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新しいお友達になれるかな?

 入学式から一夜明けた。

 新入生にとっては、学園校舎への初登校だ。と言っても、学園の敷地内に各寮が存在するため、校舎までは、敷地内移動、なのだが…。


 今日は初日ということで、各クラス内での自己紹介と、学園内の案内や授業スケジュールを確認する、オリエンテーションのようなものが行われただけだったので、午前中で終わってしまった。


 新入生にとっての初日の午後は、自由時間となっていた。

 上級生の授業を見学してもいいし、自室でのんびりするのもいい。ちゃんと申請をすれば、学園の外、セイグリット公国の商店街にだって行ける。


 ルナティアとライラ、ジュリアは同じA組になった。ライラと同じクラスなのは、『主人と侍女』という関係に配慮がされたのかも知れない。

 人見知りで大人しいジュリアは、ルナティアと一緒のクラスになれて、本当に嬉しそうだった。


 他にルナティアと同じクラスになった大国出身は、侯爵家令嬢のアリシア・カフスとその取り巻きと数名の令嬢だった。同じ魔力持ちの、カンナ嬢とジルは、B組だった。



「うーん、私って領内からほとんど出ていないから、同じ大国の令嬢のこと、名前以外知らないのよね…。「同級生の名前だけは覚えておけ」ってお兄様に言われたから覚えたけど…。」

 オリエンテーションがすべて終わった教室の窓際の席に座り、ひとり頬杖をつきながら、外を眺めルナティアは呟いていた。


 いつも一緒にいるはずのライラが不在でルナティアが一人で座っているのは、ライラとジュリアが先生に呼ばれて職員室に行っているからだ。



「…やっぱり私も一緒に行けばよかったな…。」

 周りで囁かれる噂話にうんざりしながら、とうとう机に突っ伏した状態になった時、突っ伏した机の前から、声をかけられた。

「ごきげんよう。」


 顔を上げ、声のする方を見ると、そこには、アリシア・カフスが立っていた。

「ごきげんよう。…アリシア様。」

 立ち上がり、にっこりと微笑んで優雅に挨拶を仕返すと、それを見たアリシアは、一瞬頬を少し染めながらも、コホンと間を置き、平静を装って話を続けた。

「まあ、わたくしの名前をご存じだったのね。先日の寮内での会食の時も、貴女もわたくしも、先輩方に囲まれてしまっていてお話もしなかったから、てっきり知らないのかと思っていましたわ。…折角同じ学年、同じクラスになったのだし、わたくし、()()()()()()()()()()()()()()。」

「・・・・・・。」

「ちょっと、聞いていらっしゃる?」

「え?あ、はい。」

「だから、仲良くしてあげても――」

「あっ、そうだわ。私、用事を思い出しました。…アリシア様、またいずれ…ごきげんよう。」

 ぺこりと頭を下げ、アリシアとその取り巻きと思われる女生徒たちの横を通り過ぎようとすると、そのうちの一人がルナティアの腕を掴み声を上げた。


「貴女、何を言っているか分かっているの?新入生の中の大国出身の貴族で、一番格上である侯爵家令嬢のアリシア様が、仲良くしてくださるって言ってくださっているのよ?その返事もしないで立ち去ろうなんて…。」

 腕をつかむ手が震えているのは、多分、怒っているからなのだろう。


 ルナティアは、掴まれた腕を一瞥(いちべつ)した後、反対の手で、腕を掴んでいる令嬢の手に触れたかと思うと、指を一本ずつ開き自身の腕を開放していく。


 指を開かれている令嬢は、驚き固まってしまった。それもそうだ。怒りで掴んだ腕は、かなりの力を入れているハズなのに、いとも簡単に指が開かれていくのだから…。


 自身の腕の解放が済むと、

「今のところ、友人に困っておりません。それに、無理に仲良くなろうとしなくても、きっとそのうち、仲良くなる機会もあるでしょう。アリシア様、私、その日を楽しみにしておりますね。」

と、満面の笑みを浮かべ、挨拶をして、固まる取り巻き達の横を通り過ぎて教室を出た。



 ルナティアが教室を出た後、我に返った取り巻きの令嬢たちは、怒りなのだろうか、わなわなと震えている。

 それに対しアリシアは、スルーされたことに少しだけよろめいていたが、何かを悟ったかのような表情で、

()()()、ではなかったのだけど…でも楽しみにしているって言っていたわ。…お兄様、わたくし、負けません。そして…お待ちになっていて、レグルス様…。」

 最後の発言は小声で周りには良く聞こえていないようだが、決意を新たにぐっと手を握りしめていた。

 さっきまでアリシアを侮辱した、と怒りに震えていた取り巻きの令嬢たちは、アリシアの決意の表情を見て、不思議そうに顔を見合わせていた。




 廊下に出て、ふぅっとため息を吐いていると、パチパチと拍手が聞こえてきた。

 顔を上げると、黒髪のすらりとした一見、男性にも見えなくもない女性が立っていた。(制服を着ていなければ男性だと思っただろう)


