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傀儡になった母娘

いよいよ、寿院と隆鷗は、ひとを傀儡のごとく操る戒の元へ向かう。譜の家族を助け出せるのか…?

 まだ、稽古場には朝の陽射しもなく、薄暗い闇に包まれていた。

 かいはすでに家族が住む家を一人で占領し棲家としていた。気が向いた時だけ、伊都いと詩束しづかを追いやった稽古場にやって来る。

 その日も、目が覚めたかいは、稽古場にやって来て、伊都と詩束に朝餉を作るのを命じた。

 命じられた伊都と、詩束はすぐに隣りの家に移動して朝餉を作った。だが、左腕を斬られた詩束は、簡単な作業でもすぐにしくじった。しかし、痛みが解らない詩束はしくじったことにも気づかずに器を掴み損ね、落としたり、割ったりを繰り返していた。

 戒は、出来上がった朝餉を稽古場に運ばせた。そして、不味いと怒鳴り散らし器を投げたり、ないものをねだったりと、やりたい放題だ。

 しかし、戒のそうした我儘に伊都も詩束も無表情に対処するだけだった。


 「うたは、わたしの力が及ばないからと、随分強気だったが、一向に帰って来ないな。まったく口程にもないやつだ。ふふふ…また罰を与えてやるかな。どうせ鼓笙こしょうの家で震えているのだろう。平家の者を使いに出したが、あれから何も言ってこないな。ふふふ…、詩束姉様…。随分退屈ではないか?今度は姉様が鼓笙こしょうの家に行って首でも掻き斬るかい?ふふふ…」


 はしゃいでいる戒と対照的な伊都と詩束。無表情な顔の視線はひとつも動かない。戒の傀儡くぐつとなったふたりは時が過ぎていくほどに人間らしさを失っていった。

 それに退屈している戒は、ますます非道になっていく。しかし、非道なことをしたところで、退屈には違いない。

 戒は、まだ退屈の本質が分からなかった。満たされない心をもてあますばかりに、残酷なことをする。そして、その矛先は、長屋の女将にも向けられていた。

 女将は、もう家に閉じ籠り、寝床についたまま、動くことが出来なかった。


 戒は、伊都や詩束を支配していたとしても、家族という枠組みのなかで生活を共にしている。しかし、長屋の女将はそうではなかった。家族の枠組みから外れた女将をぞんざいに扱った。ひどくこき使い、身体が壊れていく姿を見て嘲笑い、罵り、やがて戒は、女将の存在を忘れてしまった。何も命じられない女将は、ただ一日中、ぼんやりしているだけだった。その姿を見ていた夫は不憫に思い、女将をぞんざいに扱う伊都の家族には二度と近づけさせなかった。女将が病んでいると思った夫は、身を案じて寝床に就かせ、献身的な看病をするのだか、一向に良くならなずに、ただ疲弊するばかりだった。


 朝陽で、ゆっくりと辺りが白みを帯び始めた頃…。

 夫は、隣りの家族の名を呼ぶ、男の声を聞いた。

 伊都の名を久しぶりに聞いた。


 「伊都さん、鼓笙だ。顔を見せてくれないかい?」

 鼓笙の声が響いた。


 女将の夫は、蔀戸しとみどから顔を覗かせて、様子を見た。

 「あれは藤原鼓笙様か?なんだい…なんだい。いつもと様子が違わないか?揉め事だったらやめておくれよ。まったく迷惑な家族だ」

 夫が覗き見している時に伊都が隣りの稽古場から顔を出した。伊都と顔を合わせたくなかったのか、夫は音を立てて蔀戸しとみどを閉めた。


 「鼓笙一人で来たのか?」と、戒が伊都に尋ねた。

 「鼓笙様の後ろにおられる方々は、どなた様でございますか?」と、伊都が鼓笙に尋ねる。

 「ああ、この方々ですか?この方々は寿院じゅいん様と隆鷗たかおう様です。うたさんのご友人です」と、鼓笙は何一つ隠し立てをせずに言った。

 「寿院様と隆鷗様が、鼓笙様のお供で来ています」と、伊都が戒に言った。

 「何だと…!?じゅいんだと…!じゅいん…。そう、じゅいんだ。私の正体を言い当てた、あの忌々しい娘が言っていた名だ。じゅいんが助けてくれると譜に言っていた。そいつか…!?…ふふふ…笑いが出るぞ。探さずとも自らやって来るとは…ふふふ。母様、少し待つように申せ」


