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もうすぐ卒業生送別パーティ

 2人で出かけてから1週間が過ぎ、加工の依頼をしていた魔石をライラと一緒に受取りに行ってきたルナティアは、今から自室でひとり、魔石に魔法を付与しようとしていた。


 ――『魔法の付与』――

 それは、本来、()()()()()()()()()()()()()()()()を持つ種族が使う魔法で、人間が使うことは()()()()()とされる特別な魔法なのだそうだ。

 お菓子に付与をした時、妖精(シエル)が教えてくれた。「人間には珍しい能力だし、普通の魔法と違うから、あまり付与をしない方が良いよ。」と、助言を受けてから、付与をすることを止めた。


 今日は久しぶりに付与を行う。魔石の受け取りに行った時に追加で買ってきた、魔石のひとつに、物理防御付与の魔法を施してみた。

「…良かった。久しぶりだったけど、ちゃんと出来たみたい。それじゃあ、()ずはお兄様の分から…。両耳(2つ)あるから、物理防御と魔法防御が良いわよね。」

 そう言いながら、ガサゴソと袋からピアス1セットを取り出した。

 紫色の魔石が埋め込まれたピアスの片方を両手で包み込み呪文を唱えると、ピアスを包み込んだ両手が黄金色に輝き、暫くすると静寂が訪れた。同じように、もう片方のピアスを両手で包んで付与をする。

「ん、出来た。どれくらい効果があるかは、実践した訳じゃないから分からないけど、お守り程度と思ってもらえればいいわよね。」

 思いのほか上手く仕上がったピアスを光にかざして嬉しそうに呟く。


「それじゃ、ジーク様の分の付与もしましょう。こっちの袋よね。…あら?」

 取り出したペンダントには、碧色の魔石の両脇に紫色の魔石並んでいるものだった。

「…碧色の魔石1つでしか頼んでないし…私、碧い魔石の分と加工料しか払っていないもの。でも…とっても綺麗な加工。……うん、このデザインで付与しよう。物理防御一択のつもりだったけど、あと2つ付与できるのよね。何にしよう…お金を払いに行きながら考えようっと。…ライラ?ライラ、いる?」

「はい、どうかされました?」

 呼ばれたライラは、ドアを開けてルナティアの部屋に入ってくる。

「魔石が多く加工されていたのよ。」

「えっ、それは店主に文句を言わなければならないですね。」

「ううん、良いの。とっても綺麗に加工されているから…それは良いんだけど、追加で組み込まれている魔石分、お金を払わないと…。」

「…勝手に店主が追加したなら、支払いなどしなくてもいいのでは?」

 少し、怒り気味の声でライラが答える。また支払いに行くことを、二度手間だと思っているのだろう。その様子を見たルナティアは、困ったような笑顔を浮かべて答えた。

「そんな訳にはいかないわ。それに、私、このデザインが気に入ったんだもの。ちゃんと対価としてお支払いしないといけないと思うの。だから、寮館長に、外出許可の申請書をもらって来てもらえないかしら。」

 はぁ…、と大きなため息を吐いた後、「かしこまりました。」と言って、ライラは部屋を後にした。

(全く…ルナティア様はお優しすぎるのよ。基本的に、何でも()()()()()()()()()()から…。……。そこが素晴らしいところなんだけど。おまけにあの笑顔でお願いされたら断れないわ。ただ、ルナティア様が二度手間し(また支払いに行か)なければならないのが気に入らないのよね…。)

 そんなことを考えながら、ライラは寮館長の部屋のドアを叩き、外出許可の申請書を()()、受け取り部屋に戻った。


「では、行ってまいります。」

 結局、ライラは自分ひとりで魔石店へ出かけることにした。

 部屋に戻り、そのことを伝えると、自分が行く、と言っていた(ルナティア)だったが、最終的には折れてくれた。折れて『店主への感謝の意』を説説と訴えられた。


 勝手な細工の報告に、怒りモードで聞いていた侍女が、店主に文句を言うのでは、と心配をしていたようだ。

「ありがとう、ライラ。店主にはとても気に入ったから、と伝えてね?怒ってはダメよ?」

「もちろん、分かっております。」

 主の言葉に、苦笑いをしながらライラは街中へ向かって行った。


 ライラを見送った後、自室でもう一度、魔法書を片手に付与をする魔法を考える。

「うーん、当初の予定通り、碧色の魔石には、物理防御でいいわよね。両側の2つの魔石には何を付与しようかしら。お兄様と同じく、魔法防御にしようかな。あとは…何かないかなぁ。」

