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13-三界神話

今回は世界観掘り下げの閑話です。

読み飛ばしても大丈夫です。

挿絵(By みてみん)


 おっぱい事件からさらに三日が経った。その間、いろいろあった。

 師匠曰く、異術師は人を助けるけど、必要以上の施しはしないらしい。

 しかしロックドリムという魔物との戦闘時、私たちは村の大男に助けてもらった。そのお礼と言って、師匠は火傷や咳止めなどの薬を村に納めた。

 村人はそれに感激し、食料や雑貨などを持てるだけ渡そうとしてきた。

 師匠はそれを断ったけど、私が村人に加勢して押し切った。ただ、「リュックも貰ったから、あんたも少しは荷物を持て」と師匠に言われたのは誤算だった。

 そんなこんなで私たちは廃城の村を後にし、南東へ伸びる街道を進んだ。

 荒れ地を歩き、夕方には次の村に着いたけど、そこは廃村になっていた。

 建物は基礎しか残っておらず、その基礎も砂と風によってほとんど風化している。あと二百年もすれば自然に還りそうな場所だ。


「ここは昔、割と栄えてた村だったんだがなあ……。綺麗な水がこんこんと沸いて、農作が盛んだったんだ」

「それって何年前の話ですか? この風化具合から見て、結構な年月が経ってますよ」


 私たちは村の中で唯一、石の壁が残っていた廃墟で野宿することにした。


「簡易魔法、着火」


 前の村で貰った干し肉を炙るために、指先に小さな火を灯した。簡易魔法、着火の本来の使い方だ。


「師匠も干し肉、食べます? 炙ると香ばしくなりますよ?」

「いや、俺はいい。食欲がないからな」

「そうですか。モグモグ……。ごくん」


 せっかくだから、一緒に食べればいいのに。

 師匠は私に背を向けて座り、薬を飲んだ。おそらくあれは夜の見張りのための暗視の薬だろう。


「簡易魔法、水球」


 しゃこしゃこ。

 くちゅくちゅ、っぺ。


 植物の繊維で作られた歯ブラシで歯を磨き、生成した水で口をゆすいで廃墟の外に吐き捨てた。

 あーあ、寝る前に保水液を顔に塗りたいなあ。師匠にそれっぽい薬を作ってもらおうかな。


「……」


 夜の見張りは師匠の仕事になっている。

 ……師匠って、いつ寝てるんだろう? 野宿の時は寝ずに見張りをしているし、前の村でも夜通しで薬を作っていた。

 それに、私は師匠が何かを食べているところを見たことがない。……まあ、見たことがないだけで合間を見つけて寝たり、私が見てない所で飲み食いしてるんだろうけど。不眠不休、飲まず食わずで生きていけるわけがない。


「簡易魔法、障壁・五枚」


 村で貰った寝袋を敷き、周囲に立方体の障壁を張った。そして寝袋にくるまり、瞼を閉じる。


「それではおやすみなさい、師匠」

「ああ、おやすみ」



 ◆



 翌朝の天気は最悪だった。砂嵐に見舞われ、足止めされてしまったのだ。

 私は大きめの障壁の立方体を張り、師匠と共にその中で砂嵐が過ぎるのを待つ。


 ビュオオオオオオ……。


 二人並んで障壁にもたれかかるように腰を下ろし、吹きすさぶ砂を眺める。砂、多いなあ……。


「酷い砂嵐ですね。景色が全部砂で覆われ、まるで茶色い霧の中にいるみたいです。しかもこんなに薄暗い……。日差しが恋しいですよ……」

「この地方でこの時期に砂嵐とは、珍しいな」

「師匠って、異術師として方々を旅していて、この辺にも来たことがあるんですよね。次に行く村だか町は、どんな所なんですか?」

「このまま街道を進めば農村に行き当たるが、そこが昔のままとは限らない。ここみたいに廃村になってるかもしれないし、大きく発展してるかもしれない。それに、新しい村や町ができてる可能性もある。あんまり当てにするな」

