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レグルスの魔力発動(過去:レグルス視点)

 僕の妹は可愛い。

 産まれた時から多分、可愛い。…僕は2歳だったからあまり覚えてないけど…。


 気づいた時には、僕の後をいつもついて来ていた。時々、転んだりするけど、泣くのを我慢して、笑顔で笑う妹をいつも大切に思っていた。


 僕が5歳のある日、母上とルナと3人で街に買い物に出かけた。その時、ちょっとしたトラブルに巻き込まれ…というか、ルナがトラブルに飛び込んでしまったことがあった。


 勿論、僕がすぐに後を追ってルナを守ることができたから良かったけど、トラブルが解決した時のルナの笑顔を見て『(屋敷の使用人たちが言っている)ルナ信者』が増えてしまった。

 今のルナの専属侍女ライラも、恐らくあの日に信者になったのだろう。…頬を赤らめていたから。


 ルナはお転婆だけどで明るくて優しい。そんなルナの笑顔に心酔してしまう者は多かった。『魔力封じ』のせいで、あまり外に出ていないのに、だ。もし、何もなくて普通に出かけていたら、もっと多くの人がルナの信者になってしまっていただろう。それは“嬉しい”ことではあるけれど、それと共に“心配”が増えてしまうことでもある。

 いつのころからか、“僕がルナを守る”といつも気合を入れていた気がする。


 僕が7歳の時、ルナティア専属侍女が付いた。街でトラブルに会った時、動けず陰から眺めていた女の子だ。あの日、陰から眺めるしか出来なかったライラも、たった2年で驚くほどに落ち着いていた。


 1年遅れて僕にも侍従が付いた。街でトラブルに会った時にも対応してくれたジャンだ。ジャンは10歳で僕と2歳しか変わらないのに、ライラ同様、大人びて見えた。

 理由は最近知った。彼らは『覚悟』を決めて戦ってきたのだ。今の僕と同じ年で、僕には『覚悟』が出来るのだろうか。そう思うと、2人のことを、少しだけ尊敬する。本当に、少しだけ、だけど。



 僕とルナティアに侍従と侍女がついて1年近くたったころ、ルナティアと一緒に遠乗りに出ることを許された。『魔力封じ』以降、邸内からの外出が禁じられていたルナティアにとって、2年半ぶりの外出だった。



 ルナティアが乗馬を習い始めて1年経つころには、僕が屋敷内で速く馬を走らせたスピードについてこられるほどの実力を身に着けていた。


 そんな妹は、7歳から一部の領内へ出かけることを許されるようになった。しかし、遠乗りとなると話が違う。

「折角、馬に乗れるようになったのに…」とがっかりしている妹を元気づけたくて、父上に、遠乗りを願い出てみた。すると思った以上にすんなりと許可が降りた。…ライラとジャンを伴うこと、という条件つきではあったが。


 遠乗りの準備はライラとジャンに協力を仰ぎ、こっそりと進めた。ルナティアの驚き喜ぶ顔が見たかったからだ。

 そしてその当日、いつもと変わらず、準備をして厩に来たルナティアに『遠乗りに行く』と伝えると、瞳を輝かせて喜んでくれた。行先は、馬で1、2時間程度ところにあるリストランド領内の海だ。

 僕とルナティア、ジャン、ライラ4人は馬に跨り、領内の海に向かって馬を走らせた。


 海に着くと、ジャンが馬を木に繋いでいる間に、ライラがシートを敷いてくれた。

 シートに座ろうかと思った時に、ルナティアがポツリと呟いた。

「兄さま、すごいね。私、海、見るの、初めて。」

「そうか、…そうだよな。ルナはほとんど邸内で過ごしてきたんだから。」

「…ねぇ、兄さま、海の水に触ってきてもいい?」

「あぁ。でも、波に足を取られるなよ?」

「はあい。」

そう言って、波打ち際に駆けていく後ろ姿を眺めながら腰を下ろした。

 波打ち際で波と追いかけっこをしていたルナが、引いた波を追いかけ、そして戻ろうとした時、急にルナが転び波にのまれた。

「ルナっ!」

 咄嗟に駆け寄ったが、転んだ場所にルナはいなかった。

 海を見ると、ルナの手が見えた。僕は無我夢中で海に飛び込んだ。泳いだことなんてない。ただ、ルナを助けたい一心だった。必死の思いが届いたのか、何とかルナの手を掴めたが、それと同時に意識を失った。


