王室第1近衛騎士団 団長と手合わせ
遠乗りから帰ると、一旦、解散となった。
1時間後にキュリオが迎えにくるというので、急いで身体を拭き、剣術が出来る服に着替えた。
ルナティアが着替えている間に、レグルスは別室で両親に説明をしながら着替えていた。説明を聞いた両親は、その後、揃って部屋を出て行った。
1時間後、キュリオが迎えに来た。ルナティア達4人は、キュリオの後について鍛錬場へと向かった。
鍛錬場につくと、会ったことのない人とジークリード、そして何故かトーマスが居て、観覧席にアレンとティティス、デメーテルまでもが座っていた。
「父上、なぜここに…?」
当たり前と言えば当たり前な質問をレグルスがすると、
「鍛錬をする、と言っていたので、久しぶりに俺も加わろうかと思ってな。」
珍しく乗り気なトーマスが笑顔で答えた。
「父上が混ざったら鍛錬にならないのでは…?」
「大丈夫だ。ちゃんと鍛錬にしてやるから。」
「はぁ~…。と、父上、こちらの方は?」
トーマスが指導をしてくれるのはとても珍しい。
レグルスは、嬉しい反面、瞬殺される気がしてため息を吐きながら、隣に立つ、いかにも強そうな屈強の兵士について聞いてみた。
「あぁ、彼は王室第1近衛騎士団の団長だ。」
「でっ!?…では、叔父上の所属する近衛隊の…。」
驚きながら、王室第1近衛騎士団団長と紹介された人を見ると、笑顔で挨拶をしてくれた。
「リストランド卿が鍛錬に参加をする、とお聞きしたので、是非、自分も、と。…お初にお目にかかります。私は、王室第1近衛騎士団の団長を務めている、グラハム・フーランクです。卿のご子息の噂は、いつも殿下から聞いておりましたので、今日はとても楽しみですよ。はっはっは…。」
「フーランク様…。まさかフーランク公爵家の…?!これは、ご丁寧にありがとうございます。僕はレグレス・リストランドと申します。未熟者ではありますが、お見知りおきくださいませ。」
深々と頭を下げていると、レグルスの後ろから、年端もいかない少女が挨拶をしてきた。
「初めまして、フーランク様。私はルナティア・リストランドです。」
鍛錬場に似つかわしくない少女がいることに、驚いてしまったグラハムは、
「なっ、何故、こんな愛らしいご令嬢が…こんな鍛錬場に…??」
と、珍しく大きな声を上げてしまった。
そんなグラハムの肩をトーマスがポンっと叩いた。
「俺の娘だ。…そこそこ強いぞ?」
「っ?!」
トーマスに振り向き、固まるグラハムは口を噤み考え込んでしまった。
(あの、俺が未だに勝てないリストランド卿が、『そこそこ強い』という美少女は…?『そこそこ強い』美少女の兄である少年の実力は?…殿下がいつも勝てないと言っていたな…。殿下も近衛騎士団の団員に混ざって鍛錬をしているし、年の割には強い方だと思うのだが…一体どれほどの強さなのか…。だがしかし…少女に剣を向けるのは…)
グラハムが考え込んでいると、ほどなく観覧席から声が聞こえてきた。
「お互いに紹介は済んだな?さっさと始めないと時間がなくなるぞ。」
アレンが楽しそうに声を上げた。
「そうですね…。では…。」
声に反応するように、トーマスが全体を見回し言った。
「ジャン、お前はキュリオと戦うといい。護衛同士、良い訓練になるだろう。…グラハム殿、ルナティアとライラの相手をお願いします。そして、殿下とレグルス、二人は俺がお相手します。」
そう言いい、トーマスは剣を構えた。
レグルスをジークリードは頷きあった後、トーマスに向けて剣を構えた。
「「宜しくお願いします。」」
ジークリードとレスグルの声が重なったと同時に、二人はトーマスに向かって走り出した。なかなかのスピードだ。
隣では、キュリオとジャンも剣を合わせ始めた。
その様子を見つめていたグラハムだが、自分の相手が少女たちであることに我に返りゆっくりとルナティアとライラを振り返った。
視線の先には、にっこりと微笑む、2人の美少女が居た。
(いいのか?いくら『そこそこ強い』と言われても女の子だぞ??)