「……」

「……」


 私と師匠は障壁の中で、そんな会話をポツリポツリとしては沈黙になるのを繰り返していた。とは言え、居心地の悪さを感じるような沈黙ではない。


「いい機会だから、ドリアードであるあんたに聞いてみたいことがあるんだ」

「何ですか?」

「ドリアードには、『三界神話』はどんなふうに語り継がれてるんだ?」

「ああ、世界の創造に関する神話ですね。人間族には伝わってないんですか?」

「伝わってはいるが、人間族は戦争やら世界規模での災害やらで何回か情報断裂を経験しててな」

「ドリアードだって似たようなものですよ? 文明が後退するくらいの情報断裂を経験してます」

「だが、長寿なドリアードなら人間族よりかは正確な情報が伝わってるだろ?」


 三界神話かあ……。それを学校で習ったのは何百年前だったっけ。

 私は記憶を掘り起こしながら、世界創造の神話を語る。



 ◆



 最初にあったのは「一粒の種」だった。

 それ以外は完全に「無」で、光も闇も、時間も空間すらも無かった。

 そこで種は願った。「芽吹きたい」と。そこには種以外に何も無く、種が全てであり、その願いは絶対のものだった。

 種が願った瞬間、空間が広がり、時間が流れ、光満ちる空とどこまでも広がる大地ができた。

 種が最初に創ったその世界はどこまでも地平線が広がることから、地平世界と言われている。


 種は地平世界の大地で芽吹いた。

 そしてさんさんと光を浴び、気が向いたら空から水を落としてどんどんと成長し、大樹へと育った。

 しかし、大樹の成長はあるところで頭打ちになってしまった。どんなに光を浴びても、どんなに水を吸ってもほとんど成長できない。

 そこで大樹は神を創造し、知恵を借りることにした。

 大樹は実をつけ、それが大地に落ち、芽吹き、木となって花を咲かせた。

 その花から生まれ落ちたのが最初の二柱の神、男神ソルスと女神アーレだった。

 ソルスは細身の長身、金髪、緑の瞳、そして耳が長かった。一方アーレの髪は緑色で、瞳は黄金色、そして耳は尖っていた。

 大樹は二柱に問うた。「自分がさらに成長するには、どうしたらよいのか」と。

 二柱は話し合い、生態系を作って世界を豊かにすることにした。


 男神ソルスは自然の神となり、新たに四柱の神を創造した。光の神、空の神、大地の神、水の神である。

 光の神は空に満ちていた光を集め、太陽を作った。

 大地の神は山や谷を作り、水の神がそこに雨を降らせて川や湖、海ができた。

 女神アーレは生命の神となり、新たに六柱の神を創造した。植物の神、獣の神、魚の神、蛇の神、虫の神、殻の神である。

 六柱たちはそれぞれ生命を創った。

 その後、空の神と大地の神は協力し、巨大な岩石を空に浮かべて月を作った。月は周期的に太陽を隠し、夜を作った。夜、生き物が休めるようにしたのだ。

 大地を草木が覆い、花が咲き乱れ、水中では魚たちが泳ぎ、森や平原では獣たちが弱肉強食を繰り返した。

 そうして世界に生命が満ち、生態系が生まれ、豊かになった。そのおかげで、大樹はさらに成長できた。


 一仕事終えた神々は特別な生物、「種族」を創ることにした。

 種族とは知性を持ち、言語を操る生物である。

 最初に創られたのは半人半樹、樹人族ドリアードだった。ドリアードはアーレが自身に似せて創った種族だった。

 続いてアーレは兄に似せた種族、長耳長身、森精族エルフを創った。

 その頃、大地の神が種族への贈り物として、地下に鉱物を埋めて隠した。

 そしてそれを掘り当てるのに適した種族、地下小人、鉱山族ドワーフを創った。

 他の神々にはやされ、獣の神が半人半獣、獣人族アニマーを創った。

 しかし、獣の神は種族の創造に乗り気ではなかったらしい。彼は放任主義であり、力は自身で手に入れるものだと考えていたからだ。そのため、最初から力を持った生命を創ることに難色を示していたとか。

 ドリアード、エルフ、ドワーフ、アニマーが地平世界で生れた最初の四種族だ。


 それからはドリアードとエルフが小競り合いをしたり、エルフとドワーフが不仲になったり、アニマー同士が争ったりしたが、それでも平和な期間が続いた。

 そんな平和を打ち壊したのは大樹だった。大樹はさらに成長したいという願いのもと、世界をめちゃくちゃにした。

 日光をより多く浴びるために月を破壊し、太陽を六つに増やした。そして大地が渇くと大雨を降らし、地上は洪水に襲われた。

 最早世界は生命が生きれる環境ではなくなった。多くの生命が滅び、四つの種族も絶滅の危機に瀕した。

 そんな中、大樹はアーレに対し、今の環境に適した新たな生命を創造しろと命じた。

 しかしアーレはそれを拒否したので、同じ命令をソルスに下した。

 ソルスは命令に従ったが、元々生命を生み出すのに慣れていなかったため、創られたのは巨大なナメクジのような見た目で、巨大な口で汚泥を食い、汚泥を排泄するという、醜悪な生き物だった。

 かつては生命が謳歌していた地平世界は、見るも無残な光景となった。


 アーレとソルスが生まれた木は残っていた。

 アーレはそこから力を取り込み、新たな世界を創造して神々と生命と共に移住すると決めた。

 その時、ソルスにも一緒に来るよう迫ったが、彼は大樹を裏切れないと言って地平世界に残った。

 そうしてアーレによって新たな世界が創造された。

 そこは万が一、大樹が侵入してきても世界を覆い尽くさないよう、球状に閉じた大地が夜空に浮かんでいる世界だった。

 月と太陽と星々が追加され、天球世界は完成した。


 天球世界完成後、新たな地で魚の神が半人半魚、魚人族シーマーを、蛇の神が二足蜥蜴、蜥蜴族エルダーゲッコーを創造した。

 新たな世界を創造したことで、アーレを始めとする神々の力は弱っていた。

 そんな中、世界を我が物にしようとする悪しき三柱の神が現れた。

 その神々は大樹が仕向けた刺客とも言われているが、出自は定かではない。

 そうして天球世界は邪神戦争の時代へと突入した。



 ◆



「それで、次男であり初代魔王である魔の神が創造したのが、魔王眷属、魔人族デモニアロードです。そして、その魔人族が創造したのが、魔物族デモニアです。その後、なんやかんやあって長男である絶望の神が天球世界を去り、この世界に似せた地獄世界を創ったらしいです。絶望の神が天球世界を去ったことで邪神の勢力が半減し、戦争は終結しました。まあ、このへんの話は詳しくは伝わってませんね」

