本当の魔力量②
教皇を見送った後、トーマスとデメーテルは、ジャン、ライラを加えてこれからのことを話し合うことにした。
「ルナティア、レグルス、特にルナティア。魔力量について聞かれたら、180%と答えるのだ。」
「さっき、280%って言っていたけど、魔力量って、多い方が良いのではないの?」
「ルナティア、大き過ぎる力は災いを呼ぶこともあるんだ。俺はルナティアを災いに巻き込みたくない。…180%でも、十分すぎる魔力量だ。現に、俺は168%の魔力量で、今でもそれなりに有名人だ。それに、現王太子殿下ですら170%なんだぞ?…280%の魔力量など、現世ではいない。そんな魔力量を知られたら、お前は『研究材料』として見られてしまうかも知れない。…俺はそんなのは嫌だ。」
「…研究材料…。」
ボソッとルナティアが呟く。すると、レグルスが
「研究材料??そんなの、認めません!」
と声を張り上げた。その声を遮るように、トーマスが続けた。
「俺も認めない。当たり前だろう?…だがこのことを外部に知られた場合、そういう研究をしようと企む者が出てくる可能性が「0」でない、ということだ。だから、教皇様があの場で「180%」と発表されたのだ。」
「では、そのままにしておいてくれても良かったではないですか。…わざわざ伝えに来なくても…。」
「レグルス、それは違う。知らなければ、今、こんなに悩むことはないのだろう。しかし。知らなければ、ルナティアが無意識に280%の魔力を発動してしまった時、俺達は何も出来ないだろう。隠すことも、守ることも…。」
「…そう…ですね。申し訳ございません。」
「いや、お前の反応はあたりまえのことだ。…という訳だ、ルナティア。どうして魔力量180%と言わなければならないか、理由に納得してくれたかな?」
「…はい。」
(研究材料になんてなりたくないもの。言わない方が良いことだってある、ってことよね。)
そう考えながら、しっかりと頷いた。
「いい子だ。…そうだ、『魔力制御』の時に魔法書を渡されただろう?」
「はい、これです。」
手に持っていたままの本をトーマスに渡す。
「…そう言えばさっきの黒っぽい本と似てるのね…本の色が違うけど…。」
「『魔力制御』の時に渡される、この本は、『魔法書―魔力制御―』と書いてあって、『魔力測定』で、魔力がある、と分かった子供全員に配られるものだ。この本を読んで、学園に入るまでの2年間、魔力暴走をしないように魔力を馴染ませるための本で、完全な『個人用』の本だ。」
「『個人用』…?」
「『個人用』だ。使い方は、リストランド領に戻ったら教えてあげよう。」
「はい。」
「…っと、話が逸れたな。『魔法書』の本は、『初級』『中級』『上級』とある。『初級』は、学園に入ってからの3年間で学ぶ。『中級』は4年~6年で、『上級』を学べるのは一定以上の魔力、もしくは魔力の制御能力があると認められた6年生のみが学べる。『初級』『中級』『上級』の魔法書は個人用の本ではなく、共通情報が載っている。」
「じゃあ、さっきの『特級』は?」
「『特級』は特別で、『本が使用者を選ぶ』んだ。だからあれも『個人用』だな。だが…強力な呪文が多すぎて、基本的には、見つかった国の、若しくは、使用者が居る場合は使用者の国の保管場所へ預けられ、そこで厳重に保管される。クレオチア大国の場合、その保管場所が王城なんだ。」
「それで、王城に…」
「教皇様は、「『聖なる場所』に愛された子なのかも」とルナティアのことを言っていた。きっと悪いようにはならないだろう。」
そういうと、安心させるように優しい表情でルナティアの頭を撫でた。
「『聖なる場所』…。そこはどんな所なの?父様。」
「それは…俺には、学園で学んだ範囲のことしか分からない。ラソ教の『選ばれた者』のみが行くことが出来る場所だからな。…もしかしたら、陛下なら行ったことがあるかも知れないが…。まぁ、いずれにしても『神秘』の場所ってことだ。教皇様のおっしゃるとおりであれば、意思もありそうだしな。」
