それぞれの乙女
寮館長が去った後、シエルが人型になって現れた。
「さっきの話、ホント?乙女…暁の乙女が現れたの?誰?」
シエルの質問にジークリードが答える。
「…リリー・グレシャ嬢だよ。」
「そうなんだ。…ま、予想通りだよね~光属性だし。でも、魔力が弱すぎるよ…これじゃルナティアが――むぐっ。」
「っ!!」
シエルの口をライラが塞ぎながら、『その話はしないで!後で理由は言うから。』とシエルに耳打ちする。
「…ルナティア嬢がどうしたんだ?」
何も知らない振りのジークリードが尋ねると、慌ててレグルスが口を挟んだ。
「いや、リストランドのことだから気にしなくていい。…それよりルナ、さっき銀色に光った光は一体何だったんだ?」
話を変えたい様子のレグルスを見てジークリードは、ルナティアが言っていた通り、反対、しているのだな、と思ったが、取り敢えずそれ以上は突っ込まず、レグルスの質問に乗ることにした。
「あぁ、銀色の光は俺も気になっていた。というか銀色だから、と、勝手にルナティア嬢に結びつけてしまったのだが、あの光は本当にルナティア嬢が原因なのか?」
「あ…、えっと…。」
返答に困っていると、すぐ近くでライラの「あっ!」という声が聞こえてきた。見ると、さっきまで口を塞いでいたはずのシエルの姿が無い。どうやら妖精姿に戻ってしまったようだ。
『本、見せて見たら?大丈夫、魔法書は持ち主の所に戻ってきただけだから気にすることないと思うよ。』
今は妖精の姿になっているシエルがルナティアに耳打ちする。ルナティア以外には姿は見えないし、言葉も聞こえない。…ジークリードだけ光として感じてはいるようだが…。
迷いながらシエルの言葉に小さく頷き、ルナティアが口を開いた。
「あの光の正体は…説明より現物を見てもらった方が早いと思うので、ちょっと待っていてください。今、持ってきます。」
そう言って私室に戻り、表表紙が銀色になっている本を手に取り持ってきた。
ルナティアも本を手にして初めて気づいたのだが、背表紙と裏表紙は七色に染まり僅かに光を放っていた。
「これです。これがあの光の原因、だと思います。」
そう言いながら持ってきた表表紙が銀色の本を差し出した。
差し出された本をレグルスが受け取った途端手、また、一瞬目映く光り、次に目を開けるとただの黒い古い本になっていた。
「…この本は一体…?」
レグルスが本を言葉に、ルナティアも目を丸くしている。
「そんな…また真っ黒な古い本になるなんて…。どういう経緯でこの本が私の手元に来たのかは分かりません。気づいたら私の机の中に…。でも、また元の真っ黒な古びた本になるなんて…。」
「ルナティア嬢。もう一度、君が本を持ってみてくれないだろうか。」
様子を窺っていたジークリードが声をかける。レグルスとルナティアは目を合わせ頷いた後、もう一度、ルナティアが本を手にしてみた。すると――また一瞬、目を開けていられないほどの光があり、目を開けると表表紙が銀色で背表紙、裏表紙が七色という装丁になっていた。
「…やはりそういうことか。ルナティア嬢が触れたら本の装丁が変わる、ということは、この本の持ち主はルナティア嬢、と言う事なのだろう。だが…いつどうやってルナティア嬢の机に入っていたのか、が気になるな。」
ジークリードがそう呟くと、暫く沈黙が流れた。
沈黙の途中、また急に人型になって現れたシエルが、話を変えるためにジークリードに尋ねた。
「ねぇねぇ、王子様。そう言えば、さっき「今日中にクレオチア大国まで連れて行く」って言ってたでしょ?どうやって今日中に帰るの?魔物が飛び交うような闇夜の海に船は出せないでしょ?」
考え込んでいたジークリードがシエルの質問に答える。
「ん?あぁ、戻り方、か?…実は…公国には各国の王族専用の使えるワープ魔法陣があるんだ。場所は王族専用だから教えることは出来ないのだが…。その魔法陣を使って先に国へ戻るつもりだ。」
「魔法陣か…初耳だな。王族専用ということは、王族以外の人は使えないの?」
