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不定期練習

不定期練習1:曇りのち晴れ

作者: 綾小路内股

不定期練習その1

お題:三人称 現実 ハッピーエンド




 影に飲み込まれてしまったかのように冷え切った小部屋。一筋の差し込んだ夕日だけが少女の顔を照らす。

とうに渇ききったはずの顔から、その言葉は零れた。


「明日は笑えるかな」


 驚いた様子で言葉の主を探し、見つけると顔を顰めた。それでも少しだけ緊張が解けたようで、影に祈りながら眠りに落ちていった。


 曇天の下、鳴り響く叫声、あたり一面には硝子やコンクリートの破片が散らばり、一人の女性が力無く倒れている。しかし、彼女の目には鮮やかな紅が黒く汚れていく様子だけが映っていた。どれだけ時間が経っても周囲の景色は変わることなく、気づけば、その死体は醜く潰れた下半身を引きずりながら、腕の力だけで彼女の元へ近づいていく。顔に反して大きな目を濁らせながら、怨嗟を孕んだ呻き声を、ただ「ごめんなさい」と謝ることしか出来ない娘へと吐きつける。


 慣れた不快感を目覚まし代わりに、小宮三咲は目を覚ます。地平線を照らす朝日を横目に、彼女はいま寝室にいる理由を考える。


「晩御飯で呼びに来たパパに運ばれたのかな」


 およそ3ヶ月前、運悪く居眠り運転により轢かれた母が死んだことをきっかけに、彼女は家に閉じこもっていた。単に悲嘆から立ち直れなかっただけではなく、外の世界自体がトラウマになっていたのだ。


 彼女はそれ自体には気づいていたが、どうすることも出来ず、死んだようにかつての日々を夢想することしか出来ないでいた。


 久しぶりに長く寝ることが出来て上機嫌な彼女は、まだ微睡みから抜けきっていないからか、ここ数ヶ月では絶対に取らないであろう行動をしてみたくなった。


 長く野暮ったい髪をヘアゴムで一纏めにし、長いこと使われていなかった大人用の花柄のロングスカートと無地のトップスに着替え、カーディガンを羽織って外に出る。


 想定以上に寒かったのだろう、現実に引き戻されかけた彼女だったが、久しぶりの窓越しでない陽光に心を踊らせ、すくみ足を無理矢理持ち上げる。


 気づけば小道に迷い込んでいた彼女は、ブロック塀の上呑気にで欠伸をする、クリクリとした大きな目を持つ小猫と出会った。


 首輪は見当たらないが、かなり人馴れした様子で、ブンブンと尻尾を振り近づいてくる。久方ぶりの父以外の生物との邂逅だったので、興奮気味に首元を撫でた。


 時間を忘れじゃれ合うこと数十分。流石に飽きてきたのか、猫は彼女の影を縫うように歩き出した。まだ遊びたりない彼女は、うまく上がらない口角を歪めながら、体の感覚を置き去るように猫を追いかけた。あまりに異様な行動に猫は驚き、本能のままに足を動かす。


忙しない足音だけが響く静寂に、不意に不愉快な摩擦音が飛び込んでくる。


 彼女は心の臓に触れられたかのように、その場へとへたり込んだ。全身から汗は吹き出し、ただ彼女は自身の浅い吐息と、心を抉るような心臓の音だけを感じている。早朝に似つかわしくない黒影が、後ろから次第に彼女を包み込む。透き通るような黒髪に生気の抜けた白い顔。赤黒く染まったコンクリートに青白く固まった唇。濁った瞳で彼女を見つめる大きな目。


…大きな目?


 次の瞬間、彼女は糸の切れた人形のような体を強引に動かし猫を探した。幸いにも今いる路地を抜けた先にある少し幅の広い小道に、猫はポツンと転がっている。


 もう既に車は去っていったようで、猫は彼女を向き呻き超えを絞り出している。止まらない不快感を押し込め、猫の様子を探る。表面に目立った傷はなく、安心した様子で猫を抱きその場で立ち固まった。


 しかし、すぐに内臓系の怪我への可能性について思考が至った彼女は、混乱がぶり返し、遂には溢れた感情が声となって飛び出した。それでも足は止めずに、ただひたすらに歩き続けた。


「三咲!大丈夫か」


 どれだけ歩いただろうか。唐突に彼女の耳を聞き覚えのある声が包み込む。寝巻き姿のままの父が、息を切らし震える腕で彼女を抱きかかえる。


「何やってたんだ。心配したんだぞ。お前までいなくなったら…」


 その後、彼女は溢れる涙を堰き止め、辿々しくも猫の状況を伝えきり、猫と共に動物病院へと運ばれることとなった。


 一先ずの検査で、どうやら左前足があらぬ方向曲がっているだけで、命に別状はないことがわかった。詳しい症状や、それに対する治療法は後に連絡をするということで、彼女達は家へ帰ることにした。


 家への道すがら、本当に怪我はないか、どうして居場所が分かったの、ときっかけを探すように互いに言葉を零す。けれども生まれるのは空白だけだった。痺れを切らした父は、顔と声を歪ませながら、どうしてこんな時間に外出をしたのか、外へ出られるようになったのか、しまいにはなぜ母の服を着ているのかまで根掘り葉掘り質問した。


 太陽が世界を包み込み暖かな帰り道、父の問いかけに少女の表情は翳る。涙が止まらずふやけた顔からただ夢見心地で母に会えると思ったなんて本当のことは言えず、慣れない笑顔をつくり、曖昧に誤魔化して笑った。

初めての執筆 難しかった


反省点

・1度(数時間)で書く量ではなかった

・起承転結を考えてから始めるべきだった

・短く纏められなかった

・3人称が不慣れ

・後半集中力切れでグダグダ

・ハッピーエンド?


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