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あなたの融資通します。  作者: 榎本あおい
3/9

金属切削加工業編 〜機械が止まる〜

やますげ:どうもこんにちは。

〇□銀行のやますげです。


としえ:こんにちは。

やますげさん、お願いしていたこの前の融資どうでした?


やますげ:その件で本日はお伺いしたのですが。

じつは…


としえ:もしかして…駄目だったの?


やますげ:ええ。

信用保証協会から融資の取扱が難しいとの回答をもらいまして。

今回は残念な結果となってしまいました。


としえ:そんな…困ります!

どうしても今回の融資は通してもらわないと!


やますげ:すみません。

信用保証協会から融資が難しいとの回答をもらいましたので。


としえ:どうしましょう?

あなた…


しずお:やますげさん、うちの機械が壊れそうなんですよ!

機械がないとうちは仕事を続けることができないんだ!

機械が止まっちゃうと俺たち生活ができなくなっちゃうよ。


やますげ:そう言われましても。

信用保証協会に相談したところ融資枠がいっぱいということでしたので、融資は難しいですね。


としえ:何か…何か他の方法はないのかしら?


しずお:機械が壊れちゃったら仕事ができないんです。

新しい機会を入れるにしても融資が必要だし。

納期があるから故障で機械を止める訳にはいかないんです!

随分古い機械だから、今でもだましだまし使っていて。

いつ壊れてもおかしくないんだよ。


やますげ:ご事情は分かるのですが、保証協会が駄目というものですから。


としえ:保証協会にはちゃんと融資の相談をしてくれたのですか?


やますげ:ええ。

ちゃんと相談はしました。

その上で、御社の融資枠がいっぱいであることを確認しました。


しずお:やますげさん、融資の件はもうどうにもならないのですか?


やますげ:どうしようもないです。


としえ:困ったわ…どうしましょう。


しずお:くそっ、機械はいつ止まってもおかしくない状況なのに…

機械が止まっちまったら納品できなくなっちまう。


やますげ:では私はこれで失礼します。


しずお:本当に他に何も手立てはないのですか?


やますげ:残念ながらありません。


としえ、しずお:そんな…。



としえ:それでこれからどうするの、あなた?


しずお:どうするって俺に言われてもなぁ。


としえ:保証協会の融資枠が足りないって、やますげさん言ってたけど。

ちゃんと相談してくれたのかしら?


しずお:やますげさんはまだ若いから不安になる気持ちはわかるよ。

感じはいいんだけれど、ちょっと頼りないんだよな。


としえ:もう一度融資を頼んでみる?


しずお:融資の枠がいっぱいで駄目って言っていたじゃないか…


としえ:そうはいっても機械が壊れたら仕事できないじゃない!

どうやって生活していくのよ。


しずお:そうだよなぁ。

他に借りられるところっていったら…

親戚に頭を下げて頼み回るしかないか。


としえ:本当に困ったわね。


としえ、しずお:はぁ。



あおい:あのー、ごめんください。


こういち:はい、どちらさまでしょう?


あおい:私は銀行専門の経理担当をしている榎本あおいと申します。


こういち:はぁ。

その銀行専門の経理担当の方がうちに何かごようですか?


あおい:先程たまたま目の前を通りかかった時に、銀行さんとのやり取りが聞こえてしまいまして。

融資の件で何かお困りではないかなと。


こういち:あぁ。

いや、お恥ずかしい。

実はさっきうちの両親が銀行さんに融資を断られてしまったんですよ。


あおい:私は銀行融資を通すことを仕事にしています。

先程の様子からしてかなりお困りのようでしたので、もし他に当てが無いようであれば私に相談してみませんか?


こういち:初対面の人に相談することではありませんが。

銀行に融資を断られてどうしようもない状況ですので、そう言っていただけると助かります。

こちらにどうぞ。


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こういち:母さん。

ちょっといい?


としえ:こういち、どうしたの?


こういち:さっき銀行の人に融資断れてただろ?

