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合流

 魔法省を後にしたルナティアは、急いで準備と着替えを行い、王妃(ティティス)と約束をした、別宮に向かうと、そこには既に、魔法省(クリスティ・)長官(ノーランド)王妃(ティティス)が待っていた。

 魔法省(クリスティ・)長官(ノーランド)から魔法石が入った魔法鞄(マジックバッグ)を受け取ると、例に漏れず目隠しをされて別宮の地下へと向かった。どうやら王室用の転移魔法陣の元へ向かう道はいくつかあるようだ。

 今回は何故か目隠しされたまま転移魔法陣に乗り、転送に入る。もちろん、王妃(ティティス)と一緒に、だ。

 相変わらずのぐるぐるが収まると同時に、王妃(ティティス)と繋いていた片手が両手で包まれる。

「目隠ししたままでごめんなさいね、ルナティア嬢。世界かこんな風になっているのに、わたくしは何も出来なくて無力だけれど…貴女が無事に帰ってくることを心から祈っているわ。世界のため、などと言って無理をしてはダメよ?絶対、絶対に無事に戻って元気な姿を見せてね。…そしてジーク。貴方は命を懸けてルナティア嬢を守ると、誓いなさい。でなければ、この手は渡せないわ。」

「王妃様?!」

 王妃(ティティス)の言葉に、流石のルナティアも口を挟んだ。大国の王太子が自分のために命を懸けるなど、しかもそれを誓え、だなんて、王妃(ティティス)自身も自分の息子(ジークリード)に言うとは思わなかった。

「もちろんです。…我が身に変えても、宵闇の乙女をお守りいたします。」

 王妃(ティティス)が居ると思われるその先から、ジークリードの声が聞こえる。

「…その言い方は少し不満ですが…まぁ、良いでしょう。」

 王妃(ティティス)はそう言うと、ゆっくりと握っていたルナティアの手を導きながら離し、ジークリードに引き渡した。


「それでは母上、俺たちは隊へ戻ります。お見送りできず、申し訳ございません。」

「いいえ、詫びる必要はありません。わたくしはもう少し待てば飛べますから気にしないでお行きなさい。」

 そう言う王妃(ティティス)に別れを告げて、ルナティアの手を引きながらジークリードはその場を去って行った。その背を見送りながら、

「…ああは言ったけれど…ジーク、貴方も無事で帰って来るのよ…。」

そう呟く、(ティティス)の声は2人には聞こえなかった。



「ここまで来れば大丈夫だ。…目隠しを外すぞ。」

 王妃(ティティス)と別れて暫く歩いた後、立ち止まったジークリードが声をかけ、ルナティアの目隠しを外す。

「…身体は大丈夫か?無理はしていないか?あ、いや、無理はしたな。たった3日で100名以上分の付与魔法を行ったのだから…。」

 そう言いながら、ほとんど無意識にルナティアの頬に手を添えようとした時、

「ルナティア様っ!!」

 近くで待機を言い渡されていたライラが駆けてきた。


 慌ててジークリードが手を下げる。そんなことにも気づかないライラは、ルナティアに抱き着いた。

「ご無事で…良かった。王城に居ると思っても離れていると不安でぇ…。」

 ()()()()、ライラを撒いたことがあったせいか、離れて過ごすと以前にもまして過保護になってしまったライラの顔は、涙で濡れていた。

 そこまで不安にさせてしまった原因は、過去の自分にあると思ったルナティアは、ライラの背に手を伸ばし、ぽんぽんと撫でながら、

「ごめんね、心配かけて。これから先はライラと一緒に居るから安心して。」

と、(なぐさ)めた。


 2人のやり取りを暫く眺めていたジークリードが、背後から声をかける。

「取り敢えずライラが来たなら大丈夫だな。俺は先に隊へ戻る。レグルスには俺から無事に合流したと伝えておく。今頃、ウロウロしているだろうから…。今夜は、教皇殿の計らいで、教会内で休めることになっているから、ルナティアは部屋でゆっくり休むといい。」

