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妖精(シエル)探し_2

 ルナティアが着替えるため自室に入ると、いつもと違う何かを感じた。その違和感を探ろうと、部屋の中央で立ち止まり、目を閉じた。

 急に立ち止まったルナティアにライラが声をかけた。

「ルナティア様?どうかされましたか?」

「あ…ううん。その…探しに行けて良かったな、と思って。」

 笑顔で振り返るルナティアにライラはホッとした顔を見せ、クローゼットへと向かう。

「探し物、ですから、動きやすい服装の方が宜しいですよね?えっと…。」

 ガサゴソとクローゼットの中から服を選んでいるライラを横目に、さき程、違和感を覚えた方へ向かう。そこは窓際にある自分の机があり、一番上の引き出しがほんのりと光っているように見えた。


(何かしら…違和感は確かにある、でも、()()()()()()()()()()()()て…むしろ…)

 そう思いながら、一番上の引き出しをそっと開ける…と、中には黒い本のようなものが入っていた。

 覚えのない黒い本のようなものに手にしようと伸ばした時、

「ルナティア様?」

服を選び終わったライラに声をかけられ、慌てて引き出しを閉めた。

「どうかなさいました?…机になにか…?」

 ライラは、両手に服を持ち、こちらに近づいてくる。

「引き出しが少し開いたままになっていたから閉めただけよ。それよりお兄様を待たせてはいけないから急いで着替えましょう。ライラの分の着替えも準備できた?」

「勿論でございます。いかがです?動きやすいようにロングのワイドパンツにしたのですが…これなら見た目はスカートですし、ぱっと見、お嬢様の外歩きのドレスに見えるかと…。」

「そうね、相変わらずライラのセンスはいいわ。可愛いだけじゃなくて実用性も考えてくれて、ありがとう。」

 主の賞賛に頬を染めながら、

「それじゃあ、早速お着替えしましょう。」

と、満足げにライラは腕まくりをしたのだった。



 その後、学首様へ外出許可の直談判をするため、学園内の中央棟に向かった3人だったが、最初、入り口のところで門番に追い払われてしまった。それでも、粘って交渉をしていると、その最中に通達が来て、その後は速やかに学首室まで通された。


 学首室には、学首が山積みの書類と格闘している隣で、処理が済んだ書類を速やかに各所へ送付している魔法士の2人がいた。

 学首は、レグルスとルナティア、ライラを見ると、ぱあぁっと明るい表情になり、手に持っていた書類を投げ出しこちらに満面の笑みを浮かべながら向かってきた。


「よく来たねぇ、助かったよ。…ささ、こっちへ座って。昨日の閃光から休む間もなくてね、君たちが来てくれたお陰で少しだけ休めそうだよ。」

と、ため息交じりに苦笑いをした。

「お忙しい中、お目通りいただきありがとうございます。」

 レグルスが礼をすると、

「いや、()()()()が欲しかったからね。それに、他の生徒ならともかく、君たちリストランド家の兄妹が揃って訪ねてくるなんて、ただ事じゃないだろうと思ってね。」

「…リストランド(僕達)、だから会えた、ということですか?」

「うん?…あぁ、忖度とかは無いよ。まぁ、多少は成績優秀な生徒に対してのサービスっていうのはあるけどね。レグルスくんは成績優秀な模範生徒だし、ルナティア嬢も成績優秀なお嬢さんだ。それに――。あ、これは関係ない、か。」

 言いかけて止めた学首が淹れられたばかりのお茶をひと口飲む。

「とにかく、まぁ、私としては()()()()()()()が欲しかっただけなんだよ。とは言ってもそう時間は取れないのだけど…。全く外出許可の申請に目を通すだけでも大変だというのに、魔物退治やら結界補強やら、各国の魔法士だけでは手が足りないらしくてね。レグルスくんのところにも召集がいっただろう?今日来たのはその件かな?」

