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揉事

 リリーと別邸で過ごすようになって1週間ほど過ぎたある日、朝食が済んだ後のレグルスが、ルナティア達に告げた。


「急だが…今日、ジーク()()が来ることになったんだが…リリー嬢も同席して欲しい。もちろんルナティアも、だ。」

「たち、と言いますと…、他にはどなたがいらっしゃるの?」

 ルナティアが聞くと、

「オリガルとカートリスだ。リリー嬢にはカートリスの魅了の解除をお願いしたい。」

と、レグルスが淡々と答える。


「任せて!」

 元気に答えるリリーの向かい側で心配そうにルナティアが呟く。

「…魅了、されているの?」

「…念のため、だ。」

 レグルスの言葉にほっと胸を撫でおろす。

「10時に来る予定だから、それまでに応接間に来ていてくれ。」

 そう言うと立ち上がり、レグルスは部屋へ戻って行った。


「10時…ルナティアさん、どうしましょうか。」

 レグルスを見送りながら頬杖をついてリリーが話しかける。

「私はこれから鍛錬してきます。確実に2時間確保できるうちに…。クレシャ様もご一緒します?体力づくりだけでも。」

「え…えっと…遠慮しておくわ。」

「そうですか…。でも、体力つくりはしておいた方が良いですよ?では…。」

 にこりと笑ってルナティアも席を立ち自室へ向かった。その後をライラがついて行く。


「グレシャ様はどうされますか?」

 ひとり残ったリリーにソルが声をかけた。

「うーん…折角だし魔法の練習しておこうかな。ずっと何もしていなかったし…ねぇ、魔法の練習が出来るところなんてある?」

「ええ、ございますよ。ご案内いたします。」

 リリーはソルの案内で、魔法練習用の部屋へ向かって行った。



「さ、これで身体は十分に温まったし…ライラ、相手をしてくれる?」

 食後に柔軟体操を行い、走り込みも終えたルナティアがライラに向かって体勢を整える。

「勿論でございます。…体術で宜しかったですか?」

「ええ、時間もあまりないし、基本の身体づくりに一番いいもの。…じゃあ、いいわよ、来てっ!」


 ルナティアの声を合図に、ライラがルナティアに向かって飛びかかり、激しい攻防が始まった。お互いに攻撃防御を繰り返しては、一定の間を取り、また激しい攻防を行う。お互いに一歩も引かない攻撃が数分間続いた。

 甲乙つけがたい攻防の中、ライラの攻撃を避けるため、ルナティアは空中に高く飛び上がった。攻撃が空を切ったライラが体勢を立て直しているところに、頭上から蹴りを入れる。ギリギリのところで蹴りを両手で受け止めたライラが、着地をしたばかりのルナティアの足を払うと、払われたルナティアは体勢を崩しつつも、片手を地面につき、低い体勢からライラに向かって突進してきた。正面からの攻撃に防御をしようとしたライラの目の前でルナティアの姿が消えた。

「え…。」

 一瞬、視界から消えた主を探して反応が遅れた。

「こっち。」

 いつの間に背後にまわったのか分からなかったが、ルナティアがライラの首を羽交い絞めにして勝負は終わった。


「はぁ、はぁ…いつの間に身体強化の魔法をかけたのですか?」

 ライラが聞くと、

「飛んだ時。蹴りは保険ね。」

 嬉しそうにルナティアが答える。

「…魔法をあわせたらルナティア様には勝てませんね。」

「じゃないとライラには勝てないもの。悪いとは思うけど…。」

「悪くなんてありません。実戦で考えるなら、体術と魔法を組み合わせるのは当たり前です。むしろ、実践を見越して鍛錬をしていただいて喜ばしいことです。流石はルナティア様です。」

 自慢気に語る侍女を見て笑っていると、時間に気づいたライラが言った。

「あ、そろそろ準備なさいませんと。汗もかきましたしね。ランに湯船の準備を頼んでありますから、お部屋に参りましょう。お着替えもお持ちします。」

「ありがとう、ライラも汗を流してね。」


 部屋に戻るとライラの言ったとおり、ランが準備をしていた。

 パウダールームに入り、練習着を脱ぎ始めると、後方でタオルの準備をしていたランが小さく悲鳴を上げた。

「?どうかしたの?」

 振り向きながらルナティアが聞くと、

「あ…いえ、何でもありません…その、ヘンな声を上げてしまって、申し訳ございません。」

 更に顔を赤くしたランが俯いて答える。

「本当に大丈夫なの?何か嫌なこと、モノがいたとか、じゃない?」

「そ、そんなっ、イヤなものなんて…むしろ…。」

 ちらりとルナティアを見てまた頬を染めたところへ、

「ルナティア様、お着替えをお持ちしました。…入りますよ?」

と、ライラが声をかけて入ってきた。すると、ライラと入れ違いにまるで逃げるようにランが

「失礼しましたっ!」

と言って、部屋から走り去って行った。

「あっ!…大丈夫かしら?」

 呑気に()()()()()()()のまま呟くルナティアを見て、、

「何故、そのようなお姿なのですか?!」

と、ライラが声を上げた。

「え…っと、服を脱いでいたら、ランが…小さな声で悲鳴を上げたから何かな、と思って振り返って、でも何でもない、って言っていたんだけど、顔が赤かったのよね。それで心配していたところにライラが…。」


