16-神の座を奪う
町長は異術師を毛嫌いしていた。
その原因は、教会の神父にあるらしい。
現状では住民たちの病を治すことは不可能だが、師匠にはある考えがあるらしい。
私は師匠に連れられ、丘の上の教会へ。
白亜で塗られた壁に縦長の窓、傾斜のきつい屋根。そこそこ立派な教会だ。
中に入ると、ホールには多くの人が押しかけていた。皆肩から黒煙を上げる単金病の罹患者だった。彼らの目的は教会で作っている痛み止めと睡眠薬のようだ。
薬はシスターが窓口で販売していたけど、そこは阿鼻叫喚の嵐で……。
「薬、もうちょっと安くならないんですか!? 小さいのでも一本で五万ロアって……!」
「息子が病気で死にそうなんです! もう十日もろくに寝れてなくって!」
「こんな事は言いたくないが、教会は俺たちの足元を見てるんじゃないか?」
「薬! 薬ちょうだい! あれが無いと私、だめなの!」
と、薬を求める住民たち。
ちなみに窓口はお金を渡してから、シスターが奥から薬を持ってくる方式だった。そのまま薬を机の上にでも並べてたら、強奪されてただろうな。
「すいません、安くて効果の薄い薬だと、大量に飲まないと効果が出ないんです。それはそれで中毒に……。なので値段は……」
「教会でも薬の在庫がなくって……。皆さん、並んでください、並んでください! 押さないで!」
窓口のシスターも大変そうだ。
住民らのすぐ後ろに立っている師匠は、その病気を治せる薬を持っているというのに。
「あ、在庫がもう……。今日の薬の販売は終了です! 終了でーす!」
ガラガラ、ガシャーン!
格子戸が引かれ、薬の販売が終了した。
薬を買いに来た住民たちは悪態をつきながら帰るのが半分、聖堂に入っていくのが半分。
「聖堂にも行ってみるか」
「入場料とかあります?」
「場所にもよるが、ここは無料みたいだな」
聖堂に入ると八割の席が埋まっていて、参拝者の八割が肩から黒煙を上げていた。
私と師匠は一番後ろの長椅子の隅に座る。
住民たちの黒煙で前が見えない。怪異が見える弊害だ。
少し待つと、白生地に金糸の刺繍が入った法衣を纏った神父が壇上に現れた。
黒煙の隙間から垣間見た感じ、彼の見た目は五十代くらいで、その表情には疲弊の色が見えた。そりゃあ、町がこんな状況じゃあ気も参るか。
「この町は試練の時を迎えている!」「激痛病は神が与えた試練だ! これを乗り切った者には、神の祝福が与えられるだろう!」「今は耐え忍ぶ時だ!」「皆、苦労しているんだ! だから耐えよう!」「教会の薬は忍耐の助けになる!」「そして祈ろう!」「神への祈りが、病気を治す!」「病気に苛まれながらの祈りこそ尊い!」
神父は大仰な身振り手振りを交えて、壇上でそんな感じの演説をしていた。
それっぽいことを話している雰囲気を演出してるけど、真実を知っている私からしたら滑稽な茶番のようにしか見えない。上に立つものがこんなに愚かで無能じゃあ……。
「異術師を蔑んでるのはいい気はしないが、あの神父も自分にできることを必死にやってるのかもな」
「師匠の目にはそう映るんですか。まさか、お人好しフィルターでもかけて世界を見ています?」
今の演説を聞いて、思い出したことがある。
昨日の聞き込みで私は、単金病で家族を亡くしたって男から話を聞いた。彼は最初の内は薬で家族の病気の症状を抑えていたらしいけど、どんどん薬代が払えなくなって……。
また別の男は、病気を治せなかったのはその人の祈りが足りなかったからだとか言ってた。
そんな馬鹿な話があるか。祈りによって神が人々に手を差し伸べることなんてないと思う。
ドリアードは女神アーレを信仰しており、神職に人生を捧げる者もいた。
しかし、神はそんな者たちも含め、ドリアードを見殺しにしたのだ。特に信心深くもない私を残して。
◆
神父の演説を聞いた後、私たちは教会から真っ直ぐ宿に帰った。
