは戒の意志が飛ばしているものだと思っていたが、異界の虫だと考えたら、また別の解釈ができる…」と、言うと、隆鷗は考えた。
「つまり、簡単に言えば…戒は、眼が合った者を従えることができるということかな。だけど、隆鷗さんの言う通り、そんな単純なことではないかもしれない。従者の話しを聞いていたら、戒は、香舎家で異界を開いている。間違いない。もしかしたら戒自身もそれに気がついていないのかも」と、春も考えた。「本当に恐ろしい娘だ」
「全ては、異界だよね。異界の謎を我らが理解できるのだろうか?」と、隆鷗は、途方に暮れる。
「異界というものが何なのか…?まずそこからだね」と、春が苦笑した。
寿院が隆鷗と春の元に戻ってきた。
「あの従者、この屋敷を恐ろしがっているくせに香舎家には戻れないと、言うんだ」と、戻ってくるなり寿院が言う。
「どういうこと?」と、隆鷗は尋ねた。
「獅舎様がもう従者に用がないから、流彗を連れて香舎家に帰れって言ったが、あの従者、すっかり怯えて、香舎家に戻ったら流彗様を守れなかった罰で殺されるって言うんだ。暫くここに置いてやれだと…無茶苦茶だよな」
「えっ?でも、今から六芲のところへ行くんだよね?」と、隆鷗が尋ねると、春が困った顔をした。
「だけど…すっかり暗くなってしまった」
「そうだな。時を食ってしまった。紗々さんも戻って来ないし…わたしとてじっとしているのは嫌なんだが…しかし、この暗がりでは動くこともままならないだろう」
寿院の言葉に隆鷗もその日は諦めた。
その夜、春は眠ろうとしなかった。明日の朝、目覚めるのは、果たして自分なのか、秋なのか、不安だったからだ。
隣りでは隆鷗が眠っていた。寝息が聞こえてくるほど、すごく心地良さそうに眠っていた。つい先程まで、紗々と戒のことをひどく心配していたのだが、眠ってしまうと、まるで何もなかったようだ。春には羨ましい。
春は、使いっぱなしになっていた、硯と筆を布で整え、飲みかけの白湯で墨を擦った。そして秋宛に文を書いた。
おそらく春は今のこの状況を案じているわけではなかった。役割をしっかり果たすことで、自分の存在を確かなものにしていたのだ。
春にとって、ずっと眠ったような、虚ろな状態が続いていたことは何処か恐怖だった。だがそれを認めてしまうと自分の存在そのものが危うくなりそうだった。決して死を受け入れていないというわけではなかったが、こうして、秋の中に存在している自分が消えていくのを恐れるのは、何かしら違うと考えていた。その執着は、きっと抜き差しならない恐怖を生み出すことになると、漠然と分かっていた。
隆鷗が見ていたという、もわもわの目ん玉のお化けから見る現世の光景は夢を見ている感覚に似ていた。今、この状況も夢でないという確証はない。だからこそ春は隆鷗にも寿院にも普通のひとであるように演じた。そうすることによってこれまでの、眠ったような虚ろな曖昧さを解消することができたような気になっていたのだ。
その頃、隆鷗は夢を見ていた。
異界の入口が開いたのは、隆鷗に恐怖を植え付けた。寺の麓で見た、あの大きな闇の塊と重なった。現世のなかに同時に存在する闇の異界は、どんどん広がり、現世をすっぽり包み込んでいた。だが、人々は、誰もが闇の異界に気づくこともなく、普通の日常を過ごしている。しかし、次第にひとり、またひとりと異界に迷い込んでしまう。通りを歩いているひとが、家に帰っているひとが次々と何の違和感もなく異界の入口へと消えていくのだ。
その光景は、隆鷗だけに見えている。寿院に話しても、ただ、笑っているだけだった。傍でひとが消えても寿院には分からなかった。隆鷗は、何度も何度も説明するが寿院はただ笑うばかりだ。
遂には隆鷗は、寿院の傍を離れた。
笑っている寿院は、隆鷗とは違うのだから、わたしには何一つ理解できないのだよ。と、そう言っているようだった。
寿院は自分を理解している唯一の友と思っていたので、隆鷗は残念でならなかった。
あっ…。でもわたしには戒がいる。と、隆鷗はふと思った。しかし、何処を探しても戒の姿は見当たらなかった。
戒という少女…?