 チラリと目線だけ動かして学首がレグルスを見た。

「いえ、招集は問題ございません。期日までには必ず。ただその前に、妹と一緒に外出許可を頂きたくて。」

「外出許可?…もしかして、ルナティア嬢がリストランド領に帰るの?」

 驚いた表情で学首が聞く。


 実際のところ、学首の元に届いている外出許可のほとんどは、「家に帰りたい」というものばかりだった。ただ、旅路にどれくらい魔物が横行しているかもよく分からない状況で、帰すわけにも行かず、護衛などの準備が出来ていない場合は認めることが出来ないのが現状だ。


 その点、リストランドの兄妹が「帰りたい」という場合、文句なく帰郷の許可は出すことが出来る、のだが…こんな状況で()()()()()()()()()()()ことをルナティア(この娘)が望むのかと、不思議に思って聞いてみたのだ。


「いえ、自領には今は戻りません。頂きたい許可は、『公国内で探し物をしたい』ので、学園を出る許可が欲しいのです。」

 レグルスが答えると、想像外の言葉に学首が聞き返す。

「探し物?」

「はい。」

 今度はルナティアが返事をした。


「…ルナティア嬢が返事をする、ということは、探し物はルナティア嬢のもの?」

「もの、というと語弊はありますが…そうです。」

「…一応、何を探すのか聞いていいかな?場合によっては許可出来ないかもしれないし、協力出来るかもしれないから。」

 学首の言葉に、レグルスとライラとそれぞれ目を合わせ、頷くのを確認した後、ルナティアが言った。

()()()、道案内をしてくれた()()()()()()()()()。」


 ルナティアの真っ直ぐな言葉に、それ以上を深く聞くこともなく、学首は外出許可をくれた。

 ただ、大聖堂の中を探すには、「1日だけ待って欲しい」と言われ、その後は大聖堂以外の公国内を探すことになった。

 大聖堂の前には、闇に怯える公国内に居た人々が祈りを捧げるために多く押しかけていた。

「あんな中に紛れて入るとしたら、妖精探しどころではないな。学首様が許可を取ってくださるのは大変ありがたい。明日、しっかり探すためにも、今日は他の思い当たるところを探すぞ。」

 レグルスの言葉に頷き、ルナティアとライラは大聖堂を背にして歩き出した。


 公国内で普段は立ち入らないような公園の隅や路地裏なども探したが、どこにも妖精(シエル)の姿は見当たらなかった。

 そしてシエル探しの1日目が終わった。


 明日の探索のため、待ち合わせの時間などを確認して、レグルスと別れ自室へと戻った。

 シャワーを浴び、リビングでライラの淹れたお茶を飲む。

「…収穫が無かったわね…。」

 ふぅ、とため息交じりにルナティアが呟く。それにライラは答えない。

「でも、明日、大聖堂を探せるんだもの、たった1日だけど、しっかり探さなきゃ。…この数ヶ月の間、一度も入ることが出来なかった場所だし、それに、最初にシエルに逢った場所は教会だもの、きっと手がかりがあるはずよ。」


 明日探す大聖堂は、礼拝堂までは()()()()()()()()()()から、何度か探しに行った。しかし、教会奥の探索、となると、普通は入れない。妖精(シエル)が居なくなってから探しに来たことが無い、公国内の唯一の場所だ。そんな場所を探せるのは、学首が直々に、教会へ許可申請をしてくれているからだ。まぁ、『(妖精)が見つかったら連れてきて欲しい』というのが条件ではあったのだが…。


 一人で納得したルナティアは、お茶を飲み終わった後、

「ライラ、私、そろそろ寝るわね。」

と声をかけ自室へと入って行った。


 部屋に入り、ベッドへうつ伏せにダイブする。

「ふふ、お行儀が悪いわね。…アンに見られたら激怒よ、激怒。…ライラは…困った顔で(たしな)めるくらいかしら?…だけど、とても…疲れたわ…。」


 くるりと向きを変え、窓の外を見る。

「…こんなに朝も昼も夜も暗闇だと、本当に時間も分からなくなっちゃうわね。外を歩くのも、注意が必要で…これからどうなっちゃうの…かしら?……『闇夜は安らぎを与えるもの』と授業では教えられたけど…こうも…続くと……不安に…なるもの、なのね…。」