その頃には昼になっていて、宿の一階の食堂がまあまあ賑わっていた。
テーブルの間を縫って奥の階段を上り、師匠の取った部屋へ。
ぼふん。
「ちかれましたー」
神父のしょうもない演説を長々と聞かされて、精神的に疲れた。私はベッドに倒れ込み、ばたんきゅー。
「夜まで時間があるな。手頃な薬でも適当に作っておくか」
師匠は床に器具やら素材を広げ、調薬を開始した。
その辺に転がってるような小石を砕いたり、道端に生えてるような草を煎じたり、乾燥した枝をすり鉢で粉にしたり……。
いつも思うけど、師匠の調薬ってままごとみたいなんだよなあ。
薬を作るのって、普通じゃあ手に入らないような薬草を使ったり、分量を精密に測ったりするイメージがあるんだけどなあ。
「ふと思ったんですけれど、怪異の薬って作り方さえわかれば誰だって作れるんじゃないですか? 一般人には見えない怪異を素材にしてるならともかく、その辺に転がってる素材を使って薬を作ってることもありますし」
「いいや、異術師の薬は異術師にしか作れない。例えばこれを見てみろ」
師匠は調薬の手を止め、薬箱から一枚の赤い葉っぱを取り出して私に見せた。
「これは握りつぶすと蜂蜜の香りが漂い、周囲の者の気分を落ち着かせる効果がある。そして、裂傷に効く薬の原料にもなる。しかし、同種の葉が全て同じ効果を持ってる訳じゃない。葉っぱの表面をよく見てみろ。三日月形の跡が薄く入ってるだろ」
私はベッドの上をゴロゴロと転がって淵まで移動し、葉っぱに顔を近づけて表面をよく観察する。
……あ、確かに三日月の形をした跡がある。
「確かにありますね、三日月形の跡」
「これは『サンカイコウ』って怪異でな。赤い葉っぱに三日月形の跡として、稀に現れる。もちろん、一般人には見えない」
「その怪異が宿った葉っぱじゃないと、さっき言ったような効果は現れないと……」
「他にもこういうのはあるぞ。原料を煮込んでいる時、緑色の怪異由来の煙が出たら火を止めないといけなかったり、怪異が宿った石ころを選んで素材にしないといけなかったり」
なるほど。確かにそれなら、一般人に異術師の薬は作れないか。
「調薬って、思ってたより面倒くさそうですね」
「あんたもいつかは、こういう薬を作れるようにならないといけないんだぞ。ちゃんと見て覚えろよ」
見て覚えろねえ。その『いつか』は、何年後になることやら。
◆
そんなこんなで夜になった。
「これでよし」
師匠はドアの前と窓の横に黒い粉をまぶした。
「ルヒナ、朝までドアと窓には近づくなよ?」
「何をしたんですか? それは」
「自分で考えてみろ」
「また修行ですか」
めんどくさー。
「簡易魔法、障壁・五枚」
私は昨日のようにベッドごと障壁の立方体で囲み、眠りに就いた。
「おやすみなさい、師匠」
「ああ、おやすみ。まあ、俺は来るであろう事態に備えて寝たふりだがな」
と、意味深なことを言う師匠。
寝てる間に、何が起こるって言うんだ。
◆
「おい──! ルヒナ──、起きろ!」
んー? 何か騒がしいな。
ぎしぎしっ! がたがた!
「おい、起きろって! この──!」
もう、うるさいなあ……。
「よっこらせっと……」
ベッドから上体を起こし、眠気眼で部屋を見回す。
窓から薄く光が入ってきてる。今は明け方かな? 朝の涼しすぎる空気っていいよね。二度寝しよう……。
「おい、寝るな―!!」
師匠の叫び声で目が覚めた。
床に目を向けると、師匠が黒い服の男とくんずほぐれつしていた。
よく見ると、その男は神父だった。これはどういう状況だろう。とりあえず、師匠に加勢するか。
「簡易魔法、石礫──」
──を発動しようと思ったけど、石礫の魔法は周囲の砂や塵を集めて石を形成する魔法だ。室内じゃ使えない。って言うか、その前に障壁を解かないと魔法が届かない。
私は周囲の障壁を解き、神父に向けて手をかざした。
「簡易魔法、送風」
ビュアオ!
