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―ルナティア&オリガルside-

 完全防御魔法の魔石使用を感知してから、テント内に入ったルナティアは使用されたと思われる先に連絡を試みる。魔石に込めた自身の魔力を辿って繋ぐ。


「…き…ますか?どな…聞こえ…すか?」

「??」

「聞こえますか?どなたか…聞こえていますか?」

「…聞こえるが…誰だ?」

「…。その声は…、やっぱりオリガル様ですね。」

「っ!その声は、ルナティア嬢か?!でも、どうして…。」

「私の魔力を注いだ魔石ですから、魔石の魔力を辿って通信しています。なので、あまり長い時間は話せません。単刀直入にお伺います、今、どの辺りですか?」

「リートニア港を出て、魔物に感知されないようにゆっくりと進んでいた。時間を考えると…多分、セイグリット公国の港との中間の当たりだと思う。」

「では、風魔法を使ってスピードを上げれば、3時間程度で公国に着きますよね?」

「あ、あぁ多分。だが、風魔法を使うとなると魔物に感知される確率が上がってしまう。風魔法を使う者は戦いに参加出来なくなるし、今だってギリギリで戦っている状況なのに、これ以上魔物に寄ってこられると…。」

「でも、このままでは魔石の完全防御魔法が切れたらお終いです。切れる前に何とかしないと…。攻撃は最大の防御、と言いますよね?」

「それはそうだが…。攻撃に徹するのは無理だ。防御魔法が切れる前に姿隠しの魔法を中に掛けようと風魔法の使い手たちが魔力を溜めている所なんだ。」

「そんなこと…!…私に考えがあります、オリガル様。まず、魔石に込めた防御魔法を解き、その後に魔石の魔力を媒介として私がココから完全防御魔法を掛け直します。それなら攻撃に専念できるでしょう?タイムリミットは無くなるのですから…。魔石は船の中心部、誰にも邪魔をされない場所に置いてください。それから風魔法を使える方に最大の高速魔法を船に掛けさせて、一刻も早く公国へ到着するように指示をしてください。それ以外の魔法士の皆さんは、全員で襲って来る魔物へ攻撃を掛けてください。」

「遠隔での完全防御魔法を掛けるなんて…そんなことが、出来るのか?」

「出来る、出来ないじゃないです。()()のです。」

「っ!!」

 ルナティアの決意の籠った発言に圧倒されたオリガルは、もはや口を挟むことも出来なかった。

「大丈夫、防御魔法を掛けてあったとしても、内側からの攻撃は通過しますから。…オリガル様、今から合図をして5分後に魔石の防御を解きます。それまでに先ほどの指示を終わらせてください。それと、魔石の防御が解かれた後、新しい防御魔法が掛かるまで、少しの時間、防御が無い時間が発生します。そこだけ持ちこたえて下さい。」

「分かった。」

「ご武運を。…では、お願いします。」


 ルナティアの合図で、オリガルは駆け出した。

 まず、船の床下にある動力部に行き、魔石を誰も通らないだろう場所に置く。その後、甲板に上がり、魔法士全員を集め、風魔法を使える者とそうでない者に分け、指示を出す。一部の魔法士から質問も上がったが、今は答えている余裕はない。何しろ()()()()()()のだ。

「不思議と思う者も居ると思うが、俺を信じてくれ。全て乗り切ったらちゃんと説明をする。今は、俺を信じて指示に従ってくれ。」

 その言葉に、魔法士全員が頷き、指示の通りに配置に着いた。


 風魔法士は動力部近くで高速の魔法を唱え始めたところで、ちょうど5分が経ち、魔石の完全防御魔法が切れた。

 上空に飛ぶ、飛行魔獣が一斉に船に向かって飛んできた。同時に、風の高速魔法を感知した海洋内の魔物も集まって来る。

(本当に大丈夫なのか?…いや…不安なのは俺だけじゃない。理由も聞かされていない魔法士の方が不安なはずだ。彼女も言っていただろう、「出来る、出来ないじゃない、やるのだ」と。ならば…!)

 オリガル渾身の火魔法を上空に向けて唱える。それは船に向かって飛んでくる第一陣の飛行魔獣を焼き払うに十分な火力だった。

「やった!やはり若くても団長は凄い方なんだ…!」

 喜ぶ魔法士に向かって、オリガルが叫ぶ。

「まだだ、来る!!」

 飛行魔獣の第二陣がすぐに船に向かって飛んできている。飛行魔獣の爪が、船先に配された若い魔導士に向かって振り下ろされる。

(くそっ、間に合わないかっ?!)

