おっとり令嬢ですが、婚約破棄なら受けて立ちましょう!
「リリアーナ・エルデン公爵令嬢! そなたは未来の国母に相応しくない。よって婚約を破棄し、このミリアム・シシア伯爵令嬢を、俺の妃に迎えたいと思う!」
学園の卒業パーティーで響き渡った王太子の宣言に、会場は音を失った。
彼の隣には公的な婚約相手リリアーナではなく、ミリアムが寄り添い立っている。
少しの静寂の後。
ざわっ……。
小さな囁きが大きなざわめきへと変わるまで、半瞬。生徒たちの会話は、戸惑いと疑問で構成されていた。
「リリアーナ様が国母に相応しくないだなんて、なぜ……?」
「そうだよ。リリアーナ様と言えば、我が国の筆頭公爵をお父上に、お母上は大国ラスティアから嫁がれた王女殿下。生まれながらにして高貴なお方で、ご自身も品位溢れる素晴らしいお方だぞ?」
「成績も常にトップクラスだし……」
「いじめや嫌がらせをしていた、なんて話も聞かないし、な」
昨今、王国で流行っている物語には、いじめや嫌がらせが理由で突然婚約破棄された令嬢が登場する。
しかし、リリアーナ・エルデンに至っては、そんな負の噂はカケラもない。丁重に育てられた美姫である彼女は、常に憎悪の感情から離れたところに存った。
首を傾げる生徒たちを背に、リリアーナが壇上の王太子を見上げる。
「王国の明星こと王太子ウィクトル殿下にお尋ねいたします。いかなる理由で、わたくしとの婚約を破棄なさるのでしょうか?」
可憐な声は清涼に澄み、心地よい柔らかさで耳に届く。こんな局面でも、リリアーナは落ち着いていた。
「理由か。そなたが"鈍い"からだ」
「?」
「おおらかさはそなたの美徳ではあるがな。度が過ぎていよう。このところ、周囲でおかしなことが起こらなかったか?」
「……さぁ? 思い当たりませんが、具体的にはどのような……」
「筆箱に釘が入れられていたり、ノートに落書きされていたり、そなたの受け持つ花壇の花が荒らされていたりしただろう!」
ウィクトルが示す内容に思い当たったのだろう。
「──ええ、そういえば」
そんなこともありましたかしら、と、のんびり頷くリリアーナに、ウィクトルは苛立つように声を荒げた。
「明らかに異常だろう! であるのに、そなたと来たら、"どこの釘が落ちてきたのかしら"だの、"ノートを間違った人がいるみたい"だの、"迷い犬が花壇に入ったのね"などと──! 偶然でそんなことが続くものか。悪意ある攻撃に気づかなくてどうする。それでは到底、宮廷での権謀術数を躱すことなど出来んぞ!!」
それは、婚約破棄に至るほど責められることだろうか?
というよりも、いつも微笑んでいるリリアーナに降りかかっていた事態に、会場の生徒たちは眉根を寄せる。
事件があったなら、なぜ婚約者が助けない、と言いたげな空気の中、場違いに高い声が割って入る。
「そうですよぉ~。リリアーナ様はお優しすぎてぇ、王太子妃という重責に耐えられないのではと、このミリアムも思うのですぅ」
ウィクトルが「妃にする」と紹介した、伯爵家のミリアムだ。
王太子と公爵令嬢の会話に割って入った非礼な令嬢は、さらに続けた。
「私ならぁ、伯爵家に引き取られるまでは民間で揉まれてましたしぃ。社会の荒波に向いてると思いますのぉ。それで殿下に、婚約者の交代をご相談したのですわぁ」
ミリアムはシシア伯爵が外に作った娘。母親が亡くなり伯爵家に引き取られるまで、平民として暮らしていたことは、学園でも知られている。
良い提案をした、とばかりにニコニコと悪びれないミリアムに周りはドン引いた。
"では婚約破棄の原因は、お前か"と、許されるなら叫んでいただろう。
リリアーナは少し考えた後、ウィクトルに問いかける。
「なぜ、私の周囲で起こったことをご存知なのでしょうか」
「それはもちろん、そなたに付けている"影"からの報告だ」
「わたくしに"影"を?」