 伊都は言われた通り鼓笙に伝えた。


 「詩束姉様…。ちょうどいい。姉様が出向く必要がなくなった。ふふふ…さて、短刀を首筋に突きつけ、じゅいんの前に登場したら掻っ斬っておあげなさい。何も知らないじゅいんに本当の恐怖を教えてあげるのだよ」と、言うと戒は嘲笑した。


 詩束は、素早く立ち上がり、神様の祭壇に歩み寄った。いつの日か、短刀の刃先を突きつけて、「お前はそこでじっとしていろ。何もするな」と、言いながら、戒が祭壇に短刀を置いたのだ。よほど神が怖いのだろう。

 詩束は、その短刀を手にして外に出た。

 引戸を出ると、五歩ほど引いたところに鼓笙が立っていた。鼓笙が震えているのを見た詩束は、心の中で「鼓笙おじ様」と、呟いた。そして詩束は、短刀を自分の首筋に突きつけた。

 鼓笙が叫ぶ。

 「詩束君、何をしている…やめてくれ…」


 後ろに立っていた寿院は咄嗟に構えた。

 「隆鷗君…。詩束という娘、君にはどう見えている?」と、寿院が尋ねた。

 「聞いてどうするの?」と、隆鷗は尋ね返した。

 「このままだと、間に合わない。あの娘の感情が皆無なら躊躇なく斬る。間に合わない…」と、寿院が言う。

 「しの婆様と同じだ。両の眼孔から沢山の細い腕が出ているんだ。沢山の細い腕が詩束さんの四肢を掴み動かしている。恐ろしく強い…。眼孔は穴みたいに真っ黒だ」

 隆鷗は言った。


 あれは、戒の思念?苞寿が言う現象なのか?分からない。隆鷗はじっくりと見た。しの婆様の時より、随分と腕力がありそうだ。


 「鼓笙様、少し立ち位置ずらしてもらえませんか。ちょっと邪魔です」と、寿院が言う。

 「えっ?あっ、はい」と、鼓笙が半歩横にずれた。

 「隆鷗君、わたしが動いたらすぐに、青い刀で、短刀を持つ手を動かしている細い腕を斬ってくれ」と、寿院が言う。

 「えっ?何するつもりなの?」と、隆鷗が尋ねる。

 しかし、寿院は答えずに、素早く動いた。あっという間の出来事だった。影近の疾風のような動きに全然引けを取らない。

 寿院は詩束の、短刀を持つ右腕を掴み、背後に周り羽交締めにした。その途中からすでに隆鷗は動いていた。寿院が羽交締めにした時には右腕を掴んだ細い腕を斬っていた。

 「突然、驚くじゃありませんか」と、隆鷗は呟いた。

 「おおぅ…。君こそ驚くべき反応だ」と、寿院が言った。

 影近の動きに慣れていなければ反応すら出来なかっただろう。と、隆鷗は思った。

 羽交締めにしたまま寿院が言う。

 「わたしが抑えておくから、その細い腕を全部斬ってしまえ」

 隆鷗は構えた。

 抵抗しているのか、詩束を操る細い腕が一斉に無作為に動き始めた。隆鷗が刃を近づけると、くねくねと巻きついてくる。それを力ずくで引き抜き、そして、うねうね無作為に動く腕を次々と斬っていった。あまりにも多くて全て斬り終わるまで暫くかかってしまった。その間、ずっと詩束に抵抗されていた寿院は耐えていた。