今度はレグルスが聞く。
「そうだ。まぁ、正しくは王族と一緒なら使える、が…一度に3人までしか通れない。その上、王族でも1日一回しか使用できないレア物だ。今夜、それを使って、キュリオとリリー嬢を連れて戻ろうと思っている。」
そう話している間のジークリードは、ルナティアを見ることは無かった。恐らく、別空間で「ルナティアを一緒に連れて行く」と言ったことを気にしているのだろう。
そんな事情を知らないレグルスは、
「そうなんだ…僕は僕達と一緒に船で帰るものだと思っていたよ。…僕達は明日の午後の船便で向かうことになると思う。シヴィア港に着くまでに1,2日かかってしまうみたいだけど、明日中に出れば間に合うだろう?」
と言う。その言葉にルナティアが驚き、口を挟む。
「そんなに?…シヴィア港までの船は半日程度だったのでは?」
「普通なら、ね。だけど、魔物が海にも出ているみたいで、気づかれないようにゆっくりと船を進めなきゃいけないようなんだ。魔法で動かせば魔力を感じて魔物が襲ってくるし、動力だと水が振動して気付かれる。勿論、船自体には結界を張ってあるし、移動する者は戦える者しか乗れないようだけど、無理に戦闘しなくて済むように、ってことらしいよ。」
想定外の長旅に、心配そうな顔をするルナティアの頭を優しく撫でながらレグルスが続けた。
「大丈夫。船にはジャンやオリガルも一緒に乗るし、クレオチアに着けばジークも居る。あっちに着いたらすぐにでも討伐兼太陽の剣探しに入るだろうけど。太陽の剣さえ見つかれば、きっと暗闇は払えるはず、だから…ルナは心配しないで待っていれば大丈夫だよ。」
そうルナティアに言うレグルスの後ろで、ジークリードが小さく首を振っている姿が目に入った。
(何も言うな、ってことよね。…きっと、殿下には何か考えがある…そうよ、「協力する」って言ってくれたんだもの…)
黙っているルナティアの無言を"大人しく待っていることに納得した"のだと受け取ったレグルスは、満足そうな顔をしながら、ライラに目配せをしていた。
その様子に気付きながらも気付いていない振りをしているジークリードは、
「じゃあ、レグ、そろそろお暇しよう。あまり遅くなっては寮館長殿にまた叱られてしまう。」
と、レグルスに声をかけた。
「そうだね。僕も明日の準備をしなくてはならないし…。それじゃあルナ。明日、出発前にまた来るよ。…ライラ、頼んだよ。」
そう言って、ジークリードとレグルスは一緒に部屋を後にした。
――その日の夜
キュリオに目隠しをされた状態で魔法陣のある場所に案内されたリリーと共に、ジークリードは一足先に転送魔法でクレオチア大国へと戻って行った。…転送魔法陣の近くには、小さく光る玉がフワフワと浮いていたが、それを見る者もまた、見える者も居なかった。
ジークリードが魔法陣に乗る、少し前――
クレオチア大国の国王執務室では、任務を終えたトーマスが国王陛下に報告を行っていた。
「…大変残念ですが、魔物討伐に派遣した騎士団10名と見習い剣士20名、計30名のうち、騎士団員2名と見習い剣士9名のみが生存で連れ帰れましたが他は…間に合わず…。」
「…そうか…。…それで19名の亡骸は?」
「19名、全員の亡骸を連れ帰っております。…が…。」
「?どうした?それほどに損傷が酷いのか?」
「いえ、外傷という外傷はございませんが…その…魔力が全員無くなっており、木乃伊のような風貌でございました。恐らく死因は魔力枯渇かと思われます。…荷物の中の魔力回復薬は使われておらず、戦闘で魔力を失ったという状況は考えられません。それに…助かった者は全員、魔力が弱いか魔力をを持っていない者たちばかりでした。」
「…つまり…捕らえられ抵抗できない状況で魔力を抜かれた、と?」
「あくまでも可能性、ですが…。事実、我々が潜入した際も、魔物は魔力に引き寄せられているようで、魔力遮断の防御魔法を掛ける前は、ほぼ、私を狙って来ておりました。」
「そうか…。潜入したリストランドの者は無事なのか?」
