庭園にて -1
――良い天気……。
麗かな昼下がり。
自室の窓辺に置かれた椅子に腰掛け、シェリエンは空をぼうっと眺めていた。
広がるのは、どこまでも飛んでいけそうな鮮やかな青。そこにほんの少し飾りを足すみたいに、綿のような雲が時々ふわりと浮かぶ。
数日前までの荒天が嘘かと思われるほど、突如として春が舞い込んできた。そんな感じだ。
春の訪れを告げる雷は、七晩続いた。
シェリエンがこの世で一、二を争うほど嫌いなもの。それが、この国では何晩も続くという。耐えられるはずがない。およそ絶望を感じたが、なんとか最後までやり過ごすことができた。
きっと、彼のおかげだ――と、シェリエンはここ最近の出来事を思い返す。
ひょいと抱き寄せられて。むかし母がしてくれたように、雷の音が遠ざかるまで毎晩背を撫でてくれた。子どもを呼ぶみたいに、ほら寝るぞ、なんて言って。
この国で経験した初めての春雷から、八日目のこと。その日は朝から晴れていた。
入浴を終え、寝支度を済ませ、たびたび窓の外を窺い、ほっと息をついた。今夜は大丈夫そうだと。
部屋に彼が訪れるのを待って、ベッドに入った。以前までのように、それぞれ少し離れた位置に戻って眠るものと、当然そう思っていたけれど。
当たり前のように、前日と同じく身体を引き寄せられた。驚いて顔を上げると、彼はハッとした表情で手を引っ込めた。昨日までの癖で、無意識だった、悪い。そう言った。
だからと言って、はいそうですかとわざわざ離れてゆくのは、なんだか失礼な気がした。大嫌いな雷の恐怖が無しとは言わないまでも、大分和らいだのは彼のおかげだ。
以前の定位置に戻っていかないシェリエンを、彼は不思議そうに見た。二、三度ゆっくり瞬きをして。
そのあとで、所在なく宙に浮いていた彼の手は、懐から出てゆかない少女の背にそっと戻された。
それ以来、自然と寄り添って眠るようになった。
恋人や夫婦が抱き合うような甘いものではない。どちらかというと親子のような、穏やかで温かな空間。
それがシェリエンには心地よく、いつしか彼の腕の中は安心できる場所になっていた。
――あ、ちょうちょ……。
何を見るでもなくぼんやり外を眺む少女の視界を、白い小さな蝶が横切った。ひらひらと気ままに、その目を楽しませる。
窓から差し込む光はぽかぽかと暖かく、シェリエンはつい、うとうとし始めた。
まだ日が高いのに、お昼ごはん食べ過ぎたかな……。
などと、少女がひとり眠気と戦っていたところ。部屋に控え目なノックの音が響いた。続いて扉が開く。
彼女が振り向いた先には、リオレティウスが立っていた。開いた扉の枠にもたれるようにし、腕を軽く組んでいる。
「……リオ様」
日中に彼が部屋にやってくるのはめずらしい。
どうしたんだろうと思いながら、シェリエンは眠気を吹き飛ばすため、ぱっと瞳を見開いた。