 その瞬間、船の中心部からぶわっと防御魔法が広がり、魔獣の爪先を弾いた。弾かれた魔獣は、数メートル上空に飛ばされ、飛行魔獣自身、何が起きたのか分からない様子だった。


 もうダメだと思って目を瞑っていた若い魔法士も、いつまで経っても訪れない痛みに恐る恐る目を開けると、一定の距離から中に入れず、悔しそうに外部から攻撃を続けている飛行魔獣の姿があった。

「こ、れは…一体…?」

 茫然と呟く若い魔法士に、オリガルが戒める。

「ぼーっとするな!まだ戦いは終わっていない、気を抜くな!!」

「は、はい!」

 若い魔法士は、周りを見回す。他の魔法士が唱えた攻撃魔法が空を飛ぶ飛行魔獣にあたっているのを確認し、自身も攻撃魔法を唱え始めた。


 空を飛ぶ飛行魔獣は、内側からの攻撃魔法を受け、少しずつ数を減らしていく。撃ち落された飛行魔獣は海に落ちる。落ちた飛行魔獣には海洋魔物が飛びかかり、海は血の色に染まった。どうやら撃ち落された飛行魔獣をエサとして食べているようだ。

 その様子を見た魔法士たちはゾッとした。書物では魔族や魔物の特性を知っていたが、目の当たりにすると吐き気がする。何人かの魔法士はその場で吐いてしまった。

「今は上空の飛行魔獣だけに集中しろ!他は見るなっ!!」

 オリガルが注意を促す。その声に何とか持ちこたえている魔法士たちは頷き、また攻撃魔法を放ち始めた。

 攻撃魔法を打っても打っても、次々寄ってくる飛行魔獣はなかなか殲滅(せんめつ)出来なかった。


 攻防が1時間近く経った頃、何処からともなく、ピューという笛の音が聞こえてきた。それを合図とするかのように、残った飛行魔獣たちは一斉に上空へと飛び上がり去って行った。


「…助かった、のか…?」

 ひとりの魔法士が呟くと、周りの魔法士たちが一斉に喜びを露わにした。

「いや、まだだっ!!」

 魔法士たちの喜びを打ち消すように、オリガルが大声を上げた。

「海洋の魔物がまだ居る!気を抜くな。奴らは今、飛行魔獣エサを食べるのに夢中だが、食べ終わったらこちらに矛先を向けるだろう。奴らが飛行魔獣エサを食べている間に、なるべく遠くへ船を進めるんだ。戦える者は船の後方を中心に隊を組め。傷を負った者は手当てを受けろ。」

「「「はいっ!!」」」

 その間も、船は通常のスピードの更に倍のスピードで進んでいた。


 流石、風魔法の高速魔法を一斉に受けているだけのことはある。普通の海洋魔物であれば追いつくことは不可能だろう。だが、言い換えれば、もし、追いつくような海洋魔物が居た場合は、とてつもなく強い可能性がある、ということだ。

 ピリリとした緊張感の中、超高速の船は公国を目指した。


 公国まであと2時間。

 ――何とか海洋魔物からの追撃を受けずに到着したい。

 誰もがそう願っていたにもかかわらず、あと少しの位置で後方から水しぶきが上がっているのが見えた。水しぶきは段々と近づいてくる。どうやら追いつくような海洋魔物が居たらしい。…いや、もしかしたら飛行魔獣を()()()()()()()()したのかも知れない。

「戦える者は構えろ。…メテオ殿、弓や槍に長けている者は居ますか?」

 オリガルが問うと、

「勿論。最後尾で既に構えさせています。いつでも行けますよ。」

 待ってましたとばかりに第四騎士団の一個小隊長メテオがにやりと笑って答える。

「頼もしい。矢が当たれば、暴れる姿が海上に見えるでしょう。そこを攻撃魔法で叩きます。」

「矢だけでも倒せると思いますが…。万が一近くまで来ても槍に長けた者が応戦します。」

「ですが、奴らは()()()()()()()()しています。捕食した魔物が更に強くならないとも限らない。確実に藻屑にしなければならないのです。」

「…なるほど…分かりました。とどめはお任せします。」

「では…攻撃の指示をお願いします!」

「…構えっ、…打てっ!!!」

 メテオの声に、後方の弓矢部隊が一斉に矢を放つ。矢の数本が追いかけてくる海洋魔物に命中すると、姿が見えなかった海洋魔物が暴れて半身が海上に現れた。

 見える上半身は、顔の部分が魚で身体が人だった。

 人魚と言うべきか半魚人と言うべきか、いずれにしても魚の顔の口は大きく裂け、口の中は牙だらけの魔物であることに変わりはない。

 弓矢隊の後方から、火魔法と雷魔法の複合魔法が放たれ、海上で暴れる海洋魔物に命中し、海洋魔物は暴れながら焼かれ海の藻屑となって消えた。


 それ以降は付近の魔物が風魔法の存在に気づき、何体か襲ってきたが、難なく撃破し、無事に公国の港へとたどり着いたのだった。



 公国へ船が着いたのを確認して、ルナティアは遠隔での完全防御魔法を解除した。


「…良かった…。」

 がくりと倒れ込むルナティアをライラが受け止める。

「大丈夫でございますか、ルナティア様。」

「ん…ゴメン、もう力が入らないみたい。魔力を使いすぎちゃった。…ライラ、悪いけど、お兄様達に伝えて…。オリガル…さま、は…ぶじ、こうこくへ、つい…た、って…。」

 それだけ言うと、ルナティアは意識を手放した。


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