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変わらない町 Apart

 終わりのない緑の草原が、波のように風に揺られていた。

 絶え間なく空から雨が降り注ぎ、大地を濡らしている。

 その中を蒸気機関車が走り抜けていた。


 全車両の座席が半分も埋まっていない状態だった。

 その中でも乗客が一人しかいない車両があった。

 三両目の特別個室に独りの女性がいた。


 二十歳後半でショートの黒髪に真っ白な肌。

 全身黒づくめで、テンガロンハットをかぶり、無地のシャツとベストを着ている。


 ベストの胸元には星型のバッチをしていた。

 首元にはネクタイが締められている。

 側にはトレンチコートが畳まれていた。


 タイトなズボンと、腰にはズボン用のベルトとは別に、銃を保持するホルスターが一体化した本革ベルトをしている。


 ホルスターの中には軍用の自動拳銃が入っていた。

 拳銃には四十五口径の弾丸が七発装填されている。


 薬室には弾丸は入っていないが、スライドを引いて、グリップの安全装置を握れば、いつでも撃てるような状態だった。


 グリップの木製部分には握りやすいように削り込まれており、表面には滑り止め用の布張りされている。

 マガジン挿入部には、滑らかにマグチェンジが出来るようにマグウェルカスタムが施されている。


 その他の荷物は足元には、彼女がすっぽりと入るぐらい大きなトランクがひとつあるだけだ。


 女性は眠るわけでもなく、ただ視線を車窓に向けていた。

 すると窓ガラスに、通路側のドア越しから、こっちを見ている幼い少女の姿をとらえた。


 女性は少女に視線を向けることなく、


「なにかようかい?」


 と言葉をかけた。


 少女は目を見開いて身を伏せたが、まだその場に留まっている。

 女性は優しい表情を少女に向け、扉を開けた。


 まだそこに少女がいた。


 綺麗なグレイスカラーの洋服を着ていて、まるで可愛いビスクドールのようなお嬢ちゃんでした。

 銀色の長髪に青色のカチューシャを着けていた。


「大丈夫、怖くないよ」


「……お姉さん、殺し屋?」


 少女は初めて口を開いた。


「殺し屋じゃないよ」


「それじゃあ……殺人鬼?」


「それも違うね……」


 女性は自分の印象に自信をなくしそうに苦笑い。


「私は《《ブリキ》》。お嬢ちゃんの名前はなんて言うの?」


 ブリキの名乗った女性は、少女に名を尋ねた。


「名前を聞いて、殺したりしない?」


「私、死神か何かに見える?」


「わたしの…名前は、ルェル……」


 ルェルはそう答えた。


「私のことまだ怖い?」


「だって、銃持ってるから……」


 少女は拳銃を指さします。


「ああ……そういうことか。これは守るために持ってるだけだよ」


「守るって、誰を?」


 ブリキは少し考えて、


「……そうだね、誰を守ってたんだろうね」


 と何かお茶を濁す答え方をした。


「ルェル‼」


 突如、男性の怒った声が通路から聞こえてきた。

 程なくして声の主である男性が姿を現した。


 品の良いスーツ姿にメガネを掛けた細身の大人でした。

 有名なブランド腕時計をしていた。


 男性はブリキに会釈し、


「すみません、おくつろぎの所を娘が邪魔してしまい。何か失礼なことを言ってませんでした?」


「大丈夫ですよ。ルェルさんは、そのような事はしておりませんので」


 ブリキは嘘をついた。


 男性の左手薬指を見て、


「家族旅行ですか?」


「ええ、妻と一緒に()()()()()()へ旅行しております」


「グリムヒルズですか?」


「御存知で?」


「ええ、私はそこで友人を探しに向かっています」


 ブリキは少し驚いた反応して、話を続けた。


「昔、行ったことがありますが、戦争で焼け野原になって以来、貧しい村です。略奪も殺人も日常茶飯事で観光には向いていないと思いますが……」


 ルェルの父親は通路を見渡し、


「少し良いですか?」


 と尋ねてきた。


 ブリキは構いませんと返事をした。

 ルェルの父親は向かいの席に座り、小声こごえで話してきた。


「噂で聞いたのですが、グリムヒルズには誰もが金持ちになれる店があるそうなのです」


 自慢話のように男性は嬉しそうでした。


「誰もが金持ちになれるとは、一体どういうことですか?」


「どうやら金銀財宝を安く買える店があるのです」


「それって偽物では?」


「それがどうもホンモノでして。知人の医者が慈善事業で村に行ったところ、御礼に鞄いっぱいのダイヤを貰ったんです。彼はそれで大きな家を建てまして、私もダイヤを手に入れようかと」


 ブリキは半信半疑でした。 


「パパ、ママのところに戻ろうよ」


 つまらなそうにしていたルェルは駄々をこね始めた。


「ああ、わかった。すまない、ミス・・・・・・」


「ブリキ、ブリキだけで大丈夫です」


「ではブリキさん。また、どこかで」


 ルェルの父親は娘と共に会釈すると個室から出ていった。


 独りになったブリキは、また誰も映っていない車窓を眺めた。

 窓には雨粒がひどく打ち付けてくる。


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