 身体からおおよそ細い腕が消えると、真っ黒だった詩束の眼孔に瞳孔が戻った。そして生気が見え、その目に涙が溢れた。

 「痛い…!」詩束が呟いた。

 「えっ…?」隆鷗は驚いて、刀を下げた。

 「詩束さん?」と、寿院が言った。「もうこの手を離しても大丈夫だろうか?」

 「痛いです…」と、詩束が呟いた。

 「あっ?すみません」と、驚いて寿院が手を離した。

 「違うんです。左腕が痛いんです」そう言うと、詩束は左腕を抑えてしゃがみ込んだ。

 「あっ、白い布が巻かれているが、それはもしかして平家に斬られたところですか?」と、寿院が尋ねた。

 「はい。母が丁寧に手当くれました。でも、もうこの手は使い物にならないでしょう」と、泣きながら詩束が言った。

 「長い間、辛かったですね。左腕はわたしの知り合いの薬師くすしに診てもらいましょう」と、寿院が言った。

 「こんな腕などどうでもいいのです。そんなことより稽古場に母がいます。母は私より長く術にかかっています。術にかかっていても、心は正常なのです。正常な心のまま、わたしたちは戒から言われる通りに酷いことをさせられたの。だから壊れてしまう。母をお願い…」と、言うと詩束は、泣き叫んだ。

 鼓笙が詩束に歩み寄った。

 「詩束君、本当に申し訳なかった」と囁き、詩束を稽古場の隣りの住居の方へ連れて行った。


 「なんだ?騒がしいが…?詩束の泣く声が聞こえてくる?おかしいな…。詩束に泣けなど命じていない。鼓笙の悲鳴も、じゅいんの叫び声も何も聞こえてこない…。母様、何が起こっているのか見て来て…。嫌な予感がする。すごくすごく嫌な予感だ」

 なんだこの感触は…?戒がおどおどし始めた。何だ?何か…何かがすっぽりと無くなった感触が伝わった。


 戒は、引戸を開けて外を見ている伊都をすごくイライラしながら待った。

 「何が起こっている?」

 「さぁ…」と、伊都は説明できない。


 「伊都さん、鼓笙だ。分かるかい?そこから出て来てくれないか?友ができたのだよ。伊都さんのことを救ってくれる友だ」

 鼓笙の声は戒にも聞こえていた。

 「鼓笙…。母様を救ってくれる友だと…?じゅいんか?じゅいんが救えるというのか?母様…、詩束は何処にいる?」と、戒が尋ねる。

 伊都は暫く外の様子を見て、何が起こっているのか理解しようとしたが、やはり分からない。

 「詩束の姿は見えない」と、伊都は答えた。


 「隆鷗君、多分、譜さんの母上様だろう。どう見えているのか教えてくれ」と、寿院が尋ねた。

 「本当に聞いてどうするんですか?見えていないものが本当に信じられるんですか?」隆鷗が呟く。

 「隆鷗君…?ぶつぶつ言ってないで…。なぁ、両の眼孔から細い腕が沢山出ているんだろう?その眼孔は君にはどう見えているんだ?」と、寿院が首を傾げる。

 「えっと…。穴です。しかも深そうな…。濃い漆黒の闇が見える。くるくるゆっくり旋回するようにうねっている。わたしには、それが何なのか分からないが、穴にしか見えない」と、言葉を探しながら隆鷗は説明する。自分でも分からないものを説明するのはひどく難しい。

 「やはり、母上様も四肢を掴まれているのだろうか?」と、寿院が尋ねる。

 「うん。四肢。腹も背中も…。わたしには母上様の姿は見えない。腕しか見えないんだよ」

 「そんな沢山の腕が両の眼孔から出てるのか?想像できないな。どんなにでかい目ん玉でも、母上様を隠してしまうほど沢山の腕を出すことができるのか?そして、何処にそんなものが収まっているのだろうか?」

