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レグルスの魔力測定③ 到着

 モンヌール家に一泊した翌日、セイクリッド公国に向かうため、リストランド一家はクレアチオ大国一の港、シヴィア港に向かい、モンヌール邸を後にした。


 モンヌール邸を出て半日ほど経ち、無事にシヴィア港に着いた。シヴィア港には多くの客船が停泊しており、客船の数に比例して、貴族も多くいた。

 女性陣は先に船の客室に向かい、トーマスはレグルスと共に、荷物が運ばれるのを指示・確認していた。すると、シヴィア港の領主、シヴィア公爵に声をかけられた。

 公爵の息子も今年、『魔力測定』で同じ船に乗るのだという。

 トーマスとレグルスは、公爵とその息子のカートリスに挨拶をした後、客室へ向かった。


 客室に入ると、ルナティアはライラと一緒に客室内を探検していた。その様子を眺めながらお茶を飲んでいたデメーテルが

「随分とゆっくりだったわね。…何かあった?」

と声をかけると、

「まぁね。シヴィア公爵に会ったから挨拶をしていたのだ。公爵のご子息も『魔力測定』らしくてね、折角だから、子ども同士も挨拶をしたところなんだが…。それにしても…シヴィア公爵のご子息がレグルスを見て照れていたけれど、どうやら気に入られたようでホッとしたよ。」

「気に入られた?…父上、僕は目を逸らされたのですよ?」

「あぁ、恥ずかしくて目を逸らしたんだ、あれは。」

「何故、恥ずかしがるのです?」

「そうだなぁ…確か、王太子殿下のことも直視出来るようになるまで、随分かかったと聞いているし…。綺麗な顔には弱いんじゃないか?」

「綺麗な顔…?僕が?それに、王太子って…。」

「綺麗だろう、レグルスは。」

「『綺麗』とは、女性の形容ではないですか?」

「女性だけではないだろう。そんな偏見はいけないぞ、レグルス。それに綺麗と形容される男性は、君と同い年にもう一人いるから安心しなさい。」

「もう一人…?」

「そう、もう一人。王太子殿下だ。なかなかの美形だぞ。カートリスと王太子殿下は、はとこ同士で同い年ということもあって、幼い頃から王宮に顔を出していたんだよ。勿論、友人候補としてね。…友人候補、と言えば、レグも王太子殿下の友人候補に上がっているようだよ。」

「えっ、僕が?…王太子殿下の友人に…。」

「まぁ、レグが会って見て、嫌なヤツだと思ったら別に友人にならなくてもいいよ。」

「そんな、僕の気持ちで選んで良い訳ないじゃないですか?」

「良いんだ。大丈夫。『もし』『君が』イヤだったら、ね。…まぁ、問題ないと思うけど。」

「父上は王太子殿下にお会いしたことはあるのですか?」

「あるよ。」

「僕は…王太子殿下の友人になれる、と父上は思っていらっしゃるのですね。」

「うん、私がお会いした殿下は、しっかりしておられたし、陛下の学生時代とは比べ物に…」

「あなたっ!!!」

「っ!」(びくっ)

「…ふぅ…それ以上は子供の前ではお止しになって?(にっこり)」

「そ、そうだな。…ともかく、『魔力測定』の場は、学園での顔合わせも兼ねている。今年は王太子殿下もご一緒されているから、失礼のないように気を付けるのだぞ。」

「はい。」


 一通り話を終えたころ、探検からルナティアが戻ってきた。戻ってきたルナティアに、甲板に行こう、レグルスが誘ってきた。一応、自重して客室探検だけで我慢しようと思っていたルナティアは、目を輝かせてコクコクと頷いた。


「よし、決まりだ。…船に変なヤツは居ないと思うけど…念のためジャン、ついて来て。」

「畏まりました。」

「っ!レグルス様、私も―。」

「ライラは父上と母上のお側に。…少し風にあたるだけだ、すぐに戻るから、お茶の用意でもしていてくれ。」

「……畏まりました。」

「ライラ、ちゃんと兄様とジャンから離れないから安心して。それに、風に当たったらきっと身体が冷えると思うの。…海も楽しみだけど、戻ってきたときの温かいお茶も楽しみにしてるから。」

