居酒屋開業編 〜はるおの夢〜
初投稿です。
稚拙な部分あるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。
はるお:あのー、お金を借りたいんですけど。
銀行ってATM以外の用事で来たことなくて。
融資ってやつですかね…
やまだ:いらっしゃいませ。
融資のご相談ですね。
具体的にはどういった内容かお伺いしてもよろしいでしょうか?
はるお:はい、居酒屋を始めようと思っていまして。
やまだ:居酒屋ですか。
どうして居酒屋を始めようと思ったのかを教えていただいてもよろしいでしょうか?
また、他の居酒屋と差別化できるような特徴等はありますでしょうか?
心の声:居酒屋の創業融資かぁ。
計画書の作成が面倒なんだよな。
融資審査に必要な計算はパッケージ化されているんだけど、一つずつ精査する作業に時間がかかるし。
それに最初からきちんと作ってくる人は少ないから制度を高める作業にも手間暇がかかるしな。
他の業務もあるから、あんまり時間もかけてられないしなー。
はるお:えーっと。
長いこと居酒屋で店長をやっていまして。
自分の店を持つのが夢だったんです。
このまま夢で終わってしまうかと諦めていたんですけど、妻が「後悔しないようにやりたいことはやったほうが良いよ」と背中を押してくれて。
やまだ:そうですか。
理由についてはわかりました。
あとは居酒屋の特徴は考えていますか?
はるお:あっ、そうですね。
「ブランドの鳥」を扱おうと思っています。
居酒屋での店長時代に仲良くしてくれた業者さんが「はるおさんにだったら直接ブランド鳥卸してもいいよ」って言ってくれて。
普通の居酒屋では味わえないような特別なブランド鳥なんですよ!
こんなチャンスはないなと自分で店を始めようと思って。
やまだ:熱意と特徴は伝わりました。
自分のお店を持ちたいということは当然、創業計画書のご準備はされているんですよね?
早速拝見してもよろしいですか。
心の声:飲食業経験している人って自分のお店持ちたがるよなぁ。
ブランドの鳥は美味しそうで魅力的だけど。
あとは創業計画書の収支計画がきちんとしているかどうかが肝心な部分だな。
はるお:創業計画書ですか?
融資を受けるのが初めてなもんで。
必要な手続きとか書類については正直全くわからないんです。
だから、あの…銀行さんの方でなんとかしてくれるかなと思って。
やまだ:はるおさん、銀行は確かに融資をするのが仕事です。
でもですね、融資を受けるためにはきちんとした計画書が必要なんですよ。
事業を始めるのははるおさんご自身ですよね。
銀行が事業を始めるわけじゃないんですから、こちらでは創業計画書は作れないんです。
作成ははるおさんご自身でお願いします。
それで、月々の売上はどのくらいを見込んでいるんですか?
はるお:…このくらいを見込んでいます。
やまだ:なるほど、この売上の根拠はありますか?
はるお:根拠は無いんですけど、長年の経験でこのくらいはいけるかなと。
やまだ:はるおさん、さっきも言いましたよね。
融資を受けるためにはきちんとした計画が必要なんですって。
長年の経験(笑)ではなく数字で提示してもらはないと困ります。
このままでは今回の融資の件、残念ですがお受けすることは難しいです。
はるお:融資、だめですか。
どこを修正したら良いですか?
やまだ:だめもなにも最低限の書類を整えてから、もう一度ご自身で確認してからご連絡ください。
心の声:しっかりした事業計画書ができていれば融資できたかもしれないけど、現状だと書類が整っていないから難しいな。
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はるおが名残惜しそうに空き店舗を眺めている。
はるおが眺めている空き店舗には、少し前までは居酒屋が入店していた。
はるおの自宅から近く理想的な作りの店舗だったため、一目で気に入った。
はるお:こんなに理想的な店舗は、中々出会うことができないのに。
もう少し学生の頃に色々な勉強をしておけば良かったのか。
高校を卒業して、建設現場で働いて。
仕事終わりの「一杯」が楽しみになり、気が付いたら飲食業に身を置いていた。
そしてようやく、自分の店を持つという夢を持ったのに。
俺の夢は実現しないのか。
俺に学がないからなのか。
銀行は創業を後押しするとか、言っているのに。
…全然助けてくれないじゃないか。
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はるか:あなた、融資はどうだったの?
銀行の人にちゃんと話は聞いてもらえた?
はるお:…融資はだめだった。
はるか:そっか、何がだめだったの?