「はい、多少の被害はありましたが、命を落とした者はおりません。」
「分かった。トーマス・リストランド、此度の厳しい任務の中、亡骸も含めよくぞ全員を連れ帰ってきてくれた。騎士、見習い騎士の家族に代わって改めて礼を言う。」
「はっ、有難きお言葉。」
「…疲れたであろう、今日は王城で休んで――。」
コンコンと執務室を叩く音がする。
「誰だ?」
「国王陛下、私です。」
「グラハム、か。入れ。」
許可を得たグラハム・フーランクが中に入ると、トーマスと目が合った。
「リストランド卿、ご無事で。…あ、報告中、でしたか?」
「いえ、私の報告は済んだところでございま――」
「…グラハム、用はなんだ。」
トーマスが答えている最中に、国王陛下が口を挟んだ。
「あぁ、そうでした。先ほど、王太子殿下が乙女を連れて戻ったと報告がありましたので…。」
「…分かった。謁見の間に行く。…トーマス、休ませてやりたいがもう少し付き合ってくれ。」
王弟殿下の言葉に驚いているトーマスだったが、同席を求められたことで慌てて平静を装い了承の意を表した。
そして国王陛下と王弟殿下、トーマスの3人は、伝説の乙女を迎えるため、謁見の間に向かった。
謁見の間で、ジークリードと共に待っている間、リリー・グレシャは緊張していた。
リリーは、ほんの数時間前に目覚めたばかりなのだ。
記憶は2日前の夜、世界が目映い光に包まれたところで止まっている。
学園内の自寮の自室で目映い光を目撃し眩しさに目を瞑った。そしてそのまま光に包まれたような感覚で意識を手放したはずなのに、目が覚めた場所は、何故か教会だった。
(一体、何時の間に、誰が教会に連れてきたのか…。)
不思議に思ったが、悩む時間も無く、目覚めた途端、教会内では【暁の乙女】と傅かれ、そうこうしているうちに、ジークリードとレグルスが来て「今夜のうちにクレオチア大国に向かう。」と告げられた。荷物だけ纏めると今度は目隠しをされ、ジークリードの従者に手を引かれ何処かに連れていかれた。
連れていかれた先ではジークリードが居て、手を差し出し誘ってくれた。
(…今まで一度だって手を差し出してくれたことなどなかったのに…乙女とはこうも違うのか…。)
そんなことを思いながら、ジークリードの手に触れると、途端に足元が光り、ふわりと身体が浮いたかと思うと、急に辺りが暗闇に包まれた。目を開けていても見えない恐怖に思わずギュッと目を閉じ、触れているジークリードの手をしっかりと握る。暫くすると辺りに柔らかな明るさを感じ、目を開けると、もうそこはクレオチア大国の王城の一室だった。
そこから先は質問する間もなく、謁見の間に通され、今に至る。
緊張しているリリーの前に、今、大国の国王陛下とその王弟殿下と名乗る方、大国の英傑として世界に名を馳せる方が居る。慌てて挨拶をするが、それが正しい挨拶の仕方だったのかは緊張で分からない。叱られなかったのだから問題は無かったのだろうと思うことにした。
隣に居るジークリードの挨拶が済むと、陛下達が色々と質問をしている。…が、それすらも緊張で言葉が耳に入らないリリーは、ただ陛下達と話をするジークリードを眺めているだけだった。
「では行こうか、リリー嬢。」
陛下達との話が終わったジークリードが声をかけた。
「え…っと、何処に?」
「祈りをする場所だよ。『祈りの塔』と言う。…取り敢えず向かいながら説明する。行こう。」
ジークリードがリリーの荷物を持ち、先に歩き始める。その後を急ぎリリーがついて行く。ついて行きながら、段々と緊張から解き放たれたリリーは、目先の質問をしてみた。
「祈りの塔って、遠いの?ジークリードは行ったことがあるの?」
すると、目線は前を向いたまま、歩きながらジークリードが答えた。
「いや、入ったことはない。一応、この王城内だけど。祈りの塔でリリー嬢には祈りを捧げてもらうことになるのだが、祈りを捧げる以外の時間は、塔内であれば自由にしてもらって構わない。塔にリリー嬢の部屋も用意してあるし、食事も、湯もある。…ただ、祈りの塔からは出ないで欲しい。万が一、魔物が襲ってくるとも限らないからね。」