 具体的な疑問を言葉にする寿院。

 「ほらっ、信じていないんだろう。まぁ、信じられる話しでもないけど、今更言わないでよ」

 「違うんだよ。わたしは小さなことが気になる。気になると心の目が止まってしまう。止まってしまうと、わたしは動けなくなる」

 「えっ?だってさっきはすぐに動いた」

 「えっ!あの状況なら動くでしょう。詩束さん、首筋斬っちゃうよ。咄嗟に心の目が開いたのは、そんな緊張からくる集中力の賜物だ」


 ふたりがそんな会話をしているうちに伊都が稽古場のなかへ入ってしまった。

 鼓笙は、伊都の名を呼び続けている。


 「寿院は、眼孔から細い腕が出て、四肢を動かしていることは信じているの?」と、隆鷗は尋ねてみた。

 「うーむ。信じるとか、そういうことではないんだ」と、寿院が考え込む。

 「いや、別に無理して信じてくれなくてもいいよ」と、隆鷗がむくれる。

 「いや、だからね。信じるとか、そういうことでなく、わたしのなかではもう細い腕にしか見えないんだよ。だけどね。どうしてもあの目から沢山の腕が出ている絵がね…。どうも想像できない。目玉のお化けになってしまう」

 「えっ?まぁ、言っていることは間違いではないな」と、隆鷗が言う。「わたしには、あの目はすごく深い穴なんだ。そこから出てくる細い腕は多分、形ある物ではないんだ。気…みたいな。だから穴から出てくる時はすごく細く、透明な紐みたいだ。そして、穴から出ると、それが細い腕に変化する。あっ。でもすごく空気っぽい。そして穴と繋がっていて、穴付近の細い腕は、驚くほど細くて透明っぽい紐なんだけど、だんだんとふわっと少し太い腕になる。分からないよね…?」

 「なるほど。気…とか、空気っぽいのか。さっき見ていたんだけど…、隆鷗君は、その腕を掴んでいるように見えたんだが、間違っているか?」

 「うん、どうやら掴めるみたい。形ある物ではないと言ったけど、わたしには、それはもう腕なんだ。だから掴むことができるのかもしれない。それについては分からない」

 「そうか、ならば、その紐が眼孔から出ているところを全て掴んで、一気に引き抜くことはできるのかな?」

 「うん。できると思う」

 「だったら、時をかけることもないな。操られている人の負担もなくなるかもしれない」

 「でも、引き抜くのはなんかちょっと…。できたら青斬刀で斬りたい。青斬刀で斬ると、消滅するから、そっちの方が負担ないかもしれない」

 「へぇー斬ると消滅するのか。ああ、でも、目ん玉から出てきた紐を掴んで、その青い刀で斬るのを隆鷗君ひとりでするのは、ちょっと大変だよね。刀長いし…。なんで引っ張るの駄目なの?」

 「あっ?しのさんの時、引っこ抜いたんだけど、その時の感触がちょっと…」

 「あっ、しのさんに差し障りがあったの?」

 「いえ、特に…」

 「ふうーん?結構、気が小さいな。その刀、わたしが斬っても消滅するよね。わたしに刀を預けるのはどうかな?君が紐を掴んだら、君の手と母上様の目の間の空間を斬ればいいわけだから、わたしが斬るよ」

 「へぇぇーいいよ」

 隆鷗は、その時、呪符から出て来た蜘蛛の糸を斬った寿院を思い出していた。まんざら盲滅法に斬っていたわけでもなさそうだ。

 何故か、寿院なら青斬刀を預けることができると思った。


 その時、鼓笙がふたりに歩み寄ってきた。

 「あの、何をコソコソと話していらっしゃるんですか?今はそんな場合ではないと、思いますが」と、鼓笙が遠慮がちに言う。

 「いえいえ、そんな場合なのですよ。作戦を練っておりました。鼓笙様の好きなお方ですから、いかにさぱっと、一瞬で元に戻すかと…。さて、もう一度、鼓笙様のお力でお好きな方を表に出るように誘い出して下さい。鼓笙様のお役目です」