神父の顔面に風の塊をぶつけた。その隙を突いて師匠が彼の腕を捻り上げる。
そして師匠がシーツを使って神父をグルグル巻きにし、さらに私が障壁の立方体で閉じ込めた。
それで神父は観念したようで抵抗しなくなり、障壁の中で大人しく座り込んだ。
「ったく、ドアの横に撒いたあの粉で弱ってるはずなのに……。割とてこずったな……」
あ、あの黒い粉って触れたか近付いたかした人を弱らせる効果があったんだ。
「師匠、これってどういう状況ですか? どうして神父がこんな泥棒みたいな恰好で?」
「……」
神父はバツが悪そうに私たちから目を逸らして、何も無い床を見つめている。
「一昨日の町長宅での一件で、俺が異術師だってのは一部にバレた。そしてその情報が神父に伝わった。『この町に白髪の異術師が居るぞ』ってな。そして昨日、俺が教会に行ったことで神父だかその部下に補足され、宿を特定された。で、明け方になってこの神父が部屋に盗みに入ってきたって訳だ」
「盗みに? 何をですか?」
「俺の持っている薬だよ」
薬……。まさか!
「まさか、単金病の治療薬を? あれ? ですが治療薬を持っているって、どうして神父は知りえたんでしょう」
「知らなかっただろうな。異術師である俺が単金病の治療薬を持ってるって可能性に賭けたんだろう。もしくは、俺を脅して薬を作らせるか。……どうだ、俺の推理、合ってるか?」
師匠は神父に問いかける。
「……ああ、そうだよ。お前の言う通りだ」
お、あっさり認めた。
「それにしても、師匠はよくこうなるって予測できましたね」
「前にも似たようなことがあったからな。怪異による奇病に襲われた町。手に負えない教会。異術師を忌み嫌っている神父。異術師の薬なら解決できるとわかっているが、建前を気にして協力を扇げない。それじゃあ、薬を奪ってしまおう。ってな」
「そんな野蛮な……。神に仕えてる人のすることじゃありませんねー。ひどーい、ひどーい。さいてー」
「『神に仕えてる人のすることじゃない』だとさ、神父」
師匠も煽る煽る。
「くっ……! だが、言い訳はさせてくれ。神の道に背いてでも、民を救いたかったんだ……」
「それなら、素直に俺に協力を求めればよかっただろうに」
「そ、それは……」
お、どうした? 言い返せなかったらこの口論、師匠の勝ちだが?
「すまない……」
神父は座った状態で頭を下げた。意外と素直。
「それじゃあ師匠、この神父をどうしますか? まさか、このまま逃がすなんてことはないでしょう? 罪にならない程度、法の間隙を掻い潜る形でボコボコにしますか?」
「法の間隙を掻い潜る暴力って何だよ……。だが、そうだな……」
師匠は部屋の隅に置いてあった薬箱から、一昨日作った単金病の治療薬を取り出した。
そして神父の前に戻り、それを見せつける。
「この瓶の中に入ってるのが、あんたらが言う激痛病の治療薬だ。俺たちは単金病って呼んでる。コップ一杯の水にこれを二滴垂らして飲めば、たちどころに病気は治る。この町の人口分くらいはあるだろう。これをやるから、病気の者全員に飲ませろ。いや、一般人にはあの黒煙は見えないか……。罹患してても症状が出てない者は見分けられないし……。前言撤回だ。この町の住民、全員に飲ませろ。あんたが声をかければ、皆従うだろ」
「え、許していいんですか? この神父、異術師を中傷して更に盗みまで働こうとしてたんですよ?」
私は正確には異術師ではないとはいえ、異術師を悪く言われるのは気分がよくない。少しは罰らしい罰を受けてもらわないと、気が晴れない。