あれっ…?そんな少女いたっけ?
どんな顔をしていたっけ…?あれっ…?戒…?わたしは、そんな名の少女を知っていたんだっけ…?
えっと?そんな少女は存在しないのかも知れない。この世には。
そうだ。闇の異界から来た少女に違いないのだ…。そうだ、わたしは騙されているのだ。
結局、わたしは独りなのだ。
隆鷗は目を覚ました。
目を覚ました時、空中に浮いていた身体が地面にすうっと降りて来たように感じて、暫く隆鷗は、ぼんやりとした。
すると、大部屋の片隅で仄かな光を感じた。眼が覚めてはっきりと現実の光景が視界に入って来た時、光の方へ視線を移した。いつもより部屋が広く感じられた。寿院が流彗の従者を見張るために本堂で眠っている。瀬羅も一緒に見張ると言っていたが、隆鷗には二人が同時にいるのは少し不思議な感じがした。
光は部屋の隅で仄かに辺りを照らしていた。秋と言うか、今は春の丸まった背中が見えた。
「あれっ、寝ていないの?」と、隆鷗は声を掛けた。「もしかして、眠ってしまうと、自分が消えてしまうと思っているんじゃないの?」
背中を丸めた春は身動きひとつしないし、隆鷗に返事もしなかった。
「春君、眠りたくない気持ちは分かるけど、明日は、多分大変な一日になると思うよ。眠った方がいいよ」と、隆鷗は言った。
「うん」と、春は頷いただけで何も言わない。
隆鷗は、上半身だけ身体を起こすと、春が何をしているのか、丸まった背中に隠れたものを見ようとした。
「文を書いているの?誰に…?あっ、そうか。秋君に書いているんだ。今日のこと書いているの?心配しなくてもわたしがきちんと説明するよ」と、隆鷗は言った。
春は、うん…。と頷いただけだった。
春は疲れているのだろうか?それもそうだ。これまで、おそらく闇の中でぼんやりと何も分からないまま過ごしていたに違いないのに、突然、双子とはいえ、他者の身体のなかに理由も分からずに入ってしまったのだから…。
「春君、わたしはすごく嬉しかったよ。君がいなければ、すごく孤独のまま、あの白蛇と闘わなければいけなかったと思う。寿院は、すごくわたしを信じてくれていて、異界の入口のことも、あの大きな白蛇のことも何もかも信じてくれて、一緒に闘ってくれるけれど、でも見えているわけではなく、あの驚異的な集中力でわたしの見た世界を再現するのだけど、そんなことできるのは寿院しかいない。わたしには代え難いすごいひとだ。寿院みたいなひとは何処にもいないと思う。でも、実際、影であろうとそれが見えている春君とは本当の意味で共有できて、わたしはすごく頼もしかった。言葉にできないほどだった。春君、本当に有難う」と、隆鷗は言った。
春は、やはり、うん…。と頷くだけだった。
「春君、もう寝よう」と、最後に隆鷗は言うと、もうそれから喋らなかった。
それは、ほんの一瞬の出来事だった…。
秋に文を書き終えた春は、少しばかりうとうとし始めた。だが、眼球の奥に力を込めて、襲ってくる睡魔を跳ね除けていた。春にとって、その睡魔は危険な状態だと予測していた。
しかし、ほんの一瞬の油断で、春は、闇の中に堕ちてしまった。そして、もう二度とそこから這い上がることは出来なかった。
まるで陣地取りをしているように、春が眠ってしまったほんの一瞬の間、秋の意識が秋の肉体に戻ってきた。
秋には何が起こったのか、もちろん理解できなかった。
ただ、春が文の前で眠ってしまったことで、秋の視線は唐突に文の存在を知ることとなり、自然と文の文字を追うことになった。
秋は複雑だった。
眠っている間、春が自分の身体のなかにいたことを知った。そして、寿院と、隆鷗がすぐに春を受け入れたことに釈然としない、もやもやした気持ちを処理できないでいた。
そして、文を読み進めていくうちに、春がひどく恐れているのが伝わった。消えたくなかったのだ。その執着が秋には疎ましい。また、そんな自分が嫌で心が沈んでしまった。春が理不尽な死を遂げてしまったことへの悔恨が再び蘇った。
そうだ。ほんの僅かな時刻、憑依していただけのことだ。なのに何故、こんなに疎ましく思うのだろうか。
そんな思いのなかで、隆鷗に声を掛けられた。秋は決して、春と入れ替わったことを隆鷗には明かさなかった。
春の文は、自分が存在していた時を克明に書き記していた。これまで起こったことを包み隠さず全てだ。
そして、夜が明けたら何をすべきか。秋は理解した。その上で自分が秋であることを明かす必要があるのか、迷っていた。
なんで…隆鷗とこんなにも仲良くできるんだ?と、ぽつりと秋は呟いた。
気がついたら、涙が溢れていた。何故、涙が溢れているのか、よく分からなかったが、消えていくことへの恐怖を書き連ねた春の気持ちを理解したくはなかったが、まるで感染でもしたかのようにただ心が痛かった。
春、楽しかったのかな…?
