大人2人のため息
その頃、書斎に入った大人二人は、今後のことについて話し合っていた。
「義兄上、本当なのですね。…最初、早文をもらった時は信じられなかったのです。ルナはまだ5歳ですし、昨年、王子が6歳で魔法を発動したことですら、喜びと不安で大騒ぎになったというのに、その王子より更に1歳も若いうちからの発動など…。」
「あぁ、本当だ。…出来れば私だって信じたくない。魔力はあっても困らないものだが…大きすぎる力は身を亡ぼすことになりかねない。5歳で魔力を発動など前代未聞だ。…王家に報告はしなければならないが、あくまで秘密裏に進めたい。」
「…秘密裏に、ですか?」
「秘密裏に、だ。…5歳なのだぞ?万が一、この情報が漏れた場合、ルナが襲われたり、悪い奴らに悪用されたりする危険性が高いからな。…だが……。」
トーマスは顔を両手で覆いうなだれた。
「…“お転婆”ですからねぇ、ルナは。…見た目と相反して。」
「そうなのだ。ちょっとでも目を離すと…今回だって、そのせいで魔力発動などしてしまったというのに、未だ事の重大さが分かっていない。」
「それは仕方ないのでは?彼女はまだ“5歳の女の子”なのですから…。」
「分かっている。だが、そう言っていられる状況ではないだろう?だから、不安要素はなるべく取り除きたいのだ。」
「だから、秘密裏に、なのですね。」
「あぁ、近衛隊所属で、学生時代に陛下と同級であった君なら覚えもよかろう。」
「…義兄上だって陛下からの信頼が厚いではないですか。それこそ義兄上からの頼みであれば、陛下は秘密裏の謁見を手配してくれると思いますよ?この間だって、近衛隊の訓練所に来て義兄上のことを褒めちぎっておりましたから…あれはまだ憧れておられると思いますよ。」
「ふむ…では尚更、私からはお願いは出来ないな。」
「何故です?」
「…代償を伴うだろう?」
「あっ!…なるほど。」
「私は、この国の国境を守ることで、陛下に貢献している、と思っているのだが…どうも…な。」
「…近衛隊団長になれ、と?」
「流石にそうハッキリとは言わないが、王都に居てほしいと…。」
「分かりました。そういうことであれば、私から陛下にお時間を作っていただけるよう話しましょう。…ただ、“すぐ”謁見できるかは分かりませんよ?なにぶん、秘密裏に、とのことなので…。」
「分かっている。…すまないな、ペトラー。」
「いえいえ、私にとっても義兄上は“憧れの先輩”ですから…昔も今も。お役に立てるなら嬉しい事です。」
そう言ってペトラーはお茶を飲み、ふと外を見た。丁度、サリルとミラクがルナを連れて庭園の散歩をしているところが目に入った。
「…本当にルナは魔力に目覚めたのですね。まだあんなにあどけない子どもなのに…。」
ペトラーの視線の先をトーマスが追い、3人の子どもを見つめながらフッと微笑んで言った。
「サリルとミラクがルナを可愛がってくれるから助かるよ。…本当に3人兄妹みたいだな。」
「義兄上、それ、レグルスに聞かれたら怒られますよ?せめて4人兄妹にしておかないと…。」
「はは…そうだな。あれもルナのことになると、過保護過ぎではないかと思うくらいだからな。」
「否定はしません。まぁ…それを言うなら我が家の双子も同じく過保護でしょうから…」
楽し気に語り合う子ども達の姿を見つめながら、これから起こりうる可能性のあることを色々考え、どうすればこの子達が安寧に暮らせるのか、危険を排除できるのか、悩む子煩悩の父親が二人、ため息を漏らしたのだった。