「この神父をどうこうしたところで、この町の問題は何も解決しないだろ」
「それはそうですけど……」
「で、神父、どうする? やってくれるか?」
「……」
神父は少しの間逡巡し、口を開く。
「……その薬、本物か? 毒ではないよな?」
「ルヒナ、水」
「大丈夫なんですか? 師匠」
言わずとも、師匠が何をするつもりなのかわかった。
「健康な者が飲んでも問題無い。泥みたいな後味がする以外はな」
「簡易魔法、水球」
右の手の平に水球を作ると、師匠はそこに単金病の治療薬を二滴たらした。
そして水球に口をつけ、すすって飲み干した。
「ルヒナ、すまないがもう一回水を……。やっぱ不味いなあ、この薬」
「簡易魔法、水球」
師匠は再度水を飲み干し、手の甲で口を拭った。
「……ふう。これで治療薬が毒じゃないってことはわかっただろ?」
「……毒ではないようだが、本当に病人に効果があるのか確認したい。激痛病の末期症状の患者の一人に飲ませ、治るかどうか見たいんだが……」
「神父さん、自分の立場わかってます? 貴方は私たちに生殺与奪を握られてるんですよ?」
「いや、殺す気はねえって。あと、こいつの言うことにも一理ある。あー、それと……。……ふと気になったんだが、どうしてあんたはそんなに異術師を嫌うんだ? やっぱり利権関係か?」
その問いかけに対し、神父は目を見開いて師匠を見上げ、声を荒げてこう言った。
「お前ら異術師は、女神エレナを蹴落としてその座を奪おうとしてるじゃないか!」
え?
「神の座? え? ちょっと何を言ってるかわからないんですが……。もしかして、師匠って神を目指してるってことですか?」
「そんな訳ねえだろ」
「先代の神父も先々代の神父も言っていた。異術師は教会が管理している治癒魔法や製薬を真似て人々を癒し、信仰を横取りしていると。異術師の治癒など、神が授けてくださった治癒魔法のまがい物だと。そしてエレナ教を没落させ、なんかこう、いろいろして神の座を奪おうとしていると」
いろいろって何よ、いろいろって。
「安心しろ、俺は神の座なんて興味ないから」
「私は美の神です」
「あんたはもう話さなくていいから」
「あと、薬代が払えない女子供には金の代わりに体を要求するとか! ことが済んだら彼女らを解体して、薬の原料にするとか! 男は普通に殺すとか! 私はこの町の神父として、住民たちを理不尽な異術師の魔の手から守らなくてはいけなかったんだ……。悪魔のような異術師とは関わらなくていい、知る必要もない。そんな人々の暮らしを……! 私は……、私は……!」
えー……、言ってること無茶苦茶すぎでしょ……。先代だか先々代の神父がそう教えたんだろうけど、なんとまあ……。
入ってくる情報が偏っていると、ここまで無茶苦茶なことでも信じちゃうのか……。
「とんでもないことを吹き込まれてるな……。安心しろ。俺とあんたは、住民の病気を治したいって目的が一致している。単金病の患者の所に案内してくれ。あと、途中で隙を見て逃げようなんて考えるなよ?」
「……今の力関係上、お前の言うことには従うが、その薬で病人を治すまでは信用しない。あと、患者の所に行く前に教会に戻って服を着替えさせてくれ。この服じゃあ……」
今の神父は上下真っ黒の泥棒みたいな服装だ。流石にそんなのを着て患者の所に行くのはおかしいか。
「わかった、まずは教会に行こう。その前に、そこの床を舐めろ」
え? 床を? 急に? どうして? 今になって神父への怒りが湧いてきた?
