表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/160

入学式前日

 レグルスが去った後、ルナティアはこれから6年間住む部屋へ案内された。

 クレオチア大国女子4寮階建てで、ルナティア達の部屋は3階だった。部屋の中には、リビングと個室が2つ、バストイレ、キッチン付きのなかなか立派な部屋だった。


 初めての寮の部屋に、キョロキョロとしているルナティアに、寮館長が声をかけた。


「今日からここがあなたのお部屋です。侍女の方も学生と聞きましたので、同室内で過ごしつつお世話ができるような作りになっています。さて、寮生活を送る注意事項ですが…とりあえず、日々の時間軸だけ先にお伝えします。朝食は7時から8時まで、夕食は夜7時から8時、どちらも1時間の間しか提供しておりませんので、お忘れなく。それから、昼食はございません。平日であれば、学園内の食堂で食べることが出来ますが、学園がお休みの時は営業しておりませんから、セイグリット公国の商店街で材料を買い、自室のキッチンで作っていただいたり、カフェなどで済ませていただいたりしてください。門限は夜の9時。その他細かいことは、本日の夕食時、今年の大国からの新入生が全員揃った場所でご説明いたします。…私からの連絡事項は以上となります。他に何かご質問は?」

「もし、何か聞きたいことが出来た場合は、都度、お伺いしても宜しいでしょうか。」

「ええ、結構ですよ。」

「ありがとうございます。では、今のところはございません。」

「では、ゆっくりとお寛ぎください。私はこれで…。」

 寮館長は微笑んで部屋を後にした。



「結構、厳しそうな方でしたね。」

 荷物をほどきながらライラが言う。

「そう?だけど、きっとその厳しさも私たちを想ってのことだと思うわ。多分、規律をちゃんと守っていればとても頼りになる方だと思う。」

 そう言いながら、ライラの手伝いを始めようとするルナティアに、慌てて声をかける。


「ちょっ…!お嬢様、お気持ちは有難いですが、これは私の仕事です。取り上げないでくださいませ。」

「え…でも、ヒマなのよ。2人で荷ほどきした方が早いと思うんだけど…。」

「いいえ、これはわたしの仕事なのです。ヒマ、というなら、お嬢様の仕事をなさってください。」

 そう言って、ライラは学園から既に配布されていた、何冊かの教科書を渡した。


 教科書を渡されたルナティアは、最初、むくれていたが、仕方ないと観念したのか、渡された教科書を読み始めた。


 2年前は、座学が嫌いで逃げ出したり隠れたりしていた少女は、やっぱり勉強が好き、とまではいかないが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という認識に変わっていったようだ。…成長したな…。



 ライラが片づけを終えた頃、魔力測定の時に話をしたジュリア・トリントンが挨拶に来てくれた。

 せっかくだから、と3人でささやかなティータイムを過ごしながら、これから先の、楽しみや不安などを打ち明けあった。


 ルナティアは、12年間のほとんどを辺境の地、領内で過ごしてきたので、そもそも知り合いが居ない。お友達が作れるかが不安で、どんな人とお友達になれるのかが楽しみのようだ。

 ライラは言わずもがな、ルナティアが、幸せな学園生活を送れるようにすることだけに心身を捧げるつもりだ。

 ジュリアは、王都の同年代の貴族が開くお誕生会などに何度か出席はしているものの、元からの人見知りと自信の無さで、正直、不安しか無いようだ。



 その日の夕食時、大食堂に貴族も平民も含んだ、1年生から6年生までの女生徒が総勢80名ほどが一堂に会し、歓迎会という名の食事会が開催された。


 最初に、寮館長が挨拶と注意事項(主に外出許可、入寮許可について)をし、その後に新入生が自己紹介をした。

 今年の新入生は、全部で14名、うち魔力持ちは5名だけだ。貴族令嬢のルナティアとジュリア、カンナ・フィアント伯爵令嬢と、平民出のジルとライラだ。他の9名は、魔力はないが大国の貴族の令嬢たちだった。


