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魔力封じ

「そろそろ戻ってくるかな?」

 アレンのそんな言葉とほぼ同時に、室内に魔方陣が現れ、杖を持ったトーマスとペトラー、それから初めて見る女性が急に現れた。


「なんでお前までくるんだ?俺達だけ送ってくれるはずではなかったか?」

「うるさいわね。いいじゃない、デメーテル様のお嬢様をひと目見るくらい…。」

「確かにデメーテルの娘だが、俺の娘でもあるんだが…。」

「あんたはいいの、どーでも。」

 現れてそのまま言い争いをしている、父様とグレイ色の髪で赤い色の眼をしたメガネの女性。

 きっとこの人が、クリストティ・ノーランド嬢なのだろう。

 二人が言い争いをしている隣で、がっくりと肩を下げたペトラーが疲れた顔をして立っていた。


「相変わらずだな、お前たちは。ここが誰の前か分かっているのか?」

 先ほどの砕けた感じから一変して、国王陛下の威厳そのままにアレンが言うと、3人はその場に膝をつき、

「「「大変申し訳ございませんでした。」」」

と、声をそろえて詫びた。

「…ぷっ!」

 その様子を、アレンの隣で見ていたルナティアは、思わず吹き出してしまった。

 吹き出したルナティアを見て、アレンが

「全く、大の大人が可憐な少女の前で何を言い争いしているんだか…なぁ、ルナティア嬢。」

「うっ…ふふっ…あははっ、…そうですね!」

 アレンを見上げながら笑うルナティアは緊張から解き放たれ、まるで天使のような笑顔だ。


「…天使……マジ天使。」

ぼそっとクリスティ嬢が呟く。


(…デメーテル姉さんの信者だったのだ、ルナティアの笑顔なんか見たらイチコロだよなぁ…)

と、ペトラーが思ったと同時に、立ち上がったトーマスは、クリスティからルナティアが隠れて見えない位置に立ち、にっこり微笑んでルナティアに言った。


「さぁ、ルナ、さっさと儀式を始めよう。そして、さっさとここから立ち去ろう。」

「あ…はい、とうさま。」

 思いのほか、儀式への不安が無くなっていたことに、ルナティア自身が驚いていたが、不安が亡くなったのは、きっと王様とお茶会をしたお陰と、先ほどの犬猿の仲のやり取りのお陰だと思った。


「とうさま、“ぎしき”をおこなうには、わたしはどうしたらいいの?」

「あ…そうだな…。アレン様、この場で儀式を行っても宜しいでしょうか。」

「あぁ、構わんよ。…むしろ、他で行われて誰かに見られても困るし、万が一、失敗した時にも今なら万全だろうから…なぁ、クリスティ嬢?」

「っふぇ?…あっ、はひっ!」

 ルナティアに見とれていたクリスティは、急に話を振られ思わず声が裏返ってしまったようだ。

 わずかに肩を震わせて笑いをこらえているアレンを横目に、

「大丈夫です。失敗などいたしません。我が娘のためですから…!」

 トーマスは言い争っている場合ではない、と改めて気を引き締めた。


 お茶会のお片付けも済み、室内には、玉座以外は何もない状態になった。

 その中央に今、ルナティアは横になっている。

「では、ルナ、始めるよ。…両手を組んでお腹の上に乗せ、眼を閉じてゆっくり息をするんだ。」

「はい。」

とルナティアは静かに眼を閉じた。


「力を入れてはいけないからね。…ゆっくり、ゆっくり息をするんだ…そう、とっても上手だよ、ルナ…。」

 父の言葉に安心しているのか、ルナティアの呼吸は落ち着いている。

 その様子を確認した後、ルナティアの隣トーマスが立ち、杖を掲げて呪文を唱え始めた。


 呪文はハッキリと聞き取れないが、近くで聞いているルナティアは、安心の揺らぎの中に吸い込まれるような感覚を感じていた。その揺らぎを感じながら、心地よい気持ちで眠りに引き込まれていった。それと同時に、トーマスの詠唱が終わり、手にした杖を、ルナティアの胸の中心辺りに思い切り突き刺した…ように見えた。

