表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/160

闖入(しんにゅう)者

 謁見の間の奥に進むと、玉座に座するシルエットと、その隣にもうひとつのシルエットが見えた。

 玉座に座すると思われる国王陛下に敬意を表すべく、ルナティアは(こうべ)を垂れて前へと進み、ジークリードの発言を待つ。


「陛下、夜分に申し訳ございません。どうしても急ぎ、()()()()()()()()()()()()がございまして…。」

 ジークリードの言葉に、陛下が玉座から降りながら声を掛ける。

「ジークリード。確かにここは謁見の間であるが、ここに居るのは私ともう一人のみ。()()()()というのであれば、今、この場は国王と王太子でなく、()()()()()()話をしようではないか。」

 そう言いながら2人の前まで来ると、人懐こい笑顔をルナティアに向けて言葉を続ける。

「…ルナティア嬢、久しいな。元気だったか?」

「はい、大国の陽の象徴、国王陛下に置かれましては――。」

「…堅苦しい挨拶は要らんと言っているのに…。」

 ルナティアが頭を垂れたまま、大国の陛下に対する挨拶を言うと、少し呆れたような声で挨拶を切り、更に言葉を続ける。

「…誰に似たのか…見目はデメーテルと大祖母様にだが、性格は()()()か?」


 ――()()、とは…?


 素朴な疑問を持っていると、『お前』と呼ばれたらしき人物が話し始めた。

「お褒めに預かり光栄です。」

 聞き覚えのある声に、ルナティアは思わず顔を上げてしまった。

「お父様?」

「ルナティア、久しいな。3か月ぶりくらいか?」

 目の前には、微笑む父の姿があった。

「お久しぶりでございます。…というか…、お父様は、()()()()こちらに…?」

「陛下からひとつ仕事を頼まれていてな、その報告に昨日…いや今となっては一昨日(おととい)か、来ていたのだが…、陛下から、殿下がお前を連れてくる、という話を聞いて待っていたんだよ。…この先、俺も魔物討伐に行く可能性もあるし、なかなか会えなくなるかもしれないと思ってな。」


 大国一の戦闘能力を持つトーマスに、魔物討伐の指令が下らない訳がない。そして、討伐に出ればいくらトーマスでも無傷で帰ってくる保証もないのだ。


 トーマスがルナティアと話している間、アレンとジークリードは小声で何やら言い争っていた。それに気づいたトーマスがアレンに向かい一礼して一歩下がる。


「相変わらず融通の利かない奴だ。…まぁいい。それで、ルナティア嬢。()()()()とは何だ?…(トーマス)が居たら言いづらいか?言いづらいなら離席させるが…。」

 アレンが言う隣で、ジークリードが少し申し訳なさそうな顔をしている。

 多分、陛下(アレン)が勝手に(トーマス)を呼んだのだろう。それも、親子の対面と思い、良かれと思って。


(大丈夫、陛下に打ち明けると決めた時から、お父様にも伝えなければ、と思っていたことだもの。)

 そう考え、ジークリードに笑顔を向けた後アレンに向き直り返事をした。

「いえ、父に同席いただいても問題ございません。むしろ、()()()()()()()()()()()()()()かもしれません。」

「そうか、それは良かった。して、話は?」

 勝手に呼んでしまった手前、少し心配でもあったのだろう、ホッとした表情をしながらアレンが答えた。

「父上。ルナティア嬢の話を聞く前に、防音魔法をかけたいのですが。」

 話を一旦切り、ジークリードが口を挟んだ。


 許可を得て、ルナティアが防音魔法をかける。すると、アレンとジークリード、トーマス、ルナティアの4人を見えない壁のようなものが囲う。

 アレンがルナティアの鮮やかな手際に感心していると、準備が出来たルナティアが、

「陛下とお父様に()()()()()()()()()()がございます。」

と言い、おもむろに胸元のリボンを解き、胸元に刻まれた()()()()を見せた。


 アレンとトーマスは、ルナティアが見せた(それ)を見て、言葉が詰まった。詰まりながらアレンはトーマスの表情を窺うように見ている。その様子に気づいているのかいないのか、先に言葉を発したのは、トーマスだった。