 挨拶の順番は、魔力持ち云々は関係なく、爵位順に行われるようだ。

 ルナティアは伯爵家令嬢だが、辺境伯は侯爵家に準ずる扱いとなっているので、挨拶の順番はカフス侯爵家の次だった。因みにライラの順番は、新入生最後だった。


 新入生の自己紹介が終わると、在学生の簡単な挨拶が行われ、お顔合わせの場が終了となり、やっとメインの食事、となった。

 

 今回の食事は、寮食としては珍しく、立食形式となっていた。多分、各々、気になる人や挨拶したい人たちがいるため、固定の席を設けない、立食形式にしたのだろう。


 食事の時間となったので、ルナティアがライラのもとに行こうとしたところへ、先輩令嬢達に囲まれてしまった。どうやら、レグルスの情報を聞きたいらしい。



「…大変ね、お貴族様も。どう見たっておべっかじゃない。。」

 たった2人の同じ平民同士であるジルが、ライラの隣で呟いた。


「おべっかでも愛想笑いしなきゃならないなんて、ホント面倒…。貴女の主人、だっけ?あんなお付き合いをしてるくらいだもん、きっと他の貴族と同じなんでしょうね。…あーあ、学園に入れば『平等』って聞いてたのに、結局、寮内でも身分で分けられるのね。」


 発言を聞いたライラが、一瞬、(こぶし)を握りしめた後、ジル(さげす)む視線をに向け答えた。

「当然でしょう?平民出の人は、現時点では無償で学園に通うのよ?更に、ここでの生活も無償で保障されている。それ以上に何を望むの?…悔しいと思う暇があるなら、勉学に励むことね。」

 同じ平民に(さと)されたジルは、

「な、なによ。貴女も平民でしょ?それなのに、そんな言い方…!」

「こんばんは。」


 ジルがライラに対して言い返しかけたその時、背後から急に声をかけられた。振り返るとそこには…遠目で他の令嬢たちに囲まれていたハズの令嬢(ルナティア)が、笑顔で立っていた。



「ルナティア様?!」

 さっきまで無表情、…というよりやや低めの低音でごもっともな意見を言っていたライラが、驚きの声を上げた。


「もう、自己紹介も終わったからライラのところに来ようと思ってたのに、なんか人がいっぱい寄ってきたから逃げてきちゃった。」

 軽くウィンクをして楽しそうに笑っている。


「逃げてきちゃった、って…。」

 茫然(ぼうぜん)として、ルナティアがいたはずの場所を見ると、上級生と思われる女性たち数人が、こちらを恨めしそうに見つめていた。


 その様子を見て、軽く息を吐いた後、ライラが注意した。

「ルナティア様、お戻りください。皆様、ルナティア様とお話ししたくていらっしゃったのでしょう?学園でも先輩になられる方たちなんです。領内のように好き勝手されるのは宜しくないですよ?」

「…だって…。」

「だって、ではありません。「社交も頑張りなさい」と奥様(デメーテル様)が仰ってたではありませんか。これから様々なところで交流を持つことになる方もいらっしゃるでしょう。ささ、お戻りください。」

そう言いながら、ライラがルナティアの背を押す。


「え…ちょっと、ライラ?分かったわよ。戻る、戻るから…ちょっとだけ待って。」

 ルナティアの声に、ライラが背を押す手を緩めると、やり取りをただ黙って見つめていたジルにルナティアが声をかけた。

「えっと…ジルさん、よね?ライラと近くに居たのも何かの縁だと思うし、仲良くしてくれたら嬉しいわ。もちろん、私とも。よろしくね?」

そう笑顔で言いたいことだけ言うと、ルナティアはもとの席に戻って行ってしまった。




「はぁ…全く、困ったお嬢様だわ…。」

ライラが呟きながら、隣を見ると、頬を染めて固まっているジルがいた。


「…大丈夫?顔、赤いけど…?」

 ニヤリと笑いながらライラが覗き込むと、ハッと意識を戻したジルが慌てて返事をする。

「な、何なの?!あの人…!」

「あの人、じゃなくてリストランド様、ね。侯爵家と同爵位の辺境伯令嬢なのよ?…って、貴女にとって身分は憎むべきもの、だったかしら。でも、あの方を侮辱(ぶじょく)したら、絶対に許さないから。」

