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番外編 世那と利津

がっつりBLです!


本編は終わっているので、こちらは「BL読みたい!」と言う人だけお進みください。


以下の部分が含まれます。

・ボーイズラブの要素

・R15程度の性的描写(本編より一歩踏み出ている感あり)

・攻受 (タチネコ)はっきりしています


苦手な方はどうかブラウザバックをお願いいたします。

 この日、珍しく利津の心は躍っていた。

 待ち合わせ場所は旧帝国の隣国主要駅。

 人々が行き交う中、利津は雑踏にまみれることなくぽつんと一人で立っていた。白いコートを着て、マフラーを巻き、銀色の癖っ毛が風に乗って揺れる。何より、人とは異なる色をした翡翠色の瞳は周囲の目を引いた。美しいと思う者もいれば、恐ろしいと化け物を見るような者も。

 当人の利津はそのことを全く気に留めていないようで改札口をじっと見つめている。


「っ……」


 微動だにしなかった利津が僅か動いた。

 改札の向こうから黒い髪の男が現れたのだ。黒髪の男などごまんといるが、利津は犬が主人を見つけた時のようにぴんと跳ねて早足に歩き出した。


 一方、黒髪の男・世那はジャケットのポケットからカードを出して改札を通り、すぐに利津を見つけた。白色のコートをひらひらとはためかせながら、ふわふわの銀髪が追随して揺れている。睨むだけで人を射殺しそうな雰囲気だと言うのに、コートや髪が揺れるせいで何とも愛らしい、と世那は内心で思い僅か表情をほころばせてしまった。

 世那の表情が和らいだことで利津も自然と口元が緩まった。が、すぐに眉間に皺を寄せじとっと世那を睨んだ。


「遅い」

「あ? 一本後の電車に乗っただけだろ」

「何が練習だ。貴様、俺のそばを離れるつもりか」

「何でも一人で出来なきゃ困るだろうが」


 まるで子を叱るような口ぶりに、利津は片手を腰に当て胸を張った。


「世那がする」

「俺はしない」

「しろ」

「しねえ」


 チッと大袈裟に舌打ちをすると利津は辺りを睨むように視線を動かした。右を向いても左を向いてもたくさんの人が行き交っている。世那は利津の様子をじっと見て首を傾げた。


「デートしてみたかったんだろ?」

「あぁ」


 間髪入れず答えた利津に世那は小さく笑った。


「つーか、したことあんのか?」

「あるわけなかろう」

「へぇ、箱にしまわれすぎてたんだな」

「何の話だ?」

「ハハハッ」


 今は自由だが、利津はその昔、公爵だった男だ。幼い頃から大切に……といえば聞こえはいいが、半軟禁のような生活をしていたため外で遊ぶことはなかったのだろう。それを揶揄して「箱入り」だったといったつもりが、純な利津には伝わらなかったようで、世那は笑ってごまかした。

 世那の笑いの意味が分からず、利津は更に眉間を寄せて睨んだ。背丈はさほど変わらないというのに利津の目線はどこか上目遣いで、これまた愛らしいなと世那は鼻の下に手を添え息を吐いた。


「はぁ……可愛すぎんだろ。何なんだよ、お前」

「なっ……」


 機嫌をすっかり悪くしていたはずの利津が目を丸くする。世那はフッと横を向いた。一つ一つの利津の反応がうぶでたまらない。

 世那の気持ちを知らない利津は世那の腕を掴んで自分の方へ引き寄せ、街の方へ足を向けた。自然と世那の身体は傾き、少しだけ足元がもたついたものの利津が腕を掴んでくれたことが嬉しくて大人しくついていった。


 白い雪がふわふわと舞い、ゆっくりと地へ降りていく。季節は冬。電飾に照らされた降雪は一層輝き、街並みを照らす。自然と視線は上がり、世那はほうっと白い息を吐いた。


「綺麗だな」

「今宵は冷える。そういう日は空気が煌めくのだ」


 たわいもない会話をしながら2人は街の中へ入っていった。夜も始まったばかりの時間帯のせいか、人々はそれなりに行き交っている。はぐれぬようしっかり手を繋ぎながらゆったりとした速度で歩いた。

 目的があるわけではない。向かう先は適当なものだった。気になった店があれば片方はそれに付き合った。お互いがお互いのことを慮りながら街を歩く。それは思っていた以上に楽しいものだった。


「あ……」


 利津が小さな声を漏らす。世那は首を傾げ、利津が見ている方角に視線を向けた。

 道の端っこにぽつんと屋台が見える。ほかほかと湯気が高くあがり、店主の顔も確認できないほどもくもくと蒸気が上っている。世那は看板を見て何が売られているか確認すると小さく笑って利津の顔を覗き込んだ。


「食うか?」


 こくりと利津が頷くと世那は利津を引き連れて店先に向かった。

 冷たい風に乗って小麦粉が蒸される甘い香りが2人の方へ流れ込む。世那はもう一度看板を見て店主に話しかけた。湯気の中から歳を重ねた男がひょっこり顔を出し、世那の注文を聞くと蒸し器の中からトングで一つ白いものを取り出して紙の袋に入れた。世那は財布からお金を取り出し店主に差し出す。ありきたりな買い物の導線を利津は目を輝かせて見つめている。それに気づくと世那はくすぐったそうに笑い名がら、差し出された目的のものをもらって利津の手を引いて近くのベンチに座った。