「…よく分からないけど、教皇様も、教皇様がおっしゃる『聖なる場所』も、私を守ろうとしてくれている、ってことなのよね?」
「ああそうだ。…レグルス、規格外の妹を持って気苦労が絶えないと思うが…ルナティアを守ってやってくれ。ライラも頼む。」
「勿論です、父上。どんな時でも僕は、ルナを守ります。僕の…大切な、大切な妹ですから。」
「私も勿論でございます。私の主をルナテイア様と心に決めてから、どんな事があろうと誠心誠意お守り申し上げます。」
「あぁ、この話はここにいる者たちのみの『秘密』とする。…ルナティアも、いいな?」
「はい。」
その夜、ルナティアがベッドに入り目を瞑ると、『魔力測定』の時に聞こえた声がした。
ぱちりと目を開けると、また、目の前に『妖精』が飛んでいた。
『ルナティア、新しいほん、おめでとう!』
「新しいほん?…あ、魔力制御の本のことかな?」
『ちがうよ、くろいほん。』
「あれは、教皇様が持って行ったけど…。」
『でも、あれはルナティアのほん。『聖なる場所』がくれたほん。』
「聖なる場所…。あなたたちは『聖なる場所』を知ってるの?」
『知ってる。ボクたちはそこで生まれるから。』
「そうなの?…『聖なる場所』ってどんなところなの?」
ワクワクしながら質問をする。
『いろいろ』
「いろいろ?」
『うん、ヒトやボクたちみんな違うから。』
「?」
『違う…うーん違って見える?』
「あ、見る人によって違って見えるってこと?」
『そう、それ。』
「そうなんだ…でも、あなたたちの生まれたところなら、きっと綺麗なんでしょうね…。」
『ルナティアもキレイ』
「ありがとう。…ところで、あなたたちって『名前』はないの?お話しするとき、何て呼んだらいいのか…。」
『名前?ない。でもルナティアがたいへんならいる。名前、つけて。』
「え…、私がつけるの?うーん…そうだ、この前読んでたご本にあった名前なんだけど…シエルってどう?とっても素直で可愛い子の名前だったの。」
『シエル、ボク、シエル~』
名前をもらい、嬉しそうにルナティアの周りを飛び回る。心なしか光が強くなったようだ。
『ルナティア、ボク、君のこと守るから、そばにいていい?』
「そばに?ついて来てくれるの?」
『うん。名前のおかげで『出られる』ようになった。』
(出られる?…どうゆうこと?)
不思議に思って首をかしげると、シエルはそれを真似ながら、
『ボクたち、生まれた後に、縄張りが決まって、そこから離れられないんだ。でも、ルナティアが名前をくれたから、僕の縄張りが『ルナティア』になった。』
(名前をつけるってことは、住処を変えるほどの力を持つってことなのかな?どうしよう…誰かに相談した方がいいかしら…?)
黙るルナティアを見て不安になったシエルは、ルナティアの周りを飛びながら何度も聞く。
『ダメ?…そばに居ちゃダメ?』
泣きそうな顔で飛ぶシエルを見ていたルナティアは、
「分かったわ。名前を付けたいって言ったの、私だもの。でもシエル、お約束して?私が呼ぶまでは話しかちゃだめよ?」
『え…夜も?』
「うーん、『外』と『周りに人が居る時』はダメってことにしましょう。私一人だったり、夜だったら良いよ。」
『うん、分かった。約束、守る~。』
シエルが嬉しそうに飛び回っていたその時、
「う…ん…。」
隣のベッドで寝ていたライラが寝返りを打った。
「ライラが起きちゃうから、もう寝ましょ?…また明日ね、シエル。」
『うん、ルナティア、おやすみ~』
挨拶を済ませると、シエルの光はすぅっと闇夜に消えていった。
そして翌日、一家はセイクリッド公国を後にして、2年前の約束を果たすため、クレアチオの王城へ向かったのだった。