「そうだ。王家の一員となる予定だったそなたが悪しき企てをせぬよう、監視するのは当然のこと」
「まあ。警護ではなく、監視、ですか? しかも、何の許可もなく。この件、父である公爵は知っておりますの?」
「いや。言うはずがなかろう」
「つまり殿下は、年頃の乙女であるわたくしに黙って"影"をつけ、わたくしの動向について根掘り葉掘り話を聞いていた、と」
「誤解を招く言い方をするな! 何もそなたに興味があったわけではない。そなたが事態にどう対処するのか知りたかっただけだ」
「さようでございますか」
リリアーナが寂しそうに目を伏せる。長い睫毛が白い頬に影を落とし、憂いを帯びた立ち姿さえ絵のように美しい。
「どう対処するか。……つまり殿下は、わたくしに起こっていたことを全てご存知だった。にもかかわらず、止めることも、気遣うことも、助けることもなく、ただ見ていらした。そういうことですね?」
「っつ、ああ」
リリアーナのため息に、周囲の白い目がウィクトルに向かう。婚約者の危機をただ傍観していた男として。
場の空気を不利と感じたらしいウィクトルが、強引に話を戻した。
「そ、そのくらい自分で処理出来なくてどうする! しかも故意の嫌がらせに気づいてすらいなかったとは! 故にそなたに"王太子妃"は無理だと判断したのだ」
「では、殿下ご自身は"王太子"として相応しいと?」
「な?! 不敬だぞ!」
いつも大人しいリリアーナからの思いがけない一言に、ウィクトルは怯んだ。が、相手はすぐに引き下がった。
「──失礼いたしました。ですが、殿下とご一緒に歩めなくなりましたこと、誠に残念でございます」
リリアーナは片足を引き、見事なカーテシーを見せた。
「婚約破棄のご意向、承りました。後のことは家同士のお話となりましょう。わたくしはこれで失礼いたします。今回の件、父に報告せねばなりませんので」
リリアーナが帰ると聞いて、ウィクトルは無意識に胸を撫でおろす。
自分が彼女に気圧されたことには、気付いてなかった。
公爵令嬢は声を切り替え周りに告げる。
「皆様、せっかくの輝かしい卒業パーティーをおかしな空気にしてしまってごめんなさい。わたくしは退席いたしますので、後は気兼ねなくお楽しみくださいませね」
リリアーナのせいではない。
騒ぎを起こしたのは王太子と伯爵令嬢だ。
貴族子女は正確に把握し、そしてリリアーナの儚げな微笑みに同情した。
リリアーナ自身も今期の卒業生だったのに、パーティーを楽しむどころか最悪な一日になってしまったはず。なのに周りを気遣って、無理して笑って去られるなんて。
「お疲れ様でぇす、リリアーナ様ぁ。どうぞごゆっくりお過ごしくださいねぇ」
彼女の背を追いかけるように響いたミリアムの声は、生徒たちから更に冷淡な視線を集めたが、得意絶頂のウィクトルは気にも留めなかった。
◇
一年後──。
「王太子ラウルス殿下、ならびにリリアーナ妃殿下ご入場──」
王国の式典で朗々とした声が響き渡る。
その会場の片隅で。
「お待ちを、ウィクトル・シシア伯爵」
「何」
「まだご着座になりませんよう」
案内係に制止され、元王太子ウィクトルは不快気に顔を歪めた。
対する相手はウィクトルに目も向けず、視線は上座を注視したまま。
上座の……現王太子夫妻の動向を追い、王族、上位貴族が席に腰かけたことを確認した後、「どうぞお掛けください」と頭を下げた。
「くっ」
第一王子として生まれて十九年。ほんの一年前まで、彼は何者にも止められたことなどなかった。
それがいまはどうだ。
様々な部分で、不自由を強いられる。ぞんざいで軽い扱いを受ける。
卒業パーティーでの婚約破棄は、実に思い通りの流れだった。
満座の中で、リリアーナは反論することもなく身を引いた。
「リリアーナ様はぁ、ずぅっとお嬢様でお育ちですよねぇ? 大切にされるばかりで、挫折のご経験がないと思いますのぉ。でも世の中、偏った経験だけでは生きていけませんわぁ」