はるお:きちんとした書類を作ってから出直してほしいってさ。
事業計画書ってやつを作らないといけないみたいなんだけど、何をどうしたら良いかさっぱりわからなくて。
書類を作るのに銀行が協力してくれるもんだと思っていたけど、違うみたいだな。
はるか:困ったわね。
これからどうするの?今の職場には、辞めるって伝えたんでしょ?
はるお:あぁ、だから困ってるんだよ。
あおい:あの、失礼かとは思いますがお話が聞こえてきまして。
融資が受けられなくてお困りのようですね。
何かお力になれることがあるかもしれません。
よろしければ詳しくお話をお伺いしてもよろしいですか?
はるお:それは大変ありがたいのですが。
あの、どちらさまですか?
あおい:これは失礼しました。
私は銀行専門の経理担当をしております、「榎本あおい」と申します。
事業の知識は十分あるのに金融知識が不足しているという理由で融資を断念する人のお手伝いをしています。
はるお:銀行専門の経理担当?
コンサルタントみたいなものですか。
あおい:コンサルタントではありませんが、銀行融資を専門とする経理担当を名乗っています。
融資のことを私に任せてみませんか?
はるお:あおいさん。
あおい:はい。
はるお:私が初めて抱いた夢が自分のお店を持つことでした。
銀行の融資を受けなければ、資金が足りずに自分のお店を開店することはできません。
あおいさんに協力してもらえればその夢を叶えることはできるでしょうか?
あおい:はるおさんの場合は創業融資ですね。
融資というのはパッケージ商品みたいにやることがある程度決まっているんですよ。
ルールに則って一つずつ問題を解決していけば大丈夫です。
はるお:自分の店を持ちたいです。
ご協力してもらえますか?
あおい:もちろんです。
あなたの融資通します。
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あおい:さて、はるおさん。
銀行でのやりとりを改めて教えてください。
はるお:創業計画書というものが必要とのことで、無いと答えたら売上の根拠について質問されました。
あおい:なるほど、売上の根拠についてはどのように答えましたか?
はるお:経験ではこのくらいにはなるだろうと。
あおい:そこが銀行が構えてしまうポイントですね。
はるおさんのその答えの後に銀行側から色々と言われませんでしたか?
はるお:はい。
経験ではなく数字を示して欲しいと。
そして、このままでは融資は難しいと言われました。
あおいさん、経験を基に計画を立てていくことはいけないのでしょうか?
あおい:経験で売上を出すことが悪い訳ではありません。
当然経験が無いよりもあったほうが有利ではあるります。
しかし、銀行員ははるおさんの経験を全て知っているわけでもないし業界に携わっているわけでもないので、口で言われたとしてもわからないんですよ。
それよりも誰が見ても同じ結果となる数字で示されたほうがわかるということなんです。
銀行担当者は、はるおさんとの会話の中で電卓を使ってなにかの計算をしていませんでしたか?
はるお:なるほど、そういうことなんですね。
そういえば会話の途中で何度も電卓を使っていました。
売上について説明した後に特に電卓を使っていたような気がします。
何を計算しているのかはわかりませんでしたが。
あおい:はるおさん、銀行員は計算が大好きなんです。
間違いなく銀行の方程式に沿って計算をしていたんですよ。
逆に言えば、銀行の方程式に当てはめて計画書を作っていくということが銀行が言うきちんとした計画書というものなんです。
はるお:銀行の方程式!?
あおい:そうです。
銀行員の方程式といってもそういう名前の式があるというわけではありませんが。
銀行員は計算式が正しいかを確認します。
たとえば、はるおさんに売上の根拠と言ったのは売上の根拠となる計算式はあるのか?
といったようなことです。
はるお:あー。
だから何度も売上のところで計算していたのか。
あおい:飲食店の計算式が彼らにはあって、その計算式に当てはめたいのです。
はるお:そんな銀行の計算式なんて知らなかった。
どうして教えてくれなかったんだろう。
あおい:はるおさん、答えは簡単です。
ズバリ、「銀行員の常識は世間の非常識」なのです。
銀行員は自分たちの世界が常識と考えていますが、私は非常識だと考えています。
そのせいでどれだけの人達が苦しい思いをしているか…。
はるおさん、さっそく銀行員の求める計算式で売上を算出してみましょう!
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あおい:いくつかのポイントがあるので一つづつ確認していきましょう。
はじめに、お客さまの平均単価はいくらを想定していますか?
はるお:お酒3杯とつまみ5品として税込み4,000円を考えています。
あおい:お店の座席数は何席ですか?
