卒業生送別パーティ③
フロアでカエラとのダンスが終わると、ルナティアの周りには複数人の男子生徒が集まり、ダンスの申し込みをされたが、3年生以外は全てお断りをさせてもらった。
3年生以外は断っているにもかかわらず、かなりの人数と踊り、やっと解放されたルナティアが隅に移動すると、カエラが飲み物を手渡てくれた。
「お疲れ様、ルナティア嬢。…想定通りだけど、大人気だったね。」
「想定通りかどうかは分からないけど…さっき、軽食を食べておいてホント良かったと思ったわ。」
ふぅ、とため息を吐きながら答える。
「軽食?そう言えば、見つけたのは休憩場所だったよね。送別パーティが始まる前に、何か食べてこなかったの?」
「お手伝いに夢中になってちょっと時間が足りなくなってしまったの。」
「…?お手伝い?」
「そう。たまたまマダム・パティをお見掛けして、人手が足りなくて大変そうだったからお手伝いをしていたの。」
「…自分の準備もあるのに?」
「うーん、その時はちょうど暇だったし、本当に人手が足りなくて困っていたのよ?ただ…付き合わせてしまったライラには申し訳なかったと思ってるわ。」
「彼女はルナティア嬢が望んだことなら喜んで手伝うと思うけど?…それにしても、本当にルナティア嬢ってお人好しというか…優しいよね。」
呆れたような、困ったような顔でカエラが微笑む。
「そんなこと…たまたま手が空いていたから手伝っただけだし。私は暇を潰せて、マダムは人力を手に入れられる…ね?ウィンウィンでしょ?」
「そう言って自分の準備が遅れるのはどうかと思うけどね。」
「…それは、反省してます。」
図星を指されたルナティアは肩を竦めている。
カエラが彼女の様子を見て笑っていると、こちらに向かってくるジークリードの姿が視界に入った。そのことをルナティアに伝えると、ルナティアは振り返り笑顔で迎えた。
「お帰りなさいませ。もうダンスは宜しいのですか?」
「ああ。…と言いたいところだが、今日は拒否できないからな、まだ、だ。だが、少しだけ休ませて欲しくて抜けてきたんだ。」
ため息を吐くジークリードの目の前に、カエラがグラスを差し出した。
「殿下、お疲れ様です。どうぞ。」
「あ…あぁ、ありがとう。」
グラスを受け取り、一気に飲み干す。その後、会場内に設置された小さな時計で時間を確認して、
「2時間か…。まだあと1時間もあるのか…。」
と、呟いた。
ルナティアは、ジークリードが疲れているように感じ、心配して声を掛けた。
「大丈夫ですか?」
「…ああ、大丈夫だ。心配かけてすまない。それより、ルナティアの方は大丈夫なのか?」
「えっ?」
想定外の問いに、驚いていると、
「大丈夫でございます。」
と、すかさずライラが答える。すると、カエラが言葉を続けた。
「卒業生からの申し込み以外は、全部断わってますから。…懲りない在校生が誘おうとしているようですけど、私とライラで阻止してますのでご安心ください。」
見事な連係プレーを感じたジークリードは、
「あはは、それは頼もしいな。」
と、ひとしきり笑った後、グッと伸びをして気合を入れ、
「それじゃ、最後まで自分の役目を果たしてくる。」
片手を上げながらフロアへと戻って行った。
ジークリードがフロアに戻るのと入れ替わりで、フーランク公爵がやってきた。
「久しぶりだな、ルナティア嬢。」
「ご無沙汰しております、公爵様。本来であれば、こちらから伺わなければなりませんのに…。」
「いや、今日は学園のパーティなのだから、そのような気遣いは不要だ。それより…。」
言葉を区切り、ルナティアの装いを眺める。
「あの…、何か?」
「はははっ、2年…いや3年か。3年も経つと立ち振る舞いも淑女らしくなるのだな。見目も可愛らしかった以前と比べて美しくなった。まだ先が楽しみだ。」
「ふふ、お褒めに預かり光栄です。」
他愛もない話を暫く続けた後、フーランク公爵は1曲だけルナティアとダンスを踊り、貴賓席へと戻って行った。
その後も特に問題もなく時間が流れ、卒業生送別パーティは無事に終幕を迎えた。
そして、パーティからの帰り道、ルナティアはレグルスとジークリードと一緒に、噴水脇の東屋に寄り道し、準備していた卒業祝いの魔石(魔法の付与付き)をプレゼントした。
2人は、世界に唯ひとつのアクセサリーに喜びその場で身に着け、肌身離さずにいると約束したのだった。
レグルスとジークリードが一般科を卒業して魔法科に進学し、ルナティアは友人と共に2年に進級した。
世界では魔物が現れるなどの不穏な動きについて、度々報告されていたようだが、学園内は至って平穏な日々が過ぎていったのだった。
そして更に、1年が過ぎようとしていた。
パーティの終わりをどうしようかと思ってダラダラになってしまいました。。。
そして唐突ですが、次回からはルナティアが3年生になります。