"打たれることも知り、幅広い人生を送っていただきたくってぇ……"。
"それもそうだ。考えが深いな、ミリアムは"。
ミリアムの意見を取り入れ、リリアーナに恥をかかせることで、公爵家の箱入りに経験を積ませてやるつもりだった。
婚約破棄は、あの"おっとり令嬢"にとって良い刺激となるだろう。
もちろん破棄は冗談ではなく、自分は経験豊かなミリアムを妻に迎え、王国を発展させていくつもりでいた。
市井に明るいミリアムなら、国をより良く導けるはずだし、何より一緒にいて楽しい。
王太子たる自分が求めていることに即座に気づき、応じてくれる機転。
他の貴族令嬢や、リリアーナには到底期待出来なかった働きを、ミリアムが提供してくれる。自分の妃は彼女しかいない。
それが慎み深さや貞操観念と真逆の行為であったとしても、若い王太子は自分の正しさを信じていた。
が、あっけなく覆されることとなる。
婚約破棄を叩きつけ、してやったりと悦に入っていたら、すぐに父王から呼び出された。そして叱り飛ばされた。
「この愚か者! 自分が何をしたか分かっているのか!」
父王は、かつてないほど激昂していた。
「リリアーナ嬢との結婚は王家にとって絶対だ! よくも勝手に婚約を破ったな!」
「な、なぜですか、父上。リリアーナより適した令嬢は他にも……」
「他などあるか! リリアーナ嬢が最適なのは、彼女が隣国ラスティアの王位継承権上位者だからだ! 現ラスティア国王の子に何かあれば、リリアーナ嬢に王位が巡ってくる可能性も高い。彼女は現王の姪だ。"リリアーナ嬢を故国に寄越せ"と煩いラスティアを押し切って、そなたと結んだ婚約が台無しだ──!!」
「そんなこと、私は一言も聞いておらず──」
「聞かずとも、少し情勢を読めば分かろうが!」
エルデン公爵領は、広大な領地を誇る自治領。元々は国であったが、数代前に臣下として帰属した経緯がある。いまだエルデン家の力は強く、何よりラスティアのすぐ隣。いつラスティアに与してもおかしくない。
娘を王家に取り込んでおけば、おいそれと寝返ることもなく、またエルデン、ラスティア両者に対しての牽制が効く。場合によっては両家を得る機会も──。
もっとも、逆に乗っ取られる危険性も高いのだが、そこは妻子教育次第。何よりリリアーナを押さえておかなければ、彼らは何の憂いもなく均衡を崩してくるだろう。
「王族として取るべき利すら判断出来ぬそなたに、王太子の座は任せられん。何よりリリアーナ嬢を繋ぎとめておく必要がある」
厳しい視線が、ウィクトルを射抜いた。
「ウィクトル第一王子。そなたを王太子から外す。第二王子ラウルスを王太子とし、リリアーナ嬢と婚約を結び直させることとする。これは決定だ」
父王の宣告に、ウィクトルは愕然として膝から崩れ落ちた。
その後必死の嘆願は聞き入れられなかった。"リリアーナを再び迎えるから"と叫んだ際には、"エルデン公爵家からの猛抗議に、王家がどれだけ土地を手放し、金貨を積んだか"と怒鳴られた。
娘を蔑ろにされたエルデン公爵は、ラスティアへの迎合をチラつかせ、反旗を翻す勢いで王家を非難したのだ。公爵がこの先、ウィクトルを上位として認める日は決してない。
結果としてウィクトルは、ミリアムの実家シシア伯爵家へ婿入りすることになった。
遠地で男爵位を与えられる話も出たが、「男爵では会える回数が減る」と王妃が嘆いたため、ミリアムの父を円満に引退させ、代わってウィクトルが新当主の座に就いたのだが──。
(こんな惨めな思いをするくらいなら、宴席に参加資格のない下位貴族のほうがマシだったかも知れん)
過去、見下ろしていた貴族たちから見下げられる屈辱。王族席との距離。元学友たちも卒業パーティーの一件以来、素っ気ない。
失った地位が遠く眩しい。
ウィクトルの視線のはるか先で、弟ラウルスとリリアーナが会話を交わして笑顔をこぼす。
(くそぅ!)