その件で、この人が融資の相談に乗ってくれるみたいだよ。

榎本あおいさん。

銀行専門の経理担当をしているんだって。


あおい:はじめまして。

榎本あおいと申します。

先程、ここの工場の前を通りかかったときに銀行の方との会話が少し聞こえまして。

気になったので余計なお世話かとは思いましたが、こういちさんにお声をかけさせていただいた次第です。

融資を通すことを仕事にしておりますので、何かお力になれることがないかと思いまして。


としえ:融資の相談ですか?

実は今本当に困っていて。

話だけでも聞いてもらいたいです。


しずお:おいおい、他人様に相談することではないだろ。


こういち:親父。

そうは言っても機械が壊れたらどうするのさ?

いつ壊れてもおかしくない状況なんだから。

これは家族みんなの問題だろ。


しずお:…そうだな。

お恥ずかしい限りではありますが、融資の相談に乗ってもらえますでしょうか?


としえ:お願いします。

どうか、私達を助けてください。


あおい:はい、わかりました。

あなたの融資通します。


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あおい:今までのお話を一旦整理させていただきます。

銀行担当の方が信用保証協会に融資の相談をしたところ融資を断られた。

理由は融資枠がいっぱいで、これ以上の融資が難しいとの回答をもらったと。

そういうことでよろしいでしょうか?


としえ:はい。

信用保証協会に融資の相談をした結果、これ以上の融資は駄目だと銀行担当の方に言われました。

でも銀行担当の方、やますげさんは感じの良い方ではあるんですが少し頼りないと感じるところがあります。

まだかなりお若い方ですし、本当にこちら側の意向が正確に伝わっているのか不安に感じてもいます。


あおい:やますげさんはまだお若くて経験の浅い銀行担当者さんということですね。

やますげさんは自身の融資経験についておっしゃっていたことはありますか?


としえ:はい。

営業担当としてうちに挨拶をしに来たときに、入行して2年目で融資の経験はまだ少ないと言っていたのを覚えています。


あおい:なるほど。

経験が浅いから何か見落としていることがあるかもしれませんね。

今回の融資なのですが、やますげさんにはどのように相談しましたか?

融資が必要になった理由とか。


としえ:ええと、まずは融資をして欲しいと言いました。

融資が必要な理由については、機械が壊れそうだから資金が必要だと伝えました。

新しい機械を購入したいからということで融資をお願いしました。


あおい:やますげさんは機械を購入するために必要な融資だと理解していましたか?

具体的にどうゆうことに使う機会なのかとか。

新しい機械の見積書の提出を求められたとか。


としえ:いくら必要かということはしっかり聞いていたので、機械を購入するために必要だって伝わっていると思いますが。


しずお:そういえば機械についてはあまり質問されなかったな。

新しい機械についての見積書についても特に何も聞いてこなかったし。


あおい:今お聞きした部分に違和感を感じますね。

おそらくやますげさんは、融資に必要な金額は理解したんだと思います。

しかし資金の使い道についてはあまり理解していないように見受けられます。

設備資金の場合、何の機械を何のために購入するのかを絶対に確認するんです。

設備資金の場合は裏付けのために対象設備の見積書や注文書を確認します。

つまり、そのプロセスを怠っているということは、設備資金の認識がないということです。


としえ:機械を購入する融資は設備資金というんですね。

でもやますげさんは、信用保証協会に確認してうちの融資の枠がいっぱいだと言っていましたよ。


あおい:先程拝見した決算書の内容では、山口工機製作所さんは信用保証協会を利用した借入額がかなりありました。

前回機械を購入した際の借入金も含まれていますが、ほとんど運転資金です。

御社の売上を鑑みると運転資金は借入過多となっています。

保証協会が運転資金の借入が多いと判定しているとも推測できます。

そのうえで、やますげさんは信用保証協会に運転資金としての融資を打診したために融資を断られてしまったのではないかと考えられます。


としえ:そんな仕組みになっているなんて初めて知りました。

今まで銀行さんの言うとおりにお金を借りていましたし、全部任せていました。

きっと良いようにしてくれるって信じて。

あおいさん、何とかならないでしょうか?