「ルナティア様…。温かいお茶を用意してお待ちしています。お早いお戻りを…。」

「うん、行ってきます。」


 レグルスとルナティアは2人で海を眺めていた。ジャンは、少し離れたところに控えている。

「海はウチの領内にもあるけど、遠乗りしたときの浜辺からしか見たことなかったから…。凄いね、兄様。今、海の真ん中にいるみたい。」

 楽しそうに海を眺めるルナティアを横目に、セイクリッド公国の方を見ていると、視界の隅に何かがよぎった。目を凝らしてみると、どうやらイルカのようだ。

「ルナ、イルカだ。」

「イルカ?イルカって?」

「海に住んでいる魚だ。…魚?いや違うな、動物…動物だ。」

「海に住んでいるのにお魚ではないの?」

「うん、魚ではないんだ。…確か僕たちと同じく呼吸をしている、と図鑑に書いてあった。」

「そうなの…。あっ、飛んだっ。」

「凄いな…本で読んだのよりずっと凄い。こんなに大きくてこんなに飛ぶなんて…。」

「兄様も初めてなの?」

「あぁ、初めてだ。」

「…初めてが一緒なのって、嬉しい。…あっ、また飛んだ。」


 暫くイルカの群れを眺めていたが、そのうち船の進行方向と反対に消えていった。

「イルカ、居なくなっちゃった。」

「はは…そうだな。結構時間も経ったし、そろそろ部屋に戻ろうか。いい加減ライラが怒りそうだから。」

「うん、少し寒くなってきたし、温かいお茶も飲みたくなったし…戻ろう?」

 3人はライラが入れてくれる温かいお茶を求めて客室へ戻っていった。


 客室に戻り、ライラの淹れてくれた温かいお茶を飲んで寛いでいると、ルナティアはウトウトし始めた。さっきまで興奮していたことと、船の揺れとが眠りを誘っているらしい。

「ルナ、眠いのか?…着くまでにもう少しあるし、ゆっくり眠ると良い。」

 トーマスの声を聴きながら、ルナティアは意識を手放したのだった。

 そして、次にルナティアが目を覚ました時には、セイクリッド公国の港に、到着していた。




 セイクリッド公国は、小さな島国であるにも関わらず、どの国にも侵されない『神聖国』として扱われてきた。

 理由は、この世界の信仰『ラソ教』の中心地だということ、世界を救った『聖なる乙女』の生まれ故郷であることの2つにある。

 セイクリッド公国の港には、世界を救ったとされる、伝説の乙女2人と王子の像が建っている。奥に進むと、教会と併設された宿泊施設、学園と、学園を取り囲むように立ち並ぶ街がある。街はそれほど大きくないが、各国の商品が流通するなかなか良い街だ。公国の約半分は学園の敷地となっていて、12歳~17歳の各国の貴族や、魔力を持つ平民が寮生活を送りながら学園で学ぶのだ。


 教皇と学首の選別は、セイクリッド公国に伝えられる『神聖な場所』で認められた者がなる。2年に一度、現教皇と学首に合わせて、候補者数名が『神聖な場所』に行き、辿り着いた先にある『モノ』を持って帰るのだ。ただし、『資格がない』と『神聖な場所』に判断されたものは、辿り着くことさえできず、いつの間にか入り口に戻されるという。…なんとも不思議な『場所』である。


 教会には、大聖堂と宿泊施設が併設されている。宿泊施設は年に1回、この時期、『魔力測定』のためだけに解放される。施設のお世話は、『魔力測定』の時期は学園がお休みとなっているので、普段は学園内で仕事をしている者たちが行う。


 施設の部屋数は、30室くらいはあり、個別に来た各貴族は、それぞれ一部屋ずつ割り振られ、滞在中はその部屋を起点に過ごす。一部屋と言ってもそれなりに広く、一部屋の中にはベットルームが2~3部屋とリビング、ユニットバスと簡単なキッチンなどがある。勿論、食事は施設に注文をすると室内まで時間に運んでくれる。短期滞在の施設としてはなかなかなものだが、それなりの費用がかかる。

 対して各国の平民の子供達は、国ごとに集まって来るので、特に仕切りのない一部屋をみんなで使う。開けたフロア以外には、キッチンとユニットバスがあるだけだが、個別に費用はかからないし、部屋の中は絨毯が引いてありキレイなので、子供達は毎回大喜びだという噂だ。