 1日、シエルを探すために注意しながら闇の中を歩いていたルナティアは、次第にうとうとしながらいつの間にか眠ってしまった。


 ルナティアが寝た後、窓際のルナティアの机の一番上の引き出しがほんのりと光っていた。



 翌朝(暗いけれど)、時間で目が覚めたルナティアの目に、窓際でほんのりと光っている机の引き出しを見た。急いでベッドから起き上がり、机に近づこうとしたその時、タイミングよく、ライラがドアを叩いた。

「おはようございます、ルナティア様。」

「あ、うん、おはよう。…って、暗いのに変な気分ね。」

 苦笑いをして、部屋に入ってくるライラを迎えながら、目線だけ机に送ったが、いつの間にか光は消えていた。


「さぁ、今日が本命ですよね?しっかり準備して隅々まで探しましょう。」

と、昨日はあまり乗り気では無かったライラが、気合を入れながら言う。

「ライラ、急にどうしたの?…あんなに反対していたのに、何故?」

 不思議に思いながら尋ねると、

「だって、妖精が見つかれば、ルナティア様が()()()()()()()()()()()のでしょう?」

 キョトンとした顔で答えた。どうやら自分の中で勝手に解釈をしているらしい。それだけ自分にに()()()()()()()()()()()()()()()と思いながら、少し歯切れが悪いが、取り敢えず返事をしておく。

「…シエルが代わりをしてくれる訳じゃないから、ちょっと違うわね。でも…間違いなく()()()()()はずなのよ。」

 その言葉に、いまいち納得をしていないライラだったが『助けになる』という言葉を信じ、出かける準備を急いだ。


 準備をして寮を出ると、レグルスと一緒に何故かジークリードも立っていた。

 聞くと、今日の大聖堂調査にジークリードも同行するそうだ。理由を問うと、「俺が必要になるはずだから。」とだけ答えた。


 4人で学園を後にして大聖堂へ向かう。

 大聖堂の周りで、大聖堂内の手伝いをしているらしき数人の女性達が話す声が聞こえてきた。


「やっぱりリリー様が――の乙女だそうよ。紋様が現れているって噂よ。」

「あぁ、神は私たちを見捨てなかったのね。」

「だけど、()()()()()()()()()()()そうなの。」

「え?それじゃあ、祈ることが出来ないってこと?」

「今は、ね。一日も早くお目覚めにならないかしら。」

「…でも、リリー様が――の乙女ってことは、――の乙女も現れていのかしら?」

「伝説の通りなら、ね。だけど、リリー様と同じように眠りについているかも知れないし…。」

「問題は、――の乙女の紋様は、他人には見えないってことよね。隠そうと思えば隠せるじゃない。」

「でも、こんな世界になっているのに、隠すなんて…。」

「分からないわよ?――の乙女は命を――の乙女に捧げるんだもの。普通は死にたくないじゃない、名乗り出るはず無いじゃな――。」

 そこまで話して、ひとりの女性がルナティア達に気づいて口を(つぐ)み、お辞儀をした後、みんなに声をかけ大聖堂へと戻って行った。



「どこもかしこも『乙女の話』と『剣の話』だな。」

 呆れたように、ジークリードが言う。

 『乙女の話』も聞きたかった。リリー嬢が()()()()らしい、こと、()()()()()()()()()()()についても聞きたかったが、下手に話題を振ると、シエル探しすらさせてもらえなくなりそう、と考えたルナティアは、

