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モンヌール邸

 王都へは、西の辺境地から、馬車で2~3日間ほどかかる。今まで伯爵領から出たことのないルナティアにとっては、見えるもの全てが新しいものに見えた。今回は比較的ゆっくり進んだので3日かかったはずなのに、あっと言う間に王都に着いてしまったような気がした。


 王都では、母の実家、モンヌール伯爵宅にお世話になることになっていた。現モンヌール伯爵は、デメーテルの弟、ペトラーが継いでいる。そしてペトラーは、王室第2近衛騎士団団長を務めている。

モンヌール伯爵家も代々、軍事系統の家系で、そういう意味ではリストランド伯爵家と同じだ。ただ、王都を守るか、国境を守るか、の違いだけだ。だからこそ、お互いの家同士も仲良く、自然とトーマスとデメーテルが婚姻を結ぶことになったのだろう。


 モンヌール伯爵家には、双子の子どもが居る。

 レグルスやルナティアと従兄妹となる、双子の名前は、サリル(男)とミラク(女)で、ルナティアより3つ上の一卵性の8歳だ。二人とも、髪はブラウンブロンドのくせっ毛で、瞳は茶色をしている。

 サリルは、軍事系統の家系の跡継ぎらしく、厳しく育てられているからか、真面目で堂々としている。ミラクも、人懐っこい笑顔の可愛い令嬢だ。


 そんな二人は、よく、リストランド邸に避暑をかねて遊びに来ていたので、レグルスともルナティアとも仲が良かった。特にミラクは、会うたびに「ルナが妹なら良かったのに…」と言うほど、ルナティアの信者(笑)だ。

 ルナティアは、仲良しの従兄妹と会えることの喜びと、初めての王都、同じく初めて泊まるモンヌール家にドキドキワクワクしながらロビーに父と共に入った。


「やぁ、ペトラー。急で申し訳ないね。数日程お世話になるよ。」

「いえ、義兄上もお元気そうで…。我が家は問題ありませんから好きなだけご滞在ください。我が子供たちも、久々に従兄妹殿に会えると喜んでおりました。…ただ…此度の件は…」

そう言いつつ、ペトラーがルナティアをチラリと見た。

ペトラーと目が合ったルナティアは慌てて

「こ、こんにちは、おじさま。とうさまといっしょにおせわになります。」

と、(一応)淑女らしいお辞儀をしながら挨拶をした。

「あっはは。そんなに硬くならなくても大丈夫だよ、ルナ。暫く見ないうちにまた大きくなったね。…さぁ、奥でサリルとミラクが君を待っているはずだ。我が子達にも、その愛らしい顔を見せてあげておくれ。テマ、ルナティアを、部屋に案内しなさい。その後、サリルとミラクの所へ。」


「承知いたしました。…ルナティア様、こちらへどうぞ。」

 テマは、トーマスとルナティアに軽くお辞儀をした後、ルナティアの荷物を持ち、部屋への案内を申し出た。

 ルナティアは父を見上げると、にっこりとトーマスが微笑みながら頷いたので

「…はい。よろしくおねがいします。」

と、素直にテマに付いてロビーを後にすることにした。


 ロビーに残ったペトラーは、ルナティアの姿が見えなくなったのを確認すると少し表情を曇らせながらトーマスに向かって話しかけた。

「ここで立ち話も何ですから、書斎へまいりましょう、義兄上。…こちらへどうぞ。」

「あぁ…ありがとう。」

二人は奥の書斎へと向かった。


………………………………………………………………………


 部屋に案内されたルナティアは、すぐに窓際に行き、外を眺めてみた。

 窓から見える景色は、道のりで感じた王都の賑わいを感じることはなく、静かで洗練された庭園が広がっていたが、屋敷を出て少し行けば、先ほど、モンヌール家に到着するまでの道のりで見かけた、賑わう街並みがあると思うと、お転婆心がウズウズして仕方なかった。街並みに思いを褪せているところへ案内をしてくれたテマが声をかけた。

「改めまして…ルナティア様。私、ルナティア様が当家に居る間、身の回りのお世話をさせていただく“テマ”と申します。どうぞよろしくお願いいたします。」

深々と頭を下げたテマに対し、不意に声をかけられたルナティアは、

「えっ?…あっ、わたしこそおせわになります。」

と、つい、つられて頭を下げて挨拶してしまった。


貴族の令嬢に頭を下げて挨拶されたテマは、コホンと軽く咳をした後、

「ルナティア様、使用人である私にそのような態度はなさらなくて結構ですよ。」

と、ルナティアを(たしな)めた。


「あ…、そ、そうだね。…ごめんなさい、気をつけます…。」

あからさまにシュンとした顔のルナティアを見たテマは、今度は言いすぎたか、と焦り、

「あの…叱ったわけではなくて…こちらこそ、出過ぎたことを言ってしまって申し訳ございません。ルナティア様はまだ5歳ですものね。むしろ愛らしい仕草ですが、これからはお気を付けてくださいね。使用人にお気遣いは不要ですから…。」

少し、(ばつ)が悪そうに再度頭を下げた。


そんなテマを見て、きっといい人だと思ったルナティアは、満面の笑みで答えた。

「うん。…ありがとう、テマ。」

不意打ちの満面の笑みを見たテマが、『隠れルナティア信者』になったのは言うまでもない(笑)


 ひととおり荷物の片づけを終えた頃、部屋にノックの音と同時に、ミラクが飛び込んできて、ルナティアに抱き着いた。

「ルナ、久しぶりね!来てくれて嬉しいわ!…そして相変わらず…可愛い♡」

と、抱きしめながら頬にすりすりしていると、

「はぁ…、ミラク。お前、“自分はもう淑女よ”なんて言っているくせに…。“淑女”はノックと同時に部屋に飛び込まないぞ?…ルナは元気そうでなによりだ。」

 その後ろから、苦笑いしながら、ルナティナに片手を上げ、サリルが入ってきた。

追い打ちをかけるように、

「そうでございますよ、ミラク様。“淑女”らしからぬ行動です。」

と、テマにも諭されていた。

「…なによぉ、テマまで…。本当に久しぶりで嬉しかったのだもの。…というか、テマがルナのお世話をするの?」

「はい、僭越(せんえつ)ながら。」

「ふーん。……いいなぁ(ボソ)」

「…何か?」

「ううん、何でもない。それより3人でお茶しましょうよ。今、庭の薔薇が綺麗なの。案内するわ。…テマ、その間にお茶の用意をお願い出来る?」

「はい、畏まりました。」

「宜しくね。…じゃあルナ、一緒にお外に行きましょ。」

そう言うと、ミラクはルナティアの手を握り、部屋の外へと誘った。

サリルはその後を黙ってついていくのだった。


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