「はい。あの…で、殿下、ありがとうございました。」

「…部屋で代理役(ニーナ)も首を長くして待っているだろう?初日からガチガチだったからかな。教皇殿が同行してくれていて助かったが…早く戻ってあげるといい。それじゃあ、また明日、朝食の席で。」

 そう告げると、片手を上げてジークリードは先にその場を後にした。


 ルナティアも、ライラが落ち着くのを待って、ライラの案内で教会内に用意された部屋へと向かった。部屋では、ジークリードの言ったように、ニーナがルナティアの変装を解き、

「良かったですぅ…お嬢様が来てくれて。もう、本当に限界だったんですぅ。お嬢様の代役はやっぱり私には荷が勝ちすぎますぅ…。」

と、涙を浮かべながら待っていた。


 翌朝、ルナティアは支度をしてライラに案内された朝食の場に向かう。

 出征後は、教皇様のお世話をする名目で、ほとんどの時間を教皇様と共に過ごしていたため、隊長たちと食事は別に摂っていた。

 昨晩、ニーナに出征後のルナティアの行動と、ルナティアが()()()()()()()()()()を一通り聞いて確認は済ませているが、不安は否めない。だからこそ、出征後、他の隊の騎士たちと()()()()()()()をジークリード、レグルスがフォロー出来るよう、朝食の席にしたのだ。

 因みにだが、王城で行われた()()()()()()()()()()は、ルナティア本人が出ていたので、各隊長、小隊長達は、一応、()()()()()()()()()は知っている。


 食堂の入り口で立ち止まり深呼吸をしていると、背後から声を掛けられた。驚き振り返るとにこやかな表情の教皇が立っていた。

「おはようございます。…えぇーっと…リストランド嬢?…ですよね?」

「はい、間違いございません。おはようございます、教皇様。」

「そうですか、無事に合流できたのですね。良かった良かった。ところで、こんなところで何を?…あっ。」

 少しもじもじしているルナティアを見て、察した教皇が微笑みながら手を差し出しながら言う。

「…宜しければ私と一緒に参りましょうか。淑女(レディ)、お手をどうぞ。」

 その仕草があまりに自然だったので、ルナティアは思わず、()()()手を重ねてしまった。


「ふふっ、()()()()()()()()()()()()()()とは思いませんでしたよ。…そんなに不安がらなくても大丈夫ですよ。むしろ、()()()()()()()()()()()()()()()()()のですから、堂々としていれば良いのです。…さぁ、では食事の場へ向かいましょう。」

 そう言って、教皇はルナティアを食堂へと誘った。


 ドアを開け、食堂に入ると一斉に視線が集まった。

 初めて食事を同席する、()()()()()()()()を見定めようとやや厳しい視線が注がれていたが、隣に教皇様が居ると分かると、厳しい視線はあっという間に無くなった。

(教皇様の存在ってやっぱり凄いわ。この場では教皇様が居てくださったから受け入れた()()()()()()()()()()ということね。…つまり、公国を出た後は、私はあの視線を受けながら()()()()()()()()していかなければならないということなんだわ…。)


 今回の太陽(ソール神)の剣の探索と魔物討伐は本来、王族と騎士が担う、()()()()()()()()()()()()()だ。普段、厳しい訓練を行っている騎士たちからすれば、そこに、学生であるレグルスやオリガルが加わるだけでも、不満でしかない。正直、レグルスやオリガルに対してさえも『()()()()』と思っている者も多いだろう。それをレグルスとオリガルは出発前に実力で証明して見せたが、ルナティアにはその証明する機会も時間も無かった。

 王城で討伐探索隊に参加する者が正式に決まったのは、出征の1日前、正しく言えば、半日と数時間前だ。

 レグルス達が実力を証明している時間、ルナティアは宵闇の乙女として、自室で暁の乙女(リリー・グレシャ)に魔力を送っていたし、翌朝も、顔合わせを済ませた後は、精神防御魔法を魔石に付与するため、すぐに魔法省へ向かってしまった。そしてその後は、ニーナがルナティアの姿を模してフードを被り、教皇様と共に過ごしていた。教皇には事情を説明したが、同行する騎士達からすれば、何の証明もなく同行する令嬢(ルナティア)は、不審人物以外の何物でも無かった。