傍らのミリアムを見る。相変わらず胸は大きい。しかしそれだけだ。
元平民出のミリアムは知性に乏しく、学識に富んだ会話は成立しない。
そのうえ、礼儀作法は下の下。
いまも「どうせなら私も、王太子妃のが良かったなぁ」と口を尖らせている。
(ッ! 誰のせいでこんな……!)
ウィクトルは拳を握りしめ、無言で下を向く。
鷹揚にして優雅だったリリアーナと比べ、ミリアムは嫉妬深く、癇癪を起しやすかった。一番にかまわないと拗ねるし、扱いには手を焼く。とても面倒くさい。
(こんなはずではなかった。俺が歩む未来は、こんなはずでは──!!)
"恋"という熱が現実を前に冷めた今、完全に、外れクジだった。
◇
「兄上は…少しおやつれになられたのかな」
隣に座すラウルスの呟きに、リリアーナは視線を動かした。
衣装も本体も、一年前よりかなりグレードの落ちたウィクトルを、会場の端に見つける。
相変わらずミリアムとの距離が近い。
席に在りながら、ミリアムは豊満な胸をこれでもかと押し当てており、ウィクトルは少し身体を反らしてこそいても、注意する様子もない。人目も多い式典で、品格を問われるような有り様だ。
放心中のウィクトルが、されるがままになっていることは、リリアーナからはわからなかった。
「……。ウィクトル様は素直で純粋な方だと思っていたのですが……」
長く連れ添うことを見越し、ウィクトルの"単純"で"考えなし"な部分を長所と受け取めることにしていた過去のリリアーナ。けれど公の場であの態度は、やはりいかがなものかと思う。
そっと嘆息する妻に、ラウルスが顔を寄せた。
「もしや後悔なさっていますか?」
そのままリリアーナを覗き込む。彼の蠱惑的な朝焼け色の瞳が、リリアーナの薄紫の瞳と絡み、黎明の如き色合いを映し出した。
「婚約破棄も……、本当なら貴女には、破棄の撤回を要求出来たでしょう?」
躊躇うようなラウルスの問いかけに、リリアーナはふるふると首を振った。
「ウィクトル様とミリアム様は愛し合っておられましたもの。政略結婚にすぎないわたくしは、身を引いたほうが無難だと判じたまでです。それに──」
リリアーナが華のような笑みを見せる。
「まったく未練はございませんわ。こうしてラウルス様に想っていただけていますもの。わたくしはいま、この上なく幸せです」
きっぱりと言い切ったリリアーナに、ラウルスは優しく目を細めた。
「兄上のおかげで、僕はずっと封印してきた貴女への想いを告げることが出来ました。貴女を傷つけたことは許せないけど、打ち明ける機会をくれたという点では、兄上たちに感謝しています」
リリアーナがフリーになった途端、ラウルスは熱烈に求婚してきた。
国王が介在する余地などない程、迅速な行動だった。
事実、王が婚約者交代を言い出す前に、ラウルスは大きな花束を抱えて公爵邸のポーチに立っていたのだから。
二歳下のラウルスは、幼い頃からリリアーナを崇拝していたらしい。求婚解禁になったので、存分に爆走し、あっという間に結婚にまで持ち込んだ。リリアーナも驚くほどの手際だった。
「そうそう」と、ラウルスが話題を変える。
「貴女が不問にした商家の娘ですが、見事、新薬の独占権を獲得し、販路を開いたそうです。他国に対抗する強力な持ち札が一枚、増えました。この短期間で大したものです」
「わたくしが不問にした、とは?」
「ほら、"筆箱に釘"」
「まあ。その件でしたら、どこかで外れた釘が、偶然、筆箱の中に入っただけですわ」
「そうですね。──そうでした。でなければ、僕は貴女への嫌がらせを命じた人物に、改めて報復しなくてはならなくなる」
含みのある言い回しに、リリアーナは目を瞬かせる。
(どこまでご存じなのかしら)
学生時代の話だ。リリアーナの身に一時期、不可解な出来事が起こった。そのどれもが些細なもので、"実害"と感じたことはないが、それでも連続して事があった。
公爵家のリリアーナに嫌がらせを行うような命知らずは、まずいない。
あるとすればそれは、別の要因が作用している時。
たとえば上位の者に命じられた、借金などをカタに強要された、等、別の要因が。
筆箱から出たのが針ではなく、釘であったこと。
大きな釘など、筆箱を開いただけで気づくに決まっている。そこに本気はない。
あるのはむしろ、救援要請──?