「え…、ここ、王城内よね?こんなところまで、魔物って来るの?」
「一応、王都と各地の街には結界は張ってあるけど、武術大会のような場合もあるだろう?結界は大きければ大きいほど、絶対安全とは言い難い。その点、塔だけに固定すれば十分な結界を張ることが出来るから。…魔法省長官が直々に張ってくれる、一番安全な場所だ。…あぁ、それから…リリー嬢。」
目線を前から外さなかったジークリードがくるりと向き直って真顔で名前を呼んだ。
「なぁに?」
「ここは、学園ではないし、何より私にとっては自国となる。急で申し訳ないが、私を名前では呼ばないように気を付けてもらいたい。軽はずみに名前で呼ぼうものなら要らぬ誤解を招かねないんだ。」
そう言うと、また歩を進め始めた。
「誤解…?お友達としてはいられないの?」
後をついて行きながら、リリーが問う。
「…学園外ではなかなか難しいな。レグルス達もココでは私のことを基本的に名前では呼ばない。」
「でもそれじゃあ…ジークリードは――。」
「リリー嬢。…名前で呼ばないで欲しい、と言っているだろう?名前で呼んでいるところを見られたら最悪、不敬罪になりかねない。俺は友人を不敬罪で罰したくないんだ。」
話をしているうちに、いつの間にか塔に着き、塔の前では、乙女の世話をするための侍女たちが待っていた。
「…分かったわ。当面『殿下』と呼ぶわ。だけど…、「貴方は誤解を招きかねない」と言った。誤解ではない関係になれば名前で呼んでも良いのよね?私、認めてもらえるように頑張るわ。」
侍女たちの前で、リリーが答える。そのもの言いは、何か思惑を含んだとも聞こえる言い方だった。
(…認めてもらえるように、とはどういうことだ?俺たちは友人以上でも以下でもない筈なんだが…。…リリー嬢は時々、周りの者に誤解を与えるもの言いをする。俺も今まで以上に気を付けなければ…。俺にその気が無くても、『王子』と『暁の乙女』は伝説通りなら結ばれて当然、と思われ兼ねないのだから…。)
リリーの答えに敢えて何も返事をせず、ジークリードは塔の前で待つ侍女たちに声をかけた。
「待たせてすまない。彼女が祈りの乙女だ。この塔に滞在する間は、不自由のないように頼む。」
王太子の言葉を受け、侍女たちは深々と頭を下げた。それを確認して踵を返すジークリードにリリーが手を伸ばす。
「あ…ジー……殿下。」
ジークリードが足を止めて振り返る。
「何か?…あぁ、そうだ。祈りの作法や時間などは、明朝、魔法省長官が来て説明をしてくれることになっている。魔法省長官は…知っていると思うがオリガルの母君だ。他に不便なことがあったら…ヘレン、彼女に伝えてくれ。彼女はここの侍女長だ。」
ヘレンと紹介された侍女が「よろしくお願いいたします。」と礼をする…が、リリーは気にもせずにジークリードに声をかけた。
「いえ、そんなことよりも、次はいつ来てくれるの?それから、宵闇の乙女はまだ見つからないの?」
"そんなこと"
その発言にピクリとジークリードが反応するが、それすらもリリーは気づかない。
(ヘレンは俺の乳母だった侍女だというのに、彼女の挨拶をそんなことなどと…。…いや、リリー嬢はヘレンと俺の関係性など知らないのだから仕方がないのだけれど。)
気持ちを切り替え、ジークリードはリリーの問いに答えた。
「…オリガルとレグルスが到着したら、共にこちらに来よう。すまないが私も討伐隊の準備などで忙しい。その代わり、と言っては何だが…魔法省長官には特にリリー嬢を気にしていただくよう頼んでおこう。それと…宵闇の乙女については…今はまだ分からない。分かり次第伝えるが…見つからない可能性もある、と思っていて欲しい。」
とだけ告げると、今度は振り返ることなくその場を去って行った。
その後ろ姿を、リリーは茫然と見送った後、ヘレンに誘われ塔の中へと入って行ったのだった。
――同時刻 ルナティアの私室――