【失礼しました。噂のリストランド令嬢のことを、ただ、可愛いだけの甘やかされ令嬢と思っていたのに…なかなかどうして…面白いものを見せてもらったよ。】

 どうやら、ウーラノス出身の女性らしく、ウーラノス語で話しながら笑っている。多分、こちらが分からないと思っているのだろう。途中、失礼ともとれる言葉が含まれていた。


 一応、国境を守る辺境伯の令嬢だから、と、隣の国のウーラノス語は、半ば()()()()()()()()()()()。つまり、ルナティアは全部聞き取れているのだ。


【こんにちは。期待に沿えなくて申し訳ないわ。…それとも、()()()と言ってくれたことに対して、お礼を言えばいい?】

 少しくらいやり返してもいいだろうと思い、敢えてウーラノス語で返してみる。すると相手は、驚きに目を見開いた後、目をキラキラと輝かせ、

【え、分かるの?そっかー、話せるんだ。それじゃあ、失礼に聞こえたよね。ゴメン。】

 思いのほか、素直に謝られたことに驚いたが、悪気はなさそうな様子を見て、

【そんなに素直に謝られたら、怒れないわ。】

苦笑いしながら答えると、

【本当?良かったぁ!!】

と、言いながら、彼女が急にルナティアに抱き着いてきた。


 ルナティアは少しだけ驚いたが、悪意は感じなかったのでそのまま大人しくしていた。少しすると彼女がルナティアを開放した後に、公国語で話し始めた。


「改めて、ごきげんよう、リストランド嬢。先ほどは大変失礼した。私は、ウーヤン・カエラ。ウーラノス語が通じたことが嬉しくてつい抱き着いてしまって驚かせてすまなかった。一応、公国語も十分…とは言い難いが…一応、話せるのだけど、どうも口調がヘンらしい。あまり気にせずにいてくれると嬉しいのだが。」


 確かに…。

 何やら、騎士のような言葉遣いだが、きっと()()なのはこのことなのだろう、と思いながらも、礼には礼を、と向き直りお辞儀をしながら、改めてルナティアも挨拶をした。


「こちらこそ、ごきげんよう。…ウーヤン様、とお呼びすれば宜しいのかしら?」

「あ…いや、ウーラノスは、姓が先なんだ。だから、カエラが名前になる。貴女には出来れば名前で呼んでもらいたい。」

「浅学で申し訳ございません。では、カエラ様とお呼びさせていただきますね。私のことはルナティアとお呼びください。ところで…カエラ様、ご姉妹はいらっしゃる?」

「うん?…ああ、姉が一人いる。一つ上だ。」

「やっぱり。姓がウーヤン様ならもしかしてと思ったの。昨日、ご挨拶いただいた、ウーヤン・アマラ様がお姉様なのね。」

「ああ、姉から可憐だと聞いていて、会うのを楽しみにしていたんだ。でも、可憐なだけでなかったから…意外ではあったけど、私はそんな貴女が素敵だと思ったらつい…。」

…抱きしめてしまった、ということらしい。そんな話をしていると、急に周囲がざわつき始めた。


 不思議に思いながら、ざわついている方を見ると、息を切らしたレグルスが駆け込んでくる姿が目に入った。

「お兄様?」

 ルナティアが驚き声を上げたと同時に、ガシッと両肩を掴まれ、

「大丈夫か?何もされていないか?」

「え?ええ…何も。それより、何をそんなに焦っていらしたの?」

「だって、お前が()()()()()()()()()()姿()が外から見えたから…。」

 そう言いながら、後ろを振り向き、カエラを睨みつけた。

「あ…、違うの。お兄様、カエラ様は…。」

「お前、いきなり淑女(レディ)に抱き着くなんて失礼だろう!?」

 ルナティアが説明をしようとする声を遮り、レグルスがカエラに声を荒げた。背後では、レグルスについてきたジャンがため息を吐きながら頭を振っている。ジャンは状況を理解しているようだ。そしてその後ろには、いつの間にか戻ってきていたライラもいて、ジャンに状況確認をしていた。


 思わぬ怒声に、驚いて声も出せずにいるカエラを庇うように、ルナティアが兄の腕を引っ張り、大声を上げた。

「お兄様っ!!()()()()()()()()()()!!」


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