リリアーナは即座に調べた。
釘を仕込んだのは、同級の商家の娘デュラだった。当時、彼女の実家では商団が傾き、学園の授業料どころか大勢の従業員が路頭に迷いそうになっていた。そこで命じられるまま、報酬に釣られて動いてしまったと打ち明けられた。
泣き崩れながら必死に謝罪するデュラから、真犯人の狙いが婚約破棄にあることも聞いた。
(それならば受けて立ちましょう)
リリアーナはデュラを許し、事業援助で彼女を味方につけると、一連の出来事を"なかったこと"にした。
そして相手が焦れ、直接仕掛けてくる時を待った。
けれどまさか真犯人が、「王家の"影"が一連の嫌がらせを見過ごしていた」という事実まで公言して、馬脚を露わすとは思わなかった。
(あまりにお粗末すぎます……)
破棄の理由も、詰め方も、何もかも。
リリアーナは失望した。
長年の婚約者にあったのは、誠意どころか浅はかな卑劣さ。長所でもなんでもない。
婚約破棄で結構。こちらからお断りだ。
卒業パーティーを辞す時、リリアーナの口元から力ない笑みが漏れてしまったのも、仕方のないことだった。
ラウルスが述べた報復相手とは、まさにその真犯人を指している。
自滅の結果、もう報いを受けているような気はするが……。
チラリ、と、伯爵席を見遣る。
おっとりさを武器に、円滑に事を運ぶリリアーナの処世術を、ウィクトルは終ぞ見抜くことはなかった。
関心がない政略なら、そんなものかとも思っていた。でも。
「どうかされましたか? リリアーナ」
「いいえ。ラウルス様がわたくしを見つめてくださること、嬉しく感じていましたの」
「それは、これからも見つめ続けて良いという許可でしょうか?」
「ええ、存分に。どうぞ、どんなわたくしも見逃さないで」
(ラウルス様になら、ぜひいろんなわたくしを見ていただきたいわ)
もっともっと、隠している自分を暴き出して欲しい。ラウルスなら、見つけてくれそうだ。
こんなに心躍る感覚は初めてだった。
「っ、なんて可愛い……っ。ああ、ここが式典の場でなければ、今すぐ貴女を抱きしめるのに……!」
「し、お静かに。皆の目がありますから、我慢なさってくださいね」
年上の余裕を見せてリリアーナが微笑む。
彼となら、日々楽しいに違いない。
リリアーナは改めて、心の中でかつての婚約相手に別れを告げた。
(お互いに、実りある人生を送れると良いですわね)
おっとり令嬢の秘めた顔は、彼女の最愛の夫だけが知るらしい──。
よくある婚約破棄が読みたくてフワッと書いたので、設定ゆるゆるですが、お読みいただきありがとうございました!
最後まで株が落ち続けるウィクトル。いやぁ、ダメだよキミィ、とか思いながら書いてた(^▽^;)
さて、「ミリアム嬢への"ざまぁ"がないよ」と気づかれました方。
ミリアムには、自分の母親を不遇にした伯爵家(父、奥方、異母兄弟)に復讐するため、合法的にシシア家を乗っ取るべく動いていた、という裏設定がありまして。
ウィクトルが男爵にならず伯爵になった経緯の裏にも、彼女の思惑が絡んでいた説!
本作ではそんな気配はまるっとありませんが、彼女の言動が作意あってのこと、と思って読むとまた違ったミリアム像が浮かんでくるのでは。
満座の中での婚約破棄を唆したのは修復不可能にするため。"挫折を知らない"という言葉は、ウィクトルに向けたもの。真の悪役令嬢はミリアムたんでしたー♪(あれ? リリアーナの話は?)
【2024.05.02.追記】澳 加純様(ID793065)からFAいただきました∩(*´∀`*)∩
キーアイテム、釘っ(笑)
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