 同時に、辺りは光に包まれ、光が杖の上部に集まり、杖を通してルナティアの胸元に流れてった。

 室内の光が全ての胸元に収まり、儀式は無事終了した。



「…ざんねーん。詠唱間違ったら、続きを私がやったのに~…。そうしたら、ルナティアちゃん『王城預かり』になって近くにいられたのになぁ。…なんで失敗しないのよ?」

と、クリスティ嬢が恨みがましく、トーマスを見上げて言うと、

「当たり前だろ?…可愛い 可愛い 愛娘のための儀式だ。それに、『俺が』『失敗』するわけないだろ?それに何が『ルナティアちゃん』だ、馴れ馴れしい…。」

 ふんっ、とトーマスがクリスティ嬢を一瞥した時、

「…ん…っ」

 ルナティアが小さな声を上げながら目を覚ました。

「ルナ、気分はどうだい?悪くはない?」

「あ…とうさま。うん、たぶんだいじょうぶ。…なんか、ココがすこしあったかいきがするけど…。」

と、胸元に手を当てながら起き上がった。


「失礼。」

トーマスの隣にいた、クリスティ嬢がルナティアの隣にしゃがみ込み、微笑みながら言った。

「ルナティアちゃんね。私はクリスティ・ノーランド。この大国の魔法省に勤めているの。宜しくね。…貴女のお父様が行った儀式がちゃんと成功したかどうか、確認させてもらってもいいかしら?」


(この人が母様のファンで、父様と『犬猿の仲』…)

ぼーっと考えながらルナティアが見つめていると、

「…そんなに間近でじっと見られると…照れちゃうわ…。」

と、ポッと頬を染めながらクリスティ嬢が顔を少し反らした。

「あ…ごめんなさい。えーっと、『かくにん』いいです。おねがいします。」

ペコリとルナティアが頭を下げると、近くにいた男性陣に対してクリスティが

「…と言うわけなので、皆さん、ルナティアちゃんからちょっと離れてくださらない?そして、あちらを向いていらしてね。…絶対に振り向くんじゃないわよ?」

『絶対に振り向くな』の所が妙にドスの利いた声で言った。


 男性陣が後ろを向いたのを確認すると、クリスティ嬢がルナティアに

「ルナティアちゃん。ちょっと胸元を見せてね?」

と言い、ドレスのボタンを外し、胸元を広げて確認を始めた。


 いきなり脱がされたことに驚いたルナティアだが、ドレスを広げた胸元を見ると、さっき、自分が『少し温かい』と感じた辺りに、今までなかった模様が浮かび上がっていることに驚き、震える声でクリストティアに聞いた。

「…これ、なんですか?」

 クリストティは、にっこりと笑って言った。

「ん、儀式が成功した証。…にしても、ホント、天使みたいね~…ん~可愛い♡」

そう言いながら、ささっとルナティアのドレスを元に戻した後、ルナティアをぎゅっと抱きしめた。


 急に抱きしめられびっくりしたのもつかの間、ベリッと引きはがされ、ルナティアはトーマスの後ろに隠された。

「…儀式の確認は終わっただろう?さっさと仕事に戻れ。…そしてウチの娘に手を出すな。」


「なによぉ、いいじゃない、眼の保養ぐらい。」

ぷくぅっと膨れるクリストティに、

「眼の保養ならいい、眼の保養だけならな。」

ぴりぴりした声でトーマスが言った。


「まぁまぁ、トーマス。クリスティ嬢にも関わってもらった以上、これから先の話を一緒に聞いて貰わなければならないからな。もう暫く我慢しろ。…ルナティアはお前の隣でしっかり護っていていいから…(苦笑)」

そうアレンに言われれば、引き下がるしかない。


「さて、無事に儀式は済んだようだ。後は副反応が出ないか、最低1年間は様子見だな。まぁ…1年過ぎれば副反応はまず起こらないからな。」

そこまで皆の顔を見渡しながら話していたアレンが、急にルナティアの方を向き、

「ルナティア嬢、魔力の発動が早ければ早いほど、魔力は強いとされていることは知っているな?」

「はい。」

「…今、ここにいるクリスティ嬢を含む5人は、ルナティア嬢が魔力発動をしたことを決して口外しないと約束するため、ルナティア嬢が魔力測定を行うまでの間、『魔法契約』を行う。他に知っているものがいれば、その者に対しても『魔法契約』を行っておいた方がいい。…その選別はトーマスに任せる。…いいな?」

「はっ。」

「情報が漏れてしまっては、今後、不貞の輩がルナティア嬢を狙ってくる可能性もでてくる。…と言うわけで、ルナティア、万が一に備え、10歳になるまでは西の辺境地、つまり、君の父様の領内から出ることを禁ずる。…可能なら、屋敷内からもなるべく出るな。」

「……えっ?…」


 こうして、大国の国王陛下からの通達で、5歳で魔力を発動したルナティアは、10歳になるまでの約5年間、領内の、しかもそのほとんどを屋敷内で過ごすことを余儀なくされてしまったのである。


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