 自分が()()()()()()()()()()()()()()()()()。親のコネにして兄達に守ってもらえば楽ではあるが、それでは共に討伐探索隊として来た意味が無い。自分の役割を果たすためにも、やはり実力で証明するしかないのだ。

 改めて自分の置かれている立場を認識し、自分自身を奮い立たせ、一礼して席へ座る。


 全員が席に着いたのを確認すると、ジークリードが改めて話し始めた。


「出征が急だったのもあって、()で食事の席につくのは初めてだな。ここ、公国を出ると、このように落ち着いて食事を摂ることもなかなか出来ないだろう。教会と教皇殿のご厚意に心から感謝し食事をいただくように。」

 一同が頷くのを確認すると、ジークリードが教皇に一言述べるように依頼した。

 教皇はすっと立ち上がり、

「皆様には、私を公国まで送って頂き有難うございます。また、リストランド嬢には道中の私の世話をして頂きました。この場をお借りしてお礼を言わせていただきます。…さて、これから先の道中が本番となると思いますが、今日、この席くらいは緊張を解き食事を楽しんでください。先の道中、皆様にソール神の祝福があらんことを…。」

 そう言って両手を組み祈る教皇の姿に、真似て全員で祈りを捧げた後、その場の全員が食事を摂り始めた。


 食事も後半になったころ、ジークリードが今後の討伐探索の道のりについて全員に伝え始めた。

「公国を出立後、オセアノ国の港から(つい)の大陸へ入る。オセアノ国からも派遣隊が組まれることになっているから、港で派遣隊と合流した後、ファケレ国に入るのだが…、()()()()()()()はオセアノ国と合流後に決めることにする。今回、最初の目的地は、ファケレ国の北東の祠だ。」

「そこに、太陽(ソール神)の剣があるのですか。」

 第四騎士団長のアーネス・ルドが聞く。

 それに対し、ジークリードは首を振った。

「いや、そんなに簡単であれば、太陽(ソール神)の剣はとっくに魔族に奪われているだろう。まぁ、北東の祠自体は()()()()()()()()()()()()ようだから、ファケレ国としても調()()()()()()のだろうが…。とにかく、ファケレ国の北東の祠には、暁の乙女に関する()()がある、らしい。まずはそれを手に入れる。」

「あの…、発言をお許しください。…地図に明記されていない祠の場所をどのようにして見つけるのですか?」

 恐る恐る、第四騎士団の女性部隊小隊長のパメラが発言する。もっともな質問に、ジークリードの言葉が詰まる。

 察した教皇が。、

「それについては私から…。」

と、神託として授かったと説明した。

 教皇とは、定期的にジークリードが通信魔法を使用して連絡を取り合うと()()()()()()()説明をしてくれた。教皇がこちら側の事情を知っていてくれたことがこれほど心強いとは思っていなかった。


 無事に一通り説明が済むと、各自、出立の準備のためそれぞれが席を立ち始めた。

 ルナティアも席を立とうとした時、()()()()()()()()ジークリードが呼び止めた。

「ルナティア…嬢は、先に船に向かってくれ。手を掛けさせてすまないが、防御系の魔法を施してくれないか?」

「防御系の魔法、ですか?」

「あぁ、大国を出る時にはリストランド卿に頼んだのだが、公国に着いて荷下ろしをするときに解除をしてしまったから、新たに魔法を掛けなければならない。そうしなければ、オセアノ国までの海路で魔物に襲われてしまうだろう。もちろん、負けるようなことは無いが、無下に戦うことも無いだろう。まだ一般科だが、レグから()()()()()()()()()()()()()()()()()()。…土の防御系魔法でそれなりに強固な魔法を掛けることは可能だろうか。」

 席を立ち食堂から出ようとしていた数名の騎士たちが立ち止まりこちらを見ている。…ルナティアが役に立つのか、それともただの冷やかしなのかを探っているのだろう。ただ、上級魔法書を手にしていると聞いている、と言うジークリードの言葉に、驚きの表情が混じった。

 そんな視線を横に感じながら、

「かしこまりました。防御系の魔法は、物理防御と魔法防御を掛けて準備しておきます。」

と、堂々と答えたのだった。

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