ジークリードとレグルスが去った後、ルナティアは、寮の食堂で夕食を食べ、自室のお風呂に入り、今は一人で自室のベッドに横になって考え事をしていた。
「どうしよう…。ううん、どうしたら…。」
世間では今、暁の乙女と宵闇の乙女を必死に探しているらしい。しかも、暁の乙女はともかく、宵闇の乙女が名乗りを上げることはないだろう、との見解で、各地の貴族は、自領に居る、闇属性を持つ平民を連れ去り片っ端から探している、というのだ。中には焼き印を押された子もいる、などという噂まであるらしい。
あくまでも寮での食事中に、アリシア嬢から聞いた話で、勿論、本当、という訳ではない。が、ウソである保障もない。
(自分が名乗りを上げないことで、他の女の子たちがひどい仕打ちを受けているとしたら…。)
そんなことを考えると、身震いが出る。
(やっぱり、一刻も早く名乗り出ないと…これからもっとエスカレートしてしまうかもしれないもの。でも、どうやったら気付かれずに公国を出ることが出来るの?…頼りにしていたジークリード殿下は…先にお帰りになってしまったし…。)
正直、部屋から抜け出ることは出来る。
私室のドアとベランダの前には、レグルスとライラが置いた使い魔がそれぞれ見張っているようだが、ルナティアの脱出を阻むほどのことは出来ない。ただ、見つかれば勿論、知らせを受けたライラが追ってくるが…。ライラを撒く自身は無い。倒すことは多分、出来るかも知れないが、大切な侍女を傷つけるのはやはり心が痛む。それに、もし、撒くことが出来たとしても、現状、公国から外に出る術がないのだ。闇夜に包まれてから、公国から出るには、教皇もしくは学首の許可が必要となっている。
(…やっぱり教皇様にお会いしてお話しすべき…?そうよ、教皇様ならお手伝いくださるかも…!)
ベッドの上で起き上がる。
「うん、なんか行けそうな気がしてきた…。」
ひとり、ベッドの上に正座をして気合を入れていると、
『ルナティア?何してるの?』
と、いつの間にか居なくなっていたシエルが戻ってきて、急に声をかけた。びっくりして声の方を振り返る。
「シエル?え…、今まで、何処に行っていたの?」
『うん?王子様のところ。』
「え?王子様って…ジークリード殿下のこと?でも…殿下はお帰りになった筈でしょう?」
『うん、帰るところについて行ったの。場所、分かったよ♪』
「場所?場所は言えないって言っていたのに…。そうだ、殿下は貴方のこと見えるのよね?ついて行ったら、怒られたんじゃない?」
『ううん、ボクがついて行ったんじゃなくて、ボクについてくるように、って言ったから大丈夫だよ。』
「…ついてくるように?」
『うん。…ほら、別世界のところで約束してたでしょ?「協力する」って。アレの話だったよ?』
「…やっぱり…協力できないって…?」
『その反対。今日はダメだけど、明後日になったらココに来てって、王子さまから。』
「本当に?!…あっ。」
嬉しさのあまり、思わず大きな声を上げてしまった。慌てて口を塞ぎ、ベッドの中に潜り込む。
「…ルナティア様?何かありました…って、寝てるのですか?それじゃあ、寝言だったのかしら?珍しい…。」
ドアを開け、ベッドの近くまで来て布団をかぶって寝ている(ふり)のルナティアを確認したライラがくすりと微笑みながらまた部屋を出て行った。
ドアが閉まるのを確認したあと、顔だけ出して、またシエルに話しかける。
「ねぇシエル。殿下がそう言ったの?明後日、って…。」
『そうだよ。』
「明後日って、時間は?」
『確か…日付が変わった時って言ってたから…夜中ってことだよね。あ、場所はボクが案内するね。だからルナティアはそれまで大人しくしていてね。』
「うん、分かった。…ありがとう、シエル。」
『安心した?…それじゃ…おやすみ、ルナティア…。』
そう告げると、シエルはルナティアの額に自分の額をこつんとあてた。すると、一瞬でルナティアは夢の中へと誘われて行ったのだった。
『…夢で逢おうね…。』