――なんとなく、状況が読めた。

 ランは、ルナティア様の裸体を見たのが初めてで、あまりの神々しさに驚いた、ということか…―


 ライラは軽く頭を振り、ルナティアに向かって言った。

「状況は分かりました…。取り敢えず、そのままではお風邪をひいてしまいますから、湯船に早くおつかりください。」

「うん、分かったけど…ラン、本当に顔が赤かったのよ?熱とかあるのなら休ませないと…」

 言われるまま、バスルームに向かい、湯船につかりながら侍女の心配をするルナティアに、着替えやタオルの準備をしながらライラが答える。

「大丈夫でございますよ。あれは…()()()()()()()()()でしょうから。」

「恥ずかしい?」

「恥ずかしい、は適していませんね…。何と言ったらいいのでしょうか。とにかく、見慣れないルナティア様の…裸体に近いお姿に、驚いただけでしょう。」

「…私の身体って、驚くようなものなの?」

 湯船の中でジッと自分の身体を見つめていると、聖中を流すため、ライラが入ってきた。

「お背中をお流ししますね。…驚く、と言っても、良い意味でですよ?ルナティア様は透き通るような白い、すべすべのお肌をされていますし、お身体を動かしていらっしゃるから余計な贅肉もなく整った体つきをされているでしょう?…全体を見ても、女性として憧れのスタイルなのですから、見慣れないランが赤面をしてしまったのでしょう。」

「…そう? でも、胸は…それほど大きくないわよ?」

「いいえ、適度な大きさが良いと思いますよ?ルナティア様は戦いもされますし、大きすぎる胸は邪魔ですもの。その点、ルナティア様のお胸は女性としても十分な大きさですよ。…さぁそろそろ出ませんと…」

と、ライラが声を掛ける。

「あ、そうね。急がないと…。」

 ザブンと湯船から立ち上がると、即座にライラがタオルを身体に巻く。そのままパウダールームに向かうルナティアの後をライラがついて行く。


 ルナティアの身体と髪をタオルで拭き、下着を着用させながらライラが言う。

「入学当初はまだ幼かったルナティア様も、この3年で背も伸び、身体も女性らしくなられました。その上、鍛錬もされておられますから、お顔は勿論、お身体までもまるで彫刻のようにお美しい。ほら、御覧になってください。」

 そう言ってルナティアを鏡の前に立たせた。


 まだ水気を含んだ白銀の髪は、光に照らされプラチナのようにキラキラと輝いている。

 鏡に映る下着姿の身体は、十分に女性らしくふっくらとした胸、余計な脂肪はあまりない腰、ヒップは丸くきゅっと締まったいい形をしている。


「お美しいでしょう?」

 ライラの言葉に、イマイチ納得していないらしいルナティアが反論(?)する。

「うーん…そうかな?でも、もっと…こう、豊満なお胸の方が良いんじゃないかしら?」

「そんなことはございません。確かに豊満な方をお好きな方はいらっしゃると思いますが、ルナティア様の美しさはそういう次元ではございません。別格なのですよ?誰が何と言おうと、私はルナティア様の美しさが一番だと思います。いえ、一番です。」

 力説するライラに、思わず噴き出してしまった。

「ぷぷっ、ライラがどれだけ私のこと好きなのか分かったわ。…ありがとう、好きな人(ライラ)に好きって言われるのは嬉しいものね。」

 満面の笑みでお礼を言うルナティアに、少し照れた表情でライラは答えた。

「ご理解いただけで良かったです。…さあ、急ぎお着替えしてしまいましょう。」


「ところで…今更だけど、ライラは汗を流したの?」

 着替えながらルナティアが聞くと、

「はい、速攻で。」

「速攻って…。そんなに急がなくても良かったのに…。」

 笑いながら言うルナティアに真顔でライラが言う。

「いいえ、私以外の者にはルナティア様の湯のお世話は出来ませんから…。」

「…私だって一人でも出来るわよ?」

「知っています。ですが、()()()()()()()()()のです。」

「…ライラって、ホント過保護ね。」

「ええ、ルナティア様に関しては誰にも譲るつもりはございませんよ?」

そう言って、2人はクスクスと笑いあったのだった。



 約束の10時少し前に応接間に向かうと、まだ誰も来ていなかった。

 ルナティアがソファーに腰を下ろすと、丁度リリーが入ってきた。

 2人で挨拶を交わしながらライラの淹れてくれたお茶を飲んでいると、ドアを叩いた後、レグルス達が入ってきた。

「待たせてしまってすまないね。少しトラブルがあって…。」

 そういうレグルスに、ルナティアが「トラブル?」と聞き返すと、

「カートリスが、ちょっとね…。それから、面白いヤツも捕まえたから。」

 レグルスの後ろからジークリードが顔を出しながら答えた。


「殿下…。お久しぶりでございます。」

 ジークリードに淑女の礼をするルナティアを見て、慌ててリリーも真似をする。

「うわ、リリー嬢が令嬢っぽい。」

 その様子を見た、オリガルが更に後ろから顔を出して言う。


「うるさいわね、私だって成長するのよ。」

「あんなに()()()()()()()()()()()()()()()のに?」

「それは…。」

 ちらりとルナティアを見た後、続けてリリーが言う。

「とにかく良いじゃない。ちゃんと礼節を頑張ってるのは悪い事ではないでしょう?」


「どうやらルナティアのお陰らしいな。流石だ。」

 ジークリードが笑顔でルナティアに言うと、その笑顔を見たリリーが頬を染めながら、

「…そういう顔、出来るんだ…。」

と、誰にも気づかれないほどの小さな声で呟いた。


 挨拶がひと段落ついたところで、

「とりあえず、座ろうか。」

と、レグルスが言うと、ジークリードとオリガル、ルナティア、リリーがソファーに座った。

 全員が座ると、レグルス達の後ろに控えていたジャンとソルが誰かを連れて部屋に入ってきた。

 トラブルの原因と思いながらルナティアが見ると――


 そこには、ジャンに拘束されたカートリス・シヴィアと、ソルに拘束されたリヒト・トルマンディが立っていた。

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