再動④
──数日後。
工房百刀は少しではあるが活気を取り戻していた。再生の医療、合成と錬鉄での新しい武器。百鬼夜行に対する備えはいくらあっても足りない。
手伝いにくる神使は幾人かおれど、技量を持ち合わせるのは鉄花ただひとりだけ。彼女が工房内を右往左往して切り盛りするしかない。
「本当にありがとうございました」
資材を運ぶ鉄花に頭を下げる神使の少女。そう、彼女は先日再生によって治療された小鳥の神使である。
腕は既に元の通りになっており、翼もまだ飛べないながらも以前の形を取り戻しつつある。
「おう。もう大丈夫そうだな。しばらくは無理すんなよ」
「はい、鉄花さんには感謝しきれないです。もう二度と飛べないかと」
「病は気からっていうだろ。結合した魂がうまくお前のものになったのは、お前の精神力が強かったからに他ならない。これからも強く生きていけ」
その言葉に小鳥の神使は笑顔を見せる。この笑顔こそが鉄花にとっては最大の報酬なのかもしれない。
「ああ、忘れるところだった」
「なんでしょう」
資材を下した鉄花は懐からかんざしを取り出し、神使に手渡す。
美しい紺色のかんざし。鉄花お手製、丹精込めて作った代物だ。
「友達の魂をそのかんざしに込めておいた。できれば、これをつけてやって欲しい」
「……っ。はいっ!」
神使は髪をまとめるとかんざしを挿して微笑む。
失った命は戻らない。魂の残滓を合成したとはいえ、それはもう友達ではない。単なるエネルギーには自我などないからだ。
だけども大切な人の残り香を少しでもそばに置いておきたいという想いに誰が笑うというのだろうか。
「一緒にがんばろうね」
小さくつぶやいた彼女は深々と頭を下げて、今度こそ工房をあとにした。
「……よいのですか。あれに込めた魂というのは、残滓と呼ぶのにもおこがましいような残り物では」
小鳥の神使が去った途端にひょっこり現れた目有が水を差すようなことを言う。いつもならここで怒り散らすところだが、そんな気分ではなかった。
「いいんだよ。結局のところ、あいつが笑って元気になってくれれば。アタシたちのような道具屋は幸せにする為に物を作っているんだから」
「そういうものですか」
「そういうもんだよ」
すがすがしく笑うと、置いてあった資材を持ち上げ入り口に背を向け歩き始める。まだまだ工房の仕事は山積みなのだ。目有とくだらない話をしている場合ではない。
「そうですかそうですか。ならば例の件はもう諦めたので?」
「……諦めるわけねえだろ」
鉄花は軽快な歩みを止め、その声に怒気が孕んだものとなる。
「アタシは必ず神を殺す。その為にしつこく生きている」
竜の再動。何代にも渡って生き続ける鉄花はまだ死ぬわけにはいかない。