わたしが救ったあとの世界
どうかわたしの話を聞いてほしい。
わたしの名前はイリス。イリス・シャーベット、八歳。
異世界転生後、最強の魔女と呼ばれるまでになったわたしはどうにか世界を救うことに成功した。だけどぎりぎりの戦いだったため、そこでわたしの人生は幕を閉じた。そして八年前わたしは再びその世界に生まれた。
再びこの世界に生を受けたわたしは、あの日からのことを調べた……というよりは絵本になっていた。絵本を作ったのはまさかのお姫様で、売り出したのは陛下と王妃様だった。と、それについては置いておく。とりあえず絵本のおかげで何となくあのあとのことを知ることができた。
平和が訪れた世界。わたしの帰りを待ち続けていてくれたお姫様たちは、わたしの亡骸を丁重に弔ってくれていた。穏やかな日々を過ごし、わたしを忘れないという強い想いが宿っていた。
無事だったことに安堵しつつ、どうしても自分の目であの国を確認したかったわたしは両親にお願いをして連れてきてもらったのだけど。
「……」
目の前に広がる信じられない光景に口がぽかーんと開いてしまう。
なぜ、なぜこんなことになっているの……。
陛下。王妃様。姫様。そしてみんな。
わたしは……わたしは、こんなことを望んでなどいません。わたしはただ大切なみんなが穏やかに暮らせるようにと、それだけで戦えたのです。
その変わりすぎた国に私は俯き、両親の手をきゅっと握る。
「イリス。どうしたの?」
「怖いのか?」
「怖かったらやめてもいいのよ」
「ううん。だいじょうぶ」
「そうか。それじゃあ行こう」
「うん……」
柔らかに笑う両親に優しく手を引かれ歩き出す。
「……」
国の無事を確認できたことはよかった。賑わいをみせる姿にもほっとしたよ。だけどこれは予想外すぎる。誰がこういう国になると予想しただろうか。
「きゃあああああああっ!」
「い、やあああああっ!」
どこからともなく大勢の叫び声が聞こえ、わたしはそちらへ視線を移す。すると叫び声が聞こえた場所より先に、無機質な石の瞳と目が合う。
「……」
目が合った瞬間にすんっとした表情になってしまう。
なぜ前世のわたしの姿を模した石像と目が合わなければならないのか。しかも台となっているところにはわたしの名前が書かれていて、その隅のほうに造った者の名前が書かれていたのだけど姫様だった。姫様。あのですね、どこで才能を活かしているのですか。もっと別の場所でよかったですよね。それから陛下と王妃様にもそれが言えますからね。わたしの石像を造る時間があったら別のことに使ってほしかったです。あとこの国に住むみんなもね。みんなわたしが好きですか。わたしも好きですよ。本当に。だけど誰がこんなことになると想像しましたか。
この国が、わたしをモチーフにしたテーマパークになっているだなんて。