「『剣の話』ですか?」

とだけ、聞いた。するとそれに対し、ジークリードが答えた。

「ああ、()()()()だ。クレオチア大国の血を引く者しか手にすることが出来ない、と言われている伝説の剣。アレを探すための討伐隊を組む準備をしているんだ。…()()()()()()()()()をすることになったからな、その間の王都の警備も含め、陛下は頭を悩ませているらしい。」

「二手に、とは…?」

「そうだ。(ジークリード)の隊と、叔父上(グラハム・フーランク)の隊とに分かれることなった。他にも血統というなら、陛下と(ジェフリー)が居るが、国王が危険を侵す訳にはいかないし、弟まだ幼過ぎるからな。そのために、学園の魔法科に所属の者にも討伐隊に加わるよう命が出ているんだ。」

「お兄様が言っていた討伐隊って、剣を探すことだったの?」

 ルナティアの言葉に、今度はレグルスが答える。

「正しくは、()()()()()()()()()()()()()()、なんだけどね。ジークは先に戻るんだろう?」

「あぁ、俺は明日中には戻る。集まった討伐隊に指示をするためにも事前打ち合わせは必要だからな。…と、着いたぞ。」

 大聖堂を見上げ、ジークリードが言うと、その前にレグルスが進み出て、まだ固く閉じられた正面ドアを叩いた。

 すると、中から司祭が出てきたので、レグルスが書状を渡し会話をした後、司祭は全員を大聖堂内に招き入れた。


 中に入るとすぐに、ジークリードが案内の司祭に向かって

「すまないが、宿泊施設から先に見せてもらえないだろうか。こちらの都合で申し訳ないが…。」

と言った。

 クレオチア王城に戻る準備などがあるのだろう。

「は、はい。かしこまりました。…あ、ですが…最上階だけは入ることは…。」

 思い出したかのように、司祭が言う。

「何故だ?」

「最上階は…()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ですので、私どももおいそれとは入ることが出来ないところでございまして…。」

「…王族、なら良いのだろう?」

「え?…多分。」

「それなら問題なかろう。()()()()()()()()()()()()()だ。」

「えぇ?!お…王子様??は、ははぁ…知らなかったとはいえご無礼を…。」

 ジークリードの言葉に驚いた司祭は、勢いよく、土下座を始めた。そんな様子に慌てるでもなく、ジークリードは膝をつき、土下座する司祭の肩に手を乗せた。

「前触れもなく来たのも事実だから知らなくて当然なのだ。だから気にしないで良い。…気を使わせて悪かったな。今日は、王族用のフロアを確認するために私は同行したのだ。時間もあまりない、案内を頼めるだろうか。」

と、優しく言うと、震えて土下座していた司祭は顔を上げ、「はいっ!」と元気よく立ち上がったのだった。


 最上階のフロアに向かう途中、ルナティアがジークリードに尋ねた。

「殿下、先ほど「王族用のフロアを確認するために同行した」と仰っていましたが…どうしてそれを知っているのですか?」

 王族用のフロアを探したい、ということをジークリードは知らないはずだ。それなのに…。そう思いながら尋ねると、

「学首様から連絡があったんだ。多分、案内してもらえないだろうから同行して欲しい。って。何を探しているのかは聞いていないけど…一体、何を探しているんだい?」

と、今度はジークリードが聞く。

妖精(シエル)です。どうしても今、()()()()()()なのです。」

ルナティアがそう言ったところで、最上階へとたどり着いてしまった。

 何故、()妖精(シエル)の力が必要なのかは分からないが、ずっと妖精を探していたことを知っていたジークリードは、詳しいことは後で聞こうと思い、取り敢えず、フロアに足を踏み入れながら、提案をした。


大聖堂(ここ)を探せるのは今日しかないし、他の場所も探さなければならないのだろう?手分けした方が良いと思うのだが…。」

 ジークリードの提案に、全員が頷く。時間も無いので、簡単に手のひらの表裏でペアを決めた。そして、レグルスとライラのペアが奥の部屋から、ルナティアとジークリードのペアが手前から探すことになったのだった。


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