選ばれし者
一部の兵と共に、レグルスが言う場所へと向かう。
確かに島らしきものの側面に、扉が見える。湖の水は随分と引き、島らしきところまで歩いていけるくらいには少なくなっていた。
扉の近くに寄ると、かなり小さい。恐らく、大の大人では四つん這いで無ければ入れないくらいだ。
「こんなに小さな入り口で大人が入れるのでしょうか。奥が広ければ良いのですが…あの扉の大きさのままで進むのはかなり大変な気がします。」
そう言いながらレグルスが扉に触れる。
「痛っ!!」
扉に触れた途端、細かい針に刺されたような痛みが指先に走り、思わず手を引っ込めた。
「見たかんじでは異変は無いけど…何か結界でも掛かっているのか。」
痛む手をさすりながら隣にいるジークリードに向かって告げているところに、反対側ルートで確認をしていたトーマスが合流して扉をじっと見つめている。
ジークリードが声を掛ける。
「リストランド卿、何か分かりますか?」
「これは…なるほど…結界かどうかは別として、この扉には確かに何かありますね。」
そう告げて、トーマスが目を閉じて手元で印を結びながら、呪文を唱える。
暫くして目を開けたトーマスが
「結界魔法の一種ではあるようなのですが、少なくとも土魔法由来の結界ではありません。属性に関係のない結界、となると…特級魔法になるのでしょうか。」
と、言い、ルナティアを呼んだ。
ルナティアが傍に来ると、トーマスが言う。
「ルナティア、この扉に触れてみてくれないか。」
「っ?!父上っ?!危険です。ルナにそんなことをさせるなんて…!」
「だが、この場で特級魔法に関わっているのはルナティアだけだろう?それともこの先に進むのを諦めるのか?」
「いえ…そう言う訳では…。」
「…リストランド卿。」
トーマスとレグルスのやり取りを聞いていたジークリードが口を挟んだ。
「私が先に触れてみてはダメだろうか。ここに太陽神の剣があるというなら、血筋の私が触れるべきかと思うのだが…。」
もっともな言葉に頷き、扉の正面をジークリードに譲る。
扉の前で深呼吸をした後、ジークリードは小ぶりな扉に触れようと手を伸ばした。しかし、伸ばした手が扉に触れたはずなのに、すり抜けて手だけが扉の中に消えている。
「これは…どうしたら良いんだ?」
扉に手を吸い込まれたまま、隣にいるレグルスとトーマスを振り返って聞く。
「と、とりあえず扉から手を抜いておいた方が…。」
慌てた声でレグルスが言うと、「そうだな」と言って慌てて手を引き抜いた。
そのやり取りをを見ていたトーマスが
「ふむ…、人による、ということなのでしょうか。それなら、ここに来た全員が扉に触れた方が良さそうですね。…では私から…。」
と言って扉に手を伸ばす。――その手は、バチッという音とともに弾かれた。
「俺もダメ、ということか…。レグルス、ここに居ない者達も連れて来てくれ。取り敢えず、ここに居る者達は順に扉に触れてみてくれ。」
トーマスの指示の通り、その場にいた数名が順に扉に触れる。その度に、バチッ、バチッと弾かれていく。
その場に居る兵達が全員、試してみた後、ルナティアの順になった。
弾かれるのを覚悟してギュッと目を瞑りながら、恐る恐る手を伸ばす。
「……。」
周囲に沈黙が広がる。
弾かれる時の痛みが何時まで経っても来ないことに、ルナティアはゆっくりと片目を開ける。眼前には、自分の手が扉に吸い込まれている光景が映っていた。
その後、後から来た兵士達も同じように扉に触れてみるが、全員、弾かれてしまい、結局、扉を通り抜けることが出来そうなのは、ジークリードとルナティアの2名のみだった。
それからは2人が扉の中に入るための準備を急ぎ行う。
扉が現れている時間は限られている。その限られた時間の中で戻ってこられなければ、扉はまた湖に沈んでしまう。万が一、そうなった時も想定して準備は進められた。
「何でルナティア嬢も?殿下は分かるよ、伝説の通りなら創世の神の血筋なんだろ?だけどルナティア嬢は違うだろ?それに血筋というなら、御父上のリストランド卿とかレグルス様も選ばれるはずだし…。」
カエラも同じように扉に触れたが弾かれた一人だ。ルナティアが宵闇の乙女だということを知らないカエラは当然の如く疑問を口にした。
「え…な、何でだろう…私にも分かんない…。」
誤魔化そうと答えるも、良い答えが浮かばない。
当然、カエラの疑問を聞いた兵達も、確かに、と疑問を口にし始めた。
すると、その様子を少し離れたところから見ていたジークリードが来て、
「当たり前だろう、私が想いを寄せている女性なのだから。太陽神がきっと祝福をくださるのだろう。」
と、ルナティアの肩を抱き、兵達に公言した。
少しの沈黙の後、兵達は「うわぁ!」と盛り上がった。
ルナティアの隣に居たカエラは口を押さえ赤面している。
当たり前だが肩を抱かれているルナティアは、赤面したまま固まっている。自覚した上に、肩を抱かれ再度の告白…。完全に頭はショートしている。
騒ぎに気付いたレグルスが飛んできてジークリードからルナティアを奪う。
「ダメ、駄目だよ、ジーク。まだルナはやらない。あげないから!」
その様子に周りの兵達から「えーっ!!」と、ブーイングが入る。
「なんて言われても、まだっ!ルナはまだデビュタントもしてないのに、道を決めるなんて…認めないよ!」
ぎゅっとルナティアを抱えて抱きしめているレグルス。その腕の中で兄の叫びにも似た言葉を聞いていたルナティアはだんだんと落ち着きを取り戻し、その腕の中から出ようともぞもぞと動いている。だが、しっかりと抱えられた腕の中からはなかなか抜け出られずにいた。
隣にいるジークリードが半ばあきれ顔でレグルスに耳打ちする。
「レグ…。そんなの当たり前だろ?俺だって強要したいわけじゃないから安心しろ。…周りの皆も…取り敢えず大事にせず見守っていてくれると有難い。なにせ私の一方通行なのだから…。」
冷静に周囲に向けて言うジークリードの言葉に、レグルスも正気を取り戻し、ルナティアを抱きしめる腕を緩める。
そこへ準備の指示をしていたトーマスが指示を終えて来た。そしてため息を吐きながら言う。
「全く…何事かと思えば。レグルス、真っすぐなのがお前の利点ではあるが、周りの状況を見て、裏の裏を読むようにならなければな。」
トーマスの意味深な言葉を聞き、兵達はジークリードが言った言葉がどこまで本当なのか、分からなくなってしまった。…カエラとレグルス以外は。
ひと悶着の後、なんとか2人を扉の中へと送り出したトーマスが、小さな声で呟いた。
「結局、太陽神の剣に許されたのは、血筋と乙女のみ、ということなのか…。」
その言葉は隣に居るレグルスにだけ、聞こえていた。
結局、年末に1話上げる予定が遅れてしまいました。予定は未定、ですね。取り敢えず…
「明けましておめでとうございます。
皆様にとって素晴らしいことが沢山訪れますように…。」
いつも訪れてくれてありがとうございます!