 パラパラと魔法書をめくりながら考える。

「物理と魔法以外に防御系…補助魔法も付与できるのかしら?それなら…あっ?」

 パラパラと魔法書をめくっていると、開いたページが急に光り出した。

「え…?新しい魔法?えーっと…。」

 新しく現れた呪文を確認する。

「え…?精神防御魔法?こんなのがあるの?どういう時に使うのかしら…ふむふむ…。」

 読み進めた結果、最後のひとつはこの呪文に決めたのだった。


 そうこうしている間に日々は進み、卒業生送別パーティの当日となった。


 卒業生送別パーティの出席は、ドレスコードが必要となっているため、平民出身の生徒たちには、貸衣裳が食堂に準備され、朝から試着で大賑わいだ。

 ルナティアは自分のドレスがあるので、のんびりできるはずなのだが…何故か食堂の貸衣装の手伝いをしていた。もちろん、ライラも一緒だ。


 何故そんなことをしているか、と言うと、朝食を終えたルナティアが、寮周りを散歩していると、貸衣裳を運び込んでいるパティ・ランドールを見かけた。声を掛けられたランドールは、驚きつつも笑顔で挨拶を返してくれたのだが、その笑顔は、疲れを感じる笑顔だった。笑顔が気になり、疲れている理由を聞くと、店員が流行りの風邪にかかってしまい、人手が足りない、と恥ずかしそうに答えた。

 それを聞いたルナティアは、急いで寮館長のもとへ向かい、ドレス試着の手伝いを申し出たのだ。勿論ルナティアを一人で行かせるわけもなく…ライラも付きあっている、という訳だ。


 元々、領内でも街のみんなのお手伝いをしていたルナティアにとっては、手伝いなど全く苦にもまらず、むしろ「こんなデザインがあるのね。」「この色、素敵。」など言いながら、嬉しそうに貸衣装を借りにきた平民出身の生徒たちを相手にしていた。


 ドレスを借りに来た平民出身の生徒たちは、最初、ルナティアの姿を見て驚き戸惑っていたのだが、悩んでいる女生徒に率先して声を掛け、楽しそうにドレスを選び、アドバイスをしている姿を見ているうちに、気づけば、店員よりもルナティアに対応して欲しいという生徒が多くなっていた。


 お昼を過ぎてもルナティアが対応する列の人だかりは減らなかった。

 しびれを切らしたライラが、パティ・ランドールのところに向かい「そろそろ準備があるので退出してもいいでしょうか」と声をかけると、自分の仕事に追われて時間の確認をしていなかったランドールは、慌ててルナティアの元へ行き、交代を申し出た。

「お嬢様、本当にありがとうございました。後は私どもで対応いたしますので…。」

「え、でも、まだこんなにたくさんの方が…。」

「ですが、お嬢様もご準備なさらなければなりませんでしょう?」

 それだけ言うと、列に並ぶ生徒に向かって話した。

「皆様、大変申し訳ございませんが、この列にお並びの皆さまにはこの私、パティ・ランドールが対応させていただきますわ。どうかご容赦くださいませ。」

 頭を下げるランドールの言葉に、はじめは「リストランド様に選んでいただきたかったのに」と言っていた生徒も、「ランド―ル様が対応してくださるなら」と納得してくれた。


「皆様にご納得していただいたようですので…さ、お嬢様、今日は本当に助かりました。ありがとうございます。お礼は後日改めてお伺いいたします。お急ぎくださいませ。」

そう言ってパティ・ランドールは、並ぶ生徒たちの対応を始めた。


 ルナティアは、というとライラに連れられ、自分達の準備をするために、自室へと戻ったのだった。


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