「ゆ、床? そこの床をか? 私が? いや、お前、急に何を……」
師匠が示したのは、ドアの近くの床だった。床を舐めさせるにしても、場所の指定とかあるんだ……。
「あんたが侵入してくるであろう、ドアと窓に特殊な粉を撒いておいたんだ。それに服越し、靴の裏越しにでも触れると体に力が入らなくなる。だが、いまいち効果が薄かったみたいだな。あんたを取り押さえるのに苦戦した。あの粉は舐めるのが一番効率よく作用するんだ」
「私が途中で逃げないように、さらに弱体化させておくってことか……。わざわざ床を舐めなくても、あんたの手持ちには……」
「残念ながら、粉は使い切った」
「それじゃあ、床を指でなぞって、付着した粉を……」
「指に触れた時点で吸収され、消滅しちまう。皮膚からの摂取は効率が悪い」
「くっ……、やるしかないか……」
私は神父を閉じ込めていた障壁を解いた。
彼はシーツで腕も脚もグルグル巻きにされていたので芋虫のように這いながら移動し、指定された床を舌で舐めた。
ぺろ……、ぺろ……。
今思ったけど、箒か何かで床の粉を集めて、塵取りで口にってのは無理なのかな?
ぺろ……、ぺろ……。
まあ、これを今言っても時すでに遅しだし、それはそれで床を舐めるのとあんまり変わらないし。あ、でも窓の横にも黒い粉を撒いてなかったっけ? 窓辺の黒い粉なら、床を舐めるよりかはマシだろうけど……。……思い出さなかったことにしておこう。今更だ、今更。
「うおお……。この部屋に入った時も脱力感に襲われたが、今はそれ以上に……」
「神父、立てるか?」
「大丈夫だ、歩けるくらいには……」
「それじゃあ縛ってるシーツを解いてやる。朝になって人が起きてくる前に教会に行くぞ」
私と師匠で神父を挟むようにして歩き、教会へ向かった。
◆
幸い、私たちは誰にも出くわさずに教会まで来れた。
「おっと、教会の表からは入るな。裏に回ってくれ」
神父の指示で私たちは教会の裏手に回り、併設されていた宿舎の裏口から中に入った。
そしてコソコソと階段を上り、神父の部屋へ。
室内は驚くほど物が無く、机やクローゼットはその辺の民家に置かれているような簡素な物だった。しかも寝具は床にシーツと布団を敷いただけ……。これが神父の部屋かと疑ってしまう。
「この部屋、変……。この町の神職のトップの部屋なのに、どうしてこんなに質素なんですか?」
「よく効く薬の原料を買うために、必要な家具は売って安いものに買い替え、代々受け継がれてきた高価な調度品は売り払ったんだ。まあ、それでも薬の料金を下げることはできなかったがな……。さて、着替えるが……」
「着替えるからって目を離すと思うなよ? 窓から逃げないよう、俺たちでちゃんと見張るからな」
えー、男の着替えなんて見たくない……。
「まあ、そう言うと思ったよ。」
神父はごねる様子も見せず、するすると窃盗用の黒い服を脱ぎ去り、下着姿になった。
露わになったのは、予想外の肉体美……。
服の上からではわからなかったけど、彼は相当鍛えており、相当着痩するタイプだった。馬脚のようにしなやかでありながら全体的には丸太のように太い脚、逆三角形の上半身、左右対称に割れた腹筋は彫刻と見間違うほど均整がとれていた。そして胸板は石板のように分厚く、肩から腕にかけては筋肉がはちきれんばかりに……。
「師匠、例の黒い粉、ちゃんと効いてたみたいですよ。弱体化した上であの強さだったみたいですよ」
「ああ……。本当、弱体化させといてよかったよ……」
少しして、神父は昨日見た法衣に着替え終わった。
「よし、患者の所に行こう。まずはアリソンエッカート・フフマンノイレン・カウインリウカー・イウンドバンド・カーネイソン・ジェイタッカーの所だ」
……え? なんて?
「……もう一回言ってくれ。アリ……、何だって? それは個人名か?」
と、指でこめかみを抑えつつ聞き返す師匠。
「アリソンエッカート・フフマンノイレン・カウインリウカー・イウンドバンド・カーネイソン・ジェイタッカーだ。彼は特に末期症状で……」
「よくそんな長い名前、憶えてるな……。まあ、この町の命名文化にとやかく言わないが……。ちなみにあんたは何て名前なんだ?」
「ジョン・スミスだ」
神父の名前、憶えやすっ!
神父の名前は覚えなくても大丈夫です。