「…ルナティア、(それ)のことは…レグルスは知っているのか?」

「はい。ライラも知っています。…多分、ジャンも。」

レグルス(あれ)は何と?」

「…。」


 沈黙は、ルナティアの行動と反対を意味するのだろう。

 はぁ、とため息を吐いた後、低い声でトーマスは質問を続けた。

「…それなのに、どうしてお前はここに来た?それに…殿下、貴方様はどうして…。」

「お父様!殿下は関係ありません。殿下は…殿下は、私の我が儘を聞いてくださっただけです。」

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でジークリードを見つめるトーマスに対し、ルナティアがジークリードの前に庇うように立つ。


 それまで、無言だったアレンが口を挟んだ。

「トーマス。…聞いているとお前の言葉からは「()()()()()()()()()()()」とも聞こえるだが…?」

「っ…それは…。」

「まぁいい。家族なら、しかも愛娘ならそう思うのは当然だろうからな。それに、今はただの()()()()()()()()話をしている。不問にしよう、気にするな。…ときに、ルナティア嬢。」

「はい。」

(これ)()()()()()()、ということはどういうことか、話してもらえるかな?」

「はい。…この紋が我が身に刻まれた時、意識の中で女神(ステルラ)様にお会いしました。その中でお聞きしたことをお伝えした上で、()()()()()()()()のです。」

 アレンを見つめ、凛とした姿でルナティアが話し始めた。


 ――ルナティアから聞いた話は、過去の王室に伝えられている伝説と異なることがいくつかあった。

 そもそも暁の乙女と宵闇の乙女は、()()()()()()()()闇の浸蝕(しんしょく)を防げないとされていた。だが、その言い伝えが()()()()()によって(くつがえ)るという。しかも虹色の魔石を使用することで、宵闇の乙女が()()()()()()()()()()()()()かもしれない、というのだ。


 一通り話を聞いた後、アレンは頭を悩ませた。

 若かりし頃から憧れたトーマスの愛娘、ルナティアの言葉を信じない訳じゃない。そもそも、()()()()()()()()()()()宵闇の乙女を探すことに、乗り気では無かった。それが()()()()()()()()()()()()()があるかも知れない、というのなら信じたい。だが、ルナティアの話を()()()()()()()()以上、周りの者たちを納得させられないのだ。納得させることが出来なければ、当然、虹色の魔石を渡すことも出来ない。虹色の魔石(あれ)はクレオチア大国の()()()()()()()とされる。…唯一救い(?)なのは、存在を知っている者が僅かである、ということくらいか…。


「…ジークリード。」

 考え事をしていたアレンがふと思いついたように声をかける。

「はい、父上。」

「今更だが…お前は何故、ルナティア嬢をここに連れてきた?王太子としての使命か?」

「…いいえ。むしろ私は…、隠蔽(いんぺい)出来るのならしたいと思っていました。ですが…ルナティア嬢が…例え助かったとしても代わりに他の者が傷つくなら、二度と心の底から笑えない、と言ったので、()()()()()()()()()()()です。…本当は今でも隠せるなら隠したい。でも、それ以上に彼女の笑顔を守りたい。そのために私が出来ることは全て行うつもりです。」

 アレンの質問に、迷いのない瞳でジークリードが答える。

 アレンは黙ってジークリードを見つめた後、

「全く…。()()()()()()()()()()()()()()だな。王太子としては失格の発言だが…お前自身の気持ちは分からないでもない。…となると…問題は他の者をどうやって説得するか、だな。」

と、再度考え始める。

 丁度その時、急にトーマスが後ろを振り返った。


「どうした?」

 トーマスの動きにアレンが尋ねる。

「アレン様。謁見の間(ここ)に他の誰かを呼んだりなどしておりますか?」

「いや、人払いをしてある。誰も入れない筈だが…っ!?」

 アレンも途中で言葉を止め、トーマスが振り返った先を見つめた。

 そしてアレンが言葉を止めたのと同時に、ジークリードとルナティアも同じ方を見つめた。


 明らかに『誰か』が居る。そして誰か(それ)がこちらに向かって来るのをその場の全員が感じていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