はるお:4人掛けのテーブルが3つ、カウンター6席の合計18席です。
あおい:営業時間は何時から何時迄ですか?
はるお:17時開店の24時閉店の7時間です。
あおい:1日の来店客数は何人くらいをくらい来店を想定していますか?
曜日毎の違いなんかもあれば併せて教えて下さい。
あっ、これは経験則で大丈夫です。
一日何人来店するなんて誰にもわからないですよね。
こういうときには経験が大きく役に立つんですよ。
なんでその来店人数だと思ったのかと聞かれたときにも相手を説得しやすいですしね。
なんといっても誰にも答えがわからないんですから。
ですから経験で大まかにでも予想できるということは凄いことなんですよ。
はるお:経験でも良いと聞いて安心しました。
えっと、金曜日と土曜日は満席になると思いますが、その他は半分くらいでしょうか。
月曜日が定休日で、祝日は営業をする予定です。
あおい:はるおさん、ありがとうございました。
これで銀行員の求める計算式をつくることができます。
はるお:今ので、ですか!?
あおい:えぇ。
飲食店の売上はこのように算出します。
売上=平均単価×座席数×回転率×営業日数
次に答えてもらった数字を計算式に当てはめていきましょう。
平均単価4,000円×座席数18席×回転率0.8回転×25日=売上1,440,000円
正確には金曜日と土曜日の売上とその他の日で分けて算出すべきではありますが、ここでは平均0.8回転としました。
はるお:なるほど、こうやって計算しているのですか。
だったらこの計算式を教えてくれれば良いのに。
あおい:はるおさん、これは銀行員にとっては常識ですから教えてくれませんよ。
そして銀行員の常識は世間の非常識です。
さて、次は売上原価を算出しましょう。
考えているメニューを教えてくれますか?
はるお:ブランド鳥を利用した鳥料理をメインに、定番の居酒屋メニューにする予定です。
あおい:お酒の品揃えはどのように考えていますか?
はるお:こだわりの日本酒と焼酎を売りに、ビール、ハイボール、レモンサワーも出します。
あおい:ブランド鳥とこだわりのお酒となると原価率は少し高めでしょうか。
原価率を35%としましょう。
売上原価は売上1,440,000円×原価率35%=504,000円
売上原価を計算式にあてはまめてみて、はるおさんがイメージしていた数字と大きく乖離していますか?
はるお:実際にこの数字になるかはわかりませんが、あおいさんが計算してくれた数字は私が想像していたイメージ通りです。
あおい:経験で計算してもなんとなく近い数字になるとは思います。
経験と計算、両方で確認すれば成功確率はぐっと上がりますよ。
このように銀行員の求める方程式を解けばきちんとした計画書が完成しますよ。
はるお:おぉ、なんか自信が沸いてきました。
あおい:はるおさんの経験があれば十分達成可能な数字ですし、現実的な計画だと思います。
はるお:あおいさん、ありがとうございます!これなら俺でも説明ができる。
あおい:電卓があれば簡単にできる計算です。
小学校で習う算数で十分対応できますよ。
はるお:だから銀行員は電卓で何度も計算していたのか。
あおい:そうです。もう一つ、銀行員は計算式の間違いを探しています。
もうこれで大丈夫です。
自信を持ってください。
今までの経験と電卓があれば大丈夫です!
はるお:ありがとうございます。
あおい:創業計画書はチェックする箇所が沢山ありますので、他も確認しましょう。
はるお:お願いします。
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はるお:やまださん、先日の融資の件で創業計画書を作ってきました。
もう一度融資の相談をさせて下さい。
やまだ:創業計画書を作成されたのですね。
ところでお連れの方はどなたでしょうか?
はるお:創業計画書をつくるのに協力してくれた榎本さんです。
経理担当として同席してもらいました。
あおい:榎本です。
よろしくお願いします。
やまだ:わかりました。
早速ですが、創業計画書を確認させていただきます。
心の声:前回の感じからいってもそこまで正確な事業計画書ではないだろうな。
一緒に来ている人はコンサル的なポジションの人なんだろうか。
さて、事業計画書はどれくらいの精度かなっと。
はるお:前回は売上の根拠が不明確であったため、明確にしてきました。
やまだ:えっ?