あおい:今回のケースですと信用保証協会が融資枠がいっぱいだと判断したこともあり、運転資金での借入は難しいと思います。

しかし、設備資金として融資を申込みすれば借入はできると考えています。


としえ:設備資金で融資を申し込めば可能性はあるんですか!?


しずお:ん〜、運転資金と設備資金。

いまいちぴんとこないな。

さっきあおいさんが、うちが今使っている融資の中に設備資金と運転資金が混ざっているって言ってたのも初めて知ったよ。

手続きで特別な違いは無いようにおもったけどな。


あおい:融資を申し込むひとにとっては、手続自体はそんなに変わらないので、運転資金と設備資金についての違いはわかりにくいかもしれませんね。

資金の使い途が異なるということだけまずは覚えておいてください。

運転資金は商品の仕入れや人件費など、使い道は広く認められている反面、借入が多くなると融資が通りにくくなります。

反対に、今回のような事業に必須な設備資金は借入が過多の状態でも認められることがあります。

金属切削加工を営む山口工機製作所にとって、機械は必要です。

製造業は機械で製品を製造しますからね。

つまり、事業を行うのに必要な設備資金として申請すれば通ります。


しずお:同じ金額の融資でも通ったり通らなかったりするんですか!?


あおい:はい。

やますげさんは信用保証協会に融資相談をする時に、おそらく運転資金での融資を前提で相談していると思われます。

私の言ったとおりであれば、もう一度信用保証協会に正確な情報を伝えて相談してもらえば大丈夫です。


としえ:あなた、すぐにでもやますげさんに来てもらいましょう。


しずお:おう、そうだな。


あおい:きちんと伝わっているか経緯の共有も含めてやますげさんの上司の方にも来てもらいましょう。

機械が壊れたら仕事ができなくなってしまうので、今回の融資は一刻を争います。


としえ:はい、早速連絡します。


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やますげ:こんにちは。

ご融資の件でお話があるとのことだったのでお伺いしました。


おかもと:はじめまして。

やますげがいつもお世話になっています。

◯□銀行で営業係の責任者をしております、上司のおかもとと申します。


としえ:わざわざ上司の方までお呼びしてすみません。

本日はやますげさんから融資をお断りされた件で、確認したいことがあったのでお越しいただきました。


しずお:本日はお忙しいところお越しいただいてありがとうございます。

山口製作所の代表をしている山口です。


あおい:はじめまして。

経理担当をしている榎本あおいと申します。


やますげ:よろしくお願いします。


心の声:初めて話す人だな。

でも、経理担当なんていたっけ?

それに融資の件で呼ばれたけど、どうにもできないって言ったのにな。

おかもと係長から謝絶してもらって納得してもらおう。


あおい:やますげさん、早速ですが確認したいことがあります。


やますげ:はい、何でしょうか。


あおい:今回相談した山口工機製作所の融資概要を共有していただいてよろしいでしょうか?


やますげ:はい、私が受けた融資相談の内容としましては必要な融資金額は300万円必要ということで伺っています。

その内容で信用保証協会に融資相談を行ったところ、融資枠がいっぱいということでしたので本件をお断りさせていただいた次第です。


あおい:必要金額300万円に対しての信用保証協会の融資枠が埋まっているということですね。

資金使途についてはどのようにご相談されましたか?


やますげ:えっと、運転資金ですよ。

300万円必要だということだったので。


あおい:その必要金額の300万円は全額機械購入に必要な金額なのですが、運転資金で相談されたのですか?

としえさん、やますげさんには機械を購入したいということで融資の相談はされたんですよね?


としえ:はい、やますげさんには今使っている機械が古くなっていつ止まってもおかしくないから新しい機械を購入したいと相談しました。


あおい:それであれば、資金使途は設備資金として融資相談しないと事実と異なってしまうと思うのですがいかがお考えでしょうか?


やますげ:ええと、あの…


心の声:そうだ、やばい!

