【ep.8】 出撃:中編 (作戦決行日 9時32分)
緋桐が率いるチームは八王子に到着すると、かつての中央線の線路に侵入した。
駆体の盾はサーフ・シールドと呼ばれ、格納式の車輪を展開して内臓モーターを回すことで乗り物として使用する。今回、整備班がアタッチメントを開発し、線路上の走行を可能にした。
各機とも肩にジョイントされているリーフ・プレートを背面に回して盾に腹這いになり、盾同士を一列に連結している。現在、時速100キロで東に向かって移動中だ。
『まもなく、府中緩衝地帯です』
シオンの声は落ち着いていた。
まばらだった木々が増え、あらゆる平面が林床と化し、徐々に群落植物の密度が高まる。
『このまま樹海に入る。柴沢、目視での索敵を怠るなよ』
「了解です、隊長」
隊列は、天於が先頭、次に萌、緋桐、浅葱と続き、最後尾をシオンが固める。
行く手に待ち受ける巨大な樹林――東京樹海。
天於の手に無意識のうちに力がこもった。
あの広大な森のどこかに春人がいる。
日々、草獣と花粉に命を脅かされながら、他の被災者と一緒に助けを待っているはずだ。
『樹海突入まで、あと60秒』
シオンの声がかすかな緊張を帯びる。
『東京はいま、人間のものではない。センサーを信じるな、頼れるのは自分の目だけだ!』
緋桐が部下たちに心得を熱弁する。
シオンは、緋桐とは対照的に穏やかな口調で、
『花粉溜まり――花粉の濃度が高い場所では、電子戦機であるCQ以外、音声回線をはじめとした通信機器や誘導兵器が不安定になります。皆さん、ご注意ください』
『まず視界が真っ白になるからね。パニくんなよー、テオテオ』
いつものようにふざけた調子の萌の声にも、かすかに固さが感じられる。
「大丈夫……! やってやるさ!」
天於は胸の前で拳と掌を合わせ、自分に気合を入れた。
『今日の柴沢には期待できそうだな』
浅葱の言葉を翻訳すれば、何かミスをやらかしそうだな、となる。
集中しろ――
天於は反論せず、深く息を吐いて自分に言い聞かせた。
シールドの車輪がレールを噛む音が、天於の心臓の鼓動と重なっていく。
『3……2……1――樹海に入ります』
シオンのカウントが終わるのと同時に、ザアッと頭上を枝葉が覆った。
花粉が舞い、霧のように垂れこめて、一気に視界が悪くなる。
口の中が緊張で乾き切っている。
天於は唾を飲み込んだ。
ついに戻ってきた――この森に。