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告白_2

「ルナティア、これは…ただの男の言葉だと思って聞いてくれ。…俺は君が好きだ。」




 ジークリードからの告白に、ルナティアは驚き言葉を失っている。


「…君が笑顔で居てくれるなら、想いは届かなくても良いと思っていた。…俺は王太子としてこの国を、伝説の通りなら、世界を護る義務がある。それは重々に分かっている!だが…世界を護った対価が…‥君を、君を失うことになるなんて…。そんな結末は…あんまりだ。…嫌だ、そんなこと俺は認めない!認められるわけがない!!」

 そう言い切るジークリードの表情は、煩悶(はんもん)に満ちていた。


 ジークリードの口から紡がれる言葉を黙って聞いていたルナティアは、

「殿下…ありがとうございます。そのように私のことを大切に思ってくださって…。」

と、少し困ったような顔で微笑みながら言った後、静かに目を閉じて深呼吸をした。


 別世界の風がルナティアの髪を揺らし頬を優しく撫でた。 

 その一連の流れがあまりにも儚く美しく感じたジークリードは、思わず息を飲んで見つめていると、ゆっくりと目を開けたルナティアが、

「殿下と同じように…お兄様も…ライラも…私が身を捧げる必要はない、と言ってくれました。…私は幸せ者だと思います。こんなにみんなに…殿下にまでこの身を(おもんばか)っていただいて……。ですが、殿下。もし…もし、“祈りに命を捧げない”で済む方法があるとしたら…どうされますか?」

と、思いもよらない言葉を発した。

「…なに?…そんな方法が…あるのか?」

 ジークリードが聞き返すと、ルナティアは頷き、

「お兄様達は、全く聞く耳を持ってくれなかったけれど…殿下、聞いていただけませんか?」

(すが)るような目で訴えた。その表情が真剣だったので、ジークリードは黙って頷いた。


 ルナティアはあの閃光の夜、意識を飛ばした世界で女神(ステルラ)から聞いた話を伝えた。


「そのために私は…どうしてもシエルを探す必要があったのです。彼が…シエルが居れば女神(ステルラ)様と繋がれる、そしてそれが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だと仰ったから…。」

 そう言いながらシエルを見ると、シエルはにこりと微笑んで頷いた。

「うん、ボクが繋ぐ。絶対にルナティアを死なせないよ。…ボクとルナティアは、えっと…一蓮托生?だもん。」

「「…えっ??」」

 シエルの発言に、ルナティアとジークリードの声が驚き重なった。

「…ん?どうかしたの?」

 しれっとして答えるシエルに、ルナティアが聞く。

「一蓮托生…って、シエル、貴方、意味が分かって言っているの?」

「え?うん。えっと…死ぬときは一緒、みたいな意味でしょ?…あぁ、そう言う事か。そうだよ、ボクは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよ。」

「私が生きている間って…。ううん、妖精って長生きするものでしょう?私と繋がった時からって…それじゃあ、まるで私が死んだらシエルも死ぬみたいに聞こえるのだけど…。」

「…そう、だけど…何か問題あるの?」

「問題って…そんなの聞いてないわ。私と繋がった時って、魔力測定の時でしょう?どうして言ってくれなかったの?」

「うーん…言ったらルナティア、ボクに名前くれなかったでしょ?」

「そ、それは…。」

「だからだよ。…ボクね、初めて見た時から、長生きよりルナティアと一緒に生きたくなっちゃったんだもん。後悔していないよ?今もルナティアのためにボクは生きているんだ。だからルナティアもボクのために生きて欲しい。…ねぇ王子様、ルナティアと同じ時間しか生きられないボクが約束するよ。ルナティアが命を落とさない方法を絶対に見つけるから、だからルナティアの話を聞いてあげて。」

 滅多に真剣な顔をしない妖精(シエル)が、真顔でジークリードに向き合う。

 ジークリードは、自分の命を懸けて願う妖精(シエル)の表情を見つめた後、ルナティアをもう一度見る。

 妖精の命まで自分が背負っているとは思っていなかったのだろう、僅かな動揺が見られ、口を(つぐ)み何かを考えているようだった。


「ルナティア。」

 つい告白をしてしまった先ほどとは打って変わって落ち着いた声でジークリードが呼ぶ。それにつられ顔を上げたルナティアに、そのまま話を続けた。

「俺は…それでも君を危険に(さら)したくない。だが…それは俺の考えだ。だから聞きたい…君は?君はどうしたい?」

 静かなジークリードの問いに、驚いた表情をしたルナティアだったが少しだけ考えて答えた。


「私は…宵闇の乙女として(世界をすくう)の力があるなら、世界を救いたい。…確かに、祈りで命を落としてしまうかもしれない。助かる可能性より、命を落とす可能性の方が高いこともりかいはしています。でも…女神様は言いました。「暁の乙女の力だけでは闇は払えない」と。闇を払えなければ、この世界は魔物に侵されてしまう。もし、魔物に侵されて(そうなって)しまったらより多くの命が失われてしまうはず…。例え私自身の命が助かったとしても、その対価に他の方の命が失われてしまったら…きっと私は…二度と心の底から笑えない。だから…。」

 最後の言葉は、苦しそうに顔を少し歪めながら呟いた。同時に、一筋の涙がルナティアの頬を伝った。その涙をジークリードがそっと指で掬う。

 ――これが彼女の本心…。…ならば俺がするべきことは…――

 彼女(ルナティア)の涙で濡れた指をぎゅっと握りしめる。


 ――初めて守りたいと心から願った女性は、守られることを望む女性では無かった。むしろ運命に(あらが)い闘いたいと願い努力する女性、だからこそ――


「…分かった。」

「え?」

 ジークリードの言葉にルナティアが聞き返す。


 ジークリードはもう一度ルナティアの目を見てハッキリと言った。

「分かったよ。俺は…ルナティアの気持ちを尊重する。」

 それは協力する、という意味だと理解したルナティアは、ジークリードの手を取り礼を述べた。

「殿下!ありがとうございます。」

「だが!!…ひとつだけ約束してくれ。伝説に(なぞら)えること無く(あらが)う、と。」

 ルナティアに取られた手を、今度はジークリードが握り返しながら言うと、

「ええ、勿論です。大切な人たちを悲しませるわけにはいかないですもの。女神(ステルラ)様は「私が()()()()()()()()()」と言っていました。この言葉を信じて最後まで(あらが)って見せますわ。」

 ルナティアは強い眼差しを向け、頷いて見せた。


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