機械を買うから融資を受けたいって相談されたんだ。

それなのにいつもみたいに運転資金として信用保証協会に融資相談をして、融資枠がいっぱいという回答をもらったんだ。

どうしよう…


あおい:当社の借入状況ですと現状以上の運転資金を新しく借りるのはかなり厳しい状況だという認識はあります。

しかし、新しい機械を購入するという設備資金でなら話は変わってくるのではないでしょうか?

仮に今すぐに機械が壊れてしまい、融資を受けられずに機械が購入できなかった場合がどうなるか想像できるでしょうか?

納期に間に合わなくなり、収入が無くなってしまいます。

その後に何とか機械を購入できたとしても、納期を守れなかった取引先との信用は回復しないでしょう。

そうすると生活もできなくなってしまいます。

やますげさんにとっては数ある中の一つの融資案件かもしれませんが、山口工機製作所にとっては機械が止まるかもしれないということは一大事なんです。

どうか、そこまで相手のことを考えて真摯に取り組んでいただけないでしょうか。

お願いします。


こういち:やますげさん、うちの資金繰り状況はおわかりいただいていると思います。

お恥ずかしながら、私の預金額は700円くらいしかありません。

帳簿上は会社から給料が支払われていますが、全部会社の資金に廻っているのが現状です。

お金をかける趣味もできないので、スマホのハンティングアクションゲームで暇をつぶしています。

まぁでもそれは会社の業況が良くないのが原因ですから仕方ありません。

でも中小企業にとっては仕事の納期、将来の受注、毎日の資金繰りは常に命懸けなのです。

業況不振やトラブルがあると不安で眠れない日々を過ごすことだってあります。

こういう会社もあるということを覚えておいていただけませんか?


としえ、しずお:こういち…


やますげ:はい…すみません。


心の声:そうだ。

仕事も少し慣れて、なぁなぁになっていたのかもしれない。

こんなに迷惑をかけてしまって…

機械が止まってしまう前に融資をなんとかしないと。


おかもと:今までの私どもの間違った対応、大変申し訳ございませんでした。

御社の融資が難しいとの報告をやますげから受けたときにもっと詳しく話を聞いていれば。

やますげは経験も浅く、上司である私がもっとしっかりフォローをしておくべきでした。

本当に申し訳ありません。

この後、信用保証協会に直接向かって再度融資の相談をさせていただきます。


としえ、しずお:やますげさん、どうかこの会社を助けてください!


やますげ:はい、頑張ります!



あおい:こんにちはー。

調子の方はどうですか?


としえ:あら、あおいさんこんにちは。

あおいさんのおかげで無事に機械の設置が完了して、稼働しているわ。


あおい:それはよかったです。


しずお:あおいさん、いらっしゃい。

まぁ中古の機械だから新しくはないんだけどな(笑)。

いや〜、それにしても機械の設置に間に合わなかったらと考えるとぞっとするよ。

実は、設置の前日に古い機械のが故障して止まっちゃって。


としえ:ほーんとに間に合って良かったわよね。


こういち:あおいさんのお陰です。

ありがとうございます。

それに、あおいさんの言葉がとても嬉しかったですよ。

自分自身のことのように熱く銀行さんに説明してくれて。


としえ:私も嬉しかったわ。

融資を通してくれたこともあの言葉も。


あおい:いえいえ、お恥ずかしい限りです。


しずお:私たちの仕事って、そんな大したお金にはならないんですよ。

なので、毎日地道に頑張るしかありません。

検収作業は100分の1ミリという誤差は認められません。

1000分の1ミリという世界での仕事をしています。

毎月納期に追われてギリギリ間に合わせている感じですし。


あおい:ええ。大変ですねって言葉では片づけられないですよ。


しずお:そうやって理解してもらえるだけで安心するんですけどね。

そうそう、あの一件からやますげさんがどうやら一皮剥けたようですよ。

以前よりもかなり頼れる存在になりました。


あおい:そうですか、それは良かった。

ほっとしましたよ。


しずお:あの後すぐに信用保証協会で交渉してくれて、すぐに融資の手続きをしてくれたんですよ。

あおいさんのアドバイスのおかげです。

本当にありがとうございました。


あおい:良かったですね。


あなたの融資通しました。

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