 稽古場では、相当に苛立っている戒が、歩き回っている。


 それを、身体の中の、一皮ほどの薄っぺらい内側に閉じ込められた伊都は、すごく冷静に見ていた。だが、薄っぺらい一皮が次第に分厚くなっていくのをずっと感じていた。と、言うか、分厚くなっているというより、少しずつ少しずつ自分が何処か別なところへ移動しているような感じだ。しかし、少し遠くになったが、まだ現実を垣間見ることができる。


 これまでと明らかに違う何かが起こっているのが伊都にも分かった。

 遠くで聞こえた詩束の、泣き叫ぶ声がすごく生々しく聞こえた。

 あれは、戒に操られた泣き声ではない。


 伊都は、幾度も絶望を味わったが、その度に、普通の人にはない凄まじい精神力で我をとり戻していた。それは、姉の磯と厳しい稽古を繰り返して、磨き上げた精神力の賜物だった。


 伊都は、イライラしながら稽古場を歩き回る戒の怯えた顔を見た。そんな顔をした戒は驚くほど幼く見える。

 考えてみたら、詩束より幼い戒は、何故こうも捻くれてしまったのだろうか?

 最初に出会った時、衝立に隠れて盗み聞きをしていた戒は、怯えていたに違いない。自身の処遇を他人に決められることに怯えていたのだ。怯えるほど、何をさせられているのだろうか?ひとを操る、本当の目的を戒は知っているのだろうか?


 やがて、外から鼓笙の声が聞こえて来た。

 「伊都さん、話しがあるのだ。出て来てはくれないだろうか?」

 伊都は、無表情に戒を見た。


 「詩束は何処にいるのだ。どうなっているのだ。母様は馬鹿だから状況を確認することもできない。もう武器はないのか?」と、戒が独り言を呟いた時、伊都が立ち上がった。

 何も命じたつもりもないのに、動き出す伊都を戒は、ただぼんやり見つめた。

 すると、伊都は、神様の祭壇の下の、高級そうな絹を捲り上げて、中から槍を取り出した。何やら行事にでも使った槍なのか。それを戒のところに持って来た。

 「武器…?ああ、命令と思ったのか?」と、戒が不思議そうにした。「分かったよ。母様。外に出たら鼓笙は、母様の正面にいるのだろう。いいよ。もうこれで鼓笙を刺してもいいよ。その隙にじゅいんと、もうひとりの男の目を見て従わせてやるから」と、戒はゆっくりと立ち上がった。


 何かが起こっている。

 戒は、これまでに感じたことのない不吉な予感を覚えた。


 伊都は、戒が命じた通り、奉納された特別な槍なのか、それほど長くもない、自分の背丈ほどの槍を片手に持って引戸を開けた。

 そして、すぐに槍を構えた。


 戒は、伊都の後ろ姿を注意深く見ていた。

 伊都が構えた槍を前へ突き出し、鼓笙が刺されたことを確認したら、すぐにじゅいんに向かって突き進み、両肩に飛び乗って近距離で目を見てやろう。と戒は考えていた。

 目を合わさなければ術には掛からないということはうたから聞いている可能性がある。しかし、そんな隙さえ与える暇もなく近づけば油断して、咄嗟に目を合わせるだろう。と、思った。

 じゅいんを従わせたら、もう一人の男を襲わせるのだ。


 だが、伊都は動かない。

 ゆっくりと時が流れる。

 暫くすると、伊都の両の手からぽろりと槍がこぼれ落ちた。

 戒の心臓が高鳴る。

 何が起こった。失敗したのか?だが、伊都は動かない。槍を落としたとしても、命じたことをやり遂げるために、槍を拾うだろう?何故、伊都は従わない?


 やがて、伊都が振り返り、戒を見て不気味に微笑んだ。

 「ふふふ、失敗しちゃった」


 戒は、伊都のその瞳の輝きを見て、息を呑んだ。

戒と闘いに挑む寿院と隆鷗。だが、寿院の行動に戸惑う隆鷗は思わず叫ぶ…。


次回「ねぇ、馬鹿なの…?」

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