「……」


 利津は訝しげに世那の手にある紙袋を見つめている。世那はニヤリと笑みを浮かべて紙袋の中に手を入れた。出てきたのは真っ白で柔らかな饅頭のようなものだった。


「普通のより大きめだから一個しか買わなかったけど、半分こしよう」

「何なのだ、それは」


 実物を見てもそれが何かわかっていない利津に世那は目をぱちぱちと瞬かせた。


「あ? え……肉まん、だけど。まさか、知らねえ?」

「知っている。馬鹿にするな」

「じゃあ、なんで聞くんだよ」


 意味のわからない問答をしながら世那は手に持っている肉まんを割った。ほかほかの肉まんからはぶわっと湯気が上がる。中の肉からはじわっと汁が溢れた。世那は紙袋で汁を受け取って、汁が垂れていない方を利津の前に差し出した。


「ほら、お前の……」


 利津の手が伸ばされる。だが、利津は差し出されたそれを受け取ることはなかった。肉まんではなく、世那の手を包むように握ると顔を近づけ一口食べたのだ。


「おい……」


 世那の身体が硬直する。


「悪くない味だ」


 利津は咀嚼した肉まんの感想をつらつらと述べながらもう一度口に含んだ。


「……」


 天然か、意図的か。問うのも馬鹿らしいと世那は一つ息を吐いて理性を保ち、自分の分を食べすすめた。利津に肉まんを差し出しながら、自分はもう片方に握るそれをさっさと食べ終えて片手を空けた。変わらず利津は世那の手を包みながらはぐはぐと肉まんを食べている。何度も繰り返されるあざとい行為に世那は息が詰まりそうになった。

 利津はちらりと視線を上げ、戸惑う世那をようやく瞳に映した。僅か赤らんだ世那の顔に利津は、してやったりな笑みを浮かべた。


「なんだ? その気になったか?」


 そう言うと利津は最後の一口を含み飲み込むと見せつけるように舌先を出した。食べ終えたのだから離れればいいものの、なんと利津はほんのり湿気った世那の指先に舌を当てた。


「っ、おい、待てって」


 ここは公共の場で誰が見てるともわからない場所だ。大胆な利津の行動に世那はつい手を引こうと力を込めた。しかし、利津はその手を離さず握っている。


「あーっ、今日はデートすんだろ?」


 駅前で聞いた質問をもう一度問うてみた。しかし、利津は世那を見つめるだけで答えない。触れていただけの舌はやがて世那の指先の輪郭をなぞるように這い始めた。

 ぞわっと世那の背筋に何かが駆け上がる。その行為はまるで夜を思わせるようなもので、世那は座り心地悪そうに身体を震わせた。


「飽きた」


 呆気なく利津は世那の指先から己の舌を離し、素っ頓狂な声でぼやいた。世那の緊張もほどけて、目を丸くしてすぐに怪訝な表情で利津を見やった。


「あ?」

「世那と待ち合わせをして、街を歩ければもう十分だった」

「んだよ、それ……」


 一つや二つ、文句を言ってやろうかと世那は口を開いたものの、利津の変化に気づくと目を細めた。

 利津の瞳が欲に濡れている。その熱い視線に世那は口角を上げ、利津の額に自分の額を当ててまっすぐ見つめた。


「ご主人サマは何がお望みですか?」


 唇が触れそうで触れないところで囁かれた声に、次は利津が肩を震わせた。利津の瞳は右に左に忙しなく動き、やがて窺うように見つめ返してきた。


「世那」


 わかるだろ、と言うような強い眼差しに世那は喉を鳴らした。そして触れるだけの口付けを交わして優しく利津の手を引いた。


「行くぞ」


ーーーー


 二人が向かったのは駅から少し離れた簡素なビジネスホテルだった。チェックインを済ませ、部屋へ向かった。中に入るとふわりと部屋全体が明るくなった。利津は鍵とチェーンをかけ、世那の肩を掴み壁に押しやった。


「いっ……」


 世那は受け身を取ることができず後頭を壁に頭を打ちつけ、間もなく口が閉ざされた。利津の柔らかな唇と鋭い牙が世那の唇を甘噛みしている。

 少しの間、世那は利津がしたいようにさせたものの、息苦しさを感じて世那は顔を横に背けた。


「っ……はぁ、がっつくなよ」

「もういいだろう」


 言い終わるや否や利津は壁に両手をつき、もう一度唇を重ねた。理性の欠片もないまっすぐな利津の行為に世那も絆され、利津のコートに手を入れ身体を抱きしめた。互いの吐息だけが響く部屋で、二人は互いの温もりを確かめ合った。



」」」」」

」」」」」




「……俺は孕めぬぞ」


 ベッドに転がったままの利津が天井を見つめながらぼやいた。


「知ってる」


 当然の如く答える世那に利津はフッと鼻を鳴らし、体を横たえてベッドの端に座る世那を見上げた。

 行為後の利津特有の艶っぽさは一等美しい。汗ばんだ身体、更に強く巻かれた癖毛、上気した頬。何よりも宝石のような翡翠色は常よりも柔らかな光を宿して世那を見つめる。

 世那は一つ息を吐いて利津の横に倒れると指先で銀色の髪を弄んだ。


「でも、好きだろ?」

「何をだ」

「言わせんのか?」


 気だるげだった利津の表情が僅か強張る。暗にその先を言うなと言う反応に世那は笑った。もう言わない、と額にそっと口付けた。銀色の睫毛が震えて瞼を下ろした。


「愛してる、利津。お前だけだ」

「他に言いようはないのか?」

「……愛してる」


 何度も何度も世那はそう告げる。稚拙な告白だと笑われるかもしれない。けれども、利津が不安に思わぬようにと思えばその言葉しかない。

 世那は、甘えるように擦り付いてきた利津の身体を包み込むように強く抱きしめた。



end...


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