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剣と魔法と怪異譚  作者: 岩クラゲ
荒れ地の戦い
8/61

8-地の底に広がる星空

ルヒナと師匠は荒れ地を歩いていると、魔人族と出くわした。

二人は転移魔法によって離れ離れになり、それぞれ魔物と戦った。

先に勝ったルヒナは金色の狼煙を発見。そこに師匠が居ると考え、助けに向かった。

ルヒナは師匠を危機から救ったが、師匠は何故か怒っていた。

「あんたのせいで死にかけたぞ! 昨日の朝、寝坊したあんたを守るためにデカい狼の魔物と戦い、さらにあんたが森に燃え移した火を消すために大量の薬液を使って……! ああ、くそ! 戦薬も目くらましの薬も、治療薬すらほとんど残ってない!」

「はい、はい……。すみませんでした……」


 崖を降り、師匠のもとへ行った。

 そして私は真っ当な理由で怒られてしまった。

 師匠は私のせいで手持ちの薬をほとんど使っていたようだ。

 たとえここで師匠が魔人の襲撃に遭ったとしても、万全の状態なら普通に戦うか逃げるかできていただろう。


「はあ……。それにしても、よく俺がここにいるってわかったな」

「え? そりゃあ、金色の狼煙が上がってましたし」


 師匠の傍らには小瓶が転がっていて、瓶の口から金色の煙がモクモクと出ていた。封を開けて狼煙を上げ、助けを呼ぶみたいな物なんだろう。


「……あんた、この煙が見えるのか? この金色の煙が」


 師匠はさっきとは打って変わり、驚きの表情を見せた。


「ええ、見えてますよ? それのおかげで、師匠の居場所がわかったんですから」


 師匠は何をそんなに驚いてるんだろう?

 その金色の煙が見えるのが、そんなに不思議なことなんだろうか。いや、不思議だから驚いてるんだろうけど。


「この煙は怪異由来の物で、異術師にしか見えないんだ。一般人には見ることはできない」

「え?」

「本来ならこの薬は敵に気付かれないよう、異術師だけに助けを求める時に使う」

「それじゃあ師匠は周囲に他の異術師がいる可能性に賭けて、その金色の狼煙を?」

「ああ、そうだ。そうしたらあんたが現れた。あんた、怪異が見えるのか?」


 急にそんなことを聞かれても、キョトンとした顔になるだけだ。怪異が見える? 私が?


「いえ、そんなはずはありませんよ。私は今まで生きてきて、人には見えないようなものが見えた経験なんてありませんし……」

「そうか、それなら……」


 それなら……?


「……あんた、『地の底に広がる星空』を見たことはあるか?」


 地の底に広がる星空……?


「今まで見たこともないくらい、美しい星空なんだが」

「あ」


 いきなり何を言い出すんだと思って小首を傾げたけど、師匠の二言目で合点がいった。

 美しい星空……。三日前、重傷を負って気絶していた時、死の淵でそんな夢を見た気がする。


「そのハッとした顔……。あんた、見たのか?」

「……はい、見ました。三日前のベルメグン公国滅亡の後、重傷を負って意識不明になっていた時に……」


 でもどうして、師匠は私が見た変な夢のことを知ってるんだろう……。


「この世ならざるものを持った者は、怪異を見ることができる」

「この世のものではないもの……。三界神話によると、この天球世界の他にも地平世界、地獄世界が存在するとされてますよね。それじゃあ他の二つの世界から石とか枝とかを持ち帰れば、怪異が見れるようになるってことですか?」

「いや、神話の話は一回忘れてくれ。と言うか、その二つの世界と行き来する方法なんてないだろう」


 確かに……。

 神話の上でのみ存在が示唆されているだけの地平世界と地獄世界を行き来する方法なんて、聞いたこともない。


「異術師の間では世界はもう一つあり、それはこの天球世界と繋がっていると考えられてるんだ。死んだ後、魂は地下へと沈み、地の底にあるもう一つの世界で美しい星空を見る」

「重傷を負って、ほぼ死んでいた私が見たあれですね」


 ってことは私、星空を見た時は魂の状態だったんだ。


「魂はさらに沈みこんでいく。そして黄金色の星々も自分と同じ、魂が輝いているものだと気付くんだ」


 星々の正体が魂だなんて、私は気付かなかったなあ。


「普通ならそのまま地の底の中心部へと向かうが、この世で蘇生処置が成功した場合、魂は引き上げられ、肉体に戻る。まあ、俗にいう臨死体験ってやつだ」


 ふむふむ。死んだら魂は地の底に沈み、星のように輝きながら落ちてく。それが集まって星空のように見えると……。

 そして地上で蘇生措置が成功した場合、魂は肉体に戻ると……。


「星々が中心部に流れ込む光景が黄金の泉のようにも見えることから、その世界は『黄泉』と呼ばれている。もしくは、『あの世』とも言うな」


 地の底にある世界かあ。それじゃあ……。


「地下を掘ると別の世界があるんですか?」

「それは物理的に地下にある訳じゃないというか……。まあ、深く考えないでくれ」


 ……。


「……それで?」

「ん?」


 いや、「ん?」じゃなくて。

 何を「こいつ今の説明で俺の言いたいことを理解できなかったのか?」みたいな顔してるんだ。わからないって。


「この世ならざるものを持ったら、怪異が見えるとかって話をしてたんですよね? ですが私、その黄泉って世界から何も持ち帰ってませんよ」

「いいや、持ってるだろ」

「はい?」


 私は何かしらこの世ならざるものを持っていないか、服の上から体を撫でるようにして確かめた。やはり何も持っていない。


「記憶だよ。魂にこびりついた、黄泉の星空を見た記憶だ」

「あー……。そういうことですか」


 そう言われて、私はあの美しい星空の光景を思い出す。


「あんたは黄泉の光景を、記憶として持ち帰った訳だ」

「それじゃあ師匠も、臨死体験をしたことがあるんですか? 黄泉の光景を見たことが?」

「まあな」

「綺麗ですよねー、あの星空」

「異術師は全員、何かしら死にかけた経験があるはずだ。ただし、死にかけたからって全ての人間が黄泉を見る訳じゃない。死にかけても黄泉を見ない場合ってのは、体から魂が抜けるほどの重症じゃなかったものだと異術師の間では考えられてる」