「ふむ……。人間族に伝わってる三界神話と大体同じだな。それじゃあ、その直後の時代の話は知ってるか? 人間族では情報が伝わってなくて、空白の時代とされてるんだが」

「ドリアードでも邪神戦争後は空白の時代ですね。当時、何が起きたかは謎です」

「それじゃあ、空白の時代以降は?」

「エルフの人口が増え、この西方大地、北方大地、東方大地に進出しました。エルフの黄金時代と呼ばれています」

「人間族にもそれは伝わってる。エルフの全盛期だな」

「それじゃあ、その後の獣人跋扈の時代については知ってるか?」

「獣人族に初代『王者』が誕生した時代ですよね。創造序列第四位、半人半獣、獣人族アニマー。彼らは南方大陸に棲み、見た目や生態の差異から紛争を繰り返しています。当たり前ですよね、同じ獣人とは言っても元となった動物はバラバラですし、そもそも肉食獣の獣人と草食獣の獣人が仲良くできる訳がありません」

「そうだよなあ、見た目の差異が少ない人間族でさえ、諸国家に分かれて争ってる訳だし」

「そんな獣人族を力でねじ伏せ、ただ一人頂点に立つ存在が王者です。獣人族は数が多いうえに多種多様で、身体能力だけ見れば全種族随一……。そんな獣人族が王者のもと、統一国家としてまとまる訳ですから、その強さと言ったら……。獣人族の侵攻によりエルフの国は分断され、この西方大地、北方大地、東方大地に分かれて暮らすようになりました。西方大地にはただ今人間族と小競り合いの真っ最中の森精族エルフ、そこから派生したのが北方大地に住み、白い肌を持つ雪精族スノーエルフ、東方大地に住み、黒い肌を持つダークエルフ。一般的にエルフと言うと、森精族のことを指しますね」

「それじゃあ、ダークエルフの起源については知ってるか?」

「事の発端はエルフの黄金時代の後期のことです。エルフは魔法を扱う種族ですが、種族全体で魔法の力が衰えてきたのです。それは人口増加と同時に、魔法が不得意な者も増えたからでした。そこでエルフは魔法が不得手なことは罪であり恥とし、一定以上の魔法が使えない者の肌を黒くしました。そして優生学的考えから、肌の色が違うエルフ同士の結婚を禁じたのです」

「改めて聞いても、エグイことするよなあ、エルフ……」

「そしてそんな肌の黒いエルフは東方に寄り集まり、国の分断後にダークエルフという種族として確立しました。彼らは魔法が苦手な者同士の交配によって、今では魔法を使うことができなくなりました。その代わりに身体能力に優れ、東方の武術を納めているとか」

「それも人間族に伝わってる通りだな」

「その後くらいから、人間族が文明を持ち始めたんですよね」

「ああ、そうだな。獣人族の勢いが衰えた後、この西方大地ではドリアード、エルフ、人間族が鼎立する時代に入った。その後は三国でずっと小競り合いをしていたが、何百年前からかドリアードは専守防衛に入り、他国との交流もほとんど絶ったんだったな」


 そんな鼎立の時代も、ベルメグン公国が滅んで私以外のドリアードが居なくなった今では二国の時代かあ。しみじみ……。


 ひゅうぅぅ……。


 師匠と話していたら、いつの間にか砂嵐が止んでいた。

 砂が晴れ、日光が差し込む。


「お、砂嵐が止んできたな。出発の準備をするか。情報の擦り合わせができて、なかなか有意義な時間だった」

「どういたしまして」


 私は障壁を解き、荷物をまとめて出発の準備をした。

 さて、次はどんな村に行くことやら。

創造序列第一位、半人半樹、樹人族ドリアード

創造序列第二位、長耳長身、森精族エルフ

創造序列第三位、地下小人、鉱山族ドワーフ

創造序列第四位、半人半獣、獣人族アニマー

創造序列第五位、半人半魚、魚人族シーマー

創造序列第六位、二足蜥蜴、蜥蜴族エルダーゲッコー

創造序列第七位、魔王眷属、魔人族デモニアロード

番外種族、霊長人類、人間族ヒューマー


創造序列第二位、長耳長身、黒精族ダークエルフ

創造序列第二位、長耳長身、雪精族スノーエルフ


魔人眷属、魔物族デモニアは知性が無いので種族には数えられません。

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