そう思っていることを見透かすように、ライラが言った。
「女だからって気にしていただかなくて大丈夫ですよ?」
そう言って、体制を低く構えた。
(普通の剣の構えではないな…暗器使い、か?だとすると間合いに入られると厄介だな、いやでも、相手は女の子だし…。)
やはり考えているグラハムに向かい、臨戦態勢に入ったライラは、
「では…宜しくお願いしますっ!」
と、言い終わらないうちに、グラハムに向かって走り出した。
走り出したライラから少し遅れて、剣を構えたルナティアも一緒に走りだした。
「宜しくお願いします、フーランク様っ!」
“様”の声と一緒にルナティアが剣を振り下ろした。
先に駆けこんできたライラの短剣を交わしていたところに、ルナティアの剣が迷いなく振り下ろされた。その剣を弾くように、グラハムは、自身の剣を抜き、防御をした。
弾かれたルナティアは、一瞬よろけたが、すぐに体勢を立て直し、再度、飛びかかろうとした瞬間、
「ちょっと待った!!」
グラハムが声を上げた。
ふーっ、ふーっ、と息を整えながら2人を見て言った。
「申し訳ない。少女が2人…と侮っていた。確かに、リストランド卿が言うくらいお嬢さんたちは強い。だから、ちゃんと本気で相手します。…良いですね?」
『本気で相手する』、の言葉に、身を引き締めながら力強くルナティアが答えた。
「勿論、お願いします。でなければ鍛錬にならないですから。」
2人の意思の強い瞳を見つめながら、グラハムは、
「承知しました。だが…少しお待ちください。」
と言って鍛錬場から出て行ってしまった。
「えっ?…フーランク様、何処に行っちゃったのかしら?さっきは『本気で』っておっしゃったのに、やっぱり小娘の相手なんか出来ないってことなのかな、…ライラ、どう思う?」
「…お嬢様を愚弄するのは…」
ぷるぷると怒りに震えながらライラが答えているうちに、グラハムが戻ってきた。
再び鍛錬場に来たグラハムの手には、木刀が3本と木で出来た短刀が2本握られていた。
「本気でやりますけど、流石に真剣では俺がやりづらいので…。今日の鍛錬は、コレでお願いします。」
そう言って、ルナティアに木刀を1本、ライラに短刀を2本渡した。
木刀を受取りながら質問をする。
「…コレでなら、本気で相手してくれるのですか?」
「はい。本気で相手するので…俺は2本使わせていただきます。」
そう言うと、グラハムは2刀を構えた。
構えたグラハムを見て、ルナティアとライラは頷き、
「承知しました。では、改めて…「宜しくお願いします」」
言い終わらないうちに、今度は2人一緒に向かっていった。
グラハムは右の木刀でルナティアの攻撃を受け止め、左の木刀でライラの攻撃をかわしながら、少女たちの戦い方を分析していた。
(さっきと戦い方を変えてきた、か…。剣は軽いが、小柄で身軽なところが厄介だな。1人だったら身軽でも問題ないが、この2人、とんでもなく息が合っている。そのせいで、2人以上の攻撃力になるな…。いいコンビだが、しょせん少女だ。このままかわしながら2人の体力が落ちた頃に…)
と、グラハムは反撃のタイミングを計っていた。
しかし、なかなか体力が落ちない。
もって5分程度だろう、と思っていたのに、もう10分近く攻撃の手を止めない。
(体力が落ちるのを待っていたが、なかなか終わらないな…そろそろ攻撃も見切れてきたし、こちらから攻めようか…。よし、ここだっ!)
「はっ!!!」
それはほんの一瞬の出来事だった。
グラハムが力いっぱい弾いた木刀を、自分の木刀で受けたルナティアは、あまりの威力に3メートルほど後ろへ弾き飛ばされてしまった。受けた木刀は二つに折れ、もう使えない。
弾き飛ばされたルナティアを気を取られたライラも、その隙にグラハムに抑え込まれてしまった。
弾き飛ばされたルナティアはは、けほけほっと少し咳こみながら、
「けほっ…参りました。」
と言うと、グラハムがライラの拘束を解いた。
拘束を解かれたライラは、一目散にルナティアのもとへ駆け寄った。
既にトーマスにやられていたレグルスとジークリードも同様にルナティアに駆け寄っている。
「ルナッ、大丈夫か?!」
「ルナティア嬢?!」
「ルナティア様、ご無事ですか?!」
3人が心配そうに尋ねるので、
「兄様、ライラ…大丈夫です。それに殿下まで…ご心配ありがとうございます。ですが…ふふ、まだまだですね。」
さっきまで戦っていたとは思えないほどの柔らかい笑顔で、でも少し残念そうにルナティアが微笑んだ。
「…ルナティア嬢、まだまだ、ではないですよ?俺の、あの攻撃を咄嗟に防ぐことのできるなんて、貴女は十分に強い。そしてお側の侍女殿も。それに、お二人の連携はとても素晴らしかった。お二人が一緒に戦うのであれば、我が近衛隊の隊員の半数、いや、2/3は勝てないでしょう。…全く…とんでもないお嬢様ですね、リストランド卿?」
そう言いながら、グラハムがトーマスを見ると、トーマスがにやり、と笑ったように見えた。