 私はてっきり、怪異が見えるのは産まれ持っての才能か何かだと思っていた。

 臨死体験をすると怪異が見えるようになるのか……。

 それじゃあ異術師になれる人は、ごく少数なんだな。


「そう言えば師匠って、私が怪異を見れるのを今知った訳ですよね? それじゃあ最初は、私が怪異を見れないと思った上で弟子にしたってことですよね? 怪異が見れなくても、異術師ってなれるんですか?」

「まあな。怪異が見れなくても、知識だけで異術師になることはできる。できることは限られるがな。とは言え、そんな奴は稀だ。怪異が見れない奴を弟子に取ろうなんて異術師が、そもそもほとんどいないしな」


 師匠は怪異が見れない人でも弟子にする希少な人な訳か。


「……さて、話はこんなもんだ」


 そう言って師匠は回れ右をし、明後日の方を指さした。


「あっちに逆立ちをしたウサギみたいな形の岩山があるだろ? あの麓には小さな村がある。今から歩けば、夕暮れ前に着けるだろう」

「わ、本当だ。確かに逆立ちしたウサギみたいに見えますね」


 師匠は村を目指して歩き出し、私もその隣に並んだ。


「まあ、あんたを弟子にしたのには、他にも理由があるがな……」

「え、何ですって? 今、何か言いました?」

「いいや、何でもない」



 ◆視点変更◆



 偽称詠唱──口に出した詠唱とは別の魔法を放つ高等技術だ。それを使う場面は魔法使い同士の戦闘での駆け引きくらいだが、膨大な魔力と集中力を必要とする上、実際に戦闘で使ってみても戦局を左右するほどの効果は発揮しない。そのため、偽称詠唱を学ぶ魔法使いも、ましてやそれを戦闘で使う魔法使いもほとんどいない。


「なのになぜ、あの女は……」


 あの緑髪の女は戦闘中、簡易魔法と言っておきながら攻城魔法級の魔法を放っていた。不意を突かれた俺は熱火線をくらい、左腕が炭化してしまった。

 その瞬間、俺はとっさに転移魔法を使ってこのどこかもわからない山中に逃れた訳だ。

 あと一瞬でも判断が遅れていたら、立て続けに魔法を撃ちこまれて俺は消し炭になっていただろう。


「あの女め……。だが、何のために……」


 あれほどの実力があれば、偽称詠唱を使った駆け引きなんて必要ないだろう。充分に力で押し切れていたはずだ。なのにあの女はわざわざデメリットしかない偽称詠唱を使い、さらに杖さえ持たずに……。考えられる理由は……。


「余裕のつもりか……? 枷があっても、魔人に後れを取ることはないと……? クソが!!」


 歯を食いしばって怒りを堪える。

 ……あ、そうだ。「余裕のつもり」で思い出した。


「相手との実力差があり過ぎるアギルギー様も、よく戦闘での余裕を楽しんでたなあ。相手が自分に絶対に勝てないとわかると、わざと自分の能力を暴露し、僅かな希望を与え、勇敢に挑んできたところを嬲って遊んでたなあ。……ああ、アギルギー様。今はどこに……。会えない時間が長すぎて、頭がおかしくなってしまいそうだ」


 何はともあれ、まずはここが何処の山なのか、大まかにでも知らなくては。近くに村とか砦とか、場所がわかりそうなものはないものか……。

 山の中の森を適当に歩き続ける。そうしているうちに日が傾き、空は茜色に染まった。


「お、あれは」


 森の木々の間から、ボロボロの砦が見えた。城壁は所々崩れていて、人の気配はない。草や蔦の浸食具合から見て、つい最近破棄された砦だろう。

 左腕の怪我を癒すための、一時しのぎの拠点として使わせてもらうか。



 ◆



「これは……」


 砦の正門前の広場まで来て、俺は絶望した。

 そこに倒れていたのは見間違うはずがない──いや、見間違いであってほしい──俺が敬愛してやまない、アギルギー様だったのだ……。

 胸部には大穴が開いていて、カラスが肉をついばんでいる。


「戦闘魔法、不可視の砲……」


 空気を押し固めた不可視の砲団をカラスどもに放ち、一匹残らず爆散させた。

 爆ぜた肉片は勢いよく飛び散り、その後ろの城壁に当たって赤いシミを作った。


「アギルギー様……。アギルギー様……。ああ、どうして……。どうして……!! ああああああああああああああああああ!!」


 その場に膝をつき、空に向かって絶叫した。

 その声を聞いた森のカラスどもが驚き、何処かへ飛び去っていく。


「……アギルギー様の胸部に開いた穴の周囲が炭化している。そしてその背後の城壁にも高熱に晒された跡がある。間違いない、あの緑髪の女が放った火の魔法だ! 絶対に間違いない! 間違いない! 間違いない! 絶対に間違いない! 殺してやるぞ、あの女ぁ……!」

天球世界→舞台となっている世界。

黄泉→天球世界と繋がっている世界。あの世。

地平世界、地獄世界→神話でのみ語られる、行き来できない世界。


ほぼ死ぬ→魂が黄泉に行く→地の底に広がる星空を見る→蘇生に成功する→怪異が見れるようになる

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