 始めは淡々と話していたライラだったが、最後の言葉には怒気が含まれていた。


「っ!…侮辱(ぶじょく)、だなんて…。ただ……。」

 少し怯えてしまったジルは、気を付けながら言葉を紡ぎつつ、そっとルナティアの方を覗き見る。


 元の場所に戻ったルナティアは、主に上級生に囲まれ、こちらも少し困った顔をしながら受け答えをしていた。その様子を見て、ふっ、と表情を緩め、ジルは言葉を続けた。

「私の知ってる貴族っぽくない人、だなって…。」

「そうね、あの方は…色んな意味で規格外だもの。…私にとってとても大切な人、なの。だからどんなことからも守って見せるわ。」

「…守る?まるで騎士みたいな言い方ね?貴女、侍女でしょ?」

 当たり前と言えば当たり前な質問に、ライラは敢えて答えず、たた、にっこりと微笑んでいた。




「ん~…疲れたぁ~…。」

 部屋に戻ったルナティアがぐっと伸びをすると、

「お疲れなのはわかりますが、お行儀が悪いのでは?」

 苦笑いしながらライラが(たしな)める。

「だって…分かってるけど…。想像はしていたのよ?だけど、本当にずーっと、お兄様の話だけされるとは思わなかったわ。」


 どうやら、先ほどの夕食会の時に囲んできた令嬢達は、本当に兄、レグルスのことばかり聞いてきたらしい。

「2年前の武術大会でうすうす感じてはいたけど、お兄様、本当に人気なのね。そしてジークお兄様には隠れファンが多いみたい。お兄様に聞いてはいたけど、ジークお兄様は、本当に学園では無表情みたいね。…ふふっ、ちょっと見て見たいかも。」


 楽しそうに笑うルナティアに、お茶を出しながらライラが言う。

「難しいのでは?だって、殿下はルナティア様と話すときは自然と笑顔におなりですから…。」

「…じゃあ、陰からこっそり見る?」

「…。」


 2人で顔を見合わせた後、大笑いした。

「も、もう…ルナティア様、そんな大声で笑ったら、はしたのうございますよ?」

「だって…自分で言っておきながらだけど、こっそり見るって、可笑しいでしょ?それに、ライラだって笑ってたじゃない。でも…かなり遠目で見ないと、きっと見つかっちゃう。ジークお兄様にも、お傍にいるお兄様にも。」

「見つかってしまったら、無表情の殿下を見られませんものね。…あ、ルナティア様、外では―」

「うん、分かってるわ。ジークお兄様でなくて、殿下、でしょ?」

「はい。お気を付けくださいね。ヘンな(ねた)(そね)みに駆られると大変でございますから…。」

「そうね、決闘を申し込んでくれるなら良いけど…。」

「…そんなご令嬢はいません。」

「そうよね~…。ライラがよく読む小説とかだと、嫌がらせが主流、かな?」

「主流って…。でも、その可能性の方が高いと思います。殿下には申し訳ないですが、一線を引いた態度の方が宜しいかと。」

「うん、気を付けるね。」



 楽しい話から、真面目な話まで、思いのほか盛り上がってしまった。

 ライラが、ふと、時計を見ると、もう夜の10時をまわっていた。


「さぁ、明日は入学式です。もうお休みになりませんと。」

 ライラが就寝を促す。

「そうね、朝、お父様とお母様をお迎えするんですもの。もう寝るわ。」

「はい、私も、明日の準備を済ませたら休ませていただきます。」

「うん、おやすみなさい。」

「おやすみなさませ。」


 場所は変わっても、いつもと同じ挨拶を交わし、ルナティアは自室へ入って行ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