 船からは船員の指示に従って、順に降りた。

 船を降りてすぐ目につくのは、港に建てられた『乙女と王子』の像だ。3人それぞれが片手を上げ、上げた片手を合わせ、天を仰ぎ見ている、そんな像だ。

 ルナティアは、降りてすぐ目に入った像に向かって走り出し、うっとりと3人の像を眺めていた。レグルスが後を追いかけて行くと、

「ねぇ、兄様?『暁の乙女』と『宵闇の乙女』はどっちだと思う?…こっちが『宵闇の乙女』かな?…銅像は色が無いから分からないね。」

「ははっ、ルナが“こっち”と思った方で良いんじゃないか?…ほら、どちらも美しい乙女で、僕には差が無いように見えるぞ?髪型も同じだし、顔だって…。」

「…やっぱり?兄様も同じお顔に見える?…同じお顔をしていたのかな?…双子、とか?」

「どうだろうね、確かに“双子”とかあり得そうだけど。…っと、ルナ、荷物を積み終えたようだよ。僕たちが出ないと、後の順番になって待っている方もいらっしゃるから、急ごう。」

「あ、はい兄様。」

 2人は慌てて馬車に乗り込み、教会の大聖堂へ向かったのだった。


 教会に到着すると、司祭に案内をされながら宿泊施設に向かった。途中、教会の大聖堂の中央に、また『乙女と王子像』があった。

 大聖堂の像は、港の像と違っていて、『ひとりの女性が膝をつき両手を組んで祈りを捧げる乙女の前に台座らしきものがあり、その両脇から男性と女性が両手を天に掲げている』というものだった。


 膝をつき祈る女性の前に、台座があるのに、台座の上には何もないので不思議に思い眺めていると、

「その台座には、『魔力測定』の時に、水晶がおかれるのですよ。その水晶で、魔力の有無と属性を調べるのです。」

 案内役の司祭が教えてくれ、続けて言った。

「さぁ、とりあえず、お部屋にご案内いたしましょう。…大聖堂にご興味を抱いていただけるのは嬉しいのですが、探検はお荷物を置いてから、にしてはいかがでしょうか。」

 余程ボーッとした顔だったのだろう、司祭はくすくすと笑っていた。


 宿泊の部屋に入ると、ルナティアは早速、あちこちの部屋を覗いて歩いた。

 リストランド一家が滞在する部屋は、リビングの他に個室が3部屋、いずれの部屋も大きなベッドが1つ備わっている。他には、小ぶりのキッチンとユニットバスがついている。

 個室の割り当ては、両親、レグルスとジャン、ルナティアとライラとなるのだろう。

 ルナティアがお部屋探検でウロウロしている間、レグルスは司教と話しをしていた。話しが終わり、司教が部屋を出ていくと、レグルスが

「ルナ、探検に行こう。」

 と言って、ルナティアの手を握った。

「教会の大聖堂とか、色々と見てみたいだろう?…さっきの像だって、ゆっくり見たいんじゃないかと思って、案内してくれた司教様に聞いてたんだ。立ち入り禁止の場所もあるようだけど、大体は滞在中、自由に見て回っても良いらしいよ。ここの宿泊施設に泊まるなんて、基本的には『魔力測定』の時位しかない訳だし、僕も興味あるからね。…どう?」

「(うずうず)…行きたいっ!…探検、行きたいです。」

「そうだと思った。…父上、ルナと一緒に大聖堂内部の見学をしてきても良いですか?教会から外には出ませんので。」

 子供二人の会話を聞いたトーマスとデメーテルは顔を見合わせて頷いてから言った。

「但し、ジャンも連れて行くこと。3人で行くなら問題ないだろう。」

「あの…旦那様…。お嬢様が行かれるのなら、私もご一緒したいのですが…ダメでしょうか?」

 すかさずライラが口を挟んだ。

「…ごめんなさいね、ライラ。貴女には、お荷物のお片付けの指示とお茶を用意してほしいの。…侍女たちもほとんど連れて来ていないから。」

 デメーテルが申し訳なさそうに言う。

 女主人にそんな顔をさせてしまうと、流石に頷くしかない。

「…畏まりました…。」

 ガックリとした声でライラは返事をしながら、3人を見送ったのだった。

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