はるお:売上は、平均単価×座席数×回転率×営業日数で算出しました。
メニュー構成を考えて無理のない税込み4,000円を平均単価としました。
金曜日と土曜日は1回転できるとして、その他の日を考慮し0.8回転での想定。
月曜日を定休日とする予定なので、営業日数を25日と設定しました。
よって、平均単価×座席数×回転率×営業日数の1,440,000円を売上に設定。
ブランド鳥や珍しい日本酒と焼酎を扱うことから原価率を35%に想定し、
売上原価は1,440,000×35%の504,000円としました。
実際はもう少し利益がでると思われますが、計画は厳しめに算出しました。
やまださん、どうでしょうか?
やまだ:えっと・・・。
心の声:根拠がしっかりとした計画書が作れている。
前回数字の話をしたときは全然理解している素振りはなかったのに。
やまだ:きちんとした計画書ですね。
前回ご来店頂いたときとは別人のようでびっくりしています。
お知り合いの税理士の先生等に作成を依頼したのですか?
はるお:榎本さんにアドバイスをもらって一緒に計画書を作ってもらったんです。
やまだ:そうなんですね。
心の声:なるほど、経理担当って言っていたっけ。
ここまできちんとした書類を作れるんだ。
あおい:計画書以外のその他の書類も整っていますし、不備は無いとは思いますが。
やまださん、融資は通りますでしょうか?
やまだ:現時点で融資の約束をするというのはコンプライアンス上難しいですが、社内で書類を確認し、ご連絡いたします。
あおい:銀行側の求める根拠をきちんと算出してあるので融資は問題ないですよね?
やまだ:ええ。
個人的には特に問題ないと思っています。
売上の根拠、計算共に現状問題はありません。
それらをこれからしっかりと確認しますので、改めてご連絡差し上げます。
あおい:前回、はるおさんになぜもう少し丁寧に説明してあげなかったのですか?
事業計画書の書き方さえご指導いただければ特に問題のない融資だと思いますが。
やまだ:それは…
あおい:融資を受ける人がみんな係数や書類に精通しているわけではありません。
むしろわからないという人達が大半でしょう。
しかし、やり方さえわかれば融資を受けられる人達はたくさんいるのもまた事実。
どうかお客様に寄り添った対応を心がけていただけませんか?
やまだ:申し訳ありませんでした。
心の声:その通りだ。
いつの間にか慣れで仕事をするようにしまっていた。
お金プロである私がそれではだめだ。
新人だった頃のように、もっとお客様に寄り添った仕事を心がけよう。
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程なくしてはるおの希望通り融資が通り、はるおの夢であった居酒屋が本日オープンする。
あおいは開店祝いのお花を持ってはるおの店を訪れた。
あおい:はるおさん、念願の自分のお店を持ててよかったですね。
おめでとうございます。
はるお:いらっしゃいませ!
あおいさん、待ってましたよ。
あおい:はるおさん、改めてお店の開店おめでとうございます。
はるお:本当にありがとうございました。
あおいさんのおかげです。
あおい:私はお手伝いをしただけです。
融資が通ってお店を開くことができたのははるおさんの努力の賜物です。
はるお:まだまだこれからってところですけど、自分のお店ってやっぱり嬉しいですね。
あおい:えぇ、はるおさんがとても嬉しそうなのが顔に出ていますよ。
融資を通じてこうしてだれかのの幸せな瞬間に出会えるのがとても嬉しいんです。
はるお:それは銀行員からも聞きたい言葉ですね。
あおい:融資は幸せのお手伝いをすることだと思います。
はるお:そういう表現の仕方もあるんですね。
融資を受けて自分のお店を出すことができて、私は今幸せですからね。
はるか:私はちゃんと返済できるか心配ですけどね。
はるお:大丈夫だって。
あおい:ええ、無理のない計画でしたから私も大丈夫だと思いますよ。
それよりも体調には気を付けて、無理をしないでくださいね。
はるお:はいっ。
ところであおいさん、何飲みますか?
あおい:では、とりあえず「生ビール」を一つ。
はるお:はるか、あおいさんに「生ビール」いっちょ。
はるか:はあーい。
はるお:あと、あおいさんの特別メニュー。
「いぶりがっこのクリームチーズ」
あおい:融資を通したお礼に、私が考案した料理をメニューに加える約束覚えていてくれていたのですね。
はるお:当たり前ですよ。
いぶりがっこをクリームチーズで挟んで、黒コショウを少々。
あおい:ビールに合うんですよねー!
はるお:沢山飲んで下さいね。
平均単価を上げなければいけませんから。
あおい:私には平均単価下げてもらって良いのに。(笑)
はるお:これもあおいさんの教えですよ。
あおい:もう心配はいらないようですね。
あなたの融資通しました。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございます。
感想などございましたらいただけるとものすごく励みになります。