ふと、秋はそう思った。
ただ、春が隆鷗との関係を自分より深く築き上げていたことで、これまでいろいろ釈然としなかったことが明らかになるのではないかと、秋は思った。
秋には、隆鷗に対して抱いた謎があった。そして、隆鷗と寿院の、何とも言い難いあの関係も腑に落ちない。
秋が、どんなに必死になっても割り込めない二人の関係。
ついさっき、隆鷗が春に言っていた言葉には、春への信頼があった。たった一日そこらで、隆鷗は随分心を開いていた。
秋は決めた。暫く春のふりをしていよう。
そこには、秋の何とも言えない嫉妬があった。
戒が連れ去られたこと。そして、その後に起こった様々な出来事は、秋には想像しにくいことばかりだった。
異界が開き、白蛇が出現。隆鷗には、そういった類いのものが全て見えていて、それらと干渉することができる。そして、隆鷗と、寿院が白蛇と闘い、最後に寿院が白蛇を倒した。しかし、実際寿院は異界のモノを見ることができない。隆鷗の言葉を再現して、隆鷗の刀で応戦し、倒した。と、書いてある。しかし、秋には信じ難く、何度も読み返した。そして、力尽きたと思った白蛇が最後の力を振り絞り流彗を異界へと連れて行った。魂が消えた肉体だけが残り、流彗は死んだ。
秋は、春が死んだ後、父の呪符の仕事を手伝っていた。父の呪符はいろいろ謎が多い。
呪符から繰り出す様々な異様な気配を秋は、何度か感じたことがあった。そんな時、父が不思議なことを言う。
「お前は感じるだけなのか…?そうか春は分かっていたのだか…」
その言葉を秋は深く追求しなかった。春より劣っていると、言われているような気がしたからだ。だから父の仕事のことはあまり深入りしなかった。ただ嫉妬ばかり覚えることに疲れてしまった。
ずっと父の手伝いをしていた春なら、そのからくりを分かっているのかも知れないが、秋にはまったく理解できない謎だった。秋は、恥ずかしくて言葉にはできなかったが、呪符には異空間に導く何か突拍子のない細工がしてあるのだと思っていた。
しかし、文を読んだ時、その謎が全て明かされたような気がした。だからと言って秋は、それを理解することは出来なかった。
春にもう一度出会えるのなら、素直に全てを尋ねてみたい。そう思いながらも、春が生きていたら、きっと…嫉妬で何も聞かないのだろう。と、自分でもそう思えた。
そして…。
文に書き記された中に香舎六芲の文字を見つけた。
香舎六芲が、眠っている僕を蹴ったのか…?
その箇所を読んだ時、秋のなかでゆっくりと怒りが込み上げてきた…。
春のふりをする秋。これまで謎だった隆鷗のことや寿院のことが明らかになっていく。
秋が何故、寿院の元にやって来たのか?また、黒司家と香舎家の関係や『呪い屋』のことなど、寿院は、解き明かすことが出来るのか…?
データ消失の影響で、次回のエピソードはまだ書いていません。まだ未定です。ご了承下さい。