 気が付くと、海辺の木陰で横になっていた。心配そうに僕を覗くルナの顔をみてホッとした。

「…良かった、ルナ。無事で…。」

「兄さま…助けてくれたから…ありがとう…。目、覚めて良かった…。」

安心したのか、涙を流すルナティア。その隣で、ジャンが言葉をつづけた。

「本当に良かったです。レグルス様が“風”の恩恵を受けていたから助かったんですよ。」

「…風?」

「はい、レグルス様は、風魔法をお使いになられました。」

「…魔法を発動したの?…僕が?」

「はい。レグルス様が海へのまれたその直後、急に風が竜巻のようになり、海の中からレグルス様とルナティア様を掬い上げたのです。」

「…そうか……。だけど…気を失って発動なんて…。でも、お蔭で僕もルナも助かったんだから、良しとしよう。」

「そうでございますね。レグルス様、私の大切なルナティア様を助けてくださってありがとうございます。」

今度はライラが深々と頭を下げて言った。

「当たり前だ。僕の可愛い妹だぞ。僕が守るって小さい頃から決めているんだから。」


 僕とライラが、どっちがルナティアを守るか、言い争いを始めた頃、海に向かって何やらやっていたジャンが慌てて戻ってきた。

「レグルス様、もしかしたらですが…私は先ほどレグルス様が“風”の恩恵を受けた、と伝えましたが、“水”の恩恵も受けていたかもしれません。」

「…同時に二属性の魔法を発動した、ということか?」

「はい、であれば気を失ったことにも理由が付きます。」

「なぜそう思う?」

「私に魔力は、水属性です。…先ほど、風魔法で無理やり海に亀裂を入れてしまったので、水の精霊に詫びを入れようと思い、海に『清適の魔法』をかけたのです。しかし…効果がありませんでした。効果が無いにも関わらず、海は依然と落ち着いております。これは、レグルス様に海が…水が協力したと考えられるからです。」

「…ルナティアに協力したとは考えられないか?」

「恐れながら、ルナティア様は『魔力封じ』をされておりますので…。それに、貴族で魔力が強い方は、二属性以上付くこともある、と聞いたことがあります。」

「…確かに、父上も『土魔法』と『風魔法』をお使いになる。…母上は『水魔法』だったか…?」

「あくまでも、想定ではありますが…。魔力が発動したことには代わり有りません。正しい属性は、10歳で行われる『魔力測定』で明らかになると思います。レグレス様は、あと1年で『魔力測定』の時期となりますでしょう?」

「…そうか、そうだな。…そういえばジャン、君は水属性って言っていたな?学園には通わなくていいのかい?確か貴族以外でも、『魔力持ち』は学園に入ることになっていると思ったけど…。」

「あぁ…私は既に主を持っていますから、主が学園に入学する時にご一緒させていただくことになっています。…ライラもそうですよ。」

「えっ?ライラも魔力持ちなのか?」

「あ、はい。私は『闇属性』でしたので、ちょっと揉めましたが、トーマス様の計らいでルナティア様とご一緒させていただくことになっております。」

「…父上は知っているのか…まぁ、そうだよな…。」

「みんな、魔法使えるの?ルナと一緒?」

泣き止んだ後、黙って3人の会話を聞いていたルナティアが話した。

「あ…あぁ、そういうことになるね。」

僕はルナティアを安心させる為に笑顔で答えた。

「じゃ、じゃあ、学園にも一緒に行ける?」

「うん。ルナとライラは一緒だよ。…僕とジャンは2年早いけど…。」

「それでも、一緒なら嬉しい。」

そう言って抱き着く妹をしっかりと抱きかかえたながら考えていた。

(あぁ、可愛い…あと3年後、ルナが学園に入った後、ヘンな虫が付かないようにライラにしっかりと言い聞かせておかなければ…)




 あれから1年。

 今僕は『魔力測定』のため、セイクリッド公国へ両親と愛する妹と、僕の侍従、妹の侍女と共に向かっている。

(あの時は3年後、とか思っていたのに…ルナの外出許可が出るなんて思わなかった。『魔力測定』の間は無理だけど、それ以外は必ず一緒にいてルナを守らなくちゃ。ルナティアにとっては、1年ぶりの遠出だし、きっと嬉しくって羽目を外しちゃうかもしれない。なるべく余計な出会いは裂けて、ルナティアを極力、人と会わせないように注意しよう。)


 僕の膝の上で安心して眠っている妹の髪を梳きながら